目次
- 0. 電子書籍の紹介
- 1. エグゼクティブサマリー
- 2. 序論:5Gネットワークにおける汎用ハードウェアへの進化
- 3. 最新5Gネットワークアーキテクチャの理解
- 4. 5G gNBにおける汎用ハードウェア
- 5. 5Gコアネットワーク(5GC)における汎用ハードウェア
- 6. SDNおよびNFVのハードウェア選択への影響
- 7. 5Gインフラ装置へのAIの適用(新規追加章)
- 8. 展開トレンドとベンダー戦略
- 9. 結論:推定割合と今後の展望
- 10. 不確実性と考慮事項
- 11. 関連ドキュメント
- 12. 引用文献
0. 電子書籍の紹介
🔗 いちばんはじめの取扱説明書 5Gシミュレーション構築 Open5GS+UERANSIM編
1. エグゼクティブサマリー
本レポートは、主要なモバイルキャリアによって展開されている最新の5Gシステムにおける汎用ハードウェア(GPP/COTS)の利用状況を、2026年3月現在の市場動向に基づき推定したものです。3GPP Release 18/19(5G-Advanced)の展開やO-RANエコシステムの成熟に伴い、ネットワークはよりソフトウェア中心かつAI適用が進んだインテリジェントな構成へと進化しています。
5Gコアネットワーク(5GC)においては、クラウドネイティブなサービスベースアーキテクチャ(SBA)の普及により、汎用ハードウェアの利用が95〜100%に達しています。一方、gNB(無線アクセスネットワーク)においては、コンポーネントごとの役割の違いにより汎用ハードウェアの利用状況が異なります。CUでは90〜100%、DUでは60〜85%(AI処理用アクセラレータを含む)と高い水準にある一方、RUでは依然として専用のRFハードウェアやASICが不可欠であり、汎用ハードウェアの割合は15〜35% に留まります。gNB全体での汎用ハードウェアの割合は、設備投資(CAPEX)の観点から加重平均した結果、40〜65% の範囲にあると推定されます。
2. 序論:5Gネットワークにおける汎用ハードウェアへの進化
従来の通信インフラは、ベンダー独自のASICやFPGAで固められたプロプライエタリなハードウェア(Monolithic Architecture)に大きく依存していました。しかし、5Gではネットワークの柔軟性とスケーラビリティを確保するため、ハードウェアの分離(Disaggregation)と仮想化が根本的なアーキテクチャ要件となりました。
この進化の背景には、CAPEXおよびOPEXの大幅な削減、迅速なサービス展開、そしてIT業界標準のクラウド技術への統合というニーズがあります。2026年現在、5Gネットワークにおいては、汎用サーバー(COTS)上で動作するコンテナ化されたソフトウェア(CNF: Cloud-Native Network Function)が中心となっており、ハードウェアは単なるリソースプールへと変化しました。さらに、5G-Advancedへの進化により、AI/MLの推論処理を実行するためのGPUやTPUなどの汎用アクセラレータの導入も進み、過去の「専用ハードウェア依存型」からの明確な脱却が実現しています。
3. 最新5Gネットワークアーキテクチャの理解
3.1 gNBの分解:CU、DU、RU - その機能と従来のハードウェア
3GPP TS 38.401で定義されるgNBの論理アーキテクチャは、集中ユニット(CU)、分散ユニット(DU)、および無線ユニット(RU)の機能分離に基づいています。各ユニットと、そこで処理されるプロトコルスタック(L3, L2, L1)の対応は以下の通りです。
- CU(Centralized Unit): 非リアルタイムの上位レイヤープロトコルを処理します。具体的には、L3のRRC(Radio Resource Control)、L2の副層であるSDAP(Service Data Adaptation Protocol、TS 37.324にて定義)、およびPDCP(Packet Data Convergence Protocol)を担当します。計算負荷のリアルタイム性が緩やかなため、COTSサーバー上での完全な仮想化が達成されています。
- DU(Distributed Unit): リアルタイム性の要求が厳しい下位レイヤーを処理します。具体的には、L2の副層であるRLC(Radio Link Control)およびMAC(Medium Access Control)、そしてL1(物理層)の高次部分(High-PHY)を担当します。COTSサーバーへの移行が進んでいますが、High-PHYの信号処理やAI推論処理には、スマートNICやGPU、FPGAなどのハードウェアアクセラレータが併用されます。
