目次
2. 自己組織型のチームとは
・「個」がリーダーシップを発揮できること
・チーム満足度が高いこと
・よりよいソリューションが選択できること
3. 自己組織化にまつわるエトセトラ
・同じ責任を共有するフラットな関係
・気軽に聞ける空気の大切さ
・失敗を受け入れる文化であること
・仕事を楽しんでいるか
4. 完璧なリーダーはもういらない
・フォロワーシップが発揮できること
・全員が「正解」という考え方
・「自ら」は「自ず」を引き寄せる
1. はじめに
今年でIT業界5年目になりますが、これまで「アジャイル」という言葉は幾度となく聞いてきました。
どうやら界隈においてその言葉には、イケてる人たちがそれぞれの能力を発揮しプロジェクトを俊敏かつ柔軟に遂行するようなイメージが持たれているそうです。セミナーや講義に参加すると、きまって「アジャイルは、あーだ。アジャイルは、こーだ。」という話があります。
が、巷で言われているようなアジャイルなチームは、これまでにほとんど見たことがありません。
これだけ話は聞くのに実体がない、もはや漫画に出てくる秘密組織か何かじゃないかと思うほどです。
では、なぜ日本ではアジャイルがうまくいかないのでしょうか。
「Why AGILE doesn't work in ASIA」(なぜアジャイルはアジアで機能しないのか)という記事では、その理由としてトップダウンという構造における "権力" や "面子"であったり、日本の「出る枕は打たれる」といった文化に触れられています。
日本に住む身としては、これらが集団における規律や秩序を守るようなポジティブな面に働いていることを知っています。一方で、記事にかかれているような批判的な文化であることも認めざるを得ないでしょう。
アプリケーションに障害が起こったとき、SNS 上で多くの批判が寄せられ責任の追及が行われるといった事例は幾度となく見てきました。開発者が好んで障害を起こすことなど毛頭なく、ユーザにとって少しでも便利でより豊かなアプリケーションになればと願いしたことを踏みにじるような行為と言えます。
こういった都合の悪い見たくないものに蓋をしてアジャイルを導入したところで、きっとそれはアジャイルという皮をかぶっただけのトップダウン型のチームにしかならないでしょう。
なので、この記事では私がアジャイルを推進するうえで大切にしたい考え方を「自己組織型」というキーワードを用いて整理する場とさせてもらえればと思います。
なお、この記事は次の2つの書籍をとても参考にさせていただいております。
本当にありがとうございます。
- 世界一流エンジニアの思考法
- 「完璧なリーダー」は、もういらない。
2. 自己組織型のチームとは
では、自己組織型のチームとは一体どのようなチームなのでしょうか。
ここでは、私が考える自己組織型のチームの特徴について書いてみます。
「個」がリーダーシップを発揮できること
1つ目は、「個」がリーダーシップを発揮できることです。
ここでいう「個」とは、組織の中のチームであり、チームの中のメンバーを指します。
これまでの率先垂範で不動不惑のリーダーが率いるピラミッド型の集団の場合、とかく何をするにも時間がかかってしまいます。現代の不確実性が高く、変化のスピードが速い世の中において、こういった組織は通用しなくなりつつあります。
大事なのは、チームやメンバーが自ら判断し主体的に行動できること、つまりリーダーシップを発揮することです。日本においてリーダーシップの話をすると「統率力」や「組織を率いる能力」といった説明がされ、その適正や特徴について語られることが多いように感じます。
しかし、自己組織型のチームにおけるリーダーシップとは、決して「統率力」や「組織を率いる能力」ではないと思います。では何か、それは4章で書いてみようと思います。
チーム満足度が高いこと
2つ目は、チームの満足度が高いことです。
主体的に行動するということは、自らがコントロールするということです。
それは「やらされる」仕事より何倍も楽しいし、生産性だってきっと何倍も高くなるでしょう。
チームビルディングにおいてメンバーが主体的ではないという話を聞きます。
ですが本来、人は主体的に行動する楽しさを知っていると思います。
それができないのは何かしらの要因(ブロック)があるからで、その要因をアンブロックすることが大事なのではないでしょうか。
