この記事は「物流の未来を、動かす」オープンロジによるOPENLOGI Advent Calendar 2024の5日目の記事です。
4日目の記事はddddddOさんの「ネットワークを知りたくて」でした。
タイトル以上にやってることがえげつなかったですね。
アウトライン
社会人になって14年目、未だに本を読むことには苦労してますが、昔より遥かに上達したと感じています。その結果、長年苦しんできた積ん読から解放された話をします。
- なぜ本を読むのか?
- 本を読む時間がない
- 試したけど身につかなかった本を効率的に読む方法
- 転機
- 洋書から学ぶ(目線の動きを解説した動画付き)
- 読む目的
- 「読んだ」の定義をアップデート
- 14年前の私へ
この記事の要点
- 積ん読は日本の文化
- 本をゆっくり読んでも理解はできない
- 宗像式速読術は試す価値あり
- 洋書から読み方を学ぶことができる
- 読みたい本の主旨を特定することから始めることで、積ん読から解放されるのではないか?と考えるようになった
- 最終的にはマインドセットの転換とテクニックで積ん読というプレッシャーから解放された
自己紹介
- オープンロジという物流ベンチャーで技術的負債の解消のミッションに向き合っています
- 前職はSansanで大規模データを取り扱うAPIサービスの開発をリードしていました
- それ以前は、日立でPjMやインフラ構築からキャリアをスタートさせ、イノーバでソフトウェアエンジニアに転向しました
なぜ本を読むのか?
本を読む理由は何ですか?
エンジニアは本を多く読む部類の職種だと思います。でも積ん読や読み方に困っている人は多いんじゃないでしょうか。
経営者やできるエンジニアは本を大量に読んでいる気がします。
「本を読む⇒優秀」ではなく「優秀⇒本を読む」というように、優秀なエンジニアになる必要条件となっている実感があります。
それだけでは不十分だけど、優秀になるためには一役買っているよね、という理解です。
エンジニアリングは学術的な研究対象にもなりやすく、情報がオープンなコミュニティが形成されています。
それゆえ、テーマが体系的に整理、言語化されやすく、それを伝える方法として書籍というメディアとの親和性が良いのかもしれないです。
本は情報収集の一つの方法でしかないですが、多くの先輩達が本を読めというので、自分は読みたいと思っています。
そもそも、自分はWebの記事では身につかない人間なので、体系的にまとまっている本が自分には良質な情報源だと感じています。
なので、私は本を読むことを続けたいと思います。
本を読む時間がない
「そんなことは分かっているけど、読む時間がないんです」という声が自分の内外から聞こえてきます。
積ん読(積読)ばかりが増えて、これ以上は新しい本には手を付けられないのです。
特に、自分は本を一言一句、脚注まで読まないと気が済まない性分です1。理解してから次の文章に進みたい典型的な完璧主義者なので、相性は最悪です。
ちなみに、積ん読という概念は江戸時代、遅くとも1788年には存在していたらしいです。
Wikipediaによれば、積ん読に該当する外国語がないそうです。考えによっては、積ん読は日本の文化とも言えるんじゃないでしょうか。大昔から日本人は悩まされていたんですね。
東京都も「みんなの積ん読展」と題して、積ん読された本たちを展示する企画など開催していました。
上記にランクインした積ん読へのコメントとして、以下は秀逸です。
四半世紀経つも積ん読のまま。もはや老後の宿題です。
歴史があり文化にもなりつつある積ん読ですが、積ん読が生まれる理由は果たして時間だけの問題なのでしょうか。
とはいえ、自分も「人月と神話」、「実践ソフトウェアエンジニアリング」を展示したいです。
試したけど身につかなかった本を効率的に読む方法
古典的には速読術や斜め読みというテクニックを聞きますが、どちらも実践には至ってないです。厳密には、若い頃のマインドセットではエネルギーが足りず、食わず嫌いでした。
今思えば、これはマインドの問題です。完璧主義を貫くには、これらのテクニックは合わなかったのです。
30代になってから、橋爪 大三郎著「正しい本の読み方」(2017, 講談社)という本を買ったことがあります。
この本を読んで自分を変えようと思ったのですが、読み終えることができませんでした。
自分には正しい本の読み方の本を読む方法が必要だったのです。
(今は今なりの方法で、この本を読むことができると思います)
転機
30代になって、イノーバというコンテンツマーケティングに強い会社でソフトウェアエンジニアとして転職しました。
そこで出会った代表の宗像(むなかた)CEOは情報収集と発信のプロフェッショナルでした。コンテンツマーケティングを専門としているので、なるほど、さすがというレベルでした。
彼のFacebookを見ると共感いただけると思います。その量と質に圧倒されます。
特に写真一覧を見ると、定期的に本を読んでいることが分かります。社長業で忙しいにも関わらず一般のエンジニアより本を読んでいるんです。「時間が無い」と言っている自分が恥ずかしくなってきます。
彼は特に海外の情報収集が得意です。
2019年頃に私はプロダクトマネジメントを学習し始めました。その頃はまだ、日本語の本はほとんどありませんでした。マーティ・ケーガン氏の著書「Inspired」初版があったくらいです。
