スタートアップにとってまず最初に重要なのは、顧客にとっての問題を理解した上でその解決のためのプロダクトの開発に力を入れることです。次にそうした問題を持っている人たちが多くいるマーケットに集中することです。
自分達のプロダクトが求められていないマーケットに対して営業・マーケティング活動したり、顧客に求められていない機能やサービスの開発に注力したりしている時間は、特にスタートアップにはありません。
自分達のプロダクトを必要とするマーケット(市場)があり、その規模が大きければプロダクトとマーケットがフィットしているということになり、こうしたプロダクトを提供するビジネスは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していくことになります。
そこで、スタートアップに関わっている人は特に立ち上げ当初に「プロダクト・マーケット・フィット」をものすごく気にします。
この「プロダクト・マーケット・フィット」を定量的に測る方法はいくつかありますが、プロダクトを本格的にリリースする前、あるいは、リリースしてからの日が浅いときには、使えない手法だったりします。
そこで、シリコンバレーでトップ5に入るベンチャー・キャピタルのAndreessen Horowitzが投資していることで知られているメール効率化サービスのSuperhuman から、プロダクト・マーケット・フィットをしているかどうか、さらにアンケートデータを使って、プロダクト・マーケット・フィットを達成するために注力すべき領域を見つける方法を紹介する記事がありましたので、こちらに要訳として紹介します。
- How Superhuman Built an Engine to Find Product Market Fit - リンク
Superhemanの事業を初めてから2年が経っても、プロダクトを本格的にローンチする準備は整っておらず、またプロダクト・マーケット・フィットを達成するためにすべきことを明確にする方法も見つけられずに私は苦しんでいました。
本格的なローンチ前だったこともあり、私達は積極的な広報活動は行わず、またオンボーディングも意図的に行っていなかったので、ユーザーは増えておらず、私たちの状況を明確に示す指標がなかったのです。
そこで私はどうすれば、プロダクト・マーケット・フィットを測れるのかを考えました。
そして、これらの試行錯誤の結果として、「プロダクト・マーケット・フィット」を実現するために実行した4つのステップと、そのきっかけになった「指標」を紹介します。
プロダクト・マーケット・フィットの先行指標
私がそれまで知っていたプロダクト・マーケット・フィットは結果としての指標を定義したものに過ぎませんでしたが、Sean Ellis(訳者注:Dropboxの創業期のグロース担当者で、グロースハックという言葉の生みの親)はプロダクト・マーケット・フィットの先行指標を見つけました。
彼が見つけた先行指標では、ユーザーに「もし製品を使用できなくなったらどう思いますか?」と尋ねてみて「非常に残念」と答えた人の割合で、プロダクト・マーケット・フィットしているかを測ります。
また、彼は100 近くのスタートアップを対象にした調査を通して、この指標のマジックナンバーが40%、であることを発見しました。
伸び悩んでいる企業は、ほとんどの場合、40%未満のユーザーが「非常に残念」と回答していますが、顧客を魅了して成長している企業は、40%以上のユーザーが「非常に残念」と回答しています。
また、この指標の活用例として、731 人の Slack ユーザーに対して行われたオープンリサーチ・プロジェクトがあります。調査の結果、51%のユーザーは、Slack がなければ「非常に残念」と回答し、Slackは50 万人の有料ユーザーを獲得することで、プロダクト・マーケット・フィットに達していたことを証明しました。
このアプローチからヒントを得て、我々も自分達のプロダクトに対する反応を調べました。
このとき我々は、「過去 2 週間で自社のプロダクトを少なくとも 2 回以上使用したユーザーを対象とする」というEllis のアドバイスに従って、自社のプロダクトの中核となる機能を利用したユーザーだけを調査の対象としました。(40人程度の回答が集まれば、適切な傾向をつかむできるようになります。これは皆様が思っているよりずっと少ない人数です)
次に、我々は前述のユーザーに、以下の4点を質問するアンケートを実施しました。
- Superhumanのサービスが使えなくなったらどう思いますか?(「非常に残念」「やや残念」「残念ではない」)
- どのような人にSuperhumanは最も役立つと思いますか?
