シリコンバレーの注目スタートアップがビジネスの成長のために採用した「スマート・トライアル」を紹介します
最近、サブスクリプション型のビジネスの世界では、プロダクト自身がビジネスの成長を牽引していくタイプの「プロダクト・レッド・グロース(PLG/Prodcut Led Growth)」という成長モデルに注目が集まっています。
プロダクト・レッド・グロースのモデルとして最も有名なのが、Web会議のSaaSサービスのZoomです。
Zoomは、40分まで無料で利用きるWeb会議ツールを提供します。そして、ユーザーは実際にZoomを試し、より長いWeb会議を実施したり、より多くの機能を使いたいときに有料プランに移行します。
このように、プロダクト・レッド・グロース型のビジネスでは、サービスやプロダクトの試用を通して、ユーザー自身にプロダクトやサービスの価値を見出してもらい、有料のプランにアップグレードしてもらいます。
しかし、営業活動を全く行わずにいると、売り逃しが発生しますし、逆に、営業が全ての試用中のユーザーをサポートするのは、リソースの観点で非現実的です。
そこで、例えば、急激に成長しているプロダクト・レッド・グロース型の企業では、データを使って、ユーザー自身がプロダクトやサービスの価値を見出しやすくなる仕組みを作り、さらにその仕組みと営業活動を融合させ、ビジネスを成長させています。
今回は、そういった仕組みを実際に構築しているシリコンバレーのテック企業の例を、プロダクト・レッド・グロースという言葉を生み出したOpenViewの運営パートナーのKyle Poyarが公開していましたので、こちらに要訳として紹介します。
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パーソナライゼーションと営業活動を組み合わせた「スマート・トライアル」
プロダクト・レッド・グロース型の企業は、プロダクトやサービスの価値を適切に伝えて、見込み顧客に自分達のサービスの価値に気付いてもらえることや、その時間をできる限り短くする方法を考え続けています。
例えば、Coefficient(訳者注: Googleスプレッドシートに様々なプラットフォームからデータを取り込めるシリコンバレーのSaaSサービス)は「スマート・トライアル」というアプローチを採用し、自動化されたパーソナライゼーションと、営業活動を組み合わせて成果を出しており、こちらで、その詳細を紹介いたします。
B2C領域におけるパーソナライゼーションの事例は多くありますが、今後、B2Bのサービス、特にプロダクト・レッド・グロース型の企業においても、これらのアプローチが増えることが予想されます。
例えば、Coefficientは、「スマート・トライアルを提供することで、たった1人の営業担当者が Spotify(訳者注: 4億人以上の会員を抱える音楽ストリーミングサービス)や、Miro(訳者注: オンラインホワイトボードサービス。未上場で評価額が10億ドルを超える「ユニコーン企業」の1つ)などの主要な顧客を獲得し、1,800万ドルを資金を調達しました。
プロダクト・レッド・グロース型の企業では、自分達のプロダクトやサービスの価値に気付いてもらえるように、無料トライアルや無料プランを提供します。特に最近は、無料トライアルから始まり、トライアル期間が終わると無料プランにダウングレードする、「リバース・トライアル」が増えてきています。
また無料プランを提供するモデルを、「フリーミアム」と言ったりしますが、「フリーミアム」のビジネスでは、コンバージョン率が平均しても5%といったデータもあり、営業担当者が全ての見込み顧客に関わることは、効率が良い取り組みとはいえません。
そのため、プロダクト・レッド・グロース型の企業は、見込み顧客が自身の力でサービスの使い方や価値に気付いてコンバートするセルフサービス型のモデルを採用することになりますが、セルフサービスの仕組みだけでは、ポテンシャルの大きい顧客がサービスの価値に気付けず、売り逃しが生じてしまいます。
Coeffcientのスマート・トライアルの概要
そこで、Coefficient は、そういった問題を解決するために「スマート・トライアル」を採用しています。
Coefficientにサインアップすると、無料トライアルが始まり、無料トライアルの期間中は、全ての機能の利用が可能です。Coefficientはトライアル中のユーザーが、サービスやプロダクトをどのように利用しているかの情報を元に、彼らに最適な情報を送り、コンバージョンを後押しします。
