SaaSを初めとするサブスクリプション型の多くのビジネスでは、顧客に有料プランを利用してもらうために無料のトライアル期間を設けたり、無料バージョンのサービスやプロダクトを提供します。
このとき、「どれだけ早く」顧客にサービスやプロダクトの価値に気付いてもらえるかがビジネスの成長スピードに影響するため、「タイム・トゥ・バリュー(Time to Value/TtV)」という指標が使われます。
しかし、なぜ「タイム・トゥ・バリュー」という「早さ」の指標が重要になるのかや、その測り方を説明できる人は多くはいません。
そこで、「タイム・トゥ・バリュー」という指標がなぜ、ビジネスにおいて重要なのか、そして、その測り方を紹介するブログポストがありましたので、こちらに要訳として紹介します。
- Time to value – What is it and how does it affect user activation - リンク
タイム・トゥ・バリューの概要
タイム・トゥ・バリューは、ユーザーがプロダクトやサービスを利用したときにその価値を感じるまでにかかった時間です。
また、サービスの価値に気付いた瞬間のことを「アハ・モーメント」と呼ぶため、タイム・トゥ・バリューはサービスを試し始めたユーザーが「アハ・モーメントに達するまでの時間」とも言えます。
顧客が初めてサービスを利用するときや、オンボーディングにおける顧客体験を考えるときには、常にタイム・トゥ・バリューを短縮することを心掛けることが必要です。
タイム・トゥ・バリューの短縮が重要な理由
ビジネスでは、ターゲットユーザーを見つけ、「あなたのサービスによってユーザーの生活がより良いものになる」と納得させるためにマークティング活動に投資をします。
そうしたマーケティング活動を通して獲得した見込み顧客は、一定のエネルギーとモチベーションを持っており、あなたが押し出しているサービスの価値と、実際にプロダクトを使った感想が一致するかを確かめるわけです。
このエネルギーとモチベーションは、ユーザーがあたなのサービスに触れる度に消費されます。特に、あなたのサービスをどのように使うのかがわからなかったり、使いづらさを感じる度に、そのモチベーションは大きく下がり続けるわけです。
もしユーザーがサービスの価値を自ら体験する前に、エネルギーやモチベーションが尽きてしまうと、あなたのサービスが再び使われる可能性は極めて低くなります。
このような背景があるため、タイム・トゥ・バリューを短縮できなければ、多くのユーザーが「アハ・モーメント」に達することなく、いなくなってしまうわけです。
タイム・トゥ・バリューを短縮することで、より多くのユーザーをアクティベート(訳者注: サービスやプロダクトの価値を実感していると想定できるアクションをとっている状態をつくること)して、顧客をコンバートさせることができ、サービスの成長を1つ上のレベルに引き上げることが可能になるわけです。
上図のように、ユーザーを魅了するまでの時間が短くなるほど、新規のユーザーがより長い期間、サービスを利用し続けてくれる可能性が高くなります。
「アハ・モーメント」には制限時間がある
これまで説明してきたように、ユーザーに長くサービスを利用して欲しい場合、ユーザーがサービスに価値を感じるまでの時間が重要なため、「アハ・モーメント」を計測するときは、ユーザーが(サービスの価値を実感できているものと想定できる)アクションを実行するまでの時間に制限を設けることが重要です。
例えばFacebookは、新規ユーザーがサインアップしてから「7日以内」にN件の投稿を閲覧するという制限を設けていました。
なぜなら、ユーザーが設定した時間の中でサービスの価値に気付かない場合、後からそのユーザーがアクティブになり、日常的にサービスを使うようになることは非常に稀だからです。
タイム・トゥ・バリューの計測方法
ここからは、タイム・トゥ・バリューを計測するための 2つのアプローチを説明します。
ユーザー・データを使った計測
タイム・トゥ・バリューを計測する1つ目の方法は、ユーザーの行動データを利用するものです。
具体的には「アハ・モーメント」に達したユーザーを対象に、サービスにサインアップしてから「アハ・モーメント」に達するまでの時間の平均あるいは中央値を計算します。(訳者注: アハ・モーメントはサービスやプロダクトの価値を感じた瞬間、言い換えれば、サービスの価値を実感したと想定できるアクションを実行したときとなり、あらかじめ自分達で決めておく必要があります)
この計測方法の最大の利点は、タイム・トゥ・バリューを「数値」として1つの指標にまとめられることです。
さらに、どういった経路でサービスを使い始めているのか、あるいは製品のバージョンなどでユーザーをセグメントに分け、変化をモニターできることも利点です。
一方で、この計測方法の弱点は、サービスを試した「全ユーザー」ではなく、「アハ・モーメント」に達したユーザーのみを計測対象としていることにあります。
計測対象を「アハ・モーメント」に達したユーザー絞りこむことで、「アハ・モーメント」に達しなかったユーザーが考慮されなくなり、データの分析の結果が偏ってしまうリスクがあります。
なお、このような計測方法にはもう一点、注意が必要なことがあります。
例えば、特定の機能がサービスに追加されることや、その通知によって、「アハ・モーメント」に達する割合が増加する、言い換えれば、アクティベーション率が向上する一方で、(外部要因によって「アハ・モーメント」に達するユーザーが生じるため)タイム・トゥ・バリューが遅くなる場合があります。
