0. はじめに
物理学者でも間違ってか不完全にか認識していることの多い量子論と相対論の基本について今流行の ChatGPT に質問してみた.
正しいかそうとは言えないか判定していこう.
ChatGPTは英語が得意ということで英語でChatしてみた.
和訳は自分でやってもいいがDeepLでやって少々修正した.DeepLのデフォルトの修正機能を使った箇所の説明は省略した.
Chat → 総評 → 良い点・悪い点の順で述べていく.
1. Quantum
Quantum
Quantum refers to the field of physics that studies the behavior of matter and energy at the atomic and subatomic level, where classical physics laws break down and the principles of quantum mechanics apply. In quantum mechanics, particles such as electrons and photons can exhibit wave-like behavior and exist in superpositions of states, meaning they can be in multiple states simultaneously until they are observed or measured, at which point their wave function collapses into a definite state. This has profound implications for the nature of reality, as well as for computing, cryptography, and other fields. Quantum physics also encompasses the study of quantum field theory, which describes the behavior of elementary particles and their interactions, and quantum gravity, which aims to unify quantum mechanics with general relativity to describe the behavior of gravity at the quantum level.
量子力学とは、原子や素粒子レベルでの物質やエネルギーの振る舞いを研究する物理学の一分野であり、そこでは古典物理学の法則が崩れ、量子力学の原理が適用される。量子力学では、電子や光子などの粒子は波動的な振る舞いを示し、状態の重ね合わせで存在することができる。つまり、観測または測定されるまでは複数の状態を同時に持つことができ、その時点で波動関数が崩壊して明確な状態になるという。このことは、現実の性質だけでなく、コンピューターや暗号などの分野にも深い意味を持つ。量子物理学は、素粒子の振る舞いとその相互作用を記述する「場の量子論」、量子力学と一般相対性理論を統合し、重力の振る舞いを量子レベルで記述する「量子重力理論1」などを含む学問である。
量子について説明してもらいました.総じて解釈問題にフォーカスしてくれたようです.
- 相補性について言及がある.
- 波動関数と波束の収縮について言及がある.
- 応用分野と発展分野の言及がある.
ただし「粒子でも波動でもある」のか「粒子でも波動でもない」のかについて議論の余地はあり,ChatGPT は前者の立場を採用したようです.
In quantum mechanics, particles such as electrons and phot
ons can exhibit wave-like behavior
一方欠点は
- 数学的表現を欠く.
- 「量子力学の原理」とは何なのか,数学的表現もなく同語反復的で,全く説明になっていない.
- 波束の収縮については完全ではなく,多世界解釈への言及や量子情報理論の説明はない.
- 厳しく見るなら原子や subatomic に限定することが正しいか?という議論はありそうである.例えば分子,もしくはそれ以上のスケールの構造.あるいは光って atomic や subatomic で語れるのかなど,やや ChatGPT の説明は抽象的すぎるとも言える.
非専門家向けの説明としては概ね良好でしょう.70点と言ったところでしょうか.
2. Relativity
relativity
Relativity refers to the two theories of physics proposed by Albert Einstein in the early 20th century: special relativity and general relativity.
Special relativity is a theory that explains the behavior of objects in inertial frames of reference. It shows that the laws of physics are the same for all observers in uniform motion relative to one another and that the speed of light is constant in all inertial frames of reference. This theory has profound implications for our understanding of space and time, showing that they are intertwined and relative to the observer's frame of reference.
General relativity, on the other hand, is a theory of gravity that explains the behavior of objects in non-inertial frames of reference, such as those in gravitational fields. It shows that gravity is not a force, but a curvature of spacetime caused by the presence of massive objects. This theory has been incredibly successful in predicting the behavior of the universe on large scales, including the motion of planets, stars, and galaxies.
Together, special relativity and general relativity form the foundation of modern physics and have contributed significantly to our understanding of the universe.
相対性理論とは、20世紀初頭にアルバート・アインシュタインが提唱した物理学の2つの理論、特殊相対性理論と一般相対性理論のことである。
特殊相対性理論とは、慣性系2 における物体の振る舞いを説明する理論である。この理論では、物理法則は、互いに一様に運動するすべての観測者について同じであり、光の速度はすべての慣性系3 で一定であることが示されている。この理論は、空間と時間が相互に関連し、観測者の座標系4に関係5することを示し、空間と時間の理解に大きな影響を与えるものである。
一方、一般相対性理論は、重力場のような非慣性系6内の物体の振る舞いを説明する重力理論である。重力は力ではなく、質量の大きな物体が存在することによって生じる時空の湾曲であることを示す。この理論は、惑星、星、銀河の運動など、大きなスケールでの宇宙の振る舞いを予測する上で、信じられないほどの成功を収めている。
特殊相対性理論と一般相対性理論は、合わせて現代物理学の基礎を形成し、宇宙の理解に大きく貢献している。
次は相対論です.相対性とは何か説明してもらいました.
