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サブスク型のビジネスで必須の2つのリテンションKPIとそのベンチマークを紹介します

Last updated at Posted at 2023-04-02

SaaSを始めとするとサブスク型のビジネスでは、顧客のリテンションが最重要なため、リテンションに関する指標をモニターしますが、よく利用される指標に「ネット・レベニュー・リテンション率」と「グロス・レベニュー・リテンション率」があります。

特にSaaSの世界では「ネット・レベニュー・リテンション率」が非常に重要とされていますが、近年は「グロス・レベニュー・リテンション率」も同じように重要とする見方も増えてきています。

そこで、2つの指標の定義とその使い分け、さらには「良い」とされるベンチマークをまとめた記事がありましたので、こちら要訳として紹介します。

  • Gross vs Net Retention Rates in 2023 - リンク

ネット・レベニュー・リテンション率

健全なSaaSビジネスを構築したければ、収益のリテンションを最重要に考えるべきです。特に不況が続く近年、ネット・レベニュー・リテンション率はより一層、重要性を増しています。

ネット・レベニュー・リテンション率(Net Revenue Retention / NRR)はネット・ドル・リテンション率(Net Dollar Retention / NDR)とも呼ばれ、一定期間においてリテンションできた収益の割合の指標です。

例えば、初月にMRR(Monthly Recurring Revenue / 月間定期収益)が10万ドルあったとして、その12ヶ月後に、その収益の何パーセントが残っているかを測るわけです。

なお、ネット・レベニュー・リテンション率を含め、リテンションを測るときには、一般的に12ヶ月間の指標として測定します。

そうすることで、月間/年間のサブスクリプション・サービスでも、収益をどの程度維持できているかをうまく測ることが可能になるだけでなく、エクスパンション(訳者注: プランのアップグレードや、同一企業内のユーザー/ライセンス数の増加、オプションの追加などによる増収)を考慮できるだけでなく、短期的な季節性の影響も排除できます。

Snowflake、Cloudflare、ZoomInfo、Slack、Datadogなど、SaaSの世界で最も成功している企業はいずれも、ネット・レベニュー・リテンションが高いことで成功しているといっても過言ではありません。

計算方法

ネット・レベニュー・リテンション率は、1年前からサービスを利用していた顧客から得られた最新のMRRを、1年前の同時期にサービスを使い始めた顧客から得たMRRで割ることで計算できます。

image-20230402084212587.png

例えば、1年前のMRRが$770だったとします。

その後、有料顧客の何人かがキャンセルしたり、同じ企業内でのユーザーが増え、1年前の顧客グループから得られた最新のMRRが$800になったとします。

その場合、800を770で割って、ネット・レベニュー・リテンション率は103.9%になるわけです。

このように、ネット・レベニュー・リテンション率は、キャンセルを最小限に抑えて収益を維持する力と、アップセルする力を合わせて測ることができる非常に重要な指標です。

ベンチマーク

実際のところ、ビジネスの段階によって「良い」ものとされるネット・レベニュー・リテンション率は変わってきます。

例えば、プロダクト・マーケット・フィット前(訳者注: 自分達のプロダクトを必要とするマーケットがあり、そのニーズを満たすサービスを提供できている状態)のサービス場合、一般的にネット・レベニュー・リテンション率は低くなりがちです。

最も優れた会社であっても、初期ステージにおけるネット・レベニュー・リテンション率は80%を下回ります。

この段階では、属性や利用状況に応じて顧客をセグメントに分けて、どの顧客が自分達のプロダクトやサービスに最も適しているかを分析することが有効です。特定の顧客のリテンションが良ければ、プロダクト・マーケット・フィットに近づいていることになるわけです。

一方で、企業規模が大きくなるにつれて、ネット・レベニュー・リテンション率は100%を超えることも増えてきます。

私たちの調査では、ARR(Annual Recurring Revenue / 年間定期収益)が4~20億円程度の規模で、最も成功している企業のネット・レベニュー・リテンション率は100%近くに達していました。

また、ARRが20億円からから40億円程の規模の企業で、最も成功している企業のネット・レベニュー・リテンション率は105%を超えます。

image.png

なお、これらのベンチマークを元に、自分達のネット・レベニュー・リテンション率を評価するときには、ARRに加えて、ARPA(Average Revenue per Account / 1アカウントあたりの平均収益)も考慮してください。

ARPAは高くなるほど、ネット・レベニュー・リテンション率は高くなりやすい傾向があり、ARPAが同じようなSaaS企業では、セールスサイクルの長さ、契約期間、割引率、オンボーディング、カスタマーサポートの方法が似通ってくるからです。

グロス・レベニュー・リテンション率

グロス・レベニュー・リテンション率は、グロス・ドル・リテンション率と言われることもあり、エクスパンションを除いたうえで、一定期間において維持できた収益の割合の指標です。

SaaSの世界では、ネット・レベニュー・リテンション率が過度に注目される傾向があり、グロス・レベニュー・リテンション率は見過ごされがちです。

しかし、グロス・レベニュー・リテンション率は、アップセルやクロスセルのような1顧客から得られる価値を高める活動を考慮しない場合に、どの程度の収益を維持できるかを測ることができる点において、「リテンション」の状況をより的確に捉えられるため、非常に重要な指標です。