自分も洋書から情報を得たいと思っていたいので、彼に相談しました。
そこで、フォトリーディングと洋書の読み方のコツを教えてもらいました。
フォトリーディングをベースとした彼の速読術については、以下の記事と動画が非常に参考になります。ぜひ一度見てください。
これは自分の読書スピードを測るところから始まり、続けて「目のトレーニング」をするという当時の自分にとっては画期的なものでした。
例えるなら、料理人になろうとしたのに、毎日皿洗いをさせられるくらいの驚きとガッカリ感を感じました。
内容は理解しなくてもいいんです。
視野に収まる文字数を増やせるように目をトレーニングするんです。
そして、速読の敵は「頭の中の音読」と指摘しています。
普段、本を速く読めない人は、理解するためにゆっくり読んでると思いがちですが、そもそも「ゆっくり読んだところで、本当に内容を理解してますか?」という問いから本質に迫ります。
このレクチャーを1on1で受けて、マインドがガラリと変わってしまいました。
速読術を自分で身につけるより、他者からステップ・バイ・ステップでハンズオンしてもらったおかげで、謎の完璧主義というプライドが意味のないことだと悟りました。
何より、実際にインプットの猛者がそう言っているのだから、自分のプライドを固持する必要性がまったくなかったんです。
洋書から学ぶ
洋書を読むには、洋書独自の読み方のコツがあります。ただ、基礎スキルとして、前述の宗像式速読術が必要になります。
改めて宗像式速読術のエッセンスをまとめておきます。
- 全部読まない
- 目次、まえがき、あとがきを先に読む
-
太字・イタリック体、
装飾
などのキーワードや図を先に見る - 事前に質問リストを準備する
- 著者に質問を投げかける
- この本は何が言いたいのかを考えた方が、記憶に残ったりアイデアが沸く
その上で、洋書ならではの構造を押さえれば怖くないです。
- 各章末尾のサマリを先に読む
- 最初の一文だけで段落の主旨が分かる
1点目については、実例を載せておきます。
1枚目は”チームトポロジー”です。章末にSummaryが載っています。このSummary自体も各パラグラフの最初の一文だけ読むところから始めます。
2枚目は”A Philosophy of Software Design”です。Conclusionとして、章末にまとめが記載されています。
そこで不明だった点、気になった点をピックアップして、本文の該当セクションだけ読んだりします。
2点目の「最初の一文だけで段落の主旨が分かる」については、動画でお見せします。
次の2つの動画は、私が実際にこれを実践する前と後での本の読み方を違いが分かるようにしたものです。
マウスポインタが私の目線だと思ってください。
最初の動画は、完璧主義の自分の目線です。分からない単語に囚われ、内容がまったく入ってきてない様子がわかります。
しかも、(動画には収まってないが)その状態で脚注までトレースしたのですから、振り返って見るとテンパってる様子がわかります。アルゴリズムで例えると深さ優先探索で、欲しい情報を最短で見つけるという目的には合わない読み方です。
2つ目の動画は最初の一文だけ読んで、段落の主旨を押さえる読み方です。
段落最初の一文だけはちゃんと訳しても大丈夫です。でも、それ以上は読みません。
出だしの副詞なども意図を汲み取って、書いてあることを想像しても大丈夫です。動画では"Normally, "という部分に反応して、「一般論と別の事例を対比しようとしてる」と想像しています。
この読み方は、先ほどとは変わって、幅優先探索アルゴリズムのような読み方になっています。
最初はTEMINOLOGICAL CONFUSIONのセクションを読み終えるのに2.5分かかってましたが、今では10秒で到達しています。
15倍速です。
洋書の場合、全部を翻訳できないため、内容に深入りせず、つまみ食いで読みやすくなる気がします。
もう1つ朗報があります。英語で読んで内容を理解できないことが多くあるかと思いますが、実は日本語にしても内容を理解できないケースがあります。
例えば、以下の英語の内容を理解してみてください。
Semantic Reranking
So far we have discussed methods that independently create representations of the query and document. This choice is necessary to scale retrieval. However, given the top N results returned by first stage retrieval we don't have the same constraint. The work that must be done to compare the query and these top N results is naturally much smaller, so we can consider new approaches for reordering them in order to improve relevance of the final result. This task is called reranking.
