Sungduk_Yu
所属: Intel Labs
01-21-2025
https://community.intel.com/t5/user/viewprofilepage/user-id/395936
Sungduk Yu はIntel Labs に所属する AI リサーチ・サイエンティストです。気候科学におけるマルチモーダル AI システムの活用を専門としています。共同執筆者の Anahita Bhiwandiwalla と Yaniv Gurwicz も AI リサーチ・サイエンティストであり、それぞれマルチモーダル AI モデルとハードウェア認識による効率化手法の共通部分、気候科学での因果関係マシンラーニングの応用を中心に研究しています。
https://www.intel.com/content/www/us/en/research/overview.html
注目ポイント
•ClimDetect は、81 万 6,000 件もの気候データサンプルに基づくベンチマーク・データセットです。AI を活用して気候変動の検出を標準化し、気候変動の問題に対処する AI 手法の開発と適応を推進します。
•Vision Transformers (ViT) を応用したこの新しいアプリケーションは、気候変動シグナルの早期検出に高度な能力を示し、環境モニタリングにおける AI の新たな可能性を広げます。
•ViT は解釈可能な方法で「フィンガープリント (変化の痕跡)」を回復し、AI ベースのインサイトに物理的な裏付けを提示します。
気候変動は現在、最も重大な環境課題の 1 つです。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) が強調しているように、人為的な影響を正確に特定することが、効果的な緩和策と適応戦略を導くうえで不可欠とされます。しかし、人為起源のシグナル、つまり人間の活動に起因する環境変化を検出するのは決して簡単なことではありません。同様の空間的 / 時間的スケールで進む自然の気候変動によって、こうした兆候が覆い隠されてしまうことがあるからです。Intel Labs では、日々の気候パターンから気候変動シグナルを検出する、シグナル特定モデルの精度を高めるために、81 万 6,000 件の気候データポイントを含むオープンソースのベンチマーク・データセット ClimDetect を導入しました。画像処理に Vision Transformers (ViT) を取り入れたこの新しいアプローチは、空間的気候データの分析に大きな可能性を示しています。
https://www.ipcc.ch/
https://arxiv.org/abs/2408.15993
気候変動シグナルの早期検出と、気候変動フィンガープリント (気候変動の特徴的空間パターン) の特定には、具体的なメリットがあります。地域ごとの温暖化パターンを識別することで、コミュニティーは生態系の保護、農業生産の適応、インフラ強化といったタイムリーな施策をとり、異常気象に対処することが可能です。早期の兆候に基づいた予防的計画は、影響を最小限に抑え、気候に適応したリソース配分の最適化にもつながります。
この研究は、透明性、説明責任、環境保護を重視する、インテルの責任ある AI への取り組みを反映したものです。インテルは ClimDetect のオープン化によって、気候科学におけるイノベーションを推進し、地球全体の環境問題に AI が及ぼすプラスの影響を実証したいと考えています。この事前処理済みデータセットはトレーニングを行う準備が整っており、気候科学と AI リサーチどちらのソリューションにも有効です。
https://huggingface.co/datasets/ClimDetect/ClimDetect
<気候変動シグナルの検出に対する課題>
自然の変動は、地球の複雑な気候システムによって引き起こされ、数週間から数十年続くこともあるため、多くの場合、ゆっくりと進行する人為的なシグナルを覆い隠してしまいます。科学者たちはこれを「ノイズに埋もれたシグナル」と呼び、人為的なシグナルが自然界のパターンに覆い隠されてしまうことを指摘しています。信号が弱く自然変動と深く絡み合っているため、地球温暖化の初期段階では特に難しいとはいえ、リスク軽減とリソース配分を最適化するタイムリーな介入が可能になるため、リソース効率のよい気候適応策のためにも早期検出は不可欠です。
<AI が重大なギャップに対処>
従来の検出方法は線形統計モデルに依存しており、過去の気候の長期にわたる記録が必要です。長期間の観測記録が必要なため、複雑な気候システムに特有の非線形性や、シグナルの早期検出に必要な感度を扱うには、従来の手法では限界があります。そのためインテルでは、複雑な非線形システムに対処し、膨大な量のデータセットを処理して、これらの限界を突破できる、AI テクノロジーの活用方法を探求しました。特に着目したのが、明示的な地球規模のアテンション機構によって、人為的シグナルを早期に高い感度で検出する Vision Transformers の仕組みです。
