概要
この記事では,社会人になり面白く論文を読めるようになったので,
そのきっかけや面白く論文を読むコツ「目的を持って論文を読む」を紹介する.
背景は自分語りがメインになるので,
目的を持って読むコツのみ知りたい方は飛ばしていただいた方が良いと思います.
背景
論文を読む大切さ
理系大学生の4年生(早いと2年・3年)の段階で,研究室に入り,卒業するために研究を通して勉強を行い,卒業論文を書く.その際に「技術論文を読む」という作業が必ず入る.
学士の卒業論文を書く前の自分はその論文を読むという行為が,なぜ必要なのかをあまり分かっていなかった.
大学院1年も半分くらい経ったころ,ようやく「論文を読む」という事の重大さを理解した.
B4-M2の3年では研究は短く他の論文を読んでいなければ,他者の屍と同じ失敗をたどることになる.
それだけではなく,自分の研究に対する意味づけや,研究分野における自分の研究の立ち位置も知ることはできない.
そこから,「目的を持って論文を読む」ようになった.
漠然とした課題を抱えているのなら,他の人が考える研究背景を読んで取り組み方を確認する.
人の行動を映像で分析するのであれば,その撮影方法や会話の制約を確認する.
ある機械学習のモデルが気になるのであれば,利点と欠点を整理して自分の研究で利用できそうか確認する.
そうすると,論文が頭に入りやすくなり,自分の研究が整理されることを感じた.
面白く技術論文を読むきっかけ
社会人になって,ようやく本を読めるようになった.というより「自分が読める本の選び方」が分かった.
随筆・エッセイと呼ばれるジャンルが自分にとって読める本だとイベント(コミケの評論ブースや,文学フリマなど)に行って知ることができた.
随筆・エッセイのいいところは,「その人が見た景色・心情を,その人が持つ特性・価値観によって表現されている」という所にあると思っている.
ふと考えると,技術論文にも同じようなことが言えると思う.
作者にはそれぞれの研究分野があり,ある問題に対して分析を行いその結果を報告する行為は随筆に似ている.
そこから,研究背景を「作者の立ち位置・問題意識」と捉え,研究報告を「問題意識に対する作者のアプローチ」と捉えると,読めるようになった.
論文ってどこで読むの?
最も手っ取り早いのは,GoogleScholarである.
Google検索同様,読みたい論文を検索するだけ.
ただし有料なものが多いのでその場合は,以下のどれかになる.
- 図書館に問い合わせる
- 著者に直接問い合わせる
- お金を払う
実際に使ってみる
イワトビペンギンが好きなので,「rockhopper penguin」と調べてみる.
こんな感じで自分の興味のある単語を入れれば何かしら出てくる.
画面の構成としてはこんな感じ.
気になった論文はマイライブラリに入れて読むようにする.
著名ジャンルだが被引用数が少ない場合は,書かれている情報に気をつけて読むようにする.
マイライブラリはタグをつけることができて,
自分は,「導入・問題意識が面白い」「アプローチが面白い」「本業」のタグをつけている.
論文を読むための便利なツール : shaper
論文はpdf形式になっていることが多い.
OneNoteなどのノートアプリに添付したり,翻訳アプリなどに入力する際に
本文からコピーして貼り付けをするのだが,変な空行が入ってしまう.
そこで,shaperの出番.
無駄な空行を削除してくれる.
また外国語論文の場合だと,そのままDeepLに入力して翻訳する機能があるので
日本語訳を作る時間を短縮できる.
興味を持って論文を読むコツ:目的を持つ
論文が読める場所を知ったところで,次はその論文を興味を持って読むコツ:「目的を持つ」を紹介する.
最も分かりやすい目的は「全体像を知る・問題意識を知る・モチベーションを知る・他のアプローチを知る」4つなのではないかと思う.
山登りに例えると以下になる.
全体像を知りたければ,今回の登山での「要点」を確認する.
問題意識が知りたければ,登山の「難所」を確認する.
モチベーションが知りたければ,ゴールすることを「嬉しさ」を確認する.
他のアプローチが知りたければ,他の人がたどった「道」を確認する.
こんな感じで,読む目的があると良い.
上記の読む目的であれば,3か所に目を通すだけで達成する.
それは,概要(abstract)と研究背景(Introdiction)と引用文献(References)である.
自分が初めて論文を読む人におすすめしている論文である,
「Frictional Coefficient under Banana Skin」を通して確認する.
概要:全体像を知る
概要(abstract)はタイトルの下に記述されている.
ここに,研究のゴール・アプローチ・ゴールに達成した嬉しさが記されている.
「バナナの皮と床材の摩擦係数を測定したこと」
「バナナの皮を実際に靴で踏んで測定したこと」
「顕微鏡からバナナの皮が潤滑効果を生み出す仕組みがわかったこと」
があり,大体の概要をつかむことができる.
研究背景:著者の問題意識・モチベーションを知る
研究背景(Introduction)は,研究のモチベーション・問題意識が記されている.
「バナナの皮はよく滑るとされているが,誰もどれくらい滑るのかは調べていない」
「答えが出ていない分,学術的興味がある」
「どれくらい滑るのかを示す摩擦係数を測定するのは難しく,特定条件下を定義して測定する必要がある」
この論文の面白いところは,「当たり前を疑って,学術的興味で科学的アプローチした」ことにあると思う.
引用文献:背景知識・他のアプローチを知る
引用文献(References)には,研究におけるバックボーンとなる知識や他のアプローチが記されている.
[2]で引用されている「The Friction and Lubrication of Solids」はトライポロジーと呼ばれる学問における基礎となる著書である.トライポロジーは2つの物体表面の間に起きる,摩擦や潤滑などを対象とした学問で,摩擦係数を計測するにあたって必要な著書の1つありそうなことが分かる.
[3],[4]も同様にトライポロジーの分野の著書である.
[4]では歩行中に滑らない物理の条件式を引用されていることから,歩行中の滑らない条件(安全状態)を調べた研究がありそうなことが分かる.
まとめ
論文を読むためには「目的を持って読むこと」が大事だと思う.
もし「この論文読んどいて」と言われたら,自分が知らないといけないことを整理して
そこから目的を作って読むようにすると,論文に対して面白く感じるきっかけができるのではないかと思う.
今のところ仕事では,論文を読む機会が少ないが,
読む必要が出てきたらこの記事を読み返して,今一度目的を持って読むことを思い出そうと思う.