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US、ヨーロッパ、中国の3者によるAIレースの現状と今後の行方

Last updated at Posted at 2019-09-23

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US、ヨーロッパ、中国の3者によるAIレースの行方

最近、US、EU(ヨーロピアン・ユニオン)、中国のAI分野に関する強さを以下の6つのカテゴリーから分析しているレポート「Who Is Winning the AI Race: China, the EU or the United States?(リンク)」が、Center for Data Innovationという研究機関から出ていました。

  • 人材
  • 研究
  • 開発
  • 導入
  • データ
  • ハードウェア

結論から言ってしまうと、現在のところ全体的に見るとやはりUSが圧倒的にトップで、その次に中国、そしてその後にEUとのことです。

しかし、中国の成長は著しいので近いうちにUSに追いつくかもしれない。逆にEUはどんどんと距離を離されていくだろうとのことです。

まあ、このへんはこの業界では常識といえるし、以前にヨーロッパがいかにだめかというのは、それに関する記事を紹介しているので読者の方はすでにご存知かもしれません。

  • ヨーロッパはAI時代の競争においてなぜ絶望的なのか - リンク

しかし、上に挙げたそれぞれのAIに関する分野の分析にはおもしろいものもいくつかあったので、そちらの方を取り上げて紹介したいと思います。

以下、一部抜粋の訳。


それぞれの国・地域のAIに関するスコアとそれぞれの特徴。

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蓋を開けてみると、中国の国を挙げた大胆なAIイニシアチブにも関わらず、USが現在もAIの競争優位ではトップです。中国が2番目で、そのはるか後方にEUが位置しています。

USの特徴

USがAIに強いのにはいくつかの理由がある。

1つ目はAIのスタートアップが最も多く、AIスタートアップのエコシステムは、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティからの潤沢な資金に支えられている。

2つ目は、これまでの一般的に使われてきたコンピューターチップと、さらにAIに特化したコンピューターチップにおける開発でトップである。

3つ目は、EUや中国と比べてAIに関する論文の数は少ないにも関わらず、平均的にはクオリティの高い論文が作られている。

最後に、AIの人材の数という点ではEUよりも少ないにも関わらず、そうした人材はUSの方がより優れている。

中国の特徴

中国は、USやEUに比べてより多くのデータへのアクセスがある。このことは、「データの量が増えれば増えるほどAIがより正確に予測できる」ということを考えると、とても重要なことである。

ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティの投資等という点で中国のAIスタートアップは2017年にはUSのスタートアップよりも多くの投資のお金を受けていた。2016年、2018年はUSの方が多い。

EUの特徴

EUは、USや中国に比べてより多くのAIの研究者がいて、最も多くのAIの研究論文を発表してもいる。しかし、AIに関する人材の数のわりにはAIの導入とAIの投資は他の地域に比べて大したことない。

例えば、USや中国のスタートアップは、EUのスタートアップに比べてもっと多くの投資をベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティから受けている。

EUのAIに関する遅れはAIによる経済的、社会的利益を享受する機会の減少になっているだけでなく、欧州委員会がゴールとしているグローバルなAIに関するガバナンス(統治)に関するEUの影響力の減少にもなっている。

AIの人材

EUはAIの人材スコアに関してはトップのUSに次ぐ2番手である。しかしこのままではこの先どんどんと差をつけられていくことになるだろう。

というのも、USに比べてビジネス業界のAI人材が少なく、さらにそのUSはヨーロッパを含む世界中から優れたAI関連の人材を惹きつけているからだ。

また、中国はAIの人材を増やすためのしっかりとした計画を現在実行中である。

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AIの開発

AIスタートアップとは、提供する主要な製品やサービス(ハードウェアをのぞく)がAIを使っている企業である。Roland Berger(グローバル・コンサルティング)とAsgard(ベルリンの投資会社)によると、AIスタートアップの数は2017年にUSでは1393、EUでは726、中国では383となっている。

スタートアップだけでなく、100万ドル以上の資金のある企業すべてを対象にすると、USでは1727、EUが762、中国が224のAIのカテゴリーに属する企業がある。(CrunchBaseのデータをもとにしている)