グロス・レベニュー・リテンション率は、収益をどれだけ「維持」できているかを捉え、ネット・レベニュー・リテンション率は、その顧客からの収益を「どれだけ拡大できているか」を、より深く掘り下げる点に違いがあるわけです。

計算方法

グロス・レベニュー・リテンション率は、1年前からサービスを利用していた顧客から得られた最新のMRRをエクスパンションを除いたうえで、1年前の同時期にサービスを使い始めた顧客から得たMRRで割ることで計算できます。

image-20230402214702915.png

先程紹介した1年前のMRRが$770だったビジネスを思い出してみます。

その後、有料顧客の何人かがキャンセルし、エクスパンションを除いた結果、1年前の顧客グループから得られた最新のMRRが$630になったとします。

その場合、グロス・レベニュー・リテンション率は630を770で割って、81.8%になるわけです。

ベンチマーク

成功するSaaSビジネスでは、ビジネスのステージを問わず、グロス・レベニュー・リテンション率は86%以上です。つまり、1年間に14%しか収益を失えないのです。

以下は、月間のARPA(Average Revenue per Account / 1アカウントあたりの平均収益)のサイズごとに、グロス・レベニュー・リテンション率のばらつきをまとめたチャートです。

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ARPAが500ドル以上の企業の上位25%に注目すると、グロス・レベニュー・リテンション率は90%近くです。

それに対し、ARPAが50ドル未満の企業の上位25%に注目すると、グロス・レベニュー・リテンション率は、60~70%にとどまっています。

グロス・レベニュー・リテンション率が良いかどうかを判断する際には、ARPAを念頭に置いておいてください。

2つの指標の使い分け

これまで紹介してきた2つの指標は、そのどちらもが、収益をどれだけ維持できているかを測る指標ですが、それぞれ異なる文脈で使用します。

繰り返しになりますが、グロス・レベニュー・リテンション率は、エクスパンションによる増収を考慮せずに、純粋な収益のリテンション率を測定します。

そのため、グロス・レベニュー・リテンション率はリテンション戦略や既存顧客をどれだけうまくリテンションできているかを評価したい場合に利用します。

対して、ネット・レベニュー・リテンション率は、エクスパンションによる増収やコントラクション(訳者注: プランのダウングレードなどによる収益が減ること)による減収を含む、既存顧客層からの収益の成長を測定します。

そのため、ネット・レベニュー・リテンション率は、既存の顧客ベースでどれだけ効果的に収益を伸ばせているかを評価したい場合に利用します。

各指標を改善するためのヒント

コホート分析

SaaSのビジネスの世界では、同じ月や年など同じタイミングでサービスの最初の購読を開始した顧客のグループのことを 「コホート」 と呼びます。

コーホート分析(訳者注: 顧客をコホートに分けてリテンション率などの指標をモニターする分析手法。詳細はこちらからご確認いただけます)を行うと、サービスの利用開始タイミングごとの顧客グループのリテンションの傾向を把握できます。

例えば、下図はコホート分析の結果のチャートです。

コホート分析を行うことで、過去にサービスの利用を開始した顧客と比べて、最近、サービスの利用を開始した顧客グループの収益のキャンセル率、言い換えれば、その逆の指標である収益のリテンション率が改善しているかを理解できます。

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また、サービスの利用開始から数ヶ月後の顧客の健康状態を把握し、顧客のキャンセルが多く発生するタイミングを特定することも可能です。

データを使って顧客をセグメントに分け、例えば、割引プランのある顧客が解約しやすいかどうかを判断することが可能です。

一方で、マーケティング担当者は、顧客を獲得チャネルでセグメントに分けて、どのチャネルで獲得した顧客がサービスを継続しやすいかを調べられます。


以上、要約終わり。

今回は「ネット・レベニュー・リテンション率」と「グロス・レベニュー・リテンション率」という2つのリテンションに関わる指標を紹介しました。

2つの指標は測れるものが異なるため、それぞれの指標をモニターしていくことなりますが、例えば、いざ自分達のデータを使ってグロス・レベニュー・リテンション率を計算するためには、1年前の各顧客から得られた収益を確認したうえで、エクスパンションによる増収を取り除く作業が必要です。

また、コホート分析を行う際には、顧客一人一人にサービスの利用開始時期のラベルをつけて、コホートごとに各指標を集計・計算することも必要です。

そして上記の作業を行うために、データベースからデータを抽出し、集計、計算をするプログラミングのスキルが求められることも少なくありません。

そういったときには、例えば、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのExploratoryを使うと、プログラミングをすることなしに、各指標を計算・可視化することが可能です。また、数クリックで、コホート分析も行えます。さらには作成したチャートをダッシュボードにまとめて、指標の更新を自動化することも可能です。

ご自身のデータを使って、紹介した指標を作成したり、データの分析をしたい方は、下記のリンクより無料トライアルが可能ですので、是非、お試しください!

サブスクデータ分析: トライアルツアー

こちらの記事でも紹介したサブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化や、コホート分析を実行する方法を、ハンズオンを通して短時間で学んでいただけるコンテンツをまとめています。

サブスクリプション型のビジネスのご担当者様は、ぜひご覧ください!

サブスク型ビジネスデータ分析のためのページ

SaaSなどを始めとするサブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法やシリコンバレーなどでの事例を1つのページにまとめて公開しています。

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ぜひ、ご覧ください。

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