はじめに
先日、幕張メッセで開催されたAWS Summit 2025に参加してきました。今回は特に印象に残った岩崎電気株式会社様による「生成AIが実現する防災減災DX カメラ映像を用いた道路状況の無人監視について」というセッションの内容を紹介します。
AWS Summitとは
AWS Summitは、Amazonのクラウドサービス「Amazon Web Services (AWS)」に関する最新情報や活用事例を紹介する日本最大規模のクラウドカンファレンスです。技術セッション、ハンズオンワークショップ、デモ展示などを通じて、AWSの最新サービスや顧客事例について学ぶことができます。
セッション概要
本セッション「生成AIが実現する防災減災DX カメラ映像を用いた道路状況の無人監視について」では、岩崎電気株式会社の大脇様が、同社の照明技術と生成AI技術を組み合わせた新たな防災減災ソリューションについて発表しました。
道路照明国内シェアNo.1の同社は、「第二創業」として照明器具にカメラを一体化させた製品を開発。この技術を基盤に、Amazon Bedrockの生成AI技術を活用した道路冠水の自動検知システムの実装と実証実験の成果が共有されました。特に、従来の検知システムが抱えていた課題をどのように克服したか、また生成AIの特性をどのように活かして効率的な監視システムを構築したかについて、具体的な事例とともに解説されました。
従来の冠水検知システムの課題
従来のシステムでは、以下のような課題がありました:
- センサーのみの場合:冠水を検知できるが現場の状況が分からず、管理者が危険を伴って確認に行く必要がある
- カメラのみの場合:現場の状況は見えるが、冠水発生の通知機能がないため常時監視が必要
- 両方設置する場合:機器・工事費用が2倍になるコスト問題
- 従来型AI活用:場所ごとのパターン学習が必要で学習コストが高い
これらの課題により、効率的かつ安全な冠水監視システムの実現が難しい状況でした。特に地方自治体など予算や人員に制約がある組織にとって、持続可能なシステム構築は大きな課題となっていました。
生成AIによる解決策
登壇者の大脇様は、前年のAWS Summitでの事例ブースでAmazon Bedrockとの出会いがきっかけとなり、生成AIを活用した冠水検知システムの開発に着手したと話されていました。プロンプトと画像を生成AIに与えることで、カメラ映像から冠水状況を判別し、冠水発生時には管理者にアラートを送信する仕組みを構築しました。
AWS提供のジェネレーティブAIユースケースJP GUI(JU)による検証では、Claude 3.5 Sonnetを活用し、晴天昼間・晴天夜間・雨天昼間・雨天夜間のいずれの条件でも正確に冠水を検知することを確認できたそうです。従来のAIのような大量の学習データを必要とせず、生成AIの持つ高度な画像認識能力を活用することで、様々な条件下での冠水検知を実現しました。
「クラウド型自動監視システム」の主な特長
- 管理者のPC、スマートフォンやタブレット端末などからの簡単管理
- カメラ付き照明システムの静止画や動画をリアルタイムに監視
- 過去の静止画や動画を確認可能
- 車両・歩行者の交通カウントを管理
- 生成AIを用いたカメラ画像からの自動事象検知によるシステム上でのアラート及びメール通知
- 各種センサ(冠水・水門・アナログセンサなど)の監視
「クラウド型自動監視システム」の概念図
https://www.iwasaki.co.jp/NEWS/release/2025/roadmonitor.html
生成AI導入の4つのポイント
- 革新的な検知方法:事前学習なしでカメラ映像のみから冠水検知が可能
- フレキシブルな対応:プロンプト調整で様々なユースケースに対応可能
- コスト効率の最適化:精度とコストパフォーマンスの両立
- 無限の可能性:水位予測、被害範囲のマッピング、避難経路提案など今後の発展性
これらのポイントにより、従来のAIシステムよりも導入障壁を下げながら、高い精度と柔軟性を実現しています。特に、プロンプトエンジニアリングだけで様々な状況検知に対応できる点は、システム管理者にとって大きなメリットとなります。
今後の展望
岩崎電気株式会社様では生成AIを活用した冠水検知システムの高度化を進め、以下の実現を目指しています:
- 冠水発生前の事前予測
- 現場対応案の自動提示
- センサー同等の検知精度
- 積雪や交通事故など様々な道路状況監視への応用
- カメラ付き照明と生成AIの組み合わせによる安全・安心な社会の実現
- 住民への情報提供による地域全体の安全確保
同社は「物売りプラス事売り」として製品に価値を付加するサービスを組み合わせ、社会課題の解決に取り組んでいます。今後は冠水だけでなく、様々な社会インフラの監視や安全確保に技術を応用していく計画です。
まとめ
今回のAWS Summitで、岩崎電気株式会社様の事例は生成AIの実用的な活用方法を示す良い例でした。特に印象的だったのは、従来型AIでは必要だった大量の学習データを必要とせず、Claude 3.5 Sonnetを活用したプロンプトエンジニアリングだけで、さまざまな条件下での冠水検知を実現した点です。
照明器具とカメラの一体化という既存インフラを活用しながら、生成AIで高機能な監視システムを構築するアプローチは、特に予算や人員に制約のある地方自治体にとって現実的な解決策となるでしょう。単なる技術的な革新だけでなく、実際の防災・減災という社会課題に直結する取り組みであることに大きな価値を感じました。
AWSのクラウドサービスと生成AIを組み合わせることで、これまで難しかった課題が解決可能になっていくことを実感できる貴重なセッションでした。
この記事はAWS Summit 2025のセッション内容の一部を要約したものです。
岩崎電気株式会社様のセッションURL
クラウド型監視システム概要
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