○
- Einstein への言及がある.
- Special relativity (SR) と Genaral relativity (GR) の説明がある.
- 宇宙論的応用が論じられている.
- 時代への言及がある.
×
- "It shows that" とあるが2つの原理の妥当性の根拠は理論ではなく実験なので,これは誤っている.
- Poincaré や Hilbert などに触れても良いと思う.それから Minkowski, Lorentz も百科事典的には外せない.
- やはり数学的な多様体や測地線,曲率の概念は今ひとつ.物理学の本でも深く触れられていないこともある.
大まかに説明してくれた印象です.75-80点と言ったところでしょう.
3. 特殊相対性理論とニュートン力学の関係
Tell me the relation between special relativity and Newtonian mechanics
特殊相対性理論とニュートン力学の関係について教えてください。
Special relativity and Newtonian mechanics are two different theories of physics that describe the behavior of objects in motion. While Newtonian mechanics provides an accurate description of objects moving at non-relativistic speeds, special relativity is required to describe objects moving at relativistic speeds (i.e., speeds approaching the speed of light).
One of the key differences between the two theories is their treatment of space and time. In Newtonian mechanics, space and time are absolute and independent, and time is considered to be the same for all observers regardless of their state of motion. In contrast, special relativity shows that space and time are intertwined and relative to the observer's frame of reference. This means that measurements of time and distance depend on the observer's state of motion and that the speed of light is constant in all inertial frames of reference.
Another important difference is the behavior of objects at high speeds. According to Newtonian mechanics, the momentum and kinetic energy of an object increase with its speed, but special relativity shows that as an object approaches the speed of light, its momentum and kinetic energy increase towards infinity, making it impossible to accelerate it to the speed of light.
Overall, special relativity extends and modifies Newtonian mechanics for describing the behavior of objects moving at high speeds and is a more accurate description of the behavior of the universe at relativistic speeds.
特殊相対性理論とニュートン力学は、運動する物体の挙動を記述する2つの異なる物理学の理論である。ニュートン力学が非相対論的速度7で動く物体を正確に記述するのに対し、相対論的速度(光速に近い速度)で動く物体を記述するには、特殊相対性理論が必要となる。
この2つの理論の大きな違いの1つは、空間と時間の扱いである。ニュートン力学では、空間と時間は絶対的かつ独立であり、時間は運動の状態にかかわらず、すべての観測者にとって同じであると考えられている。これに対し、特殊相対性理論では、空間と時間は絡み合っており、観測者の座標系8に対して相対的であることが示されている。つまり、時間や距離の測定は観測者の運動状態に依存し、光速はすべての慣性系で一定であるということである。
もうひとつの重要な違いは、高速で移動する物体の挙動である。ニュートン力学では、物体の運動量と運動エネルギーは速度に応じて増加するが、特殊相対性理論では、物体が光速に近づくと、運動量と運動エネルギーは無限大に向かって増加し、光速まで加速することは不可能であることが示されている。
全体として、特殊相対性理論は、高速で動く物体の挙動を記述するニュートン力学を拡張・修正し、相対論的速度での宇宙の挙動をより正確に記述するものである。
専門家でも間違えていることの多い特殊相対性理論とニュートン力学の関係について説明してもらいました.
これは ナイーブには包含関係にあります.例えば,Lorentz 変換の 0 次近似が Galilei 変換など,速さと光速の比が非常に小さい, $v / c \ll 1$ という近似の関係にあります.9
特殊相対論では光速 $c$ は基本定数なので変えてはいけません.そこを正しく捉えているかが重要です.
さて,講評です.
○
- 速度が小さい時 Newton 力学が使えると完全に説明している.
- 光速が一定であると説明している.
that the speed of light is constant in all inertial frames of reference
- Principia でも登場する絶対時間と絶対空間について説明している.
そこまで評価を落とすわけはないですが,欠点とすれば以下でしょう.
×
- 運動量と運動エネルギーが無限大に増加する,というのはどういうことか,数学的に定義は必要である.エネルギー $E$ と運動エネルギー $K$ は質点の相対論的散乱の問題では基本的には区別され,ほとんどの場合 $K := E - mc^{2}$ ($m$ は質点の質量) で定義される.ただし $E$ は 4元運動量の第0 (時間) 成分.
that as an object approaches the speed of light, its momentum and kinetic energy increase towards infinity, making it impossible to accelerate it to the speed of light
- 本当は光速は最高の速さである,すなわち質点の測地線および運動方程式の解は時間的曲線であることが述べてあると尚良かった.
80 点前後でしょう.学部レベルの理解としては十分です.
4. 純粋状態と混合状態
Explain the difference between a pure state and a mixed state in the context of quantum states.
量子状態の文脈で、純粋状態と混合状態の違いを説明しなさい。
In quantum mechanics, a quantum state is a mathematical description of the state of a quantum system. There are two main types of quantum states: pure states and mixed states.