- どのようなことに主にSuperhumanは役立っていますか?
- どうすればSuperhumanを改善できますか?
そして、まずは最初の質問を分析しました。
「非常に残念」と回答したのはわずか22%で、我々のプロダクトがプロダクト・マーケット・フィットに達していないことは明らかでした。
プロダクト・マーケット・フィットを達成するための4つステップ
各質問への回答は、いずれもプロダクト・マーケット・フィットを達成するためのフレームワークの重要な要素です。
私達は、以下の4つのステップで、プロダクト・マーケット・フィットの達成を図りました。
1. 顧客をセグメントに分けて、ターゲットを明確にする
初期段階のマーケティングでは、広報活動やプロダクトを無料で提供するキャンペーによって、あなたのプロダクトを必要としない、様々なタイプのユーザーを引き付けた可能性があります。そして、そういったユーザーをあなたのプロダクトを必要としていないはずです。
もちろん早い段階から、どういった人を対象とするプロダクトなのかを明確にして、ターゲットを絞り込むことも可能ですが、それでは新しい気付きは得られません。
私達の目的は、プロダクト・マーケット・フィットの達成のために、見落としていた、あるいは絞ることを考えなかった領域を見つけることでした。
そこで、まず、我々は最初の質問 (スーパーヒューマンを使用できなくなったらどう思いますか?) への回答に応じて回答者をグループに分けました。
続いて、各回答者の属性(職種)情報を調べました。
次に、「非常に残念」と回答した人達の属性を調べ、マーケットを絞り込みました。
今回の例で言うと、創業者、マネージャー、エグゼクティブ、ビジネス開発だけに注目するということです。
このようにマーケットを絞り込むことで、マジックナンバーの40%には足りないものの、PMFスコア(非常に残念だと回答した人の割合)は10%も上昇することが分かりました。
続いて、私たちのプロダクトを愛してくれているユーザーをより深く理解するために、期待値の高い理想的な顧客に注目しました。
最も重要なことは、彼らがあなたの製品を最大限に活用し、広める手助けをしてくれる、ということです。
そこで、 私たちは最初の質問に「非常に残念」と回答したユーザーだけを対象に、2番目の質問(どのような人に最もSuperhumanは役立つと思いますか?)の回答を分析しました。
この質問は非常に強力です。満足しているユーザーは、ほとんどの場合、自分にとって最も重要な言葉を使って、自分自身を説明してくれるので、自分達のプロダクトが誰のために機能しているかや、また彼らの心に響く言葉を知ることができます。
そのため、マーケティング活動のキャッチコピーにも貴重な気付きをもたらしてくれます。
お客様自身の言葉と、Julie Supanのフレームワークからヒントを得て、我々は期待値の高い詳細なユーザー像を以下のように作り上げました。
ニコルは、経営者、創業者、マネージャー、事業開発担当などの多くのタイプの人と接する勤勉なプロフェッショナルです。彼女は長時間働き、週末も頻繁に働きます。彼女自身もとても忙しく感じていて、もっと時間があれば、と思っています。彼女は自分が生産的だと感じる一方で、改善できる余地があるとも認識していて、改善策も検討することもあります。彼女は勤務時間のほとんどの時間を受信トレイの処理に費やしており、平日は100〜200通のメールを読み、15〜40通のメールを送り、忙しい日にはその数は80通にも及びます。
さらにニコルは素早く返答することを職務の一部と考えており、彼女自身がそうであることを誇りに思っています。また彼女は、自身の反応が悪いことが、チームの妨げになったり、評判を落としたり、チャンスを逃すことにつながることを理解しています。そのため彼女は未対応のメールを0件にすることを目指していますが、それができるのは、せいぜい週に2-3回程度です。また、1年に1回と、ごく稀にですが理想とは程遠いような状況に陥ることがあります。基本的に彼女は成長思考があり、新しいプロダクトに対してはオープンで、常に最新の技術を取り入れていますが、Eメールに関しては固定観念があるかもしれません。新しいメールクライアントに対してはオープンなものの、それが自分の仕事の速度向上に役立つかについては懐疑的です。
人によっては、早い段階で、このように特定のセグメントに顧客を絞り込むべきではない、と言う人もいるかもしれません。
