1. はじめに
この間、「IT業界はメンタル不調になりやすい」という記事を見かけました。
理由は様々あるようですが、長時間労働によるオーバーワークや人間関係のストレスなどがあげられるようです。
かくいう私も社交不安障害 (SAD=Social Anxiety Disorder) という精神疾患を持っており、長年治療を続けている身です。
ただ、私の場合は仕事をきっかけに発症したわけではなく、症状が出始めたのは11歳のころでした。(仕事はとても良い環境でさせてもらっています。)
当時は、発作が出ることに対してそれが病気だとは思っていなかったので、「これが個性というものか!」と納得させていました。(とはいえ、小学生ながらに相当つらかったと思います。。)
それが、大学生になると電車に乗ることや映画館のような空間にいることが難しくなり、他人との食事は家族であっても発作がでてしまい、そこではじめて精神科に受診し社交不安障害という診断を受けました。
治療は、薬物療法とカウンセリングを受けながら、個人的にも社交不安障害について色々と調べました。
もともと人と接することが苦手だったので社交不安障害という病気を調べることと並行して、心理カウンセラーや臨床心理士向けに書かれた話し方に関する本も手に取るようになり、何か改善に役立つものはないかと読み漁りました。
もちろん、それらを読んだだけで特別な「何か」を得られたわけではないですが、私なりに学び、今の仕事において特にコミュニケーションの場面で役立っていると感じている「ゆとり」というものについて書いてみようと思います。
※以降は、私個人の意見や感覚による内容となっておりますので、ご了承ください (_ _)
2. 対人間における「ゆとり」とは
私は、人と接する際は両者間に「ゆとり」の差というものがあると考えています。
この「ゆとり」とは、不安や焦り、相手から受け取る圧迫感、はたまた気遣いや余裕のようなものです。
他者と会話をする際、この「ゆとり」の状態によってコミュニケーションの質に大きな影響を与えます。
例えば、「ゆとり」がない状態で会話をすると、言葉が短く寡黙になったり、文章のまとまりがなくなったりします。また、早くその場から離れたいという心情から、本心ではなく当たり障りのない表現を優先して用いるようになります。
こういった際に、それは相手本来の性格や能力によるものではなく、「ゆとり」がない状態からきているものだと理解することが大事です。
また、「ゆとり」がない状態では外部の影響を受けやすくなります。これは、ネガティブな要素はもちろんですが、ポジティブな要素に関しても同じです。
他者からの "ありがとう" といった感謝の言葉や、何気なく交わした一言二言の言葉のラリーが想像している以上の安心感を相手に与え余裕を取り戻すこともあるのです。
3. 「ゆとり」の差の要因について
「ゆとり」の差を作り出す要因には、様々な要素が考えられます。
ただ、それぞれの要因は大きく "絶対的な要因" と "相対的な要因" の2種類に分けられると考えています。
絶対的な要因
絶対的な要因とは、自分と相手との関係性からくる要因です。
- 上司と部下
- 先輩と後輩
- プロジェクトマネージャーとチームメンバー
- 面接官と志願者
- メンターとメンティ
- レビュアとレビュイ
- カウンセラーとクライアント
相対的な要因
相対的な要因とは、個人の特徴や状況によって異なってくる要因です。
- 性格や性質
- 経験
- 知識
- 体調
- 私生活での出来事や人間関係
- 相手に抱く印象
ここで大事なことは、上記であげたような要因がゆとりの差を作っていることと、「ゆとりのある側」が「ゆとりのない側」に配慮することが両者のコミュニケーションの質を高めるうえで効率的かつ効果的だということです。
4. 「ゆとり」の差を埋めるために大事なこと
それでは、具体的に私が「ゆとり」の差を埋めるために気を付けていることを紹介したいと思います。
うなずく、相づちを打つ
なんだ、そんなことか。
と、思われるかもしれないですが、会話をするうえでうなづきや相づちは、とても重要な役割を担っています。
「ゆとり」がない状態において、当事者は 100% 会話に集中できない状態となります。