- RU(Radio Unit): 無線信号の送受信とL1(物理層)の低次処理(Low-PHY)を担います。デジタルフロントエンド(DFE)やデジタルビームフォーミングを含み、リアルタイム性と電力効率が厳しく求められるため、現在でも最適化されたカスタムASICや高性能FPGA、専用RFハードウェアが必須の領域です。
これらをつなぐ主要なインターフェースとして、CUとDUの間にはF1インターフェースが存在します。F1インターフェースの制御プレーン(F1-C)およびユーザープレーン(F1-U)のプロトコルは、それぞれ3GPP TS 38.473(F1AP)およびTS 38.474(F1 Data Transport)で詳細に規定されています。また、DUとRUの間にはフロントホールインターフェース(O-RANの7.2xスプリットなど)が使用されます。
3.2 5Gコア(5GC)の探求:主要なネットワーク機能(AMF、SMF、UPFなど)とその典型的なハードウェア展開
5Gコア(5GC)のアーキテクチャは3GPP TS 23.501で規定されており、サービスベースアーキテクチャ(SBA: Service Based Architecture)を採用しています。主要なネットワーク機能(NF)は以下の通りです。
- AMF(アクセスおよびモビリティ管理機能): UEの認証、接続管理、モビリティ管理を担います。
- SMF(セッション管理機能): PDUセッションの確立やIPアドレスの割り当て、UPFの制御を行います。
- UPF(ユーザープレーン機能): パケットのルーティングやフォワーディング、QoSの適用を行います。
- PCF(ポリシー制御機能) やUDM(統合データ管理) など、その他の制御プレーン機能もSBA上でサービスを提供します。
これらのNFは、RESTful API(HTTP/2ベース)を利用して標準化されたサービスベースインターフェース(SBI)を通じて相互に通信します。5GCは完全にクラウドネイティブな設計であり、パブリッククラウド、プライベートクラウド、またはハイブリッドクラウド環境における汎用サーバー(COTS)への展開が標準となっています。
3.3 専用ハードウェアから仮想化およびクラウドネイティブ環境への移行
3GPP Release 16および17を経て、ネットワークインフラは従来の仮想マシン(VM)によるNFV(ネットワーク機能仮想化)から、マイクロサービスアーキテクチャに基づく「クラウドネイティブ(CNF)」への移行を完了しました。
2026年現在、Kubernetesなどのコンテナオーケストレーションプラットフォームが5Gネットワーク運用の事実上の標準です。ハードウェアリソースはハイパーバイザーやコンテナランタイムによって完全に抽象化されるため、通信事業者は特定のプロプライエタリなハードウェアに縛られることなく、IT業界で広く流通している商用オフザシェルフ(COTS)サーバーを調達・拡張できるようになりました。これにより、オンデマンドでのリソース割り当てや、継続的インテグレーション/継続的デプロイメント(CI/CD)パイプラインを通じたソフトウェアの迅速なアップデートが可能となっています。
4. 5G gNBにおける汎用ハードウェア
4.1 CUおよびDUにおける商用オフザシェルフ(COTS)サーバーの使用の可能性の分析
- CU(Centralized Unit): 上位レイヤープロトコル(RRC、PDCP、SDAP)の非リアルタイム処理を担当します。計算負荷の予測がしやすく、リアルタイム性の制約が緩いため、CUはクラウドネイティブネットワーク機能(CNF)として、汎用サーバー(COTS)上での実行が事実上の標準となっています。地域型データセンターに集約され、ITインフラと完全にリソースを共有する構成が一般的です。
- DU(Distributed Unit): 物理層の一部(High-PHY)、MAC、RLCの処理を担当します。COTSサーバーへの移行は大きく進展していますが、L1の高度な信号処理を汎用CPUのみで処理するには依然として限界があるため、インライン型またはルックアサイド型のSmartNIC、GPU、FPGAといったハードウェアアクセラレータカードがCOTSサーバーに挿入される構成が主流です。
- AI-native PHYへの進化(Release 18/19): 3GPP Release 18にて「AI/ML for NR」のStudy Item(TS 38.843)としてチャネル推定やビーム管理のAI化の検討が開始され、Release 19以降で規範的(Normative)な仕様化が進められています。この「AI-native PHY」の商用化を見据え、DUの処理基盤としてAI推論を効率的に実行するための汎用GPUやAI専用命令セットを持ったプロセッサの導入が徐々に始まっています。