これをGoogle翻訳すると以下になります。
セマンティック再ランキング
これまで、クエリとドキュメントの表現を個別に作成する方法について説明してきました。この選択は、検索を拡張するために必要です。ただし、第 1 段階の検索で返される上位 N 件の結果を考えると、同じ制約はありません。クエリとこれらの上位 N 件の結果を比較するために必要な作業は当然はるかに少ないため、最終結果の関連性を向上させるために、それらを並べ替える新しいアプローチを検討できます。このタスクは再ランク付けと呼ばれます。
どうでしょうか?
恐らく、理解できた人は検索技術の優れたバックグラウンドがある方に限られると思います。
このように、言語じゃない部分で理解できない要因がある以上は、一言一句読むことが解決策ではないのです。
ちなみに、翻訳サービスと生成AIが発展した現状では、洋書を英語のまま読むモチベーションが少なくなってきました。
ただ、上記のように洋書を読むことで学んだ読み方のコツは日本語書籍でも活かせていけます。
読む目的
改めて考えると、宗像式速読術は現代文や英語長文の受験テクニックに似てると思います。
受験ではまず設問を読みます。解くべき問題を特定してるんですね。
私は、技術書を読む目的を以下の2つに大別しています。
- 特定の問題を解決するヒントを得るため
- 特定の課題ではなく、テーマの全体の知識を得たいため
1つめの目的と受験は、読む目的がハッキリしています。これが達成できれば読んだとみなせる点が類似しています。
一方、2つ目の目的はゴールが曖昧です。どうなると全体を理解したと言えるのでしょうか。通読したらゴールなのでしょうか。通読したら理解したと言えるのでしょうか。そもそも、通読とはどういう状態なのでしょうか。
そう、この曖昧なゴールが読書の苦労の原因だったんではないかと考えています。
「読んだ」の定義をアップデート
では、「読んだ」という状態を定義するにはどうすればいいのでしょうか?
私は、宗像式速読術と洋書の読み方が解決の糸口になると思いました。
つまり、以下の問いに答えられることが、「読んだ」という1つの明確な状態を指しているんじゃないかという考えに至りました。
- その本の主旨は何か?
- 著者の一貫した主張は何か?
- この本はどんな読者のどんな課題を解決してくれるのか?
- この本は読者をどこに導くのか?
私は読書と筋トレは似ていると考えています。
筋トレ同様、読書も訓練が必要で、1回では終わらず、同じメニューを繰り返し続けることが大切だと考えています。
なので、最初から広いテーマを一言一句を理解することは難易度が高いです。つまり、はじめからそこを目指すのはかえって非効率になると考えています。
このようにして、私は一言一句理解しないと気がすまないマインドを転換する必要に迫られました。
話は変わりますが、そろそろ生成AIにも慣れましたか?ChatGPTが2022年11月に公開されてから2年が経っています。今は大抵のことを生成AIに任せて、自分は別のことに集中するよう変わってきました。
読み方についても、生成AI登場時のようなマインドセットの転換が必要だと感じています。
たくさんの本を読んで幅広く知識を習得したいのなら、そろそろ読み方をアップデートしないといけないと思っています。先人たちが幾度となく積ん読してきた歴史から学ばないといけないです。
このようにして、私は「読んだ」という定義をアップデートしました。
そして苦節14年、最終的に私は、読みたい本の主旨を特定することから始めることで積ん読から解放されるのではないか?と考えるようになりました。
14年前の私へ
自分は未だに本を一言一句完全に理解する読み方を見つけられていません。そしてそれを指南するノウハウも見つけられなかったです。
そこで、マインドセットを変えました。「読んだ」の定義を変えることにしました。
洋書の読み方のように、宗像式速読術のように、本の構造とハイライトされた部分から全体を把握し、興味あるところから詳細に入っていく。そして全部を読まない。こういう読み方に変えました。一言一句理解することを諦めて、昔からの完璧主義を放棄しました。
でも、その結果私はハッピーです。積ん読のプレッシャーから解放されたのです。O’reilly Learningへ500U SDを課金できるようになりました。なぜなら、以前の完璧主義なら、アクセス可能な何万もの書籍のすべてを理解しないと得した気になれないからです。少なくとも、年間500 USDをペイするには、41.7 USD/mo(約6,500円/月)、つまり月1, 2冊を一言一句理解しないと損した気がするからです。
その他テクニックとして参考になりそうな文献
「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック
学習を加速させるインデックス読書術
2024年に買ってよかったもの第一位:O’Reilly Online Learning $499/年