よりよいソリューションが選択できること
これは、至極当然の話です。
日進月歩の技術の最前線を把握しチームに対してよりよい選択ができるのは、そのツールやソフトウェアと日々向き合い開発、運用をしているメンバーにほかなりません。
チームやメンバーに対しソリューションの選択機会を与えない、一方的に押し付けるという行為は、責任を持たず支持を待つだけのチームを作るだけのように感じます。
繰り返しになりますが、自己組織型のチームにおいては「集団」ではなく「個」にフォーカスされることが大事だと思います。これまでのように、メンバーへの権限を最小限にとどめ、能力や実績ではなく時間単位による評価をし、トップダウンで意思決定をすることは、「集団」を統制するには有効ですが、自己組織型のチームを作るうえではマイナスな要素にしかならないでしょう。
3. 自己組織化にまつわるエトセトラ
2章では、自己組織型チームの特徴について書きました。
では、チームを自己組織化していくためには具体的にどのようなことが必要でしょうか。
ここでは、私がチームを自己組織化するために大切にしたい価値観について書いてみたいと思います。
同じ責任を共有するフラットな関係
自己組織化の第一歩は、チームのメンバーがお互いに同じ責任を共有するフラットな仲間として振る舞うことです。
その歴、先輩/後輩で知識や経験の差はあれど、それぞれが持つタスクや課題は彼ら自らが「完了」までもっていくことが大事です。目上の人は、「完了」の条件を共有したり必要に応じて提示することはあっても、その過程に対して指示を出すことやアドバイスすることに注意する必要があります。
メンバーが困ったら主体的に助けを求め、ほかのメンバーがすぐに助けるという関係性が大事です。
とは言え、いきなり主体的に行動できるメンバーばかりかといえば、実際は何をすればいいかわからず動けないメンバーもいると思います。
そういった場合は指示を出すのではなく、「○○対応してもらってもいいかな??」とお願いする形でタスクを依頼します。もちろん、対応後は感謝を伝えましょう。
また、「今、○○さんが困っていることは何かな??」など動けない要素をアンブロックするための会話をしたり、「まずは、○○から整理してみたらいいんじゃない??」「こういう方法もあるんじゃないかな??」と課題を解決するための選択肢を提案してみるのがいいと思います。
大事なのは、相手に考える余白を与えることです。
気軽に聞ける空気の大切さ
同じ責任を共有することとセットで大切なことが、気軽に質問できる環境であることです。
私が社会人になってからよく聞くのが、"質問する前にまずは自分で調べること" という言葉です。この言葉自体にそこまで異論はないですが、この言葉には "調べてわかることは、質問してはいけない" という意味も込められていますよね。
社会人は学生ではないのだから、質問することで相手の時間を奪っていると認識すること
みたいなフレーズを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
私は、あまりこの意見に共感することはできません。
この前提があると、質問をする前に "質問してよいか??" と悩む時間を与えてしまいます。そもそも、調べればわかる情報か判断がつかない場合や、さらには悩んでいる内容自体が検討違いだったりすることがあります。そこに時間をかけるのは、とてももったいないです。
想像してください。自己組織型チームのメンバーの一人が10歳の子供だとします。その子供はチームメンバーのAさんに「ITってなんのこと??」と質問します。きっとAさんは、その質問を否定することなく他のメンバーと同じような態度で接し回答するでしょう。違いがあるとすれば、10歳の子供でもわかるような表現を用いて回答することだと思います。
今の例はわかりやすく10歳の子供としましたが、たとえこれが若手社員であっても自分より年上の先輩社員であっても変わらないということです。人は、どういった質問であれ真摯に対応してもらうことで安心し自分の質問に自信が生まれ、次も質問しようという意欲がわくものです。
もちろん、いつも何も考えず質問する人と調べてから整理したり自ら理解しようとして質問する人では得られる結果に差が出ますが、それはあくまで質問者の課題です。