4.2 RUおよび特定のベースバンド処理機能における特殊ハードウェア(FPGA、ASIC)の役割
- RU(Radio Unit): アンテナモジュール、RF(高周波)フロントエンド、電力増幅器(PA)、およびLow-PHY処理(FFT/IFFT、デジタルビームフォーミング等)を担います。これらの処理は、極めて厳格なリアルタイム性と、設置環境における電力効率・放熱の制約を受けます。そのため、汎用CPUでの処理は物理的に困難であり、最適化されたカスタムASICや高性能FPGA、専用のRF集積回路(RFIC)が依然として必須の領域です。
- 汎用化の萌芽: 一方で、O-RAN Allianceによる仕様標準化(特にWG4)が進んだことで、RU内部のコンポーネント(DFE:Digital Front Endなど)を提供するサードパーティベンダーのエコシステムが拡大しています。完全な「汎用ハードウェア」ではないものの、特定ベンダーの専用ブラックボックスチップから、市場に広く流通する汎用的な通信用チップセットへの移行(コモディティ化)が進展しています。
4.3 Open RAN(O-RAN)イニシアチブがハードウェアの分離とベンダーの多様性に与える影響
- O-RANアーキテクチャの普及: 2026年現在、O-RAN Allianceが定義するオープンインターフェース、特にDU-RU間のOpen Fronthaul(7.2x機能分割)は広く商用展開されています。これにより、オペレーターはサーバーインフラ(CU/DUハードウェア)、ソフトウェア(CU/DUのCNF)、および無線装置(RU)を異なるベンダーから調達するマルチベンダー構成を採用しやすくなりました。
- ベンダーロックインからの解放: オープンインターフェースの採用は、必然的にプロプライエタリなハードウェアへの依存度を下げ、IT業界で広く流通している汎用サーバーやホワイトボックス型のハードウェアの導入を促進しています。
4.4 gNBにおける汎用ハードウェアの割合の推定
各コンポーネントにおける汎用ハードウェアの利用割合、およびgNB全体としての加重平均を以下のように推定します。推定にあたっては、設置台数ベースではなく設備投資(CAPEX)のコスト比率を前提条件としています。
- 集中ユニット(CU): 汎用ハードウェアの割合は 90〜100%。ITベースのクラウドインフラストラクチャにほぼ完全に統合されています。
- 分散ユニット(DU): 汎用ハードウェアの割合は 60〜85%。汎用CPUの機能拡張や、SmartNIC・GPUといった汎用市場で流通するアクセラレータの採用により、高い水準を維持しています。
- 無線ユニット(RU): 汎用ハードウェアの割合は 15〜35%。O-RAN化に伴う汎用チップセットや制御用ARMコアの採用により一部汎用化が進んでいますが、物理的なRF処理の制約から依然として専用ASIC/FPGAが主体です。
gNB全体の推定割合:
Massive MIMOの普及などにより、現代の基地局設備においてRUはgNB全体のCAPEXの約半分(あるいはそれ以上)の重み(コスト比重)を占めることが一般的です。
RU(約50%の重み、汎用率15〜35%)と、CU/DU(残りの重み、汎用率60〜100%)をコストベースで加重平均すると、gNB全体を構成するハードウェアに占める汎用ハードウェアの推定割合は、40〜65% の範囲に落ち着くと推定されます。
5. 5Gコアネットワーク(5GC)における汎用ハードウェア
5.1 5GCのクラウドネイティブな性質とそのハードウェアインフラストラクチャへの影響
- 3GPP TS 23.501で定義される5Gシステムアーキテクチャは、完全なサービスベースアーキテクチャ(SBA)です。2026年においては、単なる仮想マシン(VM)上での動作から、Kubernetes上で管理されるマイクロサービス化されたクラウドネイティブアーキテクチャ(CNF)への移行が完了しています。
- AMF、SMF、UDMといった主要なネットワーク機能(NF)は、ステート(状態データ)と処理ロジックが完全に分離(ステートレス設計)されており、パブリッククラウドやプライベートクラウド上のCOTSサーバーリソースを、トラフィック需要に応じて動的にスケーリングして利用することが可能になっています。
5.2 5GCにおける仮想化(NFV)およびコンテナ化技術の採用とAIの統合
- コンテナ化のデファクトスタンダード: Kubernetes(K8s)が5GCインフラストラクチャの絶対的な標準オーケストレーターとして定着しています。ハードウェア(サーバー、ストレージ、ネットワーク)は完全にリソースプールとして抽象化されており、特定の通信用ハードウェアの存在を意識させません。
