『保育士特定登録取消者管理システム概要』(こども家庭庁、2024年5月13日)の10ページには
なお、施設・事業所の採用責任者が本データベースで採用内定予定者等の情報を検索することは、個人情報保護法第20条第2項第1号に定める「法令に基づく場合」に該当し、本人の同意は不要であるが、本データベースでの検索の結果に照らして採用しないとの判断をすることがあり得ることを踏まえ、採用公募等の段階において、保育士としての採用を希望するものに対して、採用内定前にデータベースの検索を行うことや、検索の結果、特定登録取消者に該当することが判明した場合は採用しない場合があることを書面等により提示するとともに、特定登録取消者に該当する場合はあらかじめその旨を申告するよう求めることが望ましい。
と書かれている。さて、この「法令に基づく場合」に該当するというのは、本当だろうか。このシステムまわりにおける犯歴情報の流れを、ざっとGraphvizで可視化してみよう。Google Colaboratoryだと、こんな感じ。
g="""digraph{
node[shape=box,fontname=Helvetica]
地方裁判所->地方検察庁[label="刑事訴訟記録 ",penwidth=2]
地方検察庁->地方裁判所[label="刑執行猶予言渡し取消請求 ",penwidth=2]
地方検察庁->本籍地市区町村[label="既決犯罪通知書\l既決犯罪通知撤回通知書\l刑執行猶予言渡し取消通知書 \l財産刑執行終了通知書\l犯歴事項訂正通知書\l",style=dotted]
刑事施設->地方更生保護委員会[label="仮釈放申出\l不定期刑終了申出 \l",penwidth=2]
地方更生保護委員会->刑事施設[label="仮釈放決定通知書\l仮釈放取消決定通知書\l不定期刑終了決定通知書 \l",penwidth=2]
刑事施設->保護観察所[label="身上関係事項 "]
刑事施設->地方検察庁[label="釈放通知書\l自由刑等執行終了通知書\l犯歴事項訂正通知書\l",style=dotted]
刑事施設->本籍地市区町村[label="自由刑等執行終了通知書 \l犯歴事項訂正通知書\l",style=dotted]
地方更生保護委員会->保護観察所[label="仮釈放取消決定通知書 ",penwidth=2]
地方更生保護委員会->地方検察庁[label="仮釈放決定通知書\l仮釈放取消決定通知書\l不定期刑終了決定通知書 \l",style=dotted]
地方更生保護委員会->本籍地市区町村[label="不定期刑終了決定通知書 ",style=dotted]
保護観察所->地方更生保護委員会[label="仮釈放取消申出 ",penwidth=2]
保護観察所->地方検察庁[label="刑執行猶予言渡し取消申出 ",penwidth=2]
保護観察所->本籍地市区町村[label="仮釈放等期間満了通知書 ",style=dotted]
本籍地市区町村->市町村選挙管理委員会[label="選挙資格失効情報 ",penwidth=2]
戸籍の附票ネットワーク[shape=cylinder]
戸籍の附票ネットワーク->都道府県知事[label="附票本人確認情報 ",penwidth=2]
都道府県知事->本籍地市区町村[label="附票本人確認情報 "]
本籍地市区町村->都道府県知事[label="犯歴情報 ",penwidth=1]
保育士特定登録取消者管理システム[shape=cylinder]
都道府県知事->保育士特定登録取消者管理システム[label="登録取消者情報 ",penwidth=2]
保育士特定登録取消者管理システム->保育士の採用責任者[label="登録取消者情報 ",penwidth=2]
保育士の採用責任者->都道府県知事[label="児童生徒性暴力情報 ",penwidth=2]
}
digraph{
rankdir=LR
node[shape=record,penwidth=0,margin=0.05]
x[label="<1>|<2>"]
y[label="<1>法律に基づく個人情報の提供|<2>省令に基づく個人情報の提供"]
x:1:e->y:1:w[penwidth=2]
x:2:e->y:2:w
}"""
import graphviz
graphviz.Source(g)
私(安岡孝一)の手元では、以下の図が出力された。
「法令に基づく場合」を実線で書いてみたところ、保育士特定登録取消者管理システムのまわりは確かに実線になっているものの、本籍地市区町村の上で実線が途切れたままになっている。2023年7月19日の日記にも書いたが、『犯歴事務規程』や『犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する事務規程』や『被収容者等の釈放に関する訓令』は、あくまで訓令に過ぎず、ここで言う「法令」にはあたらない(cf.『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)』)。まあ、こども家庭庁も、このあたりを理解しているので、「本人の同意は不要である」としながらも「申告するよう求めることが望ましい」などと、何とか違法性を取り繕おうとしているわけだ。もう、保育士特定登録取消者管理システムの運用が始まっちゃったらしいんだけど、さて、困ったな。