『家庭の法と裁判』の今月号を読んでいたところ、「令和6年11月11日付け法務省民一第2451号法務省民事局民事第一課長通知」が掲載されているのを見つけた(pp.165-167)。
以前「戸籍統一文字に関するワーキンググループ」でも指摘した覚えがあるのだが、この通知の
なお,仮に,家庭裁判所が氏若しくは名の変更についての許可の審判又は戸籍の訂正についての許可の審判において,規則に反する文字を戸籍に記載する旨の審判をした場合には,当該文字を電算化戸籍に記録することはできないので,規則第69条の電子情報処理組織による取扱いに適合しない戸籍として,紙の戸籍を編製することとなります。
という一文は、戸籍法の解釈を完全に誤っており、電子情報処理組織による戸籍事務(いわゆるデジタル戸籍)を全く理解していない。そもそもデジタル戸籍における漢字制限は、戸籍法に根拠規定が存在しない。もちろん、戸籍法50条の「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。」は効いてくるが、これはあくまで出生届の瞬間だけであって、名の変更(107条の2)には適用されないし、ましてや氏には何の制限もない。つまり、戸籍法施行規則68条の3
戸籍事務を電子情報処理組織によつて取り扱う場合において、氏又は名に漢字を用いるときは、次の各号に掲げる字体で記録するものとする。
一 常用漢字表に掲げる字体(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
二 別表第二に掲げる字体
三 その他法務大臣の定める字体
の漢字制限は、戸籍法施行規則の独自規定であって、上位規定である戸籍法に繋がっていないのだ。
一方、氏の変更と名の変更については、戸籍法107条と107条の2に規定されており、家庭裁判所の許可を受けることになっている。つまり、ある文字を家庭裁判所が許可したならば、それは家庭裁判所が当該文字を「本人の氏名として正しい」と認めているわけであり、その手続きが戸籍法として可能となっているわけである。ならば、上位規定である戸籍法に従って、戸籍法施行規則としても当該文字をデジタル戸籍で扱えるようにするのがスジであり、端的には「その他法務大臣の定める字体」に当該文字を加えるしかない、というのが私(安岡孝一)の見解である。
ただ、法務省民事局は、私の見解をよっぽど嫌ったのか、結局、全国の家庭裁判所と最高裁判所事務総局家庭局を敵にまわしてしまった。それならそれで、家庭裁判所もやりようがあって、今後、氏名の変更許可には「…の変更を許可する。なお、戸籍・住民票の電子情報処理は、これを認める。」という一文が追加されることになるのだろう。さて、大変だなあ。