こういったパーソナライズされた自動化は、真新しいアプローチではありませんが、多くのプロダクト・レッド・グロース型の企業は、見込み顧客の行動に基づいて、ナーチャリングメールを送って、トライアル中のユーザーが「アハ・モーメント(訳者注:サービスやプロダクトに明確な価値を見出す瞬間)」を迎えられるような仕組みを作っています。
実際、Coefficientは、トライアル中のユーザーの利用状況に応じて、トライアルまでの期限の情報を提示したり、トライアル期間を延長したり、購入を見送った理由のデータ収集を行っています。
こういったアプローチは、ユーザーのGoogleスプレッドシートのスキルに応じて拡張することも可能です。
例えば、ユーザーのスキルを理解することができていれば、そのユーザーにとって、より高度な機能が合っているか、あるいは(スキルが低い人にとっては価値になる)Coefficientが用意するテンプレートを薦めるべきかが分かり、伝える情報を出し分けられるわけです。
Coefficientの送っているパーソナライズされたメッセージ例
Coefficientは、営業関連のリソースを、導入を真剣に考えている、あるいは、サービスやプロダクトが解決できる問題を抱えている顧客にこそ使うべきと考えており、そのために、手作業で行っていた営業活動をできる限り自動化するように努めています。
営業担当者は、例えば、サービスやプロダクトの使い方に気付いてもらうための活動や、顧客にあった調達プロセスの紹介など、自動化だけではなし遂げることができない、顧客にとってより価値のある行動のためだけに、トライアル中のユーザーや無料プランのユーザーに連絡します。
このようなアプローチには、サービスやプロダクトの価値に対する確固たる信念、あるいは解決しようとしている顧客の問題に対する深い理解が必要です。
そして、営業を介在させずにユーザーが製品の価値に自ら気付ける仕組みをつくるには、忍耐強さやデータ読み解く力(データに対する洞察力)が欠かせません。
最後にスマート・トライアルを始める前に、考慮すべきポイントをいくつか紹介します。
- もし、ユーザーが「セルフサービス」で「アハ・モーメント」を迎えられないのあれば、まずはアクティベーション(訳者注:サービスやプロダクトの価値を実感できると想定できるアクションをしているかどうか)と、タイム・トゥー・バリュー(訳者注:ユーザーがサービスに価値を見出すまでの時間)に注目してください。
- ユーザーの企業情報(業界・所在地・規模・企業形態・ビジネスの状況)、ユーザーの役割、プロダクトやサービス内でのアクションのデータを取得できていない場合、パーソナライゼーションの基盤として、まずはデータの収集に注力してください。
- 理想的な顧客像を設定できていないようであれば、パーソナライゼーションの第一歩として、ターゲットを明確に定義してください。
以上、要約終わり。
あとがき
今回は「プロダクト・レッド・グロース」型のB2B企業が、ビジネスの成長のために、どのようにして効果的なセルフサービスの仕組みを作っているか、さらにはセルフサービスの仕組みをどのように営業活動と融合させているかを紹介しました。
記事では、大まかなユーザーのセグメント分けの方法のみを紹介していましたが、コンバートしやすい/しにくい企業やユーザー行動が分かれば、より効果的なセグメント分け・パーソナライゼーションができます。
例えば、統計や機械学習の予測モデルを構築することで、こういったことは簡単に知ることができますので、興味がある方・実際に試してみたい方は、後述する「サブスクデータ分析のトライアルツアー」をぜひお試しください!
サブスクデータ分析: トライアルツアー
サブスクリプション型のビジネスに特有な指標の作成・可視化の手法だけでなく、どういった顧客がコンバージョンがしやすいか、あるいはキャンセルしやすいかを分析する手法を、コードを書くことなく、ハンズオンを通して短時間で学んでいただける無料コンテンツをまとめています。
上記のトライアルツアーは、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのEpxploratoryを使って進めることになりますが、Exploratoryでは無料で利用が可能なパブリックプランも用意していますので、サブスクリプション型のビジネスのご担当者様は、ぜひお試しください!
サブスク型ビジネスデータ分析のためのページ
SaaSなどを始めとするサブスクリプション型ビジネスにとって重要なKPI、データの加工、可視化、統計・機械学習といった様々なデータサイエンスの手法やシリコンバレーなどでの事例を1つのページにまとめて公開しています。
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