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目次

背景

学習指導要領の改訂(H30年告知)を受けて新教科「理数科」が2022年度から高校に新設されました1。理数科はいわゆる課題研究を実践する選択科目であり、研究テーマは自然科学に留まらず社会学、人文学、芸術・スポーツまで含みます。2

この記事では筆者の経験をもとに、高校での課題研究と大学(学部生)での研究活動を比較し、主に高校生・大学学部生へ向けた高校と大学における論文の位置付けの違い研究においてもっと早く知りたかったことの共有を目的としています。

あくまで私の経験からこの記事を書いています。できるだけ一般的なことを書こうと思いますが、教育・学問は分野によって性格が異なり、また常に変わり続けています。自分自身で経験しながら知識を修正することをお勧めします。

筆者の経歴

高校

高校は某スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定の公立高校に通っていました。理数科は経験していませんが、その実験的な科目であった課題研究科目を高校2年生の時に履修しました。専門分野は力学系理論物理学で、高校生向けの学会発表の経験があります。その他に部活で研究を1つ持ってましたが、発表は小さな研究報告会に出した程度です。

大学

大学は理系に進学しました。大学では4年次から今まで研究活動をしています(執筆時1年弱)。専門分野はバイオインフォマティクスです。まだ結果は出ていませんが筆頭著者で学術ジャーナルに論文を投稿しました。また学会での発表を控えています。

高校と大学の違いまとめ

  • 論文はどこへ向けて提出する?
    • 【高校】学校内の教員へ向けて
    • 【大学】学外の全ての人へ向けて(卒論は学内に収まることも多々ある)
  • 指導してくれる人は?
    • 【高校】多くは理科教員。学部卒が大半を占め3、研究指導経験者はごく稀。
    • 【大学】教授または准教授。その分野のスペシャリスト。指導経験豊富。神。
  • 論文に求められる最低限のクオリティーは?
    • 【高校】一見まともな文書になっている
    • 【大学】科学的な手法に基づいた報告書になっている
      • ただし、学部/修士/博士でノルマは全く異なります。また学校や分野によっても違いますので、先輩の論文を見たり、指導教諭に聞いてみましょう
  • 論文はどのくらい書けばいい?
    • 【高校】10枚前後が多い?私は和文6,000字くらいだった
    • 【大学】15枚以上は必要。人によっては50枚以上も。私は英文5,800単語くらいだった
      • 多ければ良いという訳ではない。最低限の量で正確に伝えられる方が偉い
  • 論文の言語は?
    • 【高校】日本語。英語で書く必要がある人は超エリート
    • 【大学】英語/日本語が半々。ただし研究の過程で必ず英語は必要になる
  • 論文の作成方法は?
    • 【高校】MS Wordが主。形式は自由で、テンプレートがある学校は少ない。
    • 【大学】MS Word/TEXが乱立。形式は自由なのが多いが、(論文投稿など)きちんとした形式があると地獄を見る。
  • 参考文献はどのくらい?
    • 【高校】10を超すのは稀。中央値が5くらいな気がするが、もっと引用すべき
    • 【大学】10以上は必要(分野によっては20)。医療系では7/ページぐらい?
  • どのくらいの成果を出せばいい?
    • 【高校】なくてもOK。失敗しても、それをきちんと報告すれば成果
    • 【大学】成果まで持っていく。事実・結果から研究の意義を説明する必要がある
  • 発表の機会は?
    • 【高校】理数科(それに相当する科目)があるなら校内で1度はある。高校生向けの学会も多くあるので、1度でも学外で発表する人は研究してる生徒のうち半数ぐらい?
    • 【大学】学内で必ずある。学部のうちは学外発表は少ないが、修士以上は必須。
  • 研究に割けられる時間はどのくらい?
    • 【高校】器用な人なら週2時間の1年で十分。中央値は週3時間を1年+追い込み?
    • 【大学】理論系は週10時間前後が多い。実験系ならその倍は必要。ただし分野によりかなり差がある。
  • 著者の責任は?
    • 【高校】無い場合が多い。仮に間違っていても、やり切ったことを社会は評価する
    • 【大学】研究者としての責任を負う。
  • 研究はやらなければならない?
    • 【高校】必修科目ではない。やらない人の方が圧倒的に多い
    • 【大学】日本では卒業研究が必修。程度の差はあれ研究しなければ卒業できない
  • 研究すると何がお得?
    • 【高校】AOや推薦といった入試のアピールになる。研究活動は学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」1の結晶。政府が生徒に求める能力である。
    • 【大学】就活・院進学・奨学金のアピールポイントに。近年、より一層の課題解決能力が求められている。

