概要
本記事は『入門 情報幾何』の勉強会用のメモです。
『入門 情報幾何』においては、第2基本形式についての解説が省略されていたので、個人的に勉強し直しました。
途中式や証明は省略して、式の意味と関係だけを記載します。
詳細は『応用数学基礎講座 微分幾何』をご参照ください。
第1基本形式
2次元の領域$u,v \in \mathbb{R}^2$から3次元空間$\boldsymbol{x} \in \mathbb{E}^3$への1対1写像$S: \boldsymbol{x}(u,v) = (x(u,v), y(u,v), z(u,v))$が以下を満たすとき、$S$を曲面と定義します。
- $x(u,v), y(u,v), z(u,v)$は$C^{\infty}$級
- $\partial \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial u$と$\partial \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial v$が1次独立
2番目の条件は、曲面上の各点に$\partial \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial u$と$\partial \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial v$の2つの基底から成る微小な接平面が在ることを意味します。
次に第1形式を定義します。
$\partial \boldsymbol{x} (u,v)/ \partial u = \boldsymbol{x}_u$、$\partial \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial v = \boldsymbol{x}_v$と表現することにします。
曲面上の曲線の長さは、$2 \times 2$行列$g$
\begin{eqnarray}
g &=&
\left(
\begin{array}{cc}
g_{uu} & g_{uv} \\
g_{vu} & g_{vv}
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{cc}
\boldsymbol{x}_u \cdot \boldsymbol{x}_u & \boldsymbol{x}_u \cdot \boldsymbol{x}_v \\
\boldsymbol{x}_u \cdot \boldsymbol{x}_u & \boldsymbol{x}_v \cdot \boldsymbol{x}_v
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
を用いて、以下のように表されます。
\begin{eqnarray}
(ds)^2 &=&
\left(
\begin{array}{cc}
du & dv
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{cc}
g_{uu} & g_{uv} \\
g_{vu} & g_{vv}
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
du \\
dv
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
この曲線の長さの形式的表現を第1基本形式と呼びます。
また、曲面$S$の面積$A$は、2つの接ベクトルが作る接平面について、曲面上で積分すれば求まります。
\begin{eqnarray}
A(S) &=& \int \int_D || \boldsymbol{x}_u \times \boldsymbol{x}_v || du dv \\
&=& \int \int_D \sqrt{\det g} du dv
\end{eqnarray}
上式より、$g$を用いて曲面$S$の面積$A$を表現できることが分かります。
第2基本形式
接平面に直行する単位法線ベクトルを考えます。
\begin{eqnarray}
\mathbf{n} &=& \frac{\boldsymbol{x}_u \times \boldsymbol{x}_v}{|| \boldsymbol{x}_u \times \boldsymbol{x}_v ||}
\end{eqnarray}
曲面$S$上の点$P_0:\boldsymbol{x}(u_0,v_0)$を固定し、点$P_0$から点$P:\boldsymbol{x}(u,v)$までの法線方向の高さを以下で定義します。
\begin{eqnarray}
F(u,v) = (\boldsymbol{x}(u,v) - \boldsymbol{x}(u_0,v_0)) \cdot \mathbf{n}(u_0,v_0)
\end{eqnarray}
ヘッセ行列
\begin{eqnarray}
H &=&
\left(
\begin{array}{cc}
h_{uu} & h_{uv} \\
h_{vu} & h_{vv}
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{cc}
(\partial^2 \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial u^2) \cdot \mathbf{n}(u,v) & (\partial^2 \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial u \partial v) \cdot \mathbf{n}(u,v) \\
(\partial^2 \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial v \partial u) \cdot \mathbf{n}(u,v) & (\partial^2 \boldsymbol{x}(u,v)/ \partial v^2) \cdot \mathbf{n}(u,v)
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
を用いると、高さは
\begin{eqnarray}
\delta F(u,v) &=&
\left(
\begin{array}{cc}
du & dv
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{cc}
h_{uu} & h_{uv} \\
h_{vu} & h_{vv}
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