また、質問を受けた側も必ず回答を示さなければいけないというわけではなく、「○○ってキーワードで調べてみるといいんじゃない??」「これは、○○さんが詳しいよ」など解決の選択肢を提案したり、回答に役立つ材料を持ち合わせていないのであれば「ごめん。わからないな」と断ってもいいと思います。
大事なのは、気軽に質問できる環境かどうかということです。
失敗を受け入れる文化であること
失敗に対して寛容であり、前向きな文化は大事だと思います。正直、ここに記載することについては否定的な意見もあるでしょう。
しかし、どんなに優秀な人であっても失敗しない人はいませんし、現代の不確実性が高い世の中において、むしろ失敗しない状態は危険であるとも考えられます。
システムにバグや障害が起こった時、それは間違っても担当者の責任ではなくチームや組織の課題です。コードレビューの方法やデプロイの仕組みなど根本的に解決する必要のある課題が見つかったことに感謝するべきだと思います。
こういった失敗に対して前向きなチームほど、日ごろから自分以外のタスクにもためらうことなく積極的に関わることができ結果的にバグや障害を防ぐことに繋がりますし、問題が起こってもチームの雰囲気を下げることなく一丸となって解決に注力することができます。
失敗は決して評価を下げるものではなく、メンバーの能力を上回る領域や未知の領域に挑戦した結果として前向きに評価されることが大事だと思います。
仕事を楽しんでいるか
きっと仕事をするうえで何よりも大事なことって仕事を楽しんでいるかですよね。過去に、1on1 などで「困っていることはあるか」という会話はしたことがありますが、「仕事を楽しめているか」という会話はあまりした記憶がありません。
実際、質問する側からしたら結構勇気がいる質問ですよね。
「仕事を楽しめているか」と聞くのだから、メンバーが楽しめていることが前提ですし、自分がどこまでそこに貢献できているか自信が持てなかったりします。何より自分自身が楽しめていなければ、できない質問です。
ですが、だからこそ「仕事を楽しんでいるか」を確認する文化は大切だと思います。
メンバーの考えや価値観に関心を寄せ仕事を楽しめる状態にフォローしていくことが大事ではないでしょうか。
4. 完璧なリーダーはもういらない
3章でチームを自己組織化していくために大切だと思う価値観について書きました。
この価値観をより良い方向に導いていくためには、それぞれがリーダーシップを発揮することが大事です。
ここでは、自己組織化におけるリーダーシップとは何かを考えてみたいと思います。
フォロワーシップが発揮できること
1つ目は、フォロワーシップが発揮できることです。「フォロワーシップ」という言葉についても、ネット上には様々な説明があると思います。
私は、リーダーシップとフォロワーシップは切っても切り離せない表裏一体の要素だと思っています。私が考えるフォロワーシップとは、自らが共感し意思決定したことで発生する "責任" のことです。
例えば、3章に記載した価値観をチームの方針としてプロジェクトの最初に決めたとします。その場合、メンバーは皆「納得したうえで、参加すると決めた」ということです。であれば、メンバーは決定した結果が正しくなるように行動することが大切です。
もちろん、決定した内容を変更することもあると思います。大事なのは、チームが良い結果に進むように支援する姿勢です。
4章のタイトルに「完璧なリーダーはもういらない」と少し強い表現を用いましたが、どんなに優秀で高い成果をあげられる人であっても、このフォロワーシップがなければチームにとってはネガティブな要素にしかならないということです。「個」がリーダーシップを発揮できることが大事だからこそ、このフォロワーシップが重要なのです。
全員が「正解」という考え方
仕事に限らず会話の中で意見が合わないことはよくあることです。
そういったときに、自分の見ているものと相手の見ているものは違うことを理解し、なぜ相手がその視点を持ったのかを考えることが大切だと思います。どちらかが「正解」ではなく、それぞれの「正解」を持ち寄って意見交換をするということです。
また、「相手の価値観は否定してないよ」とおっしゃる方で、それが言葉や文字にまったく表れていない方がいます。当然ですが、思っているだけで相手に伝わらなければ意味がありません。意見を伝えるときに「これは私の意見なんだけど、」と頭に加えたり、「○○がいいんじゃないかな??」と提案の形で伝えるなどの工夫が大事だと思います。また、お互いの意見交換に対して最終的に感謝することも忘れてはいけません。