- NWDAF(Network Data Analytics Function)の導入: 3GPP TS 23.288で定義されるNWDAFは、5GC内のデータを収集・分析し、ネットワーク最適化のためのデータアナリティクスを提供するNFです。NWDAF自体もクラウド上のCNFとして展開され、膨大なデータを処理するために汎用サーバー上の計算リソース(場合によってはGPU等)を活用します。
5.3 主要ベンダーが汎用サーバーおよびクラウドプラットフォームで5GCをどのように実装しているかの分析
- 主要な通信機器ベンダー(エリクソン、ノキア、ファーウェイ、サムスンなど)の5GC製品は、特定のハードウェア基盤に依存しない「Hardware-agnostic(ハードウェア非依存)」な設計が完了しています。
- 特に、AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーのプラットフォーム上で稼働する「Telco Cloud(通信クラウド)」連携が一般化しています。これによりモバイルキャリアは、データセンターインフラの自社構築(アプライアンスの購入)を最小限に抑え、汎用的なITインフラ上で5Gコアをサービスとして利用・運用する形態(ハイブリッドクラウド展開)を積極的に推進しています。
5.4 5GCにおける汎用ハードウェアの割合の推定
5Gコアネットワークは、設計段階からITシステムとしてのアーキテクチャ(SBA)とクラウドネイティブ技術(CNF)を採用しているため、専用の通信用ハードウェアを使用する理由はほぼ消失しています。強いて挙げれば、トラフィックの暗号化をハードウェアで高速処理するHSM(Hardware Security Module)や、UPFのデータプレーン処理をオフロードするためのSmartNIC/DPU等が存在しますが、これらも現代のIT業界における標準的なサーバーコンポーネントとして流通しています。
したがって、2026年時点における5GCの汎用ハードウェア利用率は 95〜100% に到達していると推定されます。
6. SDNおよびNFVのハードウェア選択への影響
6.1 ソフトウェア定義ネットワーキング(SDN)とクラウドネイティブネットワーク機能(CNF)が汎用ハードウェアの採用をどのように促進するか
- SDNとインテントベースネットワーキング(IBN): 2026年現在、ソフトウェア定義ネットワーキング(SDN)は成熟期を迎え、AIと統合された「インテントベースネットワーキング(IBN)」へと進化しています。IBNでは、管理者が「ネットワークをどのような状態にしたいか(Intent)」を定義するだけで、SDNコントローラが自動的にトラフィック経路やリソース割り当てを構成します。この制御の抽象化により、データプレーンのハードウェアはパケット転送を高速に処理できればよく、特定の専用アプライアンスから、IT業界標準のホワイトボックススイッチやSmartNICを搭載したCOTSサーバーへの置き換えがほぼ完了しました。
- NFVからCNFへの完全移行: ネットワーク機能仮想化(NFV)は、初期のVM(仮想マシン)ベースのVNFから、マイクロサービスアーキテクチャに基づくCNF(Cloud-Native Network Function)へと完全に移行しました。CNFは基盤となるハードウェアへの依存関係を極限まで排除するため、標準的なx86_64やARMベースの汎用サーバー上でシームレスに動作します。これにより、特定の通信ベンダー製ハードウェアの必要性が根底から覆されました。
6.2 仮想化/コンテナ化インフラストラクチャへのネットワーク機能の展開の利点と課題
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利点:
- 究極の俊敏性とCI/CDの実現: コンテナ化により、新しいネットワーク機能やパッチのデプロイが数時間〜数分単位で完了します。IT業界標準のCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)パイプラインが通信インフラに適用されています。
- 設備投資(CAPEX)と運用コスト(OPEX)の劇的な削減: プロプライエタリなハードウェアの排除と、サーバーリソースの自動スケーリングにより、必要な時に必要な分だけリソースを消費する柔軟な運用が確立されました。
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課題と2026年時点の解決策:
