AdventCalendar はやいもので13日目となりました!
私は,航空宇宙工学科で人工衛星の軌道やスペースデブリの破砕起源推定の研究をしています.先日,学部2年でありながら,学会発表をする機会を頂き,日頃の研究成果について発表してきました.お陰様で,優秀学生講演賞を受賞することができました.
とか言って調子乗ってたら,AdventCalender を書くのをすっかり忘れていました.毎週水曜日が担当予定日で,2週目の本記事は12/13が担当日ですが,前日12/12の23:00に記事を書き始めました(←は?).
ということで,当初の予定を変更して,相対性理論が衛星(主にGPS衛星)に与える影響について紹介したいと思います.と言っても,PhysiKyuには現代物理を専門としている方が沢山いるので,もしかしたら厳密な議論で怒られるかもしれないのです.
GPSとは?
皆さんは,GPSという言葉を一度は耳にしたことがあるのではないかと思います.お手持ちのスマートフォンやタブレットで,マップを見た時に,現在の位置情報を把握できる仕組みを担っているのが,GPS (Global Positioning System:全地球即位システム) です.このGPSという仕組みがあることによって,車を運転する時にカーナビが案内してくれて,皆さんが迷わなくて済みます.さらに,GPSを利用することで,上空を飛行する飛行機が位置情報や速度を把握することができ,安全に航行することができます.
GPSは,正確な時計である原子時計を搭載した複数の人工衛星からの電波を受信することで,それぞれの人工衛星からの距離を決定し,正確な三次元位置(現在地)を把握しています.より詳しく説明すると,光速は無限ではなく,有界な大きさを持っています.ですから,人工衛星が電波を発した時刻と,地上にいる観測者が電波を受け取った時刻には差が生じますから,この時間差に光速をかけることで,人工衛星と観測者の距離を求めることができます.
この原理によれば,3機の人工衛星から発せられる電波をもとにすれば,幾何学的には,観測者の三次元位置を把握できるように感じます.しかし,ここに相対性理論が関わってくるので,実際には4機の人工衛星が必要になるのです.
相対性理論によるGPS衛星と観測者の時間のズレ
相対性理論,というのが何なのか,というのは省きたいと思います.絶対私が説明するよりも良い記事があるはず!!
仮定
ここでは,具体的にGPS衛星と観測者の時間のずれを計算したいと思います.GPS衛星について,以下のような状況を仮定します.
\displaylines{
人口衛星の軌道高度 &H=20200 \ \mathrm{km} \\
軌道種類 &真円軌道\\
地球の質量 &M_E = 5.97 \times 10^{24} \ \mathrm{kg} \\
地球の半径 &R_E = 6400 \ \mathrm{km}\\
重力定数 &G = 6.67 \times 10^{-20} \ \mathrm{km} ^3 / (\mathrm{kg} \cdot \mathrm{s} ^2 )\\
光速度 &c = 3.00\times 10^5 \ \mathrm{km/s}\\
地上での時間幅 &\Delta t_1\\
人工衛星での時間幅 &\Delta t_2
}
人工衛星の周回速度
まず,この衛星の周回速度 v を求めましょう.人工衛星の軌道エネルギーの式は,
\frac{v^2}{2} - \frac{\mu}{r} = - \frac{\mu}{2a}
で表されます.これを v についての式に変形すると,
v = \sqrt{\frac{2\mu}{r} - \frac{\mu}{a}}
となります.ここで,軌道形状を真円と仮定しているので,a = r を代入して,
v = \sqrt{\frac{\mu}{r}}
となります.よって,周回速度は,
v ≒ 3.87 \ \mathrm{km/s}
となります.
特殊相対性理論による時間差
観測者が人工衛星に対して等速運動をしていることによる特殊相対性理論の効果を考えると,
\Delta t_1 = \gamma \Delta t_2
という関係が成立します.ここで,
\displaylines{
\gamma = \sqrt{1-\beta^2}\\
\beta = \frac{v}{c}
}
とします.よって,地上での時間幅に対する人工衛星の時間幅のズレは,
\frac{\Delta t_2 - \Delta t_1}{\Delta t_1} = \sqrt{1-\beta^2} - 1 \simeq -\frac{1}{2} \beta^2 ≒ -8.32\times 10^{-11}
となります.
一般相対性理論による時間差
一方,観測者が受ける重力の方が人工衛星が受ける重力より大きいことによる一般相対性理論の効果を考えると,
\Delta t_2 \simeq \left( 1+ \frac{(\phi_2 - \phi_1)}{c^2} \right) \Delta t_1
という関係が成立します.ここで,
\displaylines{
\phi_1 = -G\frac{M_E}{R_E} &\mathrm{:}観測者の地球による重力ポテンシャル\\
\phi_2 = -G\frac{M_E}{R_E + H} &\mathrm{:}人工衛星の地球による重力ポテンシャル
}
とします.よって,地上での時間幅に対する人工衛星の時間幅のズレは,
\frac{\Delta t_2 - \Delta t_1}{\Delta t_1} = \frac{\phi_2 - \phi_1}{c^2} = \frac{GM_E}{c^2} \left( \frac{-1}{R_E + H} - \frac{-1}{R_E} \right) ≒ 5.25 \times 10^{-10}
となります.
考察と実用上の対処
以上で見てきたように,一般相対性理論による効果の方が,特殊相対性理論による効果よりも大きいですので,観測者に比べて人工衛星の時計は若干進んでいくことが見て取れます.
人工衛星の原子時計と観測者の時計の時間差によって位置決定を行うGPSにとって,これは致命的な誤差を生んでしまいます.そのため,4機目の人工衛星によってこのズレを補正しています.したがって,GPSには最低でも4機の人工衛星の電波受信が必要となります.
さいごに・次回予告
今回は,相対性理論がGPSに及ぼす影響について,ざっくり見て頂きました.日常生活からは遠い分野と思われがちな相対性理論ですが,実は,GPSという,非常に身近なシステムにおいても深く影響しているということが見て取れました.
次週(12/20)は,何を書くか未定ということにしておきます(またギリギリになってテーマを変える可能性があるので).ただ,宇宙工学に関するテーマとしたいと思います.
(注)記事の内容は私個人の見解であり,所属する学科組織またはサークルを代表するものではありません.
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