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AIやシミュレーション技術を活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)について

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はじめに

こんにちは。(株) 日立製作所の Lumada Data Science Lab. の文景厚(むん)です。

今回は、私がデータサイエンティストとして活動する中で、多くのデータを扱う研究開発現場のDXを実現する「材料開発ソリューション」について、調べてみました。日立のAI研究者の取り組みをご紹介できればと思います。

材料開発ソリューションとは

近年、国際的にも新材料の開発競争は激化し、より短時間・低コストでの材料開発が必須となってきています。日立は、材料開発における DX を推進し、研究成果を最大化する支援をするために、AI やシミュレーション技術などを活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を基軸とするソリューションサービスを 2017 年よりご提供しています。

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「マテリアルズ・インフォマティクス」は、機械学習に加え、物性理論、実験、シミュレーション、データベース、クラウド、セキュリティー・・・など、さまざまな分野の技術により成り立っており、日立の AI 研究者は、お客さまの研究開発現場の DX を実現するため、日々さまざまな技術開発をしています。

日立の AI 研究者が開発した技術が、実際にどのように活用されているのでしょうか。

研究開発の現場でお客さまが抱える課題

これまで個々の研究者のスキルや経験に頼ることの多かった研究開発の現場では DX の取り組みに様々な課題がありました。お客さまの課題を例に挙げて、解決に向けた取り組みを紹介します。

お客さまの課題①:「新製品開発に時間・コストを要していた」

新製品の開発には、大量の実験データを必要とするなど、多くの時間やコストがかかることが課題として挙げられます。

一般に、有機材料開発において MI を適用する場合、エタノール(CH3CH2OH)などの化学式は文字情報であり、AI では簡単に扱うことができませんでした。そこで、化学式から化学的特徴を計算し数値化した「記述子」と呼ばれる特徴量で表し、これらの記述子から材料性能を AI に予測させる方法が取られてきました。ところが、この記述子は化学式に逆変換できないため、要求性能を満たす最適な記述子が分かっても、そこから化学式を特定することは容易ではありません。したがって、有識者が AI の予測性能値をもとに大量に提示された化学式の中から有望と思われるものだけを選別し、それらの候補を実験して材料性能を評価、新材料の化学式を特定する手法がこれまでの主流でした。しかし、いかに精度よく性能を予測できたとしても、そもそも予測対象の化学式を性能とは無関係に用意していたのでは、飛躍的な効率改善は見込めません。

解決に向けた取り組み

課題を解決するための取り組みとして、少量の実験データでも高性能材料の化学式を高確率で自動生成するAIを開発しました。開発したAIの特徴を次に説明します。

  • 特徴 1:2 つの AI に異なる役割を与えて、学習したあと入れ子型に組み合わせることで、少ない実験データでも高性能材料の化学式を高確率で生み出す仕組み(入れ子型AI)。

  • 特徴 2:化学式を変換した数値情報に対し、内側の AI が材料性能に寄与する成分を分離・調整する仕組み(成分の分離・調整AI)

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期待できる効果

開発したAI技術を活用した場合に期待できる効果として次の3点が挙げられます。

  • 事前の膨大な実験不要、少量の実験データでも利用可能
  • 人には思いつかない高性能な材料候補を自動生成
  • 実験回数を削減し新材料開発期間を短縮

開発技術の効果検証として、三井化学の過去の材料開発データ(実験データ)で検証。高性能材料の開発に必要な実験試行回数の削減に効果がありました。

三井化学株式会社(以降、「三井化学」)と日立は、日立が開発したAIを活用したMI技術を、実際の新材料開発に適用する実証試験を開始しました。この実証試験に先立ち、日立の開発技術を三井化学が提供した過去の有機材料の材料開発データで検証したところ、高性能な新材料の開発に必要な実験の試行回数が従来のMIと比較し約1/4に削減され開発期間を短縮できることが確認できました。

引用:ニュースリリース:2021年6月28日:日立 (hitachi.co.jp)

お客さまの課題②:「研究者が持つ知識の明文化に時間を要していた。」

研究者が肌感覚で持っているデータ化されていない経験則や知見(=暗黙知)には重要な情報が含まれています。
その知識を共有するためには、明文化が必要ですが、知識の明文化作業には時間を要することが課題となっていました。

解決に向けた取り組み

課題を解決するための取り組みとして、研究者の頭の中にある知見の文書化作業を支援するための技術を開発しました。

暗黙知の知識化

統合データベース上にある過去データ(実験・シミュレーション結果)の分析に基づき、AI が研究者の頭の中にしかない知見(=暗黙知)を引き出す問いかけや新たな着想の示唆など、知的生産性向上を支援するガイダンスを実施し、研究成果のさまざまな分野での応用やさらなるイノベーションの加速を支援します。
例:AI による自動的なガイダンスに従い、「はい/いいえ」の回答や簡単な穴埋めに回答すると、暗黙知を整理した文案が自動生成される。

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期待できる効果

  • 人財の流動性が高まっても知的財産権を組織に残すための文書作成を効率化(=形式知化)
  • 知識が明文化されることで、研究者・組織間の知識共有を円滑化

おわりに

どうでしたか?研究開発DX実現に向けた課題と、それを解決するための技術や取り組みについて少しでも感じていただけたでしょうか?

事例として挙げた詳細については、「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」「材料開発ソリューションWebサイト」でご覧いただけます。

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