はじめに
FastAPIは、その軽量性と高速性から、PythonのWebフレームワークとして近年注目を集めています。本記事では、FastAPIを学ぶ際に役立つ周辺知識をジャンルごとに整理し、FastAPIとの関連性を交えて紹介します。
筆者自身、アドカレの記事の執筆を機にFastAPIを学ぶ機会がありました。その際、FastAPIの直感的な設計と使いやすさに感銘を受けつつも、基礎となる多くの事前知識が必要であることを実感しました。ちなみに、そのアドカレ記事はこちらです:
この記事では、完全初心者の方でもFastAPIをスムーズに習得できるよう、必要な知識を「定義」→「FastAPIとの関わり」→「参考教材」の順番で紹介します。「参考教材」では、公式ドキュメント、ブログ記事、動画、書籍といった多様な教材からご紹介します。これらを参考に、FastAPIの学習を効率的に進めて頂ければと思います。
1. Pythonの基礎
Pythonの基礎知識
- 定義: Pythonの文法や基本的な構造(リスト、辞書、ループ、条件分岐など)。
- FastAPIとの関わり: FastAPIはPythonベースのフレームワークであり、基本的なPythonスキルが欠かせません。たとえば、APIエンドポイントの定義では関数が中心となるため、Pythonの関数や戻り値の仕組みの理解が重要です。また、リストや辞書といった基本的なデータ構造は、リクエストやレスポンスデータの操作で頻繁に使われます。
『独学プログラマー Python言語の基本から仕事のやり方まで』
『Python実践入門 ── 言語の力を引き出し、開発効率を高める (WEB+DB PRESS plusシリーズ)』
クラスの継承
- 定義: クラスを基に新しいクラスを作成する仕組み。コードの再利用性を高める。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIでは、
BaseModel
を継承してデータスキーマを定義することが一般的です。また、依存性注入で複雑な依存関係を管理する場合にも、クラスの継承を活用して柔軟な設計を行います。たとえば、複数のエンドポイントで共通するデータスキーマを派生クラスとして拡張することで、再利用性が向上します。
デコレーター
- 定義: 関数やクラスに別の機能を付与する仕組み。Pythonの@記法で実現。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIのルーティングはデコレーターを活用して定義されます。たとえば、
@app.get("/path")
でエンドポイントを定義し、その後の関数がAPIリクエストを処理します。このデコレーターを使用することで、HTTPメソッド(GET、POSTなど)やパスパラメータを簡潔に指定できます。また、依存性注入もデコレーターを通じて実現できます。
例外処理
-
定義:
try
,except
を用いてエラーをキャッチし、適切な対応を行う仕組み。 -
FastAPIとの関わり: APIの動作中に発生するエラーを適切に処理するために例外処理が必要です。FastAPIでは、
HTTPException
を使用してカスタムのエラーレスポンスを簡単に生成できます。たとえば、リクエストデータのバリデーションエラーが発生した場合に、raise HTTPException(status_code=400, detail="Invalid data")
のように対応できます。
async, await
- 定義: 非同期処理を実現するPythonのキーワード。I/O操作の効率化に使用。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIは非同期フレームワークであり、リクエスト処理やデータベースクエリを効率化するために
async
関数を推奨します。たとえば、外部APIへのリクエストやデータベースとの通信はI/O操作が多いため、非同期処理を使うことでサーバーのパフォーマンスを向上させられます。FastAPIのハンドラ関数(@app.get
など)はasync def
として記述することで非同期処理に対応します。
2. FastAPIの基本概念
FastAPIと他のWebフレームワークの違い
- 定義: FastAPIは型ヒントを活用して、データのバリデーションやAPIドキュメントを自動生成します。この特徴により、開発者はコードの記述量を減らしつつ、APIの堅牢性を確保できます。また、非同期処理に標準対応しているため、高負荷な環境下でもスムーズに動作します。FlaskやDjangoのような他のフレームワークと比較しても、開発速度と性能のバランスに優れています。
『現場のPython──Webシステム開発から、機械学習・データ分析まで』
第9章 FastAPIによるWeb API開発 型ヒントを活用したAPI仕様中心の開発手法
エンドポイント
- 定義: APIでアクセス可能なURLパス。
-
FastAPIとの関わり: エンドポイントは、ユーザーやクライアントがAPIを利用するためのインターフェースです。FastAPIでは
@app.get("/path")
のように簡単にエンドポイントを定義でき、パスパラメータやクエリパラメータを追加して柔軟な設計が可能です。また、Swagger UIを通じてエンドポイントのテストやドキュメント化が自動的に行われます。
ルーター
- 定義: エンドポイントを管理する仕組み。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIでは、エンドポイントが増えるとコードが煩雑になることがあります。その際に、ルーターを使用することで各機能をモジュールごとに分割できます。たとえば、認証用のエンドポイントとデータ処理用のエンドポイントを別々のルーターに分け、
include_router
を使用してメインのアプリケーションに統合する設計が一般的です。これにより、メンテナンス性と可読性が向上します。
依存性の注入
