時系列データは、ビジネスの世界で最も多く扱われているタイプのデータの1つです。
しかし、その活用となると、ラインチャートで指標の推移を可視化して、その上下に注目する、あるいは、設定したターゲットを満たしているかを確認するだけにとどまってしまっていることも少なくありません。
一方で、時系列のデータが手元にあれば、注目に値するような変化が生じているのか、あるいは、将来その指標がどうなっていくのか、さらには時系列の推移からどのようなパターン(周期性など)があるのかを理解し、ビジネスの改善に役立てられます。
そこで今回は、時系列データがあったときに実行可能な4つのタイプの分析を紹介いたします。
1. 前の期間(例: 前年同月)の値との比較
売上、コンバージョン率、返品率など、ビジネスの指標を定期的(例: 週/月/年間など)にモニターをすることはよくやることの1つです。
しかし、多くの場合、ビジネスの指標の多くはばらつくことになるため、チャートで指標の推移を可視化して、その上下に注目していては、日々ばらつく指標の推移が良い状況なのか、あるいは悪い状況なのかを理解することができません。
そのようなときには、前年同月比のように、前の期間の指標を1つの判断基準として可視化することで、注目をしている指標が、良いのか悪いのか、あるいは継続して良くなっているのかを判断することができるようになります。
2. XmRチャートを使ったシグナルの発見
前述したように、前の期間と比較することで、注目している指標が前の期間より良いのかあるいは悪いのかといったことは分かります。
しかし、ビジネスの指標はばらつくため、前の期間と比べたときに、たまたま過去と比べて良かった、あるいは悪かった、ということはよく起こります。
そのような状況で勘や経験をもとに、該当の指標の状況を評価しようとすると、以下のような問題に直面してしまいます。
- 特に注意を払う必要がない程度の状況(ノイズ)を、注意を払うべき状況(シグナル)として捉えて、余計あるいは無駄な行動を起こしてしまう
- 注意を払うべき、あるいは、アクションを取った方がいい状況(シグナル)を、注意を払う必要がない状況(ノイズ)と捉えて、行動を取らない
そのようなときに有効なのがXmRチャート(管理図、コントロールチャート) です。
XmRチャートは「統計的品質管理の父」と呼ばれるウォルター・シューハート氏によって作られ、1950年代以降日本の製造業に統計的品質管理を教えたデミング氏とともに活動をしてきたドナルド・ウィーラー氏によって再発見されたもので、時系列の指標のトレンドのチャートに、以下の情報を追加したものになります。
- 平均値
- 管理限界の上限値と下限値
- 管理限界の上限値/下限値と平均値の間の値
XmRチャートを利用すると、以下の3つのルールをもとに、注目している指標が良い意味においても、悪い意味においても、注意を払う必要があるような状況なのかを読み取ることが可能です。(なお、ここで言う良い意味とは、例えば何らかの行動を起こしたときに注目している指標が改善しているような状況か、悪い意味とは、何らかの行動を起こす必要がありそうな状況かということです)
- ルール 1: 値が管理限界の外にあるとき
- ルール 2: 連続した4つの値のうち3つが平均よりも上限(または下限)に近いとき
- ルール 3: 平均の上側(または下側)に連続して8つの値が並んだとき
例えば、以下のようなサインアップ数という指標に関するXmRチャートがあった場合、2024年の6月以降の4つの連続したデータポイントのうち3つは中央線よりも上側に位置していることから、ルール2をもって、良い意味において(基本的にサインアップ数は増えれば得るほどいいものになるため)注意を払う必要があるような状況と言えます。
なお、XmRチャートやその作り方の詳細は、以下のリンクで詳しく紹介していますので、ぜひご参考ください。
3. Prophetを使った予測と分析
ProphetはMeta(旧Facebook)社が開発した時系列予測のモデルで、専門知識がなくても、時系列のデータさえあれば、注目している指標の将来の値を簡単に予測できるモデルで、その精度の高さと扱いやすさからビジネスの現場での活用が広がっています。
仮に将来の売上の推移を高い精度で予測することができれば、売上目標を超えそうかどうかをもとに、先んじて行動を起こすことができます。
あるいは、在庫を伴うようなビジネスの出荷(売上)に関して、より正確な予測ができるようにあれば、欠品を防いだり、過剰な在庫を抱えるリスクを減らして、ビジネスに貢献できます。
なおProphetは、指標の推移から、季節性(周期性)、トレンドの情報に加えて、別の指標の推移の情報を抽出してモデルに組み込み、それぞれを足し上げて、高い予測精度を実現しているのですが、それらの情報自体が、有益な気付きを与えることも少なくなく、将来の予測に加えて、モデルを通して以下のような分析も可能です。
- トレンドの分析
- 季節性(周期性)の分析
- 予測に影響を与える指標の重要度の分析
Prophetを使った指標の予測や、上記の3点の分析につきましては、以下の記事で詳細を紹介ていますので、ぜひご覧ください。
4. 時系列クラスタリングを使ったセグメンテーション
時系列クラスタリングは、複数のグループにおけるそれぞれのデータの変動を考慮して、似たような「形状」や「傾向」のパターンをもつデータをグループ(クラスター)に分けられる手法です。
例えば、あなたが小売のビジネス担当者だとして、数十の店舗があったときに、似たような売上の推移の仕方をしている店舗をグループに分けて、それぞれの店舗に見合った施策を検討しようとしていたとします。
そのようなときに、売上の規模感が異なる複数の店舗の売上推移を「形状」や「傾向」をもとに、人力で分類するのは至難の業です。
しかし、時系列クラスタリングでは、「標準化(値の大きさを問わず、データの平均が0になるようにして、平均からどの程度、各値がばらついているかを測る方法)」した値を使って、時系列クラスタリングを実施することが可能なため、売上の大小を問わず、それぞれのタイミングにおける注目している指標が平均からどれだけ離れているかをもとに、その「形状」や「傾向」をもとに効率的にグループ分けができるようになります。
なお、時系列クラスタリングのやり方の詳細はこちらで紹介していますので、よろしければご参考ください。
自分のデータで試してみたい!
今回は時系列データを使って可能な4つのタイプの分析を紹介しましたが、全ての手法は、時系列のデータがあれば、すぐにでも試せますす。
一方で、前の期間の値をチャート上で表現しようと思うと、複雑なデータの加工が求められ、XmRチャートでは、チャート上に表示するべき複数の情報をあらかじめ計算し、それらの情報をチャート上に表示させることが求められます。
さらに、Prophetや時系列クラスタリングに至っては、コードを書いてモデルを構築し、作成したモデルから必要な情報を抽出して可視化する必要があります。
そこで、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのExploratoryを利用することで、UIを通してそれらの処理を数クリックで簡単に実行することが可能です。
Exploratoryは下記のリンクより無料トライアルが可能ですので、ぜひお試しください。
データサイエンスを体系的に学びたい!
実際のビジネスを改善していくためのヒントを得るためには、今回紹介したような分析手法を駆使することに加えて、それらの手法を活かすための「科学的思考法」が欠かせません。
そこで、そういった考え方や分析手法を基礎から、そして体系的に学びたいという方向けに、データサイエンス・ブートキャンプ・トレーニングを12月に開催しますので、興味のある方はぜひご参加をご検討いただければと思います。