du \\
dv
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
と表されます。この高さの形式的表現を第2基本形式と呼びます。
曲面の構造方程式
計算しやすくするために、以降は座標を$u^i$$(u^1 = u$と$u^2 = v$)と表現します。
曲面$S$のある点$P$における接平面の基底$\boldsymbol{x}_{u^i}$と単位法線ベクトル$\mathbf{n}$の微小変化は、第1基本形式と第2基本形式を用いて表現できます。
これを曲面の構造方程式と呼びます。
\begin{eqnarray}
\frac{\partial^2 \boldsymbol{x}(u,v)}{\partial u^i \partial u^j}
&=& \sum_{k=1}^2 \Gamma_{ij}^k \frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial u^k} + h_{ij} \mathbf{n} \\
\frac{\partial \mathbf{n}}{\partial u^i}
&=& - \sum_{k=1}^2 \sum_{j=1}^2 h_{ij} g^{jk} \frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial u^k}
\end{eqnarray}
ここで$\Gamma_{ij}^k$は以下で定義されます。これをクリストッフェル記号と呼びます。
\begin{eqnarray}
\Gamma_{ij}^k
&=&
\frac{1}{2} \sum_{l=1}^2 g^{kl} \Biggl( \frac{\partial g_{lj}}{\partial u^i} + \frac{\partial g_{li}}{\partial u^j} - \frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l} \Biggl)
\end{eqnarray}
また、第1基本形式と第2基本形式の間には以下の2つの式が成立します。
ガウスの方程式
\begin{eqnarray}
\frac{\partial \Gamma_{ij}^m}{\partial u^k} - \frac{\partial \Gamma_{ik}^m}{\partial u^j} + \sum_{l=1}^2 (\Gamma_{ij}^l \Gamma_{lk}^m - \Gamma_{ik}^l \Gamma_{lj}^m)
&=&
\sum_{l=1}^2 (h_{ij}h_{kl} - h_{ik}h_{jl})g^{lm}
\end{eqnarray}
マイナルディ・ゴダッチの方程式
\begin{eqnarray}
\frac{\partial h_{ij}}{\partial u^k} - \frac{\partial h_{ik}}{\partial u^j} + \sum_{l=1}^2 (\Gamma_{ij}^l h_{lk} - \Gamma_{ik}^l h_{lj})
&=&
0
\end{eqnarray}
曲面の点が楕円点、双曲点、放物点のどれであるかを定めるガウス曲率$Z$は、第1基本形式と第2基本形式を用いて以下のように表現できます。
\begin{eqnarray}
Z &=&
\frac{\det h}{\det g}
=
- \frac{1}{g_{12}} \Biggl(
\frac{\partial \Gamma_{11}^1}{\partial u^2}
- \frac{\partial \Gamma_{12}^1}{\partial u^2}
+ \sum_{l=1}^2 (\Gamma_{11}^l \Gamma_{l2}^1 - \Gamma_{12}^l \Gamma_{l1}^1)
\Biggl)
\end{eqnarray}
第1基本形式は接ベクトルや$g$などの曲面上の量で定義され、第2基本形式は法線ベクトルや$h$などの曲面の外の3次元空間の量で定義されます。
ガウス曲率が第1基本形式のクリストッフェル記号だけで表現できることは、曲面の性質が曲面上の量だけから求まることを意味します。
リーマン幾何学では、外の世界からの情報がない場合、曲面上の座標と接ベクトルとその長さといった内的な量だけを用いて曲面の性質を明らかにすることを目指します。
ここでガウス曲率は、曲面の内的な量だけから求まる量であることが示されました。
一般の曲面への拡張
一般の3次元空間の構造物は、1つの曲面だけで表現することはできません。
例えば、球体を曲面で覆うとして、曲面に南極が入るようにすれば、反対側の北極は無限遠点になり、曲面に入りません。
球体を隈なく覆うためには、南極を覆う曲面と北極を覆う曲面の2つを貼り合わせないといけません。
貼り合わせるとは、2つの曲面が任意の点$P$の近傍において、両者の接平面が一致することを意味します。
複数の曲面$S_{\alpha}(u^1_{\alpha}, u^2_{\alpha})$の和集合を考え、それぞれの曲面の接平面が
\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^2 c_i \frac{\partial \boldsymbol{x}_{\alpha}}{\partial u^i_{\alpha}}
= \sum_{i=1}^2 c_i \frac{\partial \boldsymbol{x}_{\beta}}{\partial u^i_{\beta}}
\end{eqnarray}
を満たすものを曲面と定義します。
更に一般化を進めると、3次元空間は位相空間になり、曲面はハウスドルフ空間や2次元位相多様体とみなせます。
ハウスドルフ空間の定義
余談になりますが、ハウスドルフ空間の定義は以下になります。
ハウスドルフ空間とは,相異なる点の近傍は重ならないように「分離」できる位相空間のことをいう
収束の一意性が保証された位相空間は、任意の2点が必ず開近傍によって重ならないように「分離」できます。
[定義】
位相空間$X$の任意の2点$x,y$に対する開集合$U$($x \in U$)と$V$($x \in V$)が、その開集合の共通部分を空$U \cap V = \emptyset$になるように必ず選べるならば、位相空間$X$をハウスドルフ空間と呼ぶ。
座標変換
一般の曲面が複数の曲面の張り合わせと定義しましたが、それならばある曲面座標空間$S_{\alpha}(u^1_{\alpha}, u^2_{\alpha})$における第1基本形式、第2基本形式、曲面の構造方程式は、別の曲面座標系$S_{\beta}(u^1_{\beta}, u^2_{\beta})$ではどのようになるでしょうか?