- 定義: クラスや関数が具体的なインスタンスに直接依存するのではなく、抽象的なインターフェースや設計に依存させることで、依存関係を緩和し、テストや変更を容易にする設計手法。
- FastAPIとの関わり: 依存性注入は、コードのモジュール性を高め、再利用性を向上させます。たとえば、データベース接続や認証情報をエンドポイント関数に注入できます。FastAPIではDependsを使って依存性を定義し、関数の引数として渡します。この仕組みは、開発中やテスト時の設定変更を容易にします。
『Python FastAPI本格入門』 第9章 DIの利用
Swagger UI
- 定義: APIの仕様書をインタラクティブに閲覧・テストできるツール。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIは、エンドポイントやスキーマ定義に基づいてSwagger UIを自動生成します。これにより、開発者やチームメンバーがAPI仕様を即座に確認したり、クライアントサイドの開発者が仕様書を参照しながら簡単にテストしたりできます。
http://127.0.0.1:8000/docs
にアクセスするだけで、生成されたドキュメントを利用できます。
3. Web開発基礎
APIとは
- 定義: 他のプログラムと連携するためのインターフェース。
- FastAPIとの関わり: FastAPIはAPI開発を目的としたフレームワークであり、特にRESTful APIの開発が簡単に行えます。たとえば、外部システムとデータをやり取りするためのHTTPリクエストとレスポンスの形式を定義し、エンドポイントを設計します。さらに、Pydanticを使用してリクエストやレスポンスのデータ構造を明確に定義できます。
REST APIの基本設計
- 定義: リソース指向のAPI設計。CRUD操作を基本とする。
-
FastAPIとの関わり: FastAPIは
GET
,POST
,PUT
,DELETE
といったHTTPメソッドを簡単に実装できます。たとえば、リソースを管理するエンドポイントを設計する際に、FastAPIのルーティング機能を使用することで、各操作を直感的にコード化できます。
『Webを支える技術 -HTTP、URI、HTML、そしてREST (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)』
HTTPの基礎知識
- 定義: ステータスコード(200, 404など)、HTTPメソッド、ヘッダーの基本。
- FastAPIとの関わり: FastAPIを用いたAPI開発では、HTTPの基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。たとえば、クライアントがリクエストを送る際にはヘッダーやクエリパラメータを使用し、レスポンスには適切なステータスコード(200: 成功、404: 未検出など)を返します。これらを正確に管理することで、APIの信頼性と使いやすさが向上します。
『Webを支える技術 -HTTP、URI、HTML、そしてREST (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)』
4. データベース
データベースの基礎知識
- 定義: データを効率的に管理する仕組み。
- FastAPIとの関わり: FastAPIはMySQLやSQLiteなどのデータベースと簡単に統合できます。たとえば、SQLAlchemyやTortoise ORMを使用することで、データベースとの連携やCRUD操作をスムーズに実現できます。これにより、エンドユーザーにデータの取得や保存機能を提供するAPIを簡単に構築できます。
『スッキリわかるSQL入門 第4版 ドリル256問付き! (スッキリわかる入門シリーズ) 』
スキーマ設計
- 定義: データ構造を定義するプロセス。
- FastAPIとの関わり: FastAPIでは、Pydanticモデルを使用してスキーマを定義します。これにより、リクエストやレスポンスのデータ構造を型安全に管理でき、データのバリデーションも自動で行えます。たとえば、ユーザー情報や商品のデータ構造を事前に設計しておくことで、APIの信頼性が向上します。
5. データモデリング
Pydantic、データ型、型ヒント
- 定義: データの検証や構造化を行うPythonのライブラリ。
- FastAPIとの関わり: FastAPIはPydanticを内部的に利用しており、入力データのバリデーションやレスポンスモデルの定義が簡単に行えます。たとえば、ユーザーが送信するJSONデータをPydanticモデルにマッピングし、データが正しい形式であることを自動的に検証します。型ヒントを使用することで、開発時にエラーを未然に防ぐことができます。
6. 開発と運用
テスト
- 定義: コードやAPIの動作を確認するプロセス。
- FastAPIとの関わり: FastAPIでは、Pytestなどを利用してエンドポイントの動作確認やデータの一貫性を検証します。また、非同期関数や依存性注入を含む複雑なシナリオのテストも簡単に実現できます。
『【この1冊でよくわかる】 ソフトウェアテストの教科書 [増補改訂 第2版]』
『VTuberサプーが教える! Python 初心者のコード/プロのコード』
第7章 バグがあるかも? テストコードを書こう!
『TDD Boot Camp 2020 Online #1 基調講演/ライブコーディング』
おわりに
FastAPIを学ぶには、Pythonの基本からWeb開発の全般的な知識まで幅広いスキルが必要です。本記事がその道しるべとなり、学習をスムーズに進める一助となれば幸いです。FastAPIは、その直感的な設計と高いパフォーマンスにより、初心者からプロフェッショナルまで多くの開発者に選ばれています。ぜひ、本記事を活用しながら、実際に手を動かして学んでみてください。
改めて振り返ると、『サプーさん』の解説動画には本当にお世話になりました。←サプーさん信者です。書籍も買いました!