SaaSを始めとするサブスクリプション型のビジネスにおいて、1人の顧客の生涯を通して得られる収益であるCLV (Customer Lifetime Value / 顧客生涯価値)を理解することは非常に重要です。
なぜなら、顧客1人からどれくらいの収益を見込めるかを理解できれば、新規顧客の獲得や既存顧客のリテンションにどれくらいの費用をかけられるかを決めることができるためです。
そこで、今回はサブスクリプション型のビジネスにおけるCLVを計算する以下の3つの計算方法を紹介いたします。
- 勘でCLVを見積もる
- チャーン率からCLVを推定する
- 生存率からCLVを推定する
1. 勘でCLVを見積もる
まずは、一番な簡単なものから見ていきます。
例えば、顧客の平均的な継続期間が12ヶ月ぐらいと想定して、1人あたりの月間収益が1万円の場合、CLVは以下のように12万円になります。
12 * 10,000 = 120,000
この12ヶ月という数字に根拠がない場合、この計算は少し単純すぎるかもしれません。なぜなら、どのようなビジネスでも顧客はサービスをキャンセルをするので、このような見積は現実的ではないからです。
2. キャンセル率からCLVを推定する
次に注目したいのが「顧客の平均的なサービスの継続期間(平均継続期間)」からCLVを計算する方法です。
例えば、ある月に100人の顧客が、あなたのサービスを使い始めて、その顧客達の毎月のキャンセル率が50%だったときと比べて、毎月のキャンセル率が1%だったときとでは、その100人のサービスの平均継続期間には大きな差が生じます。
このように、顧客の平均継続期間は、キャンセル率に左右され、キャンセル率が高ければ平均継続期間は短くなり、その逆であれば、平均継続期間は長くなる特徴があります。
そして顧客の平均継続期間は以下の計算によって求めることが可能です。
平均継続期間 = 1 / キャンセル率
例えば、毎月のキャンセル率が10%だとすると、平均継続期間は以下のように、10ヶ月として計算ができます。
1 / 0.1 = 10
平均継続期間を求められたら、後は顧客あたりの月間収益を掛けることでCLVを計算できます。
例えば、1人あたりの月間収益が1万円のサービスの場合、CLVは10万円になるわけです。
10 * 1万円 = 10万円
ただし、 この計算には問題があります。
なぜなら、上記の計算方法はキャンセル率が常に一定であることを前提にしているのに対して、実際のビジネスの現場では同じ比率で顧客がサービスを継続/キャンセルし続けることはないからです。
例えば、先程の例のように100人の顧客がサービスを使い始めたとして、それらの顧客に注目すると、最初の月のキャンセル率は40%、2ヶ月目は30%、その後は25%といった形で、一般的にはキャンセル率は時間の経過とともになだらかになるような特徴があるのです。
そして、新規顧客の獲得や既存顧客のリテンションにどれくらいの費用をかけられるかを正確に試算するためには、より現実に近い利用状況をもとにCLVを計算する必要があります。
そこで、顧客生涯における各期間までのリテンション率(生存率) を計算し、それらの値を月間収益に掛けてCLVを計算する方法があります。
3. 生存率からCLVを推定する
顧客のサービスの利用開始タイミングからの生存率(またはリテンション率)を推定するために最も適したやり方は、統計のアルゴリズムとしてよく知られているカプラン・マイヤー法を使った生存曲線を利用することです。
カプラン・マイヤー法の優れたところは、サービスを利用し始めて日が浅いユーザーや、キャンセルしているか不明なユーザーを考慮できる点にあります。(詳しくは以下のリンクをご参考ください)
カプラン・マイヤー法を使って生存曲線を描くと、以下のようにサービスの利用を開始してからの経過月数ごとの生存率を可視化できます。
では、この生存曲線を使ってどのようにしてCLVを計算すればいいのでしょうか?
改めてになりますが、CLVとは顧客がコンバージョンしてからキャンセルするまでの間に期待される収益のことです。そのため、各期間の期待収益は次のように計算することができます。
ある期間の期待収益 = その期間までの生存率 * 顧客1人あたりから得られる平均的な月間定期収益(ARPU)
生存曲線に照らし合わせて考えてみると、X軸が0の期間はサービスの利用を開始したタイミングを意味をしているので100%から始まります。
仮にこのサービスの月額費用が1万円だとすると、顧客1人あたり1万円の収益が期待できるということになります。
また2ヶ月目(生存期間: 1)の生存率は67.47%です。
ここから言えることは、この期間の顧客1人当たりの期待収益は1万円ではなく、6700円であるということです。
なぜかというと、仮に最初に100人の顧客がいた場合、生存率が67%ということは、この期間が終わるまでに67人の顧客しか残っていないということになります。
つまり、この67人からしか収益が期待できないということです。このサービスの月額費用は1万円のため総収益は67万円となります。
67人 * 1万円(1人あたりの月間収益)= 67万円
元々100人の顧客がいたので、顧客1人あたりの平均収益を計算するには 67万円を100で割り、6700円になるわけで、以下のような計算をしていることになります。
0.67(67%)* 1万円(1人あたりの月間収益)= 6700円
このように、1人あたりの月間収益に、その期間の生存率を掛けることで、各期間の期待収益を計算することができます。
3ヶ月目も同様です。
生存率は約63%なので、この期間の顧客1人当たりの期待収益は6300円です。
0.63 * 1万円 = 6300円
生存率は期待収益と同様に、時間が経つごとに減少する傾向にあると言え、全員がキャンセルするまでの全期間の期待収益を足し上げたものがCLVとなるわけです。
実際のデータを使ってCLVを計算したい
今回、紹介した3番目の「生存率からCLVを計算する」ためには、カプラン・マイヤー法を使った生存曲線を描くことが必要ですが、そちらの詳しいやり方を紹介するセミナーの録画も公開していますので、ぜひご覧ください!
サブスク型ビジネスのデータ分析のためのページ
SaaSを始めとするサブスクリプション型のビジネスにとって重要なKPIとその作り方だけでなく、データの加工・可視化・統計・機械学習などのデータサイエンスの手法を使ってビジネスを改善するためのデータ分析のやり方を1つのページにまとめて公開しています。ぜひご覧ください。
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