はじめに
こんにちは。(株) 日立製作所の Lumada Data Science Lab. の文景厚(むん)です。
みなさまは「データサイエンティスト」が企業の中でどんな仕事をしているのかご存じですか?日立にはさまざまな分野で活躍するデータサイエンティストがたくさんいます。この記事では、私が一緒に仕事をしているメンバーの紹介を通して、データサイエンティストの具体的な業務を深堀りします。また、データサイエンティストとしてのキャリアパスも紹介します。
佐藤 達広さん
今回紹介するのは、(株) 日立製作所 Lumada Data Science Lab.の佐藤 達広さんです。
佐藤さんのインタビュー記事は以下の日立 Lumada Data Science Lab. 紹介サイトにも掲載されております。ぜひご覧ください!
Lumada Data Science Lab.のメンバーインタビュー
💡プロフィール
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20年以上にわたり日立の研究所でシステム関連の研究開発に従事。数理最適化技術を使い、鉄道のダイヤや物流の配送計画などを作る研究を行ってきた。
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研究所から事業部へ異動。直接お客さまとやりとりをしながら数理最適化技術を使って顧客課題の解決に取り組む。
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現在はシニア・データサイエンス・エキスパートとして活躍。技術面でのPR活動をしていくというミッションも担っている。
日立内でのデータサイエンティストのキャリアは大きく2つに分かれます。チームで成果を出すことをめざすマネジメントキャリアと、専門スキルで成果を出すことをめざすエキスパートキャリアです。
佐藤さんはエキスパートキャリアの上位となる「シニア・データサイエンス・エキスパート」として活躍しています。
佐藤さんは研究者としての立場、および直接お客さまとの交渉を行う立場の両方を経験しています。それぞれの立場でデータサイエンティストの役割や業務内容にどのような違いがあるのかを聞きました。
お客さまの課題解決に取り組んだ研究所時代
ーー「研究者」というと成果物は論文や特許というイメージなのですが、具体的にはどのようなアウトプットがあるのでしょうか?
論文や特許もアウトプットの1つなのですが、**会社の事業にどのように貢献したか?**というところも成果として重要視されています。
私の場合はお客さま案件に入って活動をしていました。例えば、鉄道関連のお客さま先に常駐して、業務にあたっている日立のメンバーと一緒に鉄道の運行管理の課題解決に取り組んだりなどです。列車の乱れが発生したときに、それを自動的に復旧してくれるような技術がほしい、などの要望があるのですが、その場合にアルゴリズムを考えたり、プロトタイプを作って、お客さまにお見せしてフィードバックをいただいたりしました。
研究所では、こういった活動実績が成果の1つになります。携わっている研究や立場の違いによって、何がアウトプットになるかは変わってくるのですが、私の場合は直近の事業に結びつく成果を求められていました。
ーー課題解決のための手法として数理最適化を使われていますが、学生時代から専門で勉強されていたのでしょうか?
実は数理最適化は専門ではないんです。大学の研究室では数学を工学的に応用するための研究を複数のグループに分かれてやっていました。そのうちの一つが数理最適化を研究するグループでした。私は数理最適化が専門ではなかったのですが、いろいろなディスカッションをグループ横断でやっていたので、数理最適化グループとも関わりがあり、どのようなことをやっているのかを隣で見ていた感じです。
そんなとき、大学の研究室のOBが日立のリクルーターとして来まして、その人が数理最適化を使って鉄道のダイヤ計画を行っているという話を聞き、数理最適化をやってみたいと思いました。そんなご縁で、日立の入社面接のときに数理最適化で貢献したいと伝えたんです。
ーー数理最適化とは何かを教えてください。
ものをうまく扱う、効率よく扱うということを目的にした技術です。
配送計画をたてる場合を例にとって考えてみましょう。制約条件として、使用できる車両台数、積み込んだ場所から届け先までの移動時間、配達時刻などが考えられます。これらの条件をすべて満たすように配送計画をたてなければならないとき、最適な計画を探すために、1つ1つのパターンをすべて検証しようとしても、無数の組み合わせがあるために現実的ではありません。
そこで数理最適化の出番です。配送計画を求める問題を数式で表現し、数理最適化を使うことで、方程式を解くイメージで効率よく答えを導き出すことができます。
人手によっていたところを自動的に対応するなど、応用の広がりがある分野だと思います。
ーーなるほど。数理最適化は世の中のさまざまなところに適用できる技術なのですね。佐藤さんは長年数理最適化を専門にやってこられて、社会人になってから博士論文を書かれていますよね。
はい。研究所時代の活動として長年携わってきた、鉄道向けの最適化技術をまとめたものになります。私の研究の集大成です。
佐藤さんの論文はオープンアクセス論文リポジトリであるCOREから検索することができます。
[鉄道輸送サービスデペンダビリティ向上のための列車運用整理リアクティブスケジューリング技術の研究]
長年培った幅広い分野の技術を生かす事業部時代
ーー研究者という立場から、事業部に異動されて、現在は最前線でお客さまの課題解決に携わっておられますが、研究所時代と事業部時代とで業務の内容も大きく変わったのではないかと思います。研究所時代と一番大きく変わった点は何でしょうか?
