木下是雄『理科系作文技術』で参考になった箇所を抜き出します。
(傾斜部分およびページ番号は筆者が追加 )
1. 序章
それ (仕事の文書の特徴) は, 読者につたえるべき内容が事実(状況を含む)と(意見)にかぎられていて, 心情的要素をふくまないことである.
P.5
私の考えでは, 以上のような性格をもった理科系の仕事の文書を書くときの心得は
(a) 主題について述べるべき事実と意見を十分に精選し、
(b) それらを, 事実と意見とを峻別しながら, 順序よく, 明快・簡潔に記述する
ことであると要約できる.
P.6
これら (仕事の文書の役割) は自明のことかもしれないが, 初心の執筆者にとっては, 自分の書こうとする文書の役割を確認することが第一の前提である。これは, もし確信がなければ先輩に尋ねて確かめねばならない大切なことなのだ. 多少は書きなれた人も, 筆をとる前に, また書き上げたものを読みかえす前に, いったい読者はこの文書に何を期待しているはずかと, 一瞬, 反省してみることを勧める.
P.14
2. 準備作業(立案)
主題をはっきりきめたら, 次に, 自分は何を目標としてその文書を書くのか, そこで何を主張しようとするのかを熟考して, それを一つの文にまとめて書いてみること勧める. そういう文を目標規定文ということにしよう.
P.22
4. パラグラフ
パラグラフは, 上の例にみられるように内容的に連結されたいくつかの文の集まりで, 全体として, ある一つのトピック(小主題)についてある一つのこと(考え)を言う(記述する, 明言する, 主張する)ものである.
P.22
パラグラフには, そこで何について何を言おうとするのかを一口に, 概論的に述べた文がふくまれるのが通例である. これをトピック・センテンスという.
P.62
5. 文の構造と文章の流れ
読者に逆茂木の抵抗を感じさせないためには, 次のような心得が必要であろう.
(a') 一つの文の中には二つ以上の長い前置修飾節は書きこまない.
(b') 修飾節の中のことばには修飾節をつけない.
(c') 文または説は, なるたけ前とのつながりを浮き立たせるようなことばで書きはじめる.
P.81
7. 事実と意見
ここでは, レトリックの書物の常道にしたがって
(a) 自然に起こる事象(某日某地における落雷)や自然法則(慣性の法則);過去に起こった,人間の関与した事件(某年某地における某氏の出生)などの記述で,
(b) 然るべきテストや調査によって真偽(それが事実であるか否か)を客観的に確認できるもの
を事実の記述と定義しておこう.
P.104
<意見>は幅のひろい概念で, その中には次のようなものが含まれている.
推論(inference) ある前提にもとづく推理の結論, または中間的な結論.
例:彼は(汗をかいているから)暑いにちがいない.
判断(judgement) ものごとのあり方, 内容, 価値などを見きわめてまとめた考え.
例:彼女はすぐれた実験家であった.
意見(option) 上記の意味での推論や判断;あるいは一般に自分なりに考え, あるいは感じて到達した結論の総称.
例:リンを含む洗剤の使用は禁止すべきである.
事実の記述だけを取り出して考えれば, 必要な注意は次の三つに尽きる.
(a) その事実に関してその文書のなかで書く必要があるのは何々かを十分に吟味せよ.
(b) それを, ぼかした表現に逃げずに, できるだけ明確に書け.
(c) 事実を記述する文はできるだけ名詞と動詞で書き, 主観に依存する修飾語を混入させるな.
P.107
文中に「便利な」とか「すぐれた」とかいう修飾語(句)がはいれば意見が混入することになる. これは事実の記述の客観性をスポイルする.
P.108
8. わかりやすく簡潔な表現
(a) まず, 書きたいことを一つ一つ短い文にまとめる.
(b) それらを論理的にきちっとつないでいく(つなぎのことばに注意!).
ここで<つなぐ>というのは必ずしも<つないで一つの文にする>意味ではない. 短い独立の文を, 相互の関係がはっきりわかるように整然と並べることができれば, むしろそのほうがいいのである.
以上の過程を通じて, どの文を書くときにも
(c) いつでも「その文のなかでは何が主語か」をはっきり意識して書くことが必要だ.