インテルでは、第 6 期結合モデル相互比較プロジェクト (CMIP6) の地球気候モデル出力により、広く利用されている ViT モデルをトレーニングしました。これらのモデルを、観測データとモデリングを組み合わせて包括的かつ物理的に整合性のある気候状態を再現する、欧州中期予報センター (ECMWF) ERA5 などの大気再解析データで評価しています。ViT と並行して、リッジ回帰、多層パーセプトロン (MLP)、畳み込みニューラル・ネットワーク (CNN) などのシンプルなモデルもベンチマークとしてトレーニングしました。モデルには、日ごとの 3 つの気候スナップショット (地表の大気温度、湿度、降水量) をもとに、気候変動の状態を要約する一般的な指標とされる世界の年平均気温 (AGMT) を予測するタスクを課しています。限界を押し上げるために、入力データから地球平均値を引き、空間パターンにのみ着目する、さらに難しい「平均値除去法」を用いた実験を試みました。
https://pcmdi.llnl.gov/CMIP6/
https://www.ecmwf.int/en/forecasts/dataset/ecmwf-reanalysis-v5
次に、自然変動の統計を上回る気候変動シグナルが初めて現れた年と定義される出現年 (YOE) でモデルのパフォーマンスを評価しました。YOE が早いということは、気候シグナルに対するモデルの感度が高いということを示しています。
図 1. 気候変動シグナルの検出手法を図示。気候フィールドマップを示し、データセット別の色分けは、学習データセット (オレンジ色)、過去の記録データセット (緑色、温暖化前)、観測データセット (紫色)。Fθ は Vision Transformers モデルなどの検出モデル、θ はモデルのパラメーター。紫色のドットはそれぞれ 1 つの観測サンプルから抽出した推定値。
<AI による検出パフォーマンスの飛躍的向上>
図 2 に示すとおり、ViT は気候シグナルをほかのシンプルなモデルよりも早い段階で検出していることが分かります。さらに難しい平均値除去法の設定でも、ViT のパフォーマンス優位性は顕著であり、重要な空間的異常を効果的に抽出できる能力が示されました。これらの結果は、気候シグナルの高度な検出ツールとしての ViT の潜在能力を強調しています。
図 2. 左側の棒グラフ: 出現年 = 日ごとの気候フィールドの大半が、自然変動を上回る検出可能な気候変動シグナルを示した最初の年。グレーの棒グラフは、再解析期間 (1980 ~ 2023年) にモデルが出現年を捉えられなかったケース。中央と右側の世界地図: 平均値除去法で得られた統合勾配をビジュアル化することで、AGMT 予測に影響した地域を強調。値は最大値で正規化、-1 = 最低気温を示す色、+1 = 最高気温を示す色に相当。
気候科学において、データ主導のモデルを新しいツールとして確立するために、また同様に責任ある AI の利用にも、意思決定に不可欠な透明性を確保するうえでは特に、「物理的に説明できること」が極めて重要です。インテルでは、平均値除去法により統合勾配を用いて事前解釈を試み、非線形 AI モデルとリッジ回帰にどのような違いがあるのかを明らかにしました。陸地と海洋の温度差に着目したリッジ回帰とは異なり、非線形モデルである ViT の方が、気候変動との関連性が高い南極海への依存が大きく、物理的に意味のあるインサイトを示唆しています。これらのパターンから、従来の線形フレームワークでは見落とされていた、気候変動シグナルを捉えるうえで注目すべき地理的ホットスポットについて、有益な観点が得られました。
<次のステップ>
この研究は、最先端 AI テクノロジーを環境保護に適応するインテルの取り組みの一例にすぎません。今後もマルチモーダルの vision-language モデルやエージェント型 AI フレームワークの探求を進め、専門レベルの気候インサイトを一般ユーザーにも提供できるようにと考えています。AI を活用して重要な環境問題に対処し続けるインテルのさらなる進歩にご期待ください。
関連情報:
インテル エンタープライズ AI
https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/products/docs/accelerator-engines/enterprise-ai.html
インテル® デベロッパー・ゾーン
https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/developer/topic-technology/artificial-intelligence/overview.html