仕事自体はかわらないですね。お客さまの課題をヒアリングして技術で解決することに知恵をしぼるということは研究所時代と同じです。
強いて言えば、立ち位置が変わった、というところでしょうか。
研究所時代は課題を技術で解決するために支援する、というかかわり方だったように思います。お客様先に常駐し、お客さまと直接やり取りするメンバーがいて、私は技術支援の立場で入っていました。今は技術の提供だけではなく、お客さまの真の課題を見つけ出す上流の工程から関わり、お客さまと真摯に向き合い、総合的にご満足いただくために全力を尽くすという立場になったように思います。
ーー今の仕事について教えてください。
大きく次の4つがあります。
今の仕事 | 詳細内容 |
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①事業企画 | -戦略の検討 -顧客訪問(オンライン) -部署間調整 |
②顧客案件の推進 | -技術指導 -顧客説明・ディスカッション |
③新規技術やツールの開発 | -企画、計画 -技術指導 |
④人財育成、プロモーション(インタビュー、書籍)、 社会貢献(大学講義、学会活動) |
ーーどの仕事に一番比重を置かれていますか?
①~④にまんべんなく対応しているイメージです。
実は、肩書きが変わりまして、「シニア・データサイエンス・エキスパート」になりました。この肩書は新しくできたもので、任命された後、今までとは役割が変わったように感じています。
今までは、主に特定のお客さま案件に、実際に手を動かすメンバーという立場で入って活動していました。今は、この新しい肩書にふさわしい仕事は何か?を見極めながら進めています。役割を模索しながら進めている状況です。
これからは自分で手を動かすのではなく、アドバイス・技術サポートという側面が大きくなると考えています。
ーーマネジメントの割合が多くなったということでしょうか?
マネジメントの側面もありますが、プロジェクトの進捗管理といったものではなく、技術面からチームをリードする役割が多くなりました。技術開発の方向性や検討されている内容が正しい方向に向かっているのかを確認して、メンバーにフィードバックを行っています。私が今まで取り組んできた経験や知識をベースにして、今進めている案件の推進に技術的なサポート・アドバイスをしています。
ーー人財育成やプロモーション活動もされているんですね。
はい。情報系の記事を書いている方に数理最適化の技術をご紹介したり、意見交換をしたりしています。
新しい立場になって、日立の顔としてデータサイエンスを紹介したり、多方面へ広めていくという役割があります。技術面でのPR活動をしていくというミッションも担っています。
人財育成活動として、大学での講義も行っています。システムとは何か?という「システム論」の講座を担当しています。世の中で動いているシステムを取りあげ、どういうシステムがあるか?どう作っていくか?どのような技術があるか?を伝えています。その中で私が長年研究を続けている数理最適化についても紹介をしています。
ーー数理最適化とAIの関わりについて教えてください。
いまの時代、機械学習やディープラーニングをAIと呼ぶ傾向がありますが、それはAIの狭いとらえ方であると考えます。人の判断、知的な活動を代わりに行う技術全般をAIと考えると、実は数理最適化もAIに含まれます。機械学習やディープラーニングは「ビジネスの現場で何が起こっているか?(現状認識)」「これから何が起こるか?(将来予測)」を解析するための技術です。数理最適化は、機械学習やディープラーニングで得られた予測データをもとに、「何をすべきか?」の行動判断を支援する技術です。
佐藤さんのとある一日
事業企画/顧客案件の推進/新規技術やツールの開発/人財育成、プロモーションとさまざまなタスクをお持ちな佐藤さんのとある一日の様子です。
佐藤さんの今後の野望は「データサイエンティストの技術専門職として社内のロールモデルになること」だそうです。多方面で活躍する一方、業務が終わった後には、自己啓発・情報収集を行ってスキルアップも欠かさない佐藤さんは、すでに誰もが目標にしたいロールモデルなのではないかと思いました。
おわりに
どうでしたか?データサイエンティストがどんなことをやっているのか、少しでも感じていただけたでしょうか?
研究所時代も、今のデータサイエンティスト時代も、お客さまの課題を高度な技術で解決することに知恵を絞ることに関しては、どちらとも同じでしたね。
大きな違いと言えば、データサイエンティストは、技術の提供だけではなく、技術を実際のビジネス現場に適用・活用する力が求められるということが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
このシリーズでは様々な経歴のデータサイエンティストの方へのインタビューを通して、実際の業務内容や今後の展望などを紹介していきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。