論文を書く上で早く知りたかったこと

高校生のとき

  • もっと先行研究を調べよう
    • 「1ヶ月あればいいっしょ!」と思っていたが3ヶ月は費やすべき
    • 実験を始めた後でも常に周辺分野の論文は読み続けよう
    • 初めから英語で検索しよう(Google Scholarがおすすめ)
    • 先行研究は論文のお手本。論文を読めば書く力も自然と身につく
  • 勉強と研究は別物であることに気が付こう
    • インプットに対して研究はアウトプット
    • 勉強ができても研究ができないことは多々ある
  • 実験しながら論文を書こう
    • 研究結果が出てから書こうとすると研究意義を見失う
    • 論文の草稿を実験ノートとして扱うとよい(ただし書き換えたりせず複数作る)
    • 論文を書く中で自分のすべきことが思い浮かぶことが多い
  • 仲間と話し合う環境を保とう
    • 特に高校では異分野が集まるので、専門的な研究は独りよがりになりがち
    • 関係なしことでもいいので研究中に話し合える環境を作ろう
  • 他人が読む前提で文章を書こう
    • 論文は研究のメモではない
    • いつ/誰が/どのようにして読んでも同じ結論に至るように書こう
  • 論文を他人に見せよう
    • 気が付くと自分にしか伝わらない文章になる
    • 月に1度は見てもらうようにして、完成途中でも読んでもらおう
  • 論文の書き方・デザインの本を1冊ずつ読破しよう
    • 高校生が自己流で論文を書いても碌なものができない
    • 理科課題研究ガイドブック(小泉治彦)は高校生向けに書かれており大変参考になった
    • 資料デザインの本を読めば、読者が何を見るかが意識して論文を書ける
  • 学会で先輩に歯向かうのはやめよう
    • 質問に対して反論するのではなく、課題解決するように話題を持っていこう
    • 「どうしたら良いか一緒に考えましょう」と言って、味方になってもらう
    • 筆者は学会で教授と口論になって完膚なきまでに論破された経験あり
  • 気楽に論文を書こう
    • できないことは当たり前。書ききることを最優先に頑張ろう
    • 友人や恋人と青春を謳歌するのも重要

大学生(学部)の時

  • 先行研究を徹底的に読もう
    • 先行研究を読んだ本数が論文の出来を左右すると言っても過言ではない
    • 先行研究の参考文献まで目を通して、周辺知識を蓄えよう
    • MS Exelなどに文献をまとめて、論文を手元に置いておこう
    • 先行研究の検索の仕方もテクニック。教授の検索方法を真似しよう
  • 既にあるものを使おう
    • これやりたいな……と思ったら英語で検索してみよう。だいたいツールがある
    • 論文のテンプレートには、論文に最低限に必要なエッセンスが書いてある
    • 例えば生物学ではBioRenderなど、専門的な図を作成するソフトがある
  • 作法は徹底的に覚えよう
    • 生物名は斜体にするといった細かいルールは論文を読みながら覚えよう
    • 特に参考文献の引用は想像してるより難しい。BiBTEXは神
  • 間違うことを恐れないようにしよう
    • 文章は一度その周囲まで書いてから直す方が効率が良い
    • 指導教諭に真っ赤に添削されても落ち込まない。それが普通
  • 迷ったら聞こう
    • 絶対的な自身が無い限り、指導教諭や先輩に科学的に問題はないか確認してもらおう
    • 要点をまとめ、定例会で聞くと良い
  • AIツールは積極的に使おう
    • ChatGPTなど生成AIを使って作業効率を高めよう
    • ただし、AIが作ったコンテンツは必ず自分の判断で精査する
    • AIは嘘をつく可能性があると肝に銘じる
  • ジャーナルに提出するときはガイドラインを徹底的に読もう
    • ジャーナル用に書き直す前にガイドラインを読まないと二度手間になる
    • チェックリストがあったりするので、一度探してみよう
    • それでも忘れるので、章ごとにガイドラインを見直そう
  • 事務作業が多いことを覚悟しよう
    • 申請書類作成や外部機関との連絡など事務作業で研究が後回しになることも
  • 研究をする時間を制限しよう
    • 絶対的に研究活動をしない時間を確保しよう
    • 研究を見直すのは日を跨いで脳をリセットさせてから

高校での研究活動の意味とは?

私自身、高校で論文を書いたことは良かったと思います。
卒論を書くときにしてしまったミス・教訓を先取りできました。例えば大学の実験レポートで訂正される回数は同級生と比べ格段に少なかったです。理系文系に関わらず、きちんとした文書を作成する能力が必要ですから、それを高校で学べるというのは良いことでしょう。

また、課題解決能力が身についたと言っても、思考力が上がるといった地頭が良くなる実感はありませんでした。むしろ実感した成長点は、問題に直面した時に必要な学びを身につける。いわゆる主体的な学びです。

研究に勤しんでいる高校生は様々な困難に直面しているでしょう。ですが、その苦労は必ず自分を成長させる糧となります。研究に一区切りついたとき、仮に論文が自分の思うような形でなくても、自らを褒め称えましょう。

また大学入試でも研究活動をより評価する時代になっています。課題研究の成果を受けて推薦・AO入試を認める大学が増えています。研究でどうしても入試科目の勉強に支障が出てしまいますが、そのリスクは私の時代より少ないでしょう。

大学(学部)での研究を経験して

この記事を執筆中に、久しぶりに高校時代の論文を見返したのですが、ハッキリ言って酷い出来でした。ただ、自分の論文が酷いと思えるほど大学で成長できた訳です。高校で論文を書いたことが無い友人も、高校生の私より遥かに良い論文を書いています。大学で研究活動を頑張ればアドバンテージなんて簡単に覆ります。大学で自由な時間があるうちに、自分の能力を磨き上げましょう。

  1. 文部科学省, 高等学校学習指導要領(平成30年告示), (2018), https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_03.pdf 2

  2. 文部科学省, 【理数編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説, (2018), https://www.mext.go.jp/content/1407073_12_1_1_2.pdf

  3. 文部科学省, 令和4年度学校教員統計(中間報告)の公表, (2022), https://www.mext.go.jp/content/20230724-mxt_chousa01-000030586_1.pdf

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