- エネルギー効率(消費電力)の問題: 専用ASICと比較して、汎用CPU(COTS)は電力効率が劣るという課題がありました。現在では、電力効率に優れたARMアーキテクチャベースのサーバープロセッサの台頭や、DPDK(Data Plane Development Kit)とSmartNICへの処理オフロード技術の確立により、このギャップは大幅に縮小しています。
- ゼロトラストセキュリティ要件: 汎用的なクラウド環境を共有することによるセキュリティリスクに対し、AIを活用したリアルタイム脅威検知と、マイクロセグメンテーションによる「ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)」の導入が必須要件となっています。
6.3 ハードウェアコスト、柔軟性、および拡張性への影響
汎用ハードウェアの採用は、ネットワーク容量の動的な拡張(エラスティックスケーリング)を可能にしました。5G-Advanced(Release 18/19)が提供する多様なユースケースにおいて、トラフィックパターンの急激な変動が発生しても、クラウド上のCOTSリソースを動的に割り当てることで、サービス品質を維持しながらハードウェアの過剰投資を防いでいます。
7. 5Gインフラ装置へのAIの適用(新規追加章)
2026年現在、5G-Advancedの展開により、5Gネットワークは単に高速・大容量な通信基盤から、「AIネイティブなネットワーク」へと進化を遂げました。AI(人工知能)とML(機械学習)は、もはや外部の付加機能ではなく、5Gインフラ装置のアーキテクチャ内部に深く組み込まれており、汎用ハードウェア上(特にAIアクセラレータを備えたCOTS)での実行を前提としています。
7.1 ネットワークスライシングとオーケストレーションにおけるAIの役割
- ETSI ZSMと3GPPの連携: ネットワーク全体の自律運用に向け、外部の業界フレームワークであるETSI ZSM(Zero-touch network and Service Management) が、3GPPの管理・オーケストレーション機能(OAM)と連携して機能しています。ZSMがエンドツーエンドの自律運用アーキテクチャを提供する一方で、3GPP標準の機能が実際のネットワークリソースのプロビジョニングを実行します。
- 動的スライシングの実現: 3GPP TS 28.533(Management and orchestration)などで規定されるフレームワークに基づき、AIモデルは過去のトラフィックデータや外部データを学習し、数分先のトラフィック需要を予測します。この予測に基づき、COTSサーバー上のコンテナリソースを各ネットワークスライスへ自律的かつ動的に再配分します。
7.2 NWDAF (Network Data Analytics Function) の成熟と5GCにおける予測的最適化
- 3GPP TS 23.288で定義されたNWDAFは、5GコアにおけるAI/MLの「頭脳」として完全に機能しています。
- 分散データ分析アーキテクチャの実装: Release 18/19におけるNWDAFの拡張により、アーキテクチャは高度に分散化されました。単一のブラックボックスではなく、データを収集・調整するDCCF(Data Collection Coordination Function)、AIモデルを学習させるMTLF(Model Training Logical Function)、そして推論を実行する**AnLF(Analytics Logical Function)**の論理機能に分割され、各エッジデータセンターや中央クラウドに分散配置されています。(注:高度な研究実装としてフェデレーテッド・ラーニングの適用も進んでいますが、標準アーキテクチャの根幹はこのDCCF/MTLF/AnLFによる分散連携です)。
- これにより、モビリティ予測(ユーザーが次に接続する基地局の予測)やQoS異常の事前検知がリアルタイムで実行され、5GCをホストするCOTSサーバーの負荷を平準化しています。
7.3 O-RAN RIC (RAN Intelligent Controller) による無線リソースのAI最適化
O-RANアライアンスが主導するAIアーキテクチャは、gNBの機能をソフトウェア定義し、AIによる高度な制御を可能にしました。RICは3GPPの機能ではなくO-RAN独自の拡張ですが、現代の5Gインフラにおいて不可欠です。
- Non-RT RIC(非リアルタイムRIC): 汎用クラウド(地域データセンター等)に展開され、1秒以上の時間スケールで動作します。機械学習モデルのトレーニング、ポリシーの生成、および「rApp」と呼ばれるAIアプリケーションを実行し、広域なネットワーク最適化(エネルギー消費の最小化など)を行います。
