カスタマーサクセスなら見ておくべき4つの先行指標
SaaSやサブスクリプション型のビジネスでは、顧客やユーザーのリテンション(維持)が最重要です。そのため、顧客がサービスや製品を通して課題を解決できているか、さらには費用を払うだけの価値を感じているのかを理解する必要があります。
こうしたことをサポートするのがカスタマーサクセス・チームで、顧客を維持できている割合の「リテンション率」あるいはその逆の「キャンセル率」を最も重要な北極星となる指標としてモニターすることになります。
しかし、それらの指標は結果の指標に過ぎません。そのため、SaaSやカスタマーサクセス・チームのビジネスの改善のためには、将来のリテンションの予測に役立つような、カスタマーサクセスの活動の成果を測る先行指標をモニターして、その結果をもとに行動を起こすことが必要です。
そこで今回の記事では、リテンションを上げるため、もしくはキャンセルを減らすために行っている活動が本当に役立っているのかを測る4つの指標を紹介します。
1. オンボーディング成功率
まずは、SaaS型のビジネスにおける顧客のライフサイクルをもとにオンボーディング成功率を見ていきます。
多くの場合、カスタマーサクセス・チームはサービスの利用(購読)を開始した後に、顧客がスムーズにサービスを使い始められるように、以下に代表されるような「オンボーディング」を提供します。
- ニーズに合わせたチュートリアルなどの情報提供と実施の支援
- 製品やサービスの使い方を紹介するセッションやハンズオンセミナーの実施
- 製品やサービスの利用開始時の利用伴走
そこで「オンボーディングが成功した顧客の割合」である「オンボーディング成功率」をもって、顧客がスムーズにサービスに使い始められているかをモニターします。
なお、このときの「成功」の定義はサービスによって変わります。
例えば、顧客ごとにカスタマーサクセスの担当者が割り当てられるビジネスであれば、顧客ごとにオンボーディングの成否を測ることが可能です。
一方で、顧客ごとにカスタマーサクセスの担当者が割り当てられないようなビジネスであれば、チュートリアルの完了など、あらかじめ決めておいたオンボーディングのプロセスの完了をもってオンボーディングの成功とみなすことが可能です。
オンボーディング成功率をモニターすることで、スムーズにサービスを使い始められている顧客の割合を増やせているかを理解できます。
2. タイム・トゥ・バリュー
顧客がサービスを使い始めると、短期間でサービスの価値に気付く顧客もいれば、そうでない顧客もでてきます。
サービスの価値をより早く実感できれば、エンゲージメントが上がり、コンバートまたはアップグレードする可能性が高まり、まわりに紹介してくれる可能性も高まり、キャンセルする可能性は下がります。
そこで「顧客が価値を見出すまでにかかった平均的な時間」として「タイム・トゥ・バリュー」を測り、モニターすることで、サービスの価値を感じるまでの時間を短くできているのかを理解できます。
なお、このとき、データを使った定量的な分析(例: 多変量解析やチャートを利用した相関分析)、あるいはインタビューなどを利用した定性的な分析をもって、「顧客が何をもってサービスに価値を見出しているのか」を決めることが可能です。
3. ヘルススコア
ヘルススコアは顧客がサービスからの価値を感じ続けているかどうかを測る指標です。
そのため、ヘルススコアが高ければキャンセルする可能性は下がるだけでなく、周囲に自分達のサービスを紹介してくれる可能性も高まります。
ヘルススコアを測る方法はビジネスによって異なりますが、例えばオンライン会議ツール(例: Zoom)であれば、参加したWeb会議の参加回数で、健康度(ヘルススコア)を測ることができます。
このように自身のビジネスに価値を見出していると考えられる顧客の行動をもとにヘルススコアは測れますが、サービスの利用状況以外にも、以下のような切り口をもとに顧客ごとにスコアを付け、その合算値をヘルススコアとして計算することも可能です。
なお、顧客ごとにヘルススコアのデータを用意することで、ヘルススコアの低い、つまりはキャンセルする可能性が高いと想定される顧客に対して、プロアクティブな働きかけができるようになります。
また、顧客ごとのヘルススコアの平均値を計算しモニターすることで、カスタマーサクセスとしての全体的な活動が改善しているのか、あるいは悪化しているのかを理解して、顧客のキャンセルの可能性を下げるためのアクションを実行し始めることができます。