A pure state is a state that describes a quantum system that is in a definite and well-defined quantum state. This means that the state of the system is described by a single wave function, which is a superposition of the possible quantum states of the system. A pure state can be written as a ket vector |ψ⟩, where the squared magnitude of the coefficients in the wave function gives the probability of the system being in each of the possible quantum states. In other words, a pure state has a well-defined probability of being in any one of its possible states.
A mixed state, on the other hand, describes a quantum system that is not in a definite and well-defined quantum state. It arises when we have a collection of pure states with different probabilities of being in each state. A mixed state can be written as a density operator ρ, which is a statistical mixture of pure states. The density operator describes the probabilities of finding the system in different pure states, and it is a weighted sum of the outer products of the ket vectors describing each pure state.
In summary, the main difference between a pure state and a mixed state is that a pure state describes a quantum system that is in a definite and well-defined quantum state, while a mixed state describes a quantum system that is not in a definite and well-defined quantum state and is described by a statistical mixture of pure states.
量子力学において、量子状態とは量子系の状態を数学的に記述したものである。量子状態には、大きく分けて純粋状態と混合状態の2種類がある。
純粋状態とは、明確でよく定義された量子状態10にある量子系を記述する状態である。これは、系の状態が、その系がとりうる量子状態の重ね合わせである単一の波動関数によって記述されることを意味する。純粋状態は、ケットベクトル|ψ⟩として書くことができ、波動関数の係数の2乗の大きさは、系がそれぞれの可能な量子状態にある確率を与えます。つまり、純粋状態は、どの状態にも存在する確率が明確に定義されている。
一方、混合状態は、量子状態がはっきり確定していない量子系11を表す。混合状態は、純粋状態の集合体であり、それぞれの状態にある確率が異なる場合に発生する。混合状態は、純粋状態の統計的混合である密度演算子ρとして書くことができる。密度演算子は、系が異なる純粋状態にあることを見出す確率を記述し、それは各純粋状態を記述するケットベクトルの外積の重み付き和となります。
つまり、純粋状態と混合状態の主な違いは、純粋状態は明確に定義された量子状態にある量子系を記述し、混合状態は確定的かつ明確に定義された量子状態ではなく、純粋状態の統計的混合物によって記述される量子系を記述することである。
最後に確立した一つの説明がない純粋状態と混合状態について説明してもらいました.
最も一般的 (general) な定義は作用素(環)と凸集合から定めるものが知られていますが,通常は波動関数から説明されることがほとんどです.
ここでもその流儀に則って出力されました.
○
- 確率的定義 (確率解釈) に従って2つが正しく分類されており,混合状態が統計であることが明記されている.
- 純粋状態の重ね合わせについて触れられている.
×
-
1行目がやはり怪しい.特に "mathematical" なものに限るという流儀もないし,同語反復的な説明に堕してしまっている感も否めない.国語辞典に普遍的な弱さがにじんでいると言ったところか.
-
definite and well-defined という意味不明な文言がある.数学で表現すれば乗り越えられるもの.数学では well-defined は「定義になっている」という意味になるので,state につけられてもどう解釈したら良いのか分からない.
A pure state is a state that describes a quantum system that is in a definite and well-defined quantum state.
- エンタングルメントの説明がない.
評価は分かれるところだと思いますが,学部レベルなら80点,厳しめにみるなら60点というところが妥当ではないでしょうか.
現状では同じくインターネット上に無料公開されている Wikipedia に軍配が上がるところでしょうね.
5. まとめ
量子論と相対論について一般的観点,具体的観点から ChatGPT に説明してもらいました.
当然,百科事典的説明としては及第点です.つまり非専門家への物理の説明としてはまずまずです.
更に「わかりやすいけれど間違っている」に堕してしまったものではなく,所々予想,あるいはそこまで高度ではない専門書を超えてくるものもありました.
しかし,全体的に数学的表現に乏しく,物理学として正確でない言葉遣いも見受けられました.基本は押さえているもののインターネットの無料公開の知識に,あるいは一般書以下にとどまっているという印象です.
ChatGPT の今後の発展に期待したいです.
-
量子重力学から修正. ↩
-
慣性フレームを慣性系に修正. ↩
-
2に同じ. ↩
-
参照枠から修正. ↩
-
上に同じ. ↩
-
相対から修正. ↩
-
相対速度から修正. ↩
-
前節に同じ.Frame of reference は英語としては定着していて対応する日本語は座標系しかない. ↩
-
共約不可能性の問題はことが複雑になるのでここでは扱わない. ↩
-
definite and well-defined については数学的には「確率が1に定まらない」という意味なのだが,特に訳しやすい訳がないので前後に応じてデフォルトの修正機能の中から選んで訳出した.混合状態が数学的に ill-defined なのではない. ↩
-
上に同じ. ↩