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AIスタートアップの買収

買収したAI企業の数が多いのもUSの企業である。Googleの親会社であるAlphabetは19、Appleは16、Microsoftは10、Amazonは7,そしてFacebookは7つものAIスタートアップを2000年以降現在までに買収している。

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AIの導入

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USのビジネスはAIの重要さを従業員に伝えるということに関しては遅れている。逆に中国の企業はUSの企業に比べてAIの重要さを従業員によりうまく伝えているようだ。

例えば、USでは43%の社員しかAIと組織のデジタル化が彼らの会社にとって戦略的に重要だということを理解していないのに対して、中国では85%もの社員が理解している。

さらに中国ではAIツールの導入計画がないと思っている社員は22%しかいないのに対して、USでは54%にも上る。

EUの従業員は、USや中国の従業員に比べて一般的にAIに対してより否定的な感情を持っている。

例えば、イギリスは53%、ドイツは61%、フランスは65%、スペインは53%が彼らの仕事に対してAIが及ぼす影響について悲観的に思っている。この比率は、USでは51%、そして中国ではわずか24%である。

EUの人たちがAIに熱心でない理由の一つは過去にAIによるポジティブな経験を享受できていないからかもしれない。USでは77%、中国では91%の従業員が過去にAIツールが彼らの生産性にポジティブに貢献したと回答しているのに対して、その比率はフランスでは62%、ドイツでは65%、スペインでは72%、イギリスでは74%と比較的低い。

AIの重要さは中国の文化の中に広く浸透している。中国政府が2017年に発表した「New Generation of Artificial Intelligence Development Plan」に続く形で、中国のパプリックセクター(政府、公共の分野)では中国の市長や地方政府がAIスタートアップへの投資とAIの導入に力を入れている。

AIを積極的にサポートすることで中国政府はAI企業への資金を提供するだけでなく、AIのメリットを示すことのできる事例もたくさん提示している。このことが企業がAIを積極的に導入する刺激となっている。

さらに、中国には西側諸国と比べて、テクノロジーを実利主義的にとらえ、たとえAIに関する倫理的な問題があったとしても、全体として社会にとって利益をもたらすのであればAIを積極的に採用していこうとする文化がある。

データ

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中国のインターネット企業は西側諸国のインターネット企業に比べてデータに関して優位であるが、それには2つの理由が考えられる。

1つ目は、西側のサービスは複数の企業にまたがって分割されている。例えば、Amazonのユーザーは食品を買うことはできてもホテルの予約はできない。

それに比べて中国のテック企業はUSのテック企業に比べてより総合的で、すべてのことができるアプリを提供していることが多い。

例えば、テンセントのウィチャットというアプリは、タクシーを呼んで、食事のデリバリーを頼んで、ホテルを予約して、電話代の支払いをして、USまでの飛行機のチケットを買うといった、全てのことができるのだ。

USであれば、こうした事をしようとするといくつもの別々のアプリを使う必要がある。

2つ目は、中国のテック企業はこれまではオフラインであった活動もうまく取り込んでしまっている。例えば、Didiという配車サービスはガソリンスタンドと自動車の修理場を買収した。他にも、Meituan DianpingというUSのYelpに似たサービスを提供するサービスは、ビジネスのレビューや比較をするためのプラットフォームを提供するだけでなく、フード・デリバリーのサービスも提供している。

こうして、中国のテック企業はアメリカの企業に比べてより多くのタイプのデータにアクセスすることができるようになっている。

中国はデータの潜在価値を享受できていない

中国の企業は、より多くのデータにアクセスできていることは確かだが、その割にはそのデータの持つ真の価値を享受できていないというのも事実だ。

USの企業は保険、金融といった産業で長年に渡って構造化されたデータを収集してきた。しかし中国の企業はエンタープライズのデータの蓄積という点で遅れている。このことがデータからインサイトを得ることを難しくしている。

中国は、企業がプラットフォーム間でデータを共有するための標準フォーマットを作る努力をしてこなかった。政府はデータ収集に関する基本的な標準さえ無視してきたので大量のデータがあっても、それがコンピューターによって読み取れるものではないということが多く、そのせいでデータ分析には使えないものとなっていることがよくある。

