SaaSなどのサブスクリプション型のビジネスでは、MRR(月間定期収益)といった収益の指標をモニターしているだけでは、前月と比較して収益が増えた、あるいは減ったといったことしか分からず、ビジネスがどれだけ効率的に成長しているかが分かりません。
そこで、今回はサブスクリプション型のビジネスの成長の効率性を測るための3つの指標を紹介します。
1. MRR成長率
サブスクリプション型のビジネスでは、1人の顧客から毎月または毎年、繰り返し収益を得られます。
このように繰り返され状態をリカリング(Recurring)と呼ぶことから、定期的に得られる収益をサブスクリプション型のビジネスでは リカリング・レベニュー(Recurring Revenue) と呼び、顧客ごとのリカリング・レベニューを足し上げたものがビジネス全体の収益となります。
このとき、月ごとに得られる収益を MRR(Monthly Recurring Revenue /月間定期収益) と呼びます。
そして、サブスクリプション型のビジネスでは、既存顧客からの収益が継続するので、MRRは新規顧客の分だけ増えます。
しかし実際には、顧客はサービスをキャンセルすることになるので、サブスクリプション型のビジネスでは、新規顧客(コンバージョン)を増やすだけでなく、キャンセルを減らすことも重要となります。
そして、ビジネスがどれだけ成長しているかは、前月のMRRに対して、翌月どれだけのMRRを増やせているのか指標であるMRR成長率を継続的にモニターすることで測ることが可能です。
2. ネット・レベニュー・リテンション率
MRR成長率をモニターすることで、どれだけビジネスが成長しているかを把握することはできますが、どれだけ「効率的」に成長しているかどうかまでは分かりません。
例えば以下のようにMRRが成長しているビジネスがあったとします。
このビジネスを深く理解するためにMRRを分解すると、サービスを使い始めた顧客のキャンセルが多く、新規顧客に頼ったビジネスであることがわかりました。
このように顧客のリテンション率(サービスを継続する割合)が低いビジネスでは、表向きにはMRRが成長しているように見えていても、毎月、多くの新規顧客にサービスを使い始めてもらう必要があるため、ビジネスが効率的に成長できるような構造になっているとは言えません。
さらにサブスクリプション型のビジネスでは、多くの場合、顧客はいつでもプランをアップグレードまたはダウングレードできるため、収益が効率的に成長しているかを把握するためには、それらを考慮する必要もあります。
そこで、顧客がサービスをどれだけ継続したかの割合であるリテンション率ではなく、アップグレードによる収益増や、ダウングレードによる収益減を考慮できるように、「収益」のリテンション率をモニターします。
このように顧客の数でなく、収益に注目したリテンション率のことをネット・レベニュー・リテンション率と呼び、ネット・レベニュー・リテンション率の推移をモニターすることで、ビジネスが「効率的」に成長していけるようになっているかを理解することができます。
顧客のリテンション率は100%を超えることはありませんが、既存の顧客からのアップグレードが発生すると、収益のリテンション率であるネット・レベニュー・リテンション率は上記のチャートのように100%を超えることがあります。
このような状態をサブスクリプション型のビジネスの世界では、ネガティブ・チャーンと呼び、ネガティブ・チャーンが発生しているということは新規顧客がゼロでも、ビジネスが成長するような構造になっていると言えるわけです。
当然、このようなビジネスに新規顧客が加われば、ビジネスはより速いスピードで成長していくことになります。
そのため、ネット・レベニュー・リテンション率をモニターし、改善していくことで、新規顧客を獲得した分だけ成長を加速させていく下地を整えられるわけです。
3. 営業効率
ネット・レベニュー・リテンション率をモニターすることで、既存顧客からどれだけ効率的に収益を得られているかの指標ですが、新規顧客に注目をしたときに、追うべき指標は営業効率です。
このことを、以下のように成長しているビジネスを例に考えてみます。
このチャートに営業・マーケティング費用を追加して、
新規顧客からのMRRと営業・マーケティング費用のみを比べてみます。
例えば1月に注目してみると、新規顧客からのMRRを得るために、それ以上の費用を営業・マーケティングにかけているため、営業・マーケティングの効率がいいとは言えません。
逆に、営業・マーケティングの費用よりも、新規顧客からのMRRを多く得られているのであれば、1月と比較して、営業・マーケティング効率は良いと言えます。
そして、新規顧客からのMRRを、営業・マーケティング費用で割ることで、1つの指標として営業・マーケティングの効率性を理解することができます。
この指標を営業効率指標と呼び、営業効率指標をモニターすることで、新規顧客の獲得効率と、その効率が改善しているかを理解することができるわけです。
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サブスク型ビジネスのデータ分析のためのページ
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