- Near-RT RIC(準リアルタイムRIC): DUやCUの近傍(エッジCOTSサーバー上)に展開され、10ミリ秒〜1秒の時間スケールで動作します。「xApp」と呼ばれる最適化アプリケーションを実行し、強化学習(RL)を用いてMassive MIMOのビームフォーミング制御や干渉管理をリアルタイムで行います。
7.4 L1/PHYレイヤーへのAI/MLの直接適用(AI-native PHY)
- 3GPP Release 18から19への規範化: 最も注目すべき進化は、物理層(L1)の領域へのAIの直接適用です。3GPP Release 18では「AI/ML for NR」のStudy Item(TS 38.843)としてチャネル状態情報(CSI)の圧縮やビーム管理のAI化が検討され、Release 19においてNormative(規範的)な仕様として実装フェーズに入りました。
- 汎用ハードウェアへの影響: オートエンコーダ(深層学習モデル)などをL1処理に用いるこの「AI-native PHY」の実現には、従来のDSP(専用ASIC)ではなく、ニューラルネットワークの推論を高速かつ柔軟に実行・更新できる汎用的なAIアクセラレータ(GPU、TPU、またはAI特化型命令セットを備えた次世代FPGA/SmartNIC)が、gNB(特にDU)のハードウェア構成において必須要件となりました。
8. 展開トレンドとベンダー戦略
8.1 主要なモバイルキャリアの展開戦略の検討:SAへの移行とNSAの現状
- SAの主流化とNSAの継続運用: 2026年現在、世界中の主要モバイルキャリアにおける新規のコアネットワーク機能展開は、スタンドアロン(SA)構成に完全に移行しています。SA展開は、クラウドネイティブな5GC(3GPP TS 23.501)の導入を必須とするため、コアネットワークにおける汎用ハードウェア(COTS)の利用率を95%以上に押し上げる最大の原動力となっています。一方で、日本国内のキャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク等)を含む多くの事業者は、既存の4G帯域を活用した広域カバレッジの維持という観点から、ノンスタンドアロン(NSA)構成による運用も依然として継続しています。NSAが直ちに消滅するわけではありませんが、戦略的な投資の重心は完全にSAへと移っています。
- 5G-Advanced(Release 18/19)の商用展開: 現在の最大のトレンドは、単なるSA化を超えた「5G-Advanced」の商用導入です。これには、メタバース/XR向けの低遅延要件やAIネイティブな機能最適化が含まれ、キャリアは自社のデータセンターだけでなく、AWSやAzure、Google Cloudなどのパブリッククラウドエッジ領域(ハイブリッドクラウド)へネットワーク機能(CNF)を展開し、汎用ハードウェアのリソースプールを極限まで活用する戦略をとっています。
8.2 主要な5Gインフラストラクチャベンダーの2026年時点におけるハードウェアおよびAIアーキテクチャ戦略の分析
主要ベンダーは、ハードウェアの単純な販売から「ソフトウェアライセンス、AIサービス、およびシステムインテグレーションの提供」へとビジネスモデルを大きく転換させています。
- エリクソン (Ericsson): 「Cloud RAN」と「デュアルモード5Gコア」戦略が成熟しています。特にAIを組み込んだコグニティブ・ネットワークソリューションを推進し、IntelやAMD、ARMベースの汎用サーバー上でのパフォーマンスを引き出すためのソフトウェア最適化に注力しています。ハイパースケーラーとの提携により、Enterprise向けのPrivate 5Gを完全なSaaSとして提供しています。
- ノキア (Nokia): 「anyRAN」アプローチを提唱し、特定のインフラストラクチャに依存しない(Infrastructure-agnostic)姿勢を明確にしています。O-RANの採用を積極的に進め、Near-RT RICおよびNon-RT RICにおけるAIアプリケーション(xApp/rApp)のエコシステム構築を主導しています。
- サムスン (Samsung): vRAN(仮想化RAN)のトップランナーとして、Intelの最新プロセッサ(AIアクセラレータ統合型)や商用GPUを活用した完全ソフトウェアベースのvRAN 3.0をグローバルで展開しています。これにより、汎用ハードウェアを用いたDUにおけるL1処理性能のボトルネックが大幅に改善され、大容量トラフィックを捌く都市部での導入も進んでいます。
- ファーウェイ (Huawei): 地政学的な制約のなかで独自のエコシステムを進化させていますが、アーキテクチャの方向性は「IntelligentRAN」や「オールクラウドコア」という形でAIとクラウドベースインフラへの移行を明確にしています。自社製あるいは国内製のARMベース汎用プロセッサやAIチップ(Ascend)上でのNF展開を最適化しています。
