『特定免許状失効者管理システム業務マニュアル』(文部科学省、令和5年5月19日)の第3章「2. 本システムの使用目的」には
本システムは、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個情法」という。)第18条第3項及び第69条第1項2に基づき、「法令に基づく場合」として、「教育職員等を任命し、又は雇用しようとするとき」(法第7条第1項)を目的とする場合に限り、本人の同意なく個人情報を収集・利用しているものであり、他の法令に基づく場合を除き、これ以外の目的による使用は、個人情報の目的外利用として、個情法違反に問われる恐れがあります。
と書かれている。さて、この「法令に基づく場合」に該当するというのは、本当だろうか。ここでいう「法第7条第1項」は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の
第七条 教育職員等を任命し、又は雇用する者は、基本理念にのっとり、教育職員等を任命し、又は雇用しようとするときは、第十五条第一項のデータベースを活用するものとする。
を指しているはずなので、このシステムまわりにおける「犯歴情報」の流れを、ざっとGraphvizで可視化してみよう。Google Colaboratoryだと、こんな感じ。
g="""digraph{
node[shape=box,fontname=Helvetica]
市町村教育委員会->都道府県教育委員会[label="犯歴情報\l懲戒免職情報 \l"]
教育職員等の任命権者->都道府県教育委員会[label="免許状失効通知 \n免許状取上げ通知 "]
戸籍の附票ネットワーク[shape=cylinder]
戸籍の附票ネットワーク->市町村教育委員会[label="附票本人確認情報 ",penwidth=2]
戸籍の附票ネットワーク->都道府県教育委員会[label="附票本人確認情報",penwidth=2]
官報[shape=note]
都道府県教育委員会->官報[label="失効者情報 ",penwidth=2]
官報->都道府県教育委員会[label="失効者情報 ",penwidth=2]
特定免許状失効者管理システム[shape=cylinder]
都道府県教育委員会->特定免許状失効者管理システム[label="失効者情報 ",penwidth=2]
特定免許状失効者管理システム->教育職員等の任命権者[label="失効者情報 ",penwidth=2]
}
digraph{
rankdir=LR
node[shape=record,penwidth=0,margin=0.05]
x[label="<1>|<2>"]
y[label="<1>法律に基づく個人情報の提供|<2>省令に基づく個人情報の提供"]
x:1:e->y:1:w[penwidth=2]
x:2:e->y:2:w
}"""
import graphviz
graphviz.Source(g)
私(安岡孝一)の手元では、以下の図が出力された。
うーん、市町村教育委員会がどうやって「犯歴情報」を知るのか、どこにも書かれていない。まあ、小中学校の教育職員が逮捕されれば、当然、地元の噂になるはずだし、それで十分なのかもしれないが、何とも気持ち悪い。また、失効者情報における「氏名・本籍の異動」は、附票本人確認情報から原理的には辿れるが、その際
特定免許状失効者等情報は失効・取上げ処分当時のものを入力するが、現在の氏名、本籍が判明している場合、その情報も別データとして入力する
と『特定免許状失効者管理システム業務マニュアル』には書かれていて、なかなかスリリングな運用である。その上、氏名・本籍については
JIS第三水準等の文字がある場合、JIS第二水準までの文字までに置き換えて入力する
齊藤 → 斉藤
髙橋 → 高橋
山﨑 → 山崎
渡邊 → 渡辺
とのことで、私個人としては、かなり絶望的な気分になる。こんなやり方で「犯歴情報」をデータベース化するのは、いくら「法令に基づく場合」だと強弁したところで、非常に危険だと思う。