従って、この方法を使ってタイム・トゥ・バリューを計算するときは、「アハ・モーメント」に到達したユーザーの割合、すなはちアクティベーション率も、以下のチャートのようにモニターしてください。
また、例えば以下のチャートは、とあるスマートフォン向けのゲームのタイム・トゥ・バリューのトレンドですが、サービスの利用を開始したタイミングでユーザーを分けて、タイム・トゥ・バリューをモニターすることもあります。
カスタマー・ジャーニー・マップを使った計測
2つ目の方法は、ユーザーのカスタマー・ジャーニー・マップを比較しながら、タイム・トゥ・バリューを測る方法です。
1つ目の計測方法との大きな違いは、タイム・トゥ・バリューを1つの指標として測らないということです。
ここでの目的は、様々なユーザーのアクティベーションに至るまでのジャーニー(訳者注: 道のり)を比較し、どのようなジャーニーを辿ることがユーザーにとって最速かつ最小限の労力ですむかを理解することです。
そこで2番目の計測方法では、定性調査を行ったり、ユーザー体験に詳しい担当者を交えて、以下のような絵コンテを使ってユーザーが「アハ・モーメント」に達するまでに必要なステップを整理します。
この方法は、ユーザーがサービスの価値を感じるタイミングや、そこに至るまでのステップを明確にしてくれるので、サービスの設計段階や、アクティベーションに至るまでの仕組みを大きく変えるときのテストに適しています。
タイム・トゥ・バリューを短縮する方法
ユーザーを獲得する時にできること
もし、ターゲットに設定していないユーザーが、誤ったタイミングでサービスにアクセスした場合、どれだけ完璧なアクティベーションのフローを用意したとしても、明確な価値を感じられず、有料のユーザーに変えることはできません。
そのため、マーケティング担当者は、サービスの価値を感じられるぐらい顧客のモチベーションが高まっているときに、サービスに期待できることを提示して、サインアップを促すべきなのです。
また、ユーザー側のアクションを極力減らしながら、サービスやプロダクトの価値を提示することで、タイム・トゥ・バリューは、改善できます。
例えばゲーム会社は、閲覧しているWebページを離れることなく実際にゲームを試せるオンライン広告を利用しました。
また、AWW(訳者注: Webで利用可能なホワイトボードサービス。現在は競合のMiroにサービスが統合されている)は、Webサイトのトップページで、サインアップ不要のホワイトボードをユーザーに提供しました。これにより、AWWは当時オーガニック検索でマーケットリーダーだったMiroを追い抜きました。
ファネルの最適化
オンボーディングのユーザーのアクティベーションのための設計がでたら、次はそれを具体化し、最適化する番です。
この段階でできることとして、例えば、UIのテキストやインターフェースの改良、顧客に取ってもらうアクションの最小化、通知のサポート、カスタマーサクセスマネージャーの配置などがあります。
目標は、ユーザーのサービスの価値に気付くまでのジャーニーを阻害する全てを排除し、各ステップで必要な作業を最小限に抑え、サービルの価値に気付くまでの時間を短くすることです。
以上、要約終わり。
あとがき
今回は、「タイム・トゥ・バリュー」というコンセプトの概要、重要性、そして、その測り方を紹介しました。
記事でも触れられていたように、ユーザーのモチベーションは時間の経過と共に下がっていくため、できるだけ早く顧客にサービスやプロダクトの価値を伝えることが重要であることは言うまでもありません。
そこで、「タイム・トゥ・バリュー」をモニターすることになるわけですが、記事の中では、「顧客がサービスやプロダクトと価値を感じていると想定できるアクション」の探した方については触れておらず、どうやってそれを決めていくのかを疑問に思った方もいるかもしれません。
もちろん、ドメイン知識をもとに決めていくことも可能でですが、例えば、データを使って、「コンバージョン」と相関する「機能」を分析をすることで、何をもって顧客がアクティベートされたかを理解して、決めることも可能です。
また、タイム・トゥ・バリューが、もし自分達のサービスの継続期間と相関していないようであれば、そもそもモニターをする意味は半減してしまいますので、まずは、タイム・トゥ・バリューという指標と自分達のビジネスの間に相関関係があることを調べることも重要です。
上記のようなことを調べたいときには、生存曲線を使ったコホート分析が有効です。
なお、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使うと、前述した「コンバージョン」と相関する「機能」の分析や、コホート分析を簡単に行えます。
Exploratoryを使ったそちらの詳しいやり方を以下のリンクで紹介していますので、興味がある方は、ぜひご覧ください。
サブスクデータ分析: トライアルツアー
上記にて紹介したコンバージョンの要因分析や、サービスの継続期間の分析だけでなく、サブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化や分析の手法をコードを書くことなく、ハンズオンを通して無料かつ短時間で学んでいただけるコンテンツをまとめています。
サブスクリプション型のビジネスのご担当者様は、ぜひご覧ください!
サブスク型ビジネスデータ分析のためのページ
SaaSなどを始めとするサブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法やシリコンバレーなどでの事例を1つのページにまとめて公開しています。
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