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消費者とブランドとの関係を考慮した階層ベイズモデルによるクロスメディア効果推定(日高・佐藤 2016)を読んで

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この論文を読んだ理由

総合系の広告代理店勤務でマーケティング関係の仕事をしている立場として、

・階層ベイズモデルおもしろそう。
・クロスメディア効果...なんだか気になる!

と思い、実務への応用も期待して選びました。

前提

①広告効果、クロスメディア効果について

広告の効果といっても様々あり、状況に応じて定義される。
売り上げやインストール数の変化など、短期的な指標をKPIとして広告効果を測定する事もあれば、
認知度や企業イメージなど、長期的な指標をKPIとして広告効果を測定する事もある。
前者はログデータから取得可能なものが多いが、後者はアンケート調査などによって測定される事が多い。

一般には、
デジタル広告は、短期的な指標に対する効果がでやすく、
TVCMや屋外広告は、長期的な指標に対する効果がでやすい、といった傾向がある。

また、クロスメディア効果とは、特定商品・企業の広告に複数の異なるメディアを通して接触した場合に、それぞれの主効果(単一のメディアから得られる効果)とは別の、メディア間のシナジー効果の事をいう。
(回帰分析でいうと、交互作用項が有意になる。)

ここでいう「異なるメディア」というのは、
「TVCMとデジタル広告」、のように、物理的に異なる接触経路を指す事もあるし、
「Twitter広告とFacebook広告」など、デジタル内での別のメディアを指しても良い。

②異質性について

消費者の異質性はマーケティング系の論文ではさかんに議論に上がるが、
簡単にいえば、消費者ごとの違いの事。

例えば、「男性と女性では広告の効果の出方に差があるはずなので、男女で別々に効果を推定しよう。」という発想である。
完全に別々で推定を行っている訳ではないが、イメージを掴むには上記で問題ない。

異質性の考慮には消費者のデモグラフィック属性が使われる事が多く、
今回紹介する論文では、「広告呈示前のブランドへの態度」という変数も使われていた。

概要

消費者異質性(広告呈示前のブランドへの態度を含む)を考慮して、複数広告素材の相乗効果(クロスメディア効果)を測定・推定するモデルを提案した。
これにより、広告の主効果は、企業に対して良いイメージを持っている消費者に対して大きく出やすいが示された。
一方で、広告のクロスメディア効果は、企業に対して良いイメージを持っている消費者に対して、正に出る場合と負に出る場合の両方が混在する結果となった。

先行研究との比較

先行研究には、
・消費者の異質性を考慮してクロスメディア効果を測定した研究がない。
・広告呈示前のブランドへの態度を考慮した研究がない。
・購入意図や購買行動指標に着目した研究が少ない。
といった課題があった。

上記の課題に対して、
消費者の異質性に広告呈示前のブランド態度を考慮して、クロスメディア効果の推定を行った。
目的変数には、認知や興味の他に、購買行動指標も含めた。

モデルについて

目的変数をブランド態度指標とする固体内モデルと、
目的変数が観測モデルの係数、説明変数が消費者属性である個体間モデルの
2モデルで構成される、階層ベイズ順序ロジットモデル。

消費者属性によって係数が変化するランダム係数モデルに、ベイズ推定を適用させたモデルと解釈する事ができる。

(数式は元論文をご確認下さい。すみません...)

結果

・すべての目的変数(広告効果測定指標)において、交互作用項を含むモデルが採択された。

・ブランドに対して好意的な程、広告の主効果が大きくなる。

・ブランドに対して好意的でも、クロスメディア効果は、正の場合も負の場合もある。

・複数の素材が効果を持つ消費者は少ない。消費者によって効果の大きい広告は異なり、広告効果には多様性がある。

ビジネスへの適用

広告効果を測定する際に他の広告素材の影響も考慮する必要があるという点は、納得のいく示唆である。
現在、単一のメディアにのみ広告を出稿している企業は少なく、より精緻な効果検証が求められる。

企業が広告を出稿する目的は、認知の拡大、ブランディング(長期的な好意形成)、短期的な売り上げ増加など、複数ある。
パネルデータに対して本研究で提案されたモデルを用いる事で、企業が広告を出稿する目的に合わせて広告効果を推定し、より大きな効果が期待されるターゲットに対して広告を出稿する事が可能である。
場合によっては、出稿目的から考えさせるような提案にも繋がる。

所感

クロスメディア効果というと、テレビCM・デジタル広告・屋外広告・店頭POPなど、広告接触経路の交互作用を考慮した研究を想像していた。

今回の研究は、上記のメディアの広告素材をすべてPC上で接触させて効果を測定している研究であるため、広告素材(クリエーティブ)のクロス効果を測定した研究として位置づけられるのではないか。
(PCを通して実験的に屋外広告の広告素材に接触させたとして、「屋外広告に接触した」と定義するには無理があると考えるため。)

私の中でのクロスメディア効果は、テレビ・スマホ・屋外広告といった広告接触経路の交互作用であり、こちらも気になる所である。
ただ、こういった検証を厳密に行うには、テレビ接触ログ・デジタル広告接触ログ・位置情報データなど、大規模なログデータが必要になるので、データベンダーとの調整が大変になるだろう。
この点、Chang et al.(2004)や井上(2007)はどのような観点で検証を行っているのか、次に読んでみたい。

参考文献

・日高徹司, & 佐藤忠彦. (2016). 消費者とブランドとの関係を考慮した階層ベイズモデルによるクロスメディア効果推定. 日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌, 59, 106-133.

・井上哲浩. (2007). クロスメディア対応のマーケティングコミュニケーション. 広告月報, (566), 40-45.

・Chang, Y., & Thorson, E. (2004). Television and web advertising synergies. Journal of advertising, 33(2), 75-84.

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