それは、言葉を発しつつも「わかりやすく話せているだろうか」「相手にしっかり伝わっているだろうか」「自分はどう見られているだろうか」といった様々な思考に意識が奪われてしまうからです。
そんな状況において、うなづきや相づちは「大丈夫だよ。」「それでいいんだよ。」という "保証" を相手に伝える役割があります。
話し手は、うなづきや相づちによって自分の言葉が相手に受け止められたという手応えを感じ、さらに次の言葉を発する気持ちになるのです。
また、同じ理由からオンラインの会話において、顔(表情)を見せることは「ゆとり」の差を埋めるうえでとても効果的だと思います。ある程度、関係が構築されているのであれば良いかもしれないですが、そうでなければ最初と最後に口角を上げた表情であいさつをするだけでも相手に与える安心感には、大きな違いがあると思います。
ポイント
良い相づちを学ぶためにラジオを聴くことは、とても効果的だと思います。
なぜなら、良い相づちというのは、話している相手だけではなく、その会話を傍らで聞いている第三者にとっても心地の良いものだからです。
ラジオのように、ながら作業をしてでも聞いてみたいと思わせられる相づちを目指したいものです。
"開かれた質問" と "閉じた質問" を使い分ける
"開かれた質問" とは、つまりアンケートでいうところのテキストボックス(長文)で回答するような質問です。
対して "閉じた質問" は、選択形式で回答するような質問になります。
前述したように、「ゆとり」がない状態では様々な思考に意識が奪われてしまい、開かれた質問に対してうまく考えられない、言葉がまとまらないなどの状態になってしまいます。
そういった場合は、閉じた質問を利用しながら相手の思考を整理しつつ会話を進めることが大事だと思います。
例.1 質問編
● 後輩A:修正内容を開発環境に反映したのですが、エラーが出てしまい解決できないので教えてほしいです。
○ 先輩B:どんなエラーがでてるの?(開かれた質問)
● 後輩A:えーっと。。。
→沈黙が続く。もしくは、回答があってもうまくまとまらない。
○ 先輩B:そうしたら、出力されたログをみせてもらってもいい?(閉じた質問)
● 後輩A:はい。こういうログがでてて、、
○ 先輩B:ふむふむ。エラーがどこで出てるかはわかる?(閉じた質問)
● 後輩A:えーっと。たぶん、これかなと。。
○ 先輩B:うん、そうだね!どんなエラーかわかる?(開かれた質問)
● 後輩A:えーっと。。
→ある程度、言葉のラリーを交わすとしっかり思考できるようになるため、沈黙があっても待ってみる。
● 後輩A:~~が失敗しているのかなと思います。
○ 先輩B:うん、そうだね。
・・・
良くない例
良くない例として、次のようなパターンがあると思います。
- 開かれた質問に対して相手がうまく回答できない場合に、回答を急かすように開かれた質問を連発する。
- 開かれた質問に対して相手の回答がまとまらない場合に、「だから、~~」「そうじゃなくて」「結論は?」のように否定を入れ、相手の回答を次の質問につなげようとしない。(相手は、自分の回答が無視されたと感じる)
例2. 1on1編
○ 上司A:何か困っていることはありますか?(開かれた質問)
● 部下B:うーん。特にないです。
○ 上司A:お!よかったです。案件も順調ですか?(閉じた質問)
● 部下B:はい。順調だと思います。
○ 上司A:うん、うん。順調そうですね。案件では、誰と会話することが1番多いですか?(閉じた質問をしつつ、5W1H を使い相手の回答につながる質問をする)
● 部下B:そうですね。リーダーの C さんが1番多いと思います。設計書やソースコードのレビューもお願いしてますし、わからないことがあったらまずは C さんに質問するようになってます。
○ 上司A:レビューも C さんにお願いしているんですね。質問をするときは遠慮なくできるんですか?(閉じた質問)
→相手の悩みや困りごとを聞く場合は、どう感じているのかという感情面に寄り添って質問することも大事だと思います。
● 部下B:うーん、そうですね。基本はできてると思います。(肯定しているが、少し曖昧な回答)