8.3 汎用ハードウェアの採用における地域差の縮小
過去に見られた汎用ハードウェア採用の地域差(北米・アジアの先行)は、O-RANエコシステムの成熟と、通信ベンダーが提供する製品ラインナップの「クラウドネイティブデフォルト化」により急速に縮小しています。現在では、途上国の新規通信キャリアであっても、最初からAWS等のパブリッククラウド上に5GCを構築し、汎用サーバーを用いたO-RANを導入する「グリーンフィールド展開」が主流となっています。
9. 結論:推定割合と今後の展望
9.1 推定割合のまとめ(2026年3月現在)
5G-AdvancedとAIネイティブアーキテクチャの普及に伴い、gNBおよび5GCにおける汎用ハードウェア(GPU等の汎用アクセラレータを含む)の推定利用割合は以下の通り更新・統合されます。
| コンポーネント | 汎用ハードウェアの推定割合 | 2026年現在の主な要因(3GPP Rel-18/19対応) |
|---|---|---|
| gNB - CU | 90 - 100% | リアルタイム性が低く、完全なCNF化が完了。ITクラウドデータセンターでの実行が標準。 |
| gNB - DU | 60 - 85% | 汎用CPUの命令セット拡張、AI/ML推論用汎用GPU/SmartNICの普及、vRANの完全商用化。 |
| gNB - RU | 15 - 35% | Open Fronthaulの普及による制御用ARMコア等の汎用化。ただしRF/PA等の物理制約により専用ASIC/FPGAが依然主流。 |
| gNB全体 | 40 - 65% | CAPEX比重(RUが全体の約50%を占める)に基づく加重平均。 AIアクセラレーション基盤の導入とO-RAN推進により底上げされている。 |
| 5GC (5Gコア) | 95 - 100% | SBAの成熟。NWDAF等のAI機能を含め、完全にパブリック/プライベートクラウド(COTS)上で稼働。 |
9.2 主要な推進力と課題
-
主な推進力:
- AI/MLの統合要件: Release 18/19の「AI-native」機能(チャネル推定、NWDAF、RIC)は、専用ASICよりも汎用GPUやTPUなどの柔軟なハードウェアエコシステムを必要とします。
- ハイパースケーラーとの融合: キャリアが自社でハードウェアを保有せず、AWS/Azure等のパブリッククラウドをTelcoプラットフォームとして利用する流れの定着。
- サステナビリティ(省電力)の要請: ARMベースの汎用サーバーやSmartNICの進化が、過去の「COTSは電力を食う」という課題を克服。
-
主な課題:
- ハードウェア分類の曖昧化: PCIeスロットに挿すAI向けGPUや特定ベンダーのカスタムシリコンを含むSmartNICを、「汎用」とみなすか「専用」とみなすかという定義の境界線の問題。
- 高度なセキュリティ脅威: 全てが汎用ITインフラとソフトウェアに依存するため、ソフトウェアの脆弱性が直接ネットワークインフラのダウンに直結するリスク(ZTAによる対策が急務)。
9.3 今後の展望:6Gへ向けたパラダイム
2026年現在、すでに3GPPでは6Gに向けた初期検討(Release 20以降)が始まっています。今後の展望として、ネットワーク機器の概念そのものが消滅し、「分散型コンピューティングファブリック(Distributed Computing Fabric)」の中に通信アプリケーション(NF)と一般のAIアプリケーションが混在して動作する時代が到来します。RUのアンテナ直下までが「汎用コンピューティングエッジ」となり、通信とコンピューティングが完全に融合することで、汎用ハードウェアの利用率は最終的にRU領域を含めても極限まで高まると予測されます。
10. 不確実性と考慮事項
本レポートの推定値には、現在のテクノロジー市場の動向に基づく以下の不確実性が含まれます。
- 定義の境界線: 本レポートでは、市場で広く一般に入手可能なSmartNICやデータセンター向けGPUを「汎用ハードウェア(またはその拡張機能)」として扱っていますが、一部のベンダー製SmartNICには通信専用のカスタムシリコンが搭載されている場合があり、これを「専用ハードウェア」と分類するかでDUのパーセンテージは変動します。
- 地政学的リスク: 半導体輸出規制や特定ベンダーの排除政策により、特定の地域ではレガシーな専用ハードウェアの利用が長期化する、あるいは逆に国内産業保護のために急激にホワイトボックス(汎用HW)化が進むといった地域的バイアスが存在します。
