なんとなく脳トレがてら1日1問解説しようと思っただけです.飽きたらやめます.
問題
微分方程式,
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{ax+by+c}{px+qy+r} \right),
は,連立方程式,
\begin{align*}
\left\{
\begin{aligned}
& ax+by+c = 0, \\
& px+qy+r = 0,
\end{aligned}
\right.
\end{align*}
の2解 $x=\alpha, y=\beta$ を用いて,$x=X+\alpha, y=Y+\beta$ と変換することで,以下の同次形になることを示せ.ただし,$aq-bp\neq 0$ とする.
\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}=f\left( \dfrac{aX+bY}{pX+qY} \right).
ポイント
- 変換方法は与えてくれているので,素直に変形していけば自ずと証明が完了します.
- 証明の方針は次のとおりです
- 連立方程式の解を求めて,$\alpha, \beta$ を具体的に表す.
- $x=X+\alpha, y=Y+\beta$ を右辺に代入する.
- 左辺の $\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}$ を,$\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}$ で表現する.
- 出来上がった微分方程式が,同次形であることを示す.
解説
上記の方針通り進めていきます.
STEP1 連立方程式の解を求めて,α, β を具体的に表す.
まずは,
\begin{align*}
\left\{
\begin{aligned}
& ax+by+c = 0, \\
& px+qy+r = 0,
\end{aligned}
\right.
\end{align*}
を解きましょう.
いろいろな解き方がありますが,ここでは,簡単に2元連立1次方程式を解くための,クラメルの公式を用います(クラメルの公式がわからない方は,代入法や加減法を用いても同じ解が得られるのでご安心ください.以下の内容はスクロールしてしまい,この項の最終的な答えだけ確認してみてください).
クラメルの公式を使うために,連立方程式を少し変形して,
\begin{align*}
\left\{
\begin{aligned}
& ax+by = -c, \\
& px+qy = -r,
\end{aligned}
\right.
\end{align*}
を得ます.これを行列で表記すると,次のようになります.
\begin{pmatrix}
a & b \\
p & q
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
-c \\
-r
\end{pmatrix}
また,問題文より $aq-bp\neq 0$ と言われているので,クラメルの公式が適用可能です.クラメルの公式より,連立方程式の解 $x=\alpha, y=\beta$ は,
\begin{eqnarray}
x=\alpha &=&
\frac{\begin{vmatrix}
-c & b \\
-r & q
\end{vmatrix}}
{\begin{vmatrix}
a & b \\
p & q
\end{vmatrix}}
= \frac{-cq+br}{aq-bp},\\
& & \\
y=\beta &=&
\frac{\begin{vmatrix}
a & -c \\
p & -r
\end{vmatrix}}
{\begin{vmatrix}
a & b \\
p & q
\end{vmatrix}}
=\frac{-ar+cp}{aq-bp},
\end{eqnarray}
と求めることが出来ました.
行列積の求め方については,ヨビノリさんの講義などをご参照ください.
クラメルの公式については,うさぎ塾さんの解説がわかりやすいです〜
STEP2 x=X+α, y=Y+β を右辺に代入する.
STEP1で求めた $\alpha = \cdots, \beta=\cdots$ を先に代入してから変形したくなりますが,計算ミス削減のために,ギリギリまで $\alpha$ と $\beta$ は残しておきましょう.
与えられた微分方程式の右辺に,$x=X+\alpha, y=Y+\beta$ を代入して変形を行うと,次のようになります.
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{a(X+\alpha)+b(Y+\beta)+c}{p(X+\alpha)+q(Y+\beta)+r} \right),\\
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{aX+bY+a\alpha+b\beta+c}{pX+qY+p\alpha+q\beta+r} \right),\\
\end{align*}
ここまで変形して,シメとして $\alpha$ および $\beta$ に対して,STEP1 で求めた結果を代入するのが,計算ミスをへらすコツです.
ややメタ的な解説にはなりますが,結局のところ,右辺は $f\left(\dfrac{Y}{X}\right)$ の形になってくれる必要があるので,定数項部分は0になって欲しいです.そんな願望を持ちながら定数項部分の計算を行うと,次のようになります.
\begin{align*}
a\alpha+b\beta+c
&=a\times\frac{-cq+br}{aq-bp}+b\times \frac{-ar+cp}{aq-bp}+c ,\\
&=\frac{a\times(-cq+br)}{aq-bp}+\frac{b\times(-ar+cp)}{aq-bp}+\frac{c\times(aq-bp)}{aq-bp} ,\\
&=\frac{(-acq+abr)+(-abr+bcp)+(acq-bcp)}{aq-bp} ,\\
&=0.
\end{align*}
\begin{align*}
p\alpha+q\beta+r
&=p\times\frac{-cq+br}{aq-bp}+q\times \frac{-ar+cp}{aq-bp}+r ,\\
&=\frac{p\times(-cq+br)}{aq-bp}+\frac{q\times(-ar+cp)}{aq-bp}+\frac{r\times(aq-bp)}{aq-bp} ,\\
&=\frac{(-cpq+bpr)+(-aqr+cpq)+(aqr-bpr)}{aq-bp} ,\\
&=0.
\end{align*}
やりましたね!定数項は無事 0 とわかりました.したがって,与えられた微分方程式は,
\begin{align*}
\therefore \dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{aX+bY}{pX+qY} \right),\\
\end{align*}
と書き換えることが出来ます.ただし,このままでは同次形というのに不十分です.
