これを読まれてる人たちの多くはSpotifyやApple Music(またはYoutube)のようなストリーミング・サービスを使って最新の音楽を発見したり聴いたりしていると思います。
そのことは最近ではあまりにも当たり前なので、すっかり忘れてたのですが、ちょっと前までは(といっても10年前ほどですが)ラジオのDJがどういう曲が流行るのかというトレンドを作っていたりしたものでした。(少なくともUSでは。)
ところが今のようなストリーミング・サービスで音楽を聴くのが当たり前になっている時代には、その役割はすっかりと変わってしまったようです。
今回は、ラジオは今となっては公共放送(日本だとNHKみたいなもの)のようなものになっているということをうまく可視化してまとめている記事が出ていたので、要約して紹介します。
Measuring Radio's Lag Behind Streaming Services - Link
長い間音楽の世界では、新しいアーティストや曲をヒットさせたければ、ラジオで曲をかけてもらわなければいけませんでした。ラジオのDJはどのアーティストや、どの曲がヒットするのかを決める力を持っていて、そうしたアーティストのキャリアの運命を握っているとも言えるほど強大な力を持っていたのです。
そこで、アーティストは地方のラジオ曲と提携し、そこでの成功をもとに全国的なスターへと駆け上がっていくというのが一昔前までは一般的でした。
しかし現在ではSpotifyやApple Musicといった音楽のプラットフォームが業界の力関係を大きく変えつつあります。そのおかげで、今は無名のアーティストでもラジオを無視して、グローバルという規模で大きなファンの層をいきなり作ることができるようになりました。
SpotifyやAppleでプレイ・リストを作る人たち(とアルゴリズム)が、それまで音楽業界で大きな力を持っていた人たちから力を奪うことになったのです。
ヒット曲はまず先にSpotifyなどで上位に入ります。そしてその後しばらくたってから、ラジオ局でも上位に入っていくことになります。
トップ10になるヒット曲の平均的な動き
Spotifyでトップ10位に入る曲というのは、その曲がリリースされてから平均して2週間以内に入ってきます。それに対して、ラジオ局ではリリースされてから11週間、つまり約3ヶ月ほどたって、ようやくトップ10に入ってきます。
しかし、ラジオは一度トップ10に入るとそのあと26週間もトップ10の中にいつづけるのに対して、Spotifyは13週ほど経つとトップ10からは落ちていくようです。
これは直感的に想像できます。Spotifyなどのストリーミング・サービスの方がユーザーが聴いているかどうか、直接わかるのでトレンドに敏感ということでしょう。
逆にラジオの場合、実際にはすでに飽きられてしまっているのにもかかわらず、ずっとかけ続けているということがあるのでしょう。
こちらは、ラップ(ヒップホップ)系の音楽の場合ですが、トレンドはほぼ同じです。
ポップ系も同じです。
それぞれの曲がヒットするまでとその後の軌跡
いくつかの曲を見てみましょう。
“New Rules” by Dua Lipa
“New Rules”というDua Lipaの曲の場合、バイラルで広まったミュージックビデオのリリースから数週間後の2017年7月後半にはSpotifyのトップ50に入ってきています。
逆にラジオでは11月中旬まで経ってようやく、トップ50に入ってきました。4ヶ月の差があります。
"1-800-273-8255" by Logic
"1-800-273-8255"というLogicの曲の場合はリリース直後にSpotifyのトップ10に入ってきています。ラジオの場合は、5ヶ月近くも経ってから、ようやくトップ50に入ってきています。
おもしろいのは、Spotifyのチャートでは一度落ちた後に、盛り返しています。(2つ目の山。)その動きを数週間遅れで追っているのがラジオのようです。
LOVE. FEAT. ZACARI. by Kendrick Lamar
Kendrick Lamarの"LOVE. FEAT. ZACARI."という曲も似たような動きをしています。曲がリリースされるといきなりトップ5になりその後急に順位を下げていきますが、その後30週くらいたってからまた盛り返してきます。そのタイミングでようやくラジオでもトップ10めがけて伸びていきます。
Shape of You by Ed Sheeran (エド・シーラン)
すでに有名な歌手の場合は、ラジオの場合でもトップ10に入ってくるのが早いようです。例えば、エド・シーランの場合は以下のようになっています。
それでもSpotifyの方が1位になるのが速いです。そして、落ちていくのも速いです。
これは、他のすでに一般の人達の間でも有名な歌手でも同じようです。以下はブルーノ・マーズの場合です。
Finesse (Remix) by Bruno Mars feat. Cardi B
ヒップホップ聴くならSpotify、カントリーソング聴くならラジオ
2016年12月移行にリリースされた曲のうち、Spotifyでトップ50になった曲とラジオでトップ50になった曲をジャンルごとに分け、上位50に入っていた週の長さをサークルのサイズ、登り詰めた最高ランクを色で相対的に表したのが以下のチャートです。
なんと、Spotifyのトップ50になったヒップホップの曲のうち半分ほどがBillboardやラジオではトップ50にさえ入っていません。つまりこうしたアーティストの曲が流行るためにはBillboardやラジオは必要ないということです。
XXXtentacionという去年殺されてしまったヒップホップのラッパーは、2017年以降、29曲もSpotifyのトップ50に入っていますが、ラジオではそのほとんどが、かかることさえありませんでした。
逆にラジオではトップ50に入ったがSpotifyでは入らなかったという曲が多いのがカントリーソングです。カントリーソングは田舎の年齢層の高い人たちが聴くジャンルなのでそれはもっともなのかもしれません。
要約、終わり。
あとがき
Spotifyのようなたくさんの音楽のカタログを持ち、トレンドに敏感なトップクラスの音楽のキュレーターがいて、さらに視聴者やファンから直接のフィードバックを持つストリーミング・サービスはこれからも音楽のトレンドに大きな影響を与え続けると思います。
もちろん、いつの時代も最新の音楽のトレンドを追い続ける音楽に熱狂的な人たちと、なんとなく流行っているものを後追いでも構わないから聴く人たちというのはいるものです。そしてそうした後追いの人たちがマジョリティだったりするので、トレンドを作り出すことができなくなってしまったからと言っても、それがすぐにラジオの死を意味することにはならないでしょう。
ただ、アメリカではみんなラジオを通勤中の車の中で聴くという習慣がもともとあったのですが、それがSpotifyやApple Musicなどのストリーミング・サービスで音楽を聞いたり、ポッドキャストでトークショーやインタビュー的なものを聴いたりという流れに大きく変わってきたのがこの10年でした。
この流れはこれからも加速していくでしょう。
こうした音楽のストリーミングサービスやポッドキャストはユーザーの嗜好に関する直接のフィードバックを得ることができるので、そのことでサービスのクオリティがどんどんと良くなる、そのことによってユーザーはそういったサービスをさらに使い続けたくなるという好循環ができています。これにアナログなラジオが対抗するのはまず無理でしょう。
そして、ミュージシャンの方もそのことに気づいているので、どんどんとそういったサービスに関わっていこうとする、つまりまずはSpotifyやApple Music、そのあとついでにラジオにも顔を出すみたいな流れは、すでに王道になっているようです。
最後に、このサイトのチャートはインタラクティブでおもしろいので、英語がわからない場合でも、ぜひ訪れてチャートだけでも見てみることをおすすめします。
特にスクロール・ダウンしていくとそれぞれの曲のトップ50に入っていく軌跡が見れるチャートがあり、「Next」というボタンを押すことでいろんな曲の軌跡が見れます。
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