しかし本質的には、大勢の人がちょっとだけを欲しがるようなプロダクトよりも、少人数がとても欲しがるプロダクトを作る方が良いのです。
2. フィードバックを分析し、中立的なユーザーをファンにする
ただし、期待値の高い顧客像を絞り込むだけでは不十分です。
私達のサービスのPMFスコアは40% を下回っていたので、なぜ、ユーザーが「非常に残念」と回答してくれたのかや、どうすれば、より多くのユーザーをこのセグメントに押し上げられるかを理解する必要がありました。
このことを理解するために、私たちは改めて、「非常に残念」と回答したグループを対象に、アンケートの 3 番目の質問「どのようなことにSuperhumanは主に役立っていますか?」の回答に注目しました。
回答を元にワードクラウド(訳者注: 文章を単語に分解して、各単語の登場頻度を、単語の色や大きさで可視化したもの)を作ると、いくつかの共通のテーマが浮かび上がりました。
私たちのプロダクトを気に入ったユーザーは、スピード、集中、キーボードのショートカットといった点で、我々のプロダクトを最も高く評価しました。
このように、ユーザーが感じているプロクトの魅力を深く理解したうえで、どうすれば多くの人に我々のプロダクトをより愛してもらえるかを考えたのです。
次のステップは、直感に反するものでした。
我々は自分達のプロダクトを使用できなくなっても、「残念ではない」ユーザーからのフィードバックは気にしないことにしました。
あなたのプロダクトがなくても、残念でないユーザー達は、プロダクトの戦略に影響を与えるべきではありません。彼らは余計な機能を要求したり、自分達のプロダクトには合わないユースケースを提示するでしょう。彼らのフィードバックに基づいて行動した場合、プロダクト・マーケット・フィットを追求する上で道に迷ってしまいます。
これで、あなたのプロダクトがないと、「やや残念」なユーザーが残ります。
この「やや」という点にこそ「魅力の種」があるのです。プロダクトに少し手を加えることで、彼らをあなたのプロダクトのファンになるかもしれません。
しかし、一方で、これらの人の中には、あなたが何をしようとも、あなたのプロダクトがなくなることで、残念に思うことはない人もいます。
そこで、我々は、3番目の質問(どのようなことにSuperhumanは主に役立っていますか?)から幸せなユーザーは、主にスピードに利便性を感じていることを理解していたので、これを「やや残念」と回答したグループのフィルターとして使用しました。
具体的には、多少がっかりしたグループを、スピードに関する2つの新しいセグメントに分け、各々のセグメントに対しての以下のアクションを取りました。
スピードを主要な利便性に感じていない、やや残念なユーザー:主要な利便性が響かないため、彼らの声に耳を傾けるのをやめました。
彼らが望むプロダクトを作ったとしても、そのプロダクトのファンになってくれる可能性は低いと言えます。
スピードを主要な利便性に感じていないユーザー: このグループには細心の注意を払いました。おそらく小さなことが、彼らの足を引っ張っているのです。
この最後のグループに焦点を当てて、4番目の質問(どうすれば、Superhumanを改善できますか?)に対する回答を詳しく調べました。
分析の結果、ユーザーを妨げている主な原因はモバイルアプリの欠如であることが分かりました。
私たちは常にモバイルアプリを構築することを計画していましたが、全てのスタートアップと同様に、たった1つのことにしかフォーカスする余裕がなく、デスクトップ版の開発しかできませんでした。
しかし、プロダクト・マーケット・フィットにはモバイルアプリが不可欠で最優先事項であることが明らかになりました。
さらに詳しく調べてみると、添付ファイルの処理、カレンダー、統合された受信トレイ、より良い検索、領収書の読み取りなど、あまり目立たない、より興味深い要望がロングテールに含まれていることがわかりました。
このプロセスにより、カレンダー機能の開発の優先順位を大幅に引き上げました。
私たちの主な利点と、不足している機能が明らかになったので、後はそれをプロダクトに反映させるだけです。
このように、「やや残念」と回答した特定のセグメントから得たフィードバックをプロダクトを実装して、彼らが熱狂的なユーザーになることを後押しするのです。