○ 上司A:そうなんですね。よかったです。ただ、C さんは忙しいから聞きづらいこともあるのかな?(閉じた質問。あえて否定的な回答のパスを出してみる。質問の事実がなければしっかりと否定の返答がある。)
● 部下B:うーん、はい。Slack の文章のやりとりだと冷たく感じることもあり。。質問するまでに時間がかかってしまうことがあります。
○ 上司A:そうなんですね。冷たく感じるのは、文章の表現なんでしょうか。それとも、~~
→相手のネガティブな感情は、すぐに共感するのではなく、より具体的にどのように感じるのか確認したうえで共感を示すことが大事だと思います。
・・・
ポイント
悩みや困りごとの発言があった場合、共感 + アドバイスをすぐにしてしまうことに注意が必要です。
例では部下Bさんが「Slack の文章のやりとりだと冷たく感じることもあり。。質問するまでに時間がかかってしまうことがあります。」という発言をしました。
ですが、本当の悩みは、Cさんの普段の会話における言葉遣いに配慮がないと感じていることが原因かもしれませんし、Cさん以外のメンバーと会話する機会がないことに不安を抱えていることが原因かもしれません。
本のタイトルだけをみて本文を判断するのと同じように、最初の発言だけを聞いて共感やアドバイスをしてしまうと相手は「本当は違うんだけどなぁ」「あまり伝わってないなぁ」と感じてしまいます。
会話の "入り口" と "出口" を大事にする
会話や会議の始まりは、相手の状態をみて「ゆとり」の差があるか確認します。
絶対的な要因によって、相手が緊張や不安があることを予想できる場合は、「ゆとり」がないことを前提に会話を進めます。
また、繰り返しになりますがオンラインであれば、最初に表情を見せた状態であいさつすることも大切です。
会話や会議の終わりは、気遣いや見送る姿勢が大事です。
特に仕事の話となれば、前向きな内容ばかりではないと思います。そうした場合に、そのまま会話や会議を切り上げてしまうと、頭の中にネガティブな思考や感情が残ってしまい以降の作業に集中できなくなってしまいます。
また、次回の会話や会議に対するハードルも高くなります。
会話や会議がどういった内容であれ、「大変だと思いますが、引き続きよろしくお願いします。」や「また、何かわからないことがあったら、いつでも聞いてください!」といった、気遣いの言葉をかけるだけでも前向きな気持ちで次の作業に取り組むことができます。
ポイント
コロナ以降、オンラインでの会話が増えました。
業務に詰まったときに、部下や後輩が上司や先輩に質問するという場面はよくあると思います。
そういった場合に、上司や先輩が画面オフかつ相手が話し始めるまで無言で待つといった状態でいると、質問をする側は不安を抱えやすくなります。
ちょっとした配慮の積み重ねは、メンバーが前向きに仕事に取り組める環境を作るうえでとても大事な要素だと思います。
「シロがクロを叩く」ようなことはしない
人は自分が正しく相手が悪いと信じるとき、悪いものを正すために「ひどい」ことを「ひどい」という自覚なしに行ってしまいます。
同様に、相手が異質な存在、劣った存在などと感じたときにも「ひどい」ことを「ひどい」という自覚なしに行ってしまいやすいです。
ですが、正解や価値観とは人の数だけ存在するものです。
もし、本当に話し合いたいことや伝えたいことがあるのであれば、まずは「ゆとり」の差を埋める努力をして同じ土俵に立って会話をすることが大事だと思います。
5. さいごに
これまで、長いあいだ通院を重ねる中で精神科医とのカウンセリングが大なり小なり治療に前向きな影響を与えていると実感してきました。
切り傷ができたなら、絆創膏を貼ることで傷が治る。熱が出たなら、解熱剤を飲むことで熱が下がる。よく理解できます。
精神疾患もどうやら脳の中でいろいろなことが起こり症状に表れるようですが、なぜ会話をすることで改善の傾向を見せるのかがとても不思議でした。
ですが同時に、会話とはとても重要であることも大切にしなければいけないことも理解できましたし、あんな風に私も人と話せるようになりたいとも思いました。
そう思った当時と今、たいして会話のレベルは変わってなさそうですが、自分なりに学んだことを書き出してみました。