- ベンダーの機密保持: vRAN製品における処理の正確なオフロード比率(CPU処理とアクセラレータ処理の割合)は依然として各社の機密事項であり、外部からの完全な検証は困難です。
11. 関連ドキュメント
12. 引用文献
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- 3GPP TS 23.501 - System architecture for the 5G System (5GS), https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3144
- 3GPP TS 38.401 - NG-RAN; Architecture description, https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3219
- 3GPP TS 38.473 - NG-RAN; F1 application protocol (F1AP), https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3227
- 3GPP TS 37.324 - E-UTRA and NR; Service Data Adaptation Protocol (SDAP) specification, https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3194
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- 3GPP TS 28.533 - Management and orchestration; Architecture framework, https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3444
- O-RAN gNB Overview — srsRAN Project documentation, https://docs.srsran.com/projects/project/en/latest/knowledge_base/source/oran_gnb/source/index.html
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- ETSI GS ZSM 002 - Zero-touch network and Service Management (ZSM); Reference Architecture, https://www.etsi.org/deliver/etsi_gs/ZSM/001_099/002/
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- Virtualized Radio Access Network (vRAN 3.0) Whitepaper - Samsung (Note: URL validity subject to vendor portal updates in 2026), https://images.samsung.com/is/content/samsung/assets/global/business/networks/insights/white-papers/virtualized-radio-access-network/white-paper_virtualized-radio-access-network_1.pdf
- Nokia anyRAN - Unlocking the full potential of Cloud RAN, https://www.nokia.com/networks/portfolio/anyran/
- Maturity of 5G mobile packet core as a cloud workload | AWS for Industries, https://aws.amazon.com/blogs/industries/the-5g-mobile-network-core-is-now-a-mature-cloud-workload/
- AI-Driven vRAN: How Software-Defined Networks Are Redefining 5G Infrastructure, https://cioinfluence.com/machine-learning/ai-driven-vran-how-software-defined-networks-are-redefining-5g-infrastructure/