Gigazineの『ReturnキーやEnterキーの誕生経緯』(2025年9月3日)を読んだのだが、時系列がムチャクチャで頭が痛くなった。このあたりの話題について、私(安岡孝一)なりに書いておこうと思う。
1910年発売のMorkrum Printing Telegraph (後のテレタイプ)のキーボード上には「CAR RET」「LINE FEED」キーがあった。キーボード中段右端の「CAR RET」キーは、印字ヘッドを左端に戻す。キーボード下段右端の「LINE FEED」キーは、改行をおこなう。動作は全て電動で、送信側と受信側が同時に動作する。「CAR RET」と「LINE FEED」が独立しているのは、「CAR RET」で重ね打ちを可能とするためである。
1929年発売のElectromatic (後のIBM Electromatic)では、キーボード中段右端の「CARRIAGE RETURN」キーで、キャリッジ・リターンと改行を電動で同時におこなう。Electromaticのキーボードには、上段右端に「BACK SPACER」キーがあるので、重ね打ちは「BACK SPACER」で十分だった。すなわち、テレタイプにおける「CAR RET」と「LINE FEED」を、Electromaticでは「CARRIAGE RETURN」に一まとめにしたのである。
1964年発売のIBM 2260には、「ENTER」キーと「NEW LINE」キーがあった。IBM 2260はディスプレイ端末だが、テレタイプ端末の置き換えに際しては、「CAR RET」が「ENTER」に、「LINE FEED」が「NEW LINE」に、それぞれ置き換わっているのである。ただし、IBM 2260を入力端末として見た場合は、「ENTER」は入力キーであり、「NEW LINE」は次行への移動である。
つまり、コンピュータにおける『ReturnキーやEnterキーの誕生経緯』を議論する際に、電動タイプライターの話題は無関係である。テレタイプ端末からディスプレイ端末への流れの中で、「CAR RET」が「ENTER」へと置き換わっていく様子を中心に、話を進めるべきだと思う。