中国では、USやEUに比べて政府系のデータに企業がアクセスしにくい。2015年にはオープンデータが国家プロジェクトの一つとして挙げられているにも関わらずだ。

中国のインターネットのエコシステムは現在も閉じられたものであるため、他の国に出ていくデータも入ってくるデータも限られている。このことでUSやEUの国々が国境を超えてデータを共有することで受けている恩恵を中国の企業は享受できないでいる。

このことによって、中国の企業が収集しているデータには多様性がないことにもなっている。

中国の企業はUSに比べてグローバルでない。例えば、USのGoogle、Facebookといったグローバルに展開している巨大テック企業はより大きなデータのプールにアクセスできる。Facebookは20億人のユーザがいるのに対して、WeChatはその半分の11億人のユーザーである。

AIの研究

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ハードウェア

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あとがき

こういうAIやデータの競争優位に関するグローバルでの比較に日本が出てこなくなって久しくなりますが、一昔前の最先端テクノロジーといえば日本という時代を知っている私のような「古い」世代の人間からするとやはり寂しいものがあります。

ただ、このレポートを読んでて思うのは、もし日本がこのレポートに取り上げられていたら、おそらくはEUのようなポジションだったのではないかということです。

そういう意味でも、AIに関する人材の数、研究所の数、論文の数、特許の数といったスコアでは秀でているEUが全体的な競争力、影響力という点ではUS、中国の後塵を拝しているどころか、その差はこの先もどんどんと広がっていくという点は、日本にとって考えておくべきことではないでしょうか。

このレポートにも指摘がありましたが、USの場合はAIに関連する研究者や論文の数がEUに比べて少なくても、その質はEUよりも高いとありました。こういう「質」というのは、数字にしにくいので見えにくいですが、国やビジネスの競争優位には大きく貢献します。

数の問題は、トップダウンで政府が予算を割り当てることで解決できることもあります。しかし、質の問題となってくると、いかにAIによって解決しようとする問題をしっかりと発見、定義できているかが重要になってくるのではないでしょうか。

そして、そういった問題を発見、定義するのが得意なのは、顧客の問題を毎日観察している企業であり、その中でも特に、問題の発見力と解決力の優劣による自然淘汰のメカニズムが機能している市場で生き残っていくスタートアップこそが重要な役割を果たすのだと思います。

この点で、USと中国が他の地域、国に対して持つ競争優位はこれからも変わらないどころか、さらに開いていくのではないかと思います。

ただ、中国に関しては、その市場はグローバル企業に対して真に開かれたものとなっていないですし、今後もそれがさらに開かれたものとなっていくことはないでしょう。そういう意味では競争のメカニズムが本当に機能しているのかどうかは疑問です。

さらに、USの競争優位というのも蓋を開けると、結局はほぼシリコンバレー(プラス、シアトルの数社)による競争優位に過ぎないというのも現実です。そしてこの競争優位は現在、中から挑戦を受けつつあります。

現在、USではテック企業に対する風向きが変わり、様々な規制を作ろうという動きが強くなってきていますし、さらにはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)といった巨大テック企業を解体しようという話も出てきています。こうしたことがUSのテック企業の勢いを殺すことになるというのは大いに有り得るシナリオだと思います。

追いつけ、追い越せ、というときは様々なことに目をつぶってでも成長を優先させるという勢いがあります。90年代のように、「テクノロジーといえば日本」という時代にはUSではテック企業が今ほど注目を集めることはありませんでした。

それから20年、30年の時が経ち、現在「テクノロジーといえばUS」という時代となりましたが、そのせいで注目を必要以上に集めすぎてしまった結果、周りからの目が必要以上に厳しくなってきているというのも確かです。

ひょっとするとまだ見えていない転換点が差し迫っているのかもしれません。

そういう意味では日本は、現在のようなAIやテックに関する現状に諦めるのではなく、「逆に追いつけ、追い越せ」という態度で望むことができる点、幸運なのではないかと思います。

一時日本では「失われた10年」とか「失われた20年」などといった言葉がありましたが、ここまでくると、さすがにもう「失うものはない」というのが現状ではないでしょうか。

であれば、政府などのトップダウンも重要でありますが、それ以上にスタートアップなどによる「下からの突き上げ」こそが日本の社会の変革、経済の飛躍に欠かせないのではないかと思います。

そういう意味でも日本にはAI、そしてデータサイエンスを民主化するチャンスと意義があるのではないかという思いをさらに強くしています。😁


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