「自ら」は「自ず」を引き寄せる
誰かに行動を促すとき、まずは自らが行動することが何よりも大事だと思います。
例えば、後輩であるメンバーのBさんが書いたコードをレビューするときに「このライブラリはどんなものなの??」「ここのメソッドは何をしてるの??」と先輩から質問をします。するとBさんには、目上の人も気軽に質問をしているという事実と自分がすでにほかのメンバーに貢献したという実績が生まれ、次にBさん自身が質問しやすい状況が出来上がります。
また、小さなことであっても「すみません。これは自分の○○がよくなかったね。」と自分から非を認めることで相手も素直になれますし、自分も失敗していいんだという気持ちになれます。
これもフォロワーシップにつながりますが、自分が納得したことや意思決定したことに責任をもって行動できる人には、応援したいと人が集まってくるものだと思います。
5. おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございます。
アジャイルについて考えていると、ついスクラムなどの形に目が行きがちです。しかし実際にアジャイルというものをやってみると、タスクの管理やミーティングのやり方が変わっただけのウォーターフォールにしかなってないことに気づきます。なんなら、素直にウォーターフォールをやったほうが楽かもとか思ったりします。
きっと、アジャイルの導入とはそのフレームワークに当てはめるようなことではなく、その価値観に触れ理解し私も含め使う側の「人」や「文化」が変わらないといけないんだろうなと感じます。それは、一朝一夕でできることではないですが、とりあえず現時点で頭の中にあることを文字として整理してみました。
最後に、自己組織型チームの実例があるので紹介させていただきます。
私の出身は、静岡県の菊川市という町です。
この町には、常葉大学附属菊川高等学校という高校があり、この高校の野球部は春・夏合わせて13回の甲子園の出場経験がある強豪校です。
2018年の夏、この常葉大菊川が甲子園に出場した際に常葉大菊川の「ノーサイン野球」という言葉が話題になりました。「ノーサイン野球」とは、言葉の通り監督がサインを出すのではなく、選手自身が判断してプレーを行うというものです。
野球というスポーツ、特に高校野球においては約120分という試合時間のうち、ボールが動いている(プレーがかかっている)時間は約20分ほどと言われています。残りの100分は暇しているかというと当然そんなことはなく、次のプレーに対して準備をします。
イニング数、点差、カウントなどの条件から、バッテリーはどんなコースにどんな球種を投げてくるか、守備はどういうシフトをとるか、攻撃側はどんな作戦で動いてくるかなど色々と考えると思います。1球ごとに状況が変わる中で、選手自らが判断するわけなので「ノーサイン野球」がどんなにすごいことなのかが想像できると思います。まして、夏の大会は負ければ終わりというプレッシャーと球場という風を通さない熱がこもるような過酷な環境なので選手にかかる負担は大きいでしょう。
そのうえで、その年の常葉大菊川は甲子園出場を決め、さらに3回戦進出という結果を残しました。
このチームは、練習のときから常に「自分で選ぶ」ことを意識し、監督は「教え込むのではなく、常に考える余地を与え、本人が気付くまで見守る。」ことを大切にしていたそうです。また、チームとして「声を出す」ということを何よりも大切にし、すべての選手が徹底していたとのことでした。
3回戦敗退後、その試合で盗塁失敗や守備での細かなミスがあったことに対して、主将は「攻めのミス。自分たちの野球はできました」とコメントしています。
すこいですよね。きっと、このチームも一朝一夕で成ったわけではなく、日々の小さな積み重ねなんだろうなと思いました。
ちなみに私も高校まで野球をしていました。
逆転のチャンスという場面で打席に立ち、監督が出すサインを確認します。
が、なぜか監督のサインがまったく理解できません。
しかし、雰囲気からして何かしらのサインが出ていることはひしひしと伝わってきます。
スタンドの応援が一層大きくなる中、ピッチャーが投球モーションに入り、
「あ。。終わったかも。」という悪夢を未だに見ます。