3. ユーザーが好むものと、その妨げになるものに集中するロードマップを作る
ユーザーが私たちのプロダクトを気に入っている理由と、気に入らない理由は理解できましたが、当初は両者の優先度をどのように決めていくのかが曖昧でした。
しかし、最終的に、ユーザーに愛されている領域だけに注力していても、PFMスコアは上がらないということが分かり、逆にユーザーの妨げになっている問題を解決するだけでは、競合他社に追い越されるリスクがあることを理解しました。
この気付きは、我々の開発計画の指針となり、効果的なロードマップの作成に役立ちました。
そこで、我々は「非常に残念」と回答したユーザーが気に入った機能をさらに強化するために、ロードマップの半分に以下のテーマを設定しました。
- より速いスピード
- より多くのショートカット
- さらなる自動化
- デザイン性の向上
さらに、スピードに魅力を感じているものの、「やや残念」と回答したユーザーのために、ロードマップの残り半分には、以下のテーマを設定しました。
- モバイルアプリの開発
- 統合機能の追加
- 添付ファイルの処理の改善
- カレンダー機能のサポート
- 統合された受信トレイ オプションの作成
- 検索機能の強化
- レシートの読み取り機能のサポート
また、これらの取り組みに対する優先順位を決めるために、コストとインパクトを分析しました。
具体的には各取り組みを、コストの観点で低/中/高で分類し、さらにインパクトの観点でも、低/中/高に分類しました。
人々の妨げになっているものの解決に対するインパクトは、特定の機能に対する要望の量から理解できます。
一方で、ユーザーに愛されているものを倍増させる領域に関しては、そのインパクトを直感で判断する必要がありました。これは、経験とユーザーへの深い共感から生まれるものです。
これらの整理した情報をもとに、改善したプロダクトをすぐに提供できるように、低コストでインパクトの大きい開発から取りかかりました。
4. プロダクト・マーケット・フィットのスコアを最重要指標としてモニターする
私達は、新しいユーザーに対して、定期的にアンケートを実施して、PMFスコアの推移をモニターしました。このとき、スコアを正確に計算できるように、同じユーザーに2 回以上アンケートを行わないように注意しました。
プロダクト・マーケット・フィットスコアは、すぐに最も重要な指標になり、毎週、毎月、四半期ごとにモニターしました。
また長期に渡って、PMFスコアを簡単にモニターできるように、カスタムツールを作成しました。さらに、PMFスコアだけが重要な結果となるような目標管理の仕組み(OKR)を設けてることで、継続的にPMFスコアを改善できました。
この単一指標を中心とした方向転換は報われました。2017 年の夏にこの取り組みを開始したとき、PMFスコアはは 22% でしたが、この単一指標を中心とした方向転換は報われました。2017 年の夏にこの取り組みを開始したとき、PMFスコアは22% でしたが、プロダクトの改善に取り組んでからわずか3四半期で、スコアは2倍近い58%になりました。
以上、要約終わり。
あとがき
今回はユーザーから集めたアンケートデータを使って、PMFスコアを計算し、さらには、「プロダクト・マーケット・フィット」を達成するために注力すべき領域を見つける方法を紹介しました。
こういったデータはGoogleフォームのようなサービスを使えば、誰でも無料ですぐに集められるので、非常に有益です。
一方で、記事の中でもPMFスコアのモニターのためにカスタムツールを用意したことが紹介されていましたが、PMFスコアを計算してモニターしていくときには都度、計算や可視化の作業のための時間がかかってしまったり、テキスト分析の際には、そもそもテキスト分析のやり方が分からない、あるいはコードを書く必要が生じたりします。
そこで、UIを通して自動で指標を計算・可視化したり、テキスト分析ができるツールを利用することでそれらの作業を最小限に留めることが可能です。
例えば、データの加工、可視化、分析、レポーティングのためのUIツールのExploratoryを使うと、簡単に指標を計算・可視化できるだけでなく、テキスト分析を実施して、その更新を自動化できます。
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