第1基本形式は、
\begin{eqnarray}
g^{(\alpha)}_{ij}
= \sum_{k,l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^k_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^l_{\beta}}{\partial u^j_{\alpha}} \Biggl) g^{(\beta)}_{ij}
\end{eqnarray}
という座標変換を満たします。この座標変換を満たすものは、2階テンソルと呼ばれます。
第2基本形式は、
\begin{eqnarray}
h^{(\alpha)}_{ij}
= \pm \sum_{k,l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^k_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^l_{\beta}}{\partial u^j_{\alpha}} \Biggl) h^{(\beta)}_{ij}
\end{eqnarray}
という座標変換を満たします。$h_{ij}$も2階テンソルになります。
曲面の構造方程式は、
\begin{eqnarray}
\frac{\partial^2 \boldsymbol{x}^{(\alpha)}}{\partial u^i_{\alpha} \partial u^j_{\alpha}}
=
\sum_{k,l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^k_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^l_{\beta}}{\partial u^j_{\alpha}} \Biggl)
\frac{\partial^2 \boldsymbol{x}^{(\beta)}}{\partial u^i_{\beta} \partial u^j_{\beta}}
+
\sum_{l=1}^2 \frac{\partial^2 u^l_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha} \partial u^j_{\alpha}} \frac{d \boldsymbol{x}^{(\beta)}}{d u^l_{\beta}}
\end{eqnarray}
という座標変換を満たします。
2項目があるせいで、テンソルとみなすことはできません。
この2項目は接続と呼ばれる性質に由来するものです。
また、曲面の構造方程式の右辺を上式に代入すれば、クリストッフェルの記号の変換則が求まります。
\begin{eqnarray}
\Gamma^{(\alpha)} {}_{ij}^k
=
\sum_{m,n,l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^m_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^n_{\beta}}{\partial u^j_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^k_{\alpha}}{\partial u^l_{\beta}} \Biggl)
\Gamma^{(\beta)} {}_{mn}^l
+
\sum_{l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^k_{\alpha}}{\partial u^l_{\beta}} \Biggl) \frac{\partial^2 u^l_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha} \partial u^j_{\alpha}}
\end{eqnarray}
接続と共変微分
曲面の構造方程式は無限小に近い2点の接空間の差分と解釈できます。
$p+\Delta p=(u^1+\Delta u^1, u^2+\Delta u^2)$として
\begin{eqnarray}
\frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial u^j}(p+\Delta p) - \frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial u^j}(p)
=
\sum_{i=1}^2 \Delta u^i
\Biggl(
\sum_{k=1}^2 \Gamma_{ij}^k \frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial u^k}
+ h_{ij} \mathbf{n}
\Biggl)
\end{eqnarray}
となります。
ここで第2基本形式の$h_{ij}$は外的な量なので無視することにします。
接ベクトルの方向微分のみを残して表現すると以下になります。
\begin{eqnarray}
\Biggl(
\frac{\partial }{\partial u^j}
\Biggl)_{p+\Delta p}
- \ \
\Biggl(
\frac{\partial }{\partial u^j}
\Biggl)_{p}
=
\sum_{i,k=1}^2 \Delta u^i \Gamma_{ij}^k
\Biggl(
\frac{\partial }{\partial u^k}
\Biggl)_{p}
\end{eqnarray}
この式は接ベクトルの微分が、整合性(積分可能性)を満たさないことを意味します。
整合性を満たさないことから、3次元空間から曲面を見下ろすことができない曲面上にいたとしても、自分が曲面上にいることを知ることができます。
そして、この式からはクリストッフェルの記号の変換式が再度求まります。
\begin{eqnarray}
\Gamma^{(\alpha)} {}_{ij}^k
=
\sum_{m,n,l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^m_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^n_{\beta}}{\partial u^j_{\alpha}} \Biggl) \Biggl( \frac{\partial u^k_{\alpha}}{\partial u^l_{\beta}} \Biggl)
\Gamma^{(\beta)} {}_{mn}^l
+
\sum_{l=1}^2 \Biggl( \frac{\partial u^k_{\alpha}}{\partial u^l_{\beta}} \Biggl) \frac{\partial^2 u^l_{\beta}}{\partial u^i_{\alpha} \partial u^j_{\alpha}}
\end{eqnarray}
ある曲面(2次元可微分多様体)のクリストッフェルの記号を考えた時、それがこの変換性を持つことを「接続を定める」と言います。
つまり接続を定めるとは、座標変換に対してテンソルを破るような曲面(2次元可微分多様体)の構造方程式を与えることです。
テンソルを破る項の存在は、その曲面が実際に曲がっていることを示しています。
接続が定められた曲面(2次元可微分多様体)の2点におけるベクトル場$\xi^j$の差分は以下のようになります。
\begin{eqnarray}
\nabla_{\frac{\partial }{\partial u^i}} \xi^j
=
\frac{\partial }{\partial u^i} \xi^j
+
\sum_{k=1}^2 \Gamma_{ik}^j \xi^k
\end{eqnarray}
この$\nabla_{\frac{\partial }{\partial u^i}}$を共変微分と呼びます。