現状得られた式では,左辺は $x$ と $y$ の関係式ですが, 右辺は $X$ と $Y$ の関係式になっています.
STEP3では,左辺も $X$ と $Y$ で表現することを考えます.
STEP3 左辺の dy/dx を dY/dX で表現する.
地味に難関ポイントです.
$x=X+\alpha, y=Y+\beta$ という関係をヒントに, $\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}$ を,$\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}$ で表現するにはどうしたら良いでしょうか.
現状わかっている情報は次の2つです.
- $x$ と $X$ の関係 $x = X+\alpha$
- $y$ と $Y$ の関係 $y = Y+\beta$
つまり,これから行いたいのは,上記2つの手札を用いて,$\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}$ を,$\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}$ で表現することです.
これを達成するためには,連鎖律を使用します.
連鎖率については,以下のサイトなどをご参照ください.
連鎖律より,$\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}$ と $\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}$ の関係は次のように書くことが出来ます.
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}Y}\times
\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}\times
\dfrac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}x}.
\end{align*}
さて,$\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}Y}$ と $\dfrac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}x}$ は 邪魔 オマケなので,具体的に求めましょう.$y=Y+\beta, X=x-\alpha$ に注意して,
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}Y}=\dfrac{\mathrm{d}(Y+\beta)}{\mathrm{d}Y} = 1,\\
\dfrac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}x}=\dfrac{\mathrm{d}(x-\alpha)}{\mathrm{d}x} = 1,\\
\end{align*}
と簡単に求まります.よって,$\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}$ と $\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}$ の関係は以下の式で記述されます.
\begin{align*}
\therefore \dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=
1\times\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}\times 1 =\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}.
\end{align*}
これで,与えられた微分方程式の左辺を,$X$ と $Y$ を用いて置き換える準備ができました.
STEP4 出来上がった微分方程式が,同次形であることを示す.
STEP2, STEP3 より,与えられた微分方程式は,
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}=f\left( \dfrac{aX+bY}{pX+qY} \right),\\
\end{align*}
と書き換えることが出来ます.右辺括弧( ) 内の分母・分子を $X$ で割ることで,
\begin{align*}
\therefore \dfrac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}X}=f\left( \dfrac{a+b\dfrac{Y}{X}}{p+q\dfrac{Y}{X}} \right),\\
\end{align*}
と変形できます.これは,紛れもなく同次形です.(証明完).
ということは,$u=\dfrac{Y}{X}$ と置換することで,最終的に変数分離形に帰着させることが出来ます.
【参考】 aq-bp =0 のとき
今回は$aq-bp\neq 0$ を仮定していたので,$aq-bp=0$については考えていませんでした.
結論から言うと,$aq-bp=0$ の場合でも,変数分離形に帰着させることが出来ます.
以下に,その証明を簡単に記述します.
$aq-bp=0$ ですから, $aq=bp$ です.ちょっとメタ的な操作ではありますが, $\dfrac{p}{a}=\dfrac{q}{b}$ と変形して,その値を適当に $m$ とおきます.つまり, $p=am$, $q=bm$ です.これをはじめの微分方程式に代入すると,
\begin{align*}
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{ax+by+c}{amx+bmy+r} \right),\\
\therefore \dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{ax+by+c}{m(ax+by)+r} \right),
\end{align*}
と変形できます.ここで,$u=ax+by$ と変数変換を行うと,右辺は
f\left( \dfrac{ax+by+c}{m(ax+by)+r} \right)= f\left( \dfrac{u+c}{mu+r} \right)
とかけます.
これに対して左辺は,$u=ax+by$ すなわち $y=-\dfrac{a}{b}x-\dfrac{1}{b}u$ に注意して,次のように変換が出来ます.
\dfrac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}x}=\dfrac{a}{b}-\dfrac{1}{b}\times\dfrac{\mathrm{d}u}{\mathrm{d}x}.
よって,与えられた微分方程式は,
\begin{align*}
\dfrac{a}{b}-\dfrac{1}{b}\times\dfrac{\mathrm{d}u}{\mathrm{d}x}=f\left( \dfrac{u+c}{mu+r} \right),
\end{align*}
と書き換えることが出来ます.最終的に,これを整理して,
\begin{align*}
a-\times\dfrac{\mathrm{d}u}{\mathrm{d}x}&=bf\left( \dfrac{u+c}{mu+r} \right),\\
-\dfrac{\mathrm{d}u}{\mathrm{d}x}&=-a+bf\left( \dfrac{u+c}{mu+r} \right),\\
\therefore \dfrac{\mathrm{d}u}{\mathrm{d}x}&=a-bf\left( \dfrac{u+c}{mu+r} \right),\\
\end{align*}
という変数分離形を得ます.
パッと見,「本当に変数分離形?」と疑いたくなりますね.この式は右辺に $x$ が登場していないことから, 「本来 $Q(u)P(x)$ と変数分離するうちの $P(x)$ が1なんだ」と思えば納得できるかもしれません.
【参考2】 さらに参考ですが・・・
【参考1】 において, 例えば $p=0$ だったらどうするんだ!というご指摘があるかもしれません.
ですが,仮に $p=0$ とするならば, $aq-bp=0$ を満たすのは $a$ または $q$ が 0 のときだけです.
$a=0$ ならば,与えられた微分方程式の右辺に $x$ の項が存在しないことになるので変数分離形が出来上がりです.
$q=0$ ならば,与えられた微分方程式の右辺が,$(ax+by+c)/r$ の関数になるので,適当に変数変換してあげることで変数分離形になります.