4. NPS(ネット・プロモーター・スコア)
NPS(ネット・プロモーター・スコア)は顧客が「主観的に」どれだけの価値を感じているのかを測る指標です。
先程のヘルススコアと同様に、NPSが高ければキャンセルする可能性が下がるだけでなく、周囲に自分達のサービスを紹介してくれる可能性も高くなります。
NPSは「他の人に推薦したいか」という回答者が取り得る具体的な行動を質問します。
このような質問の仕方をすることで、回答者は自分が具体的な行動を起こすに足るほどの価値を感じたかどうか、という基準でスコアを付けるようになるので、より正直あるいは正確な結果を得られるようになります。
NPSは、回答者をスコアによって以下の3つのグループに分け、9以上のスコアをつけたプロモーター(推奨者)の割合から6以下のスコアをつけたデトラクター(非推奨者)の割合を引いて計算します。
例えば、以下は2つのSaaSサービスのNPSサーベイの結果です。
スコアの平均値を計算すると、どちらも8です。
しかし、回答の分布を見ると、Aのサービスの方がより強くサービスに価値を感じている9以上のスコアをつけている人の割合が多いことがわかります。
一方で、Bのサービスの場合、どちらかというとサービスに価値を感じていると思われる7や8に回答が集中していることがわかります。
上記を踏まえると、9や10のスコアを付けている人たちが多くいるサービスAの方が、周りに広まっていきやすく、より多くのユーザーが長い期間使い続けてくれると想定できます。そこで、NPSはそういった特徴を捉えられるような計算方法となっているわけです。
なお、以下は誰もが知っているような企業のNPSのスコアですが、NPSは一般的に、50を超えると素晴らしいものとされ、70を超えると世界中に広がるような「ワールドクラス」の企業と言われます。
もちろん前述した基準値を目指すことも重要ですが、NPSのトレンドをモニターすることで、顧客が感じるサービスの主観的な価値が改善しているかを理解できます。
ダッシュボードを使ってリテンションとその先行指標の計算を自動化、モニターする
今回はリテンションやキャンセルの先行指標となりうる4つの先行指標を紹介しました。
実際のビジネスの現場では、リテンション率あるいはキャンセル率と合わせて、これらの指標をモニターしていきながら、次のアクションを計画したり、現在の活動の軌道修正を行っていくことになります。
しかし、毎回データを取得し、指標を計算のうえチャートを作っていては時間がいくらあっても足りません。そこで定期的(例:毎日、毎週、毎月)に複数の指標が計算され、さらにそれらのトレンドを把握するための複数のチャートが生成され、1つのダッシュボードにまとめられて、メールなどでその情報が送られてくると、放っておいてもデータを見ていく習慣ができます。
例えば、データの加工とチャートやレポートの作成が簡単にできるExploratoryのようなツールを使ってダッシュボードを作り、スケジュールすることで、毎月(または毎週)最新のデータを元に自動的に生成されたダッシュボードがメールで配信されるようになります。
なお、今回の紹介した指標と、それらをExploratoryを使って実際に計算する方法を紹介したセミナーを最近開催しました。そちらの録画もこちらで公開していますので、ぜひご覧ください!
サブスク型ビジネスのデータ分析のためのページ
SaaSを始めとするサブスクリプション型のビジネスにとって重要なKPIとその作り方だけでなく、データの加工・可視化・統計・機械学習などのデータサイエンスの手法を使ってビジネスを改善するためのデータ分析のやり方を1つのページにまとめて公開しています。ぜひご覧ください。
データサイエンスを体系的に学びたい!
今回はカスタマーサクセスなら見ておくべき4つの先行指標を紹介しましたが、ビジネス全体を改善していくためのヒントを得るためには、収益やキャンセルなどの指標を予測したり、またはその裏にある因果関係に迫っていくための分析が欠かせません。
そこで、そういった分析手法を基礎から、そして体系的に学びたいという方向けに、データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニングを6月に開催しますので、興味のある方はぜひご参加をご検討いただければと思います。