#背景
実験をやっていればノイズが必ず現れ、事前に大きさを評価したいときもある。
ノイズの原因が複数という場合があり、そのときの数学的扱いを考える。
#結論
複数の観測値のノイズの大きさが$\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\cdots$のとき、観測値の和に乗るノイズは$\sqrt{\sigma_1^2+\sigma_2^2+\sigma_3^2+\cdots}$となる。
(2018/5/17:表現を変更)
#説明(ガウシアンの畳み込みを使う)
ノイズはガウシアン(正規分布)に乗るとする。この仮定は多くの場合正しい(と思う)。
2つの物理量(の線形変換)の和が求める物理量だとしよう。なので2つの独立したガウシアンに従う確率変数の和がどのような分布に従うか求める。
ガウシアンは線形変換してもガウシアンなので平均値はどちらも0とする。
2つの物理量$X_1,X_2$がそれぞれガウシアン
f(X_1) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_1}\exp\Bigl[ -\Bigl( \frac{X_1}{\sigma_1}\Bigr)^2 \Bigr] \\
g(X_2) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_2}\exp\Bigl[ -\Bigl( \frac{X_2}{\sigma_2}\Bigr)^2 \Bigr]
に従うとする。ここで$\sigma_{1,2}^2$はそれぞれ$X_{1,2}$の分散である。
このとき新たな確率変数$Y=X_1+X_2$を定義する。
$X_1=t,X_2=Y-t$とおいて$t$が実数全体を走るとき$X_1,X_2$の和が$Y$となる事象をすべてカバーできる。
よって$t$が$t\sim t+ dt$の間に来る確率をすべての$t$について足し上げれば(=積分すれば)$Y$に対する確率密度を求めることができる。
これが畳み込みである。
あとはガウス積分やらをなんやかんややれば良い。
\begin{align}
h(Y) &= \int_{-\infty}^{\infty}f(t)g(Y-t)dt \\
&= \frac{1}{2\pi\sigma_1\sigma_2}\int_{-\infty}^{\infty}\exp\Bigl[ -\Bigl( \frac{t}{\sigma_1}\Bigr)^2-\Bigl( \frac{Y-t}{\sigma_2}\Bigr)^2 \Bigr] dt \\
&= \frac{1}{2\pi\sigma_1\sigma_2}\int_{-\infty}^{\infty}\exp\Bigl[ - \frac{t^2}{\frac{1}{\sigma_1^2}+\frac{1}{\sigma_2^2}} + \frac{2Yt}{\sigma_2^2} - \frac{Y^2}{\sigma_2^2}\Bigr] dt \\
&= \frac{1}{2\pi\sigma_1\sigma_2}\int_{-\infty}^{\infty}\exp\Bigl[ - \frac{1}{\frac{1}{\sigma_1^2}+\frac{1}{\sigma_2^2}} \Bigl( t - (\frac{1}{\sigma_1^2}+\frac{1}{\sigma_2^2})\frac{Y}{\sigma_2^2}\Bigr)^2- \frac{Y^2}{\sigma_1^2+\sigma_2^2}\Bigr] dt \\
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi} \sqrt{\sigma_1^2+\sigma_2^2}} \exp\Bigl[- \frac{Y^2}{\sigma_1^2+\sigma_2^2}\Bigr] \\
\end{align}
となって分散$\sigma_1^2+\sigma_2^2$、標準偏差$\sqrt{\sigma_1^2+\sigma_2^2}$のガウシアンに従うことが分かった。
つまりノイズは個々の要素の自乗和の平方根である。
これは物理的に考えても、どちらかノイズを0にしても最低もう片方のノイズ分はのることと整合する。
#おまけ
片方の寄与がもう一方の3分の1のとき、$\sqrt{X^2+(X/3)^2}=\sqrt{10/9}X \simeq 1.05X$となり5%の増加しか生じない。
ノイズを大まかに評価するときは無視してもよい。