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CRDは単なるデータベースのテーブル

Last updated at Posted at 2020-12-01

この記事は Kubernetes2 Advent Calendar 2020 の 2 日目です。

image.png

本記事は、全く CRD を知らないところからスタートし、ざっくり CRD を理解して少し好きになることを目的にしています。

(ITNEXT投稿記事を翻訳/改変したものです)

CRD ってなんだか難しそう

CRD... Custom Resource Definition は Kubernetes 内で作れる特殊なオブジェクト (リソース) です。

Kubernetes の普通の使い方、例えばコンテナを起動するというだけであれば、ユーザは CRD のような特殊なリソースを使う必要はありません。したがって、CRDとは、ほとんどの人にとっては重要ではないものです。

しかし、たまに最近の技術ブログなどでは CRD を目にすることがあります。また、kubernetes.ioやKubernetes界隈の議論スレッドでも見ることがあります。こういう場面に出くわすと、CRD を知らなかった場合は理解に少し時間をかけなくてはいけません。私もそういう一人でした。

CRD とは何なのでしょうか。どうやって使うのでしょうか。もし必要になったら、どうやって作ればいいのでしょうか。

心配はありません。実はさほど難しいものではありません。今回は、CRD とそれに関連する CR の概念について、できる限りかんたんに説明したいと思います。

CRD は端的に言うと

CRD とは、単なるデータベースのテーブルです。この記事で説明したいことは実はそれだけです。

例えば、データベースの世界のことを考えてみます。まず、以下のようなテーブルを作ることを考えましょう。

  • "Fruit" という名のデータベースのテーブルを作るとします。
  • テーブルには "apple", "banana", "orange"という3つのフルーツを表すレコード3行を登録します。
  • これらのレコードは、 "name", "sweetness", "weight"という3つの列を持つとします。この3つの列は、フルーツの「名前」「甘さ」「重さ」という特徴を表しています。

すでに、データベースに馴染みがある方は、CREATE TABLE 文がぱっと頭をよぎったのではないでしょうか。上記テーブルは非常にかんたんなテーブル実装の例です。

ここからが本題ですが、CRD はまさにこれと同じテーブル定義を含んだ情報です。CRD のかんたんな模式図を以下に示します。

image.png

次に、CR (Custom Resource) とは、"apple"などのそれぞれのレコードです。CRD がテーブルなら、その中のレコードが CR というわけです。CR のかんたんな模式図を以下に示します。

image.png

どうやって CRD を作るの?

すでに説明したとおり、 CRD はテーブルです。テーブルを作るとき、列名や列の型などのテーブルのフォーマットの情報を入力する必要があります。フォーマットの情報は CRD の定義ファイル (YAMLやJSONデータ)の中に書き込まれます。

また、レコードごとの情報は、CR 定義ファイルのYAMLやJSONデータで定義されます。

CRD, CR のそれぞれの定義ファイルとそれが指すテーブルの対応関係は以下のようになります。

image.png

では、 CRD の定義ファイルの中身を見ていきましょう。

image.png

CRD の定義ファイルはは大きく以下の3つのパートに別れます。

  • 一般的な情報のパート
    • Kubernetes内の他のリソースと同じように、CRD リソースの名前などの共通的なメタデータを書く部分です。
    • 例: name: "fruit"など。
  • テーブルレベルの情報を書くパート
    • テーブルの名称やその複数形など、Kubernetesでテーブルを扱うために必要な情報を書く部分です。
    • 例: kind: Fruit, simpler: fruit, plural: fruits など。
  • 列レベルの情報を書くパート
    • 列名 ( "sweetness"など)や列の型 ("boolean", "string", "integer", "object"), ネストされたオブジェクトの定義など (props: <子要素の名前や列>)
    • これらの定義は、Open API Specification の version 3の記法で定義されます。

より詳細な情報は公式ドキュメントを参照ください。

CRD の機能を試してみる

CRD は本当にテーブルとして操作できるのでしょうか。確かめてみましょう。

実際の確認結果の説明の前に少しだけ前置きさせてください。通常はCRD の定義ファイルを手動で作成するのが普通だと思いますが、今回はCRDの定義ファイルをよりかんたんなYAMLから自動生成する方法を使います。詳細は後で紹介します。その点をご了承いただければ幸いです。

今回作るテーブルは単純です。先に少し例で説明した「フルーツ」用のCRDを作りたいと思います。"Fruit"というCRDは以下の3つの列を持ちます。

列名 列の方
sweetness boolean (甘いか甘くないか)
weight integer (何グラムかを数字で表す)
comment string (参考情報を文字列で記載する)

これを端的なYAMLで記載すると以下のようになります (これはまだ正式な CRD 定義ファイルではありません)。列名や型がそれぞれ定義されています。

image.png

ここから CRD の定義ファイルを作ります。先の端的なYAMLをKubernetesに導入する際にある変換処理としてOperatorを用いて CRD の定義ファイルを自動生成します。生成した CRD 定義ファイルは以下のようになります。直接手動でCRDを作成する場合には、不要なownerReferencescreationTimestampを外しコピーし、kubectl apply -f <ファイル名>を実行すれば問題ありません。

image.png

実際に生成された CRD の定義ファイルはここを開いて参照ください (Operatorを使わない場合はこれを直接ファイルに保存してkubectl apply -f <ファイル名>してください。)
apiVersion: apiextensions.k8s.io/v1
kind: CustomResourceDefinition
metadata:
  name: fruits.user.k8sasdb.org
spec:
  conversion:
    strategy: None
  group: user.k8sasdb.org
  names:
    kind: Fruit
    listKind: FruitList
    plural: fruits
    singular: fruit
  scope: Namespaced
  versions:
  - additionalPrinterColumns:
    - jsonPath: .spec.sweetness
      name: sweetness
      type: boolean
    - jsonPath: .spec.weight
      name: weight
      type: integer
    - jsonPath: .spec.comment
      name: comment
      type: string
    name: v1
    schema:
      openAPIV3Schema:
        properties:
          spec:
            properties:
              comment:
                type: string
              sweetness:
                type: boolean
              weight:
                type: integer
            type: object
        type: object
    served: true
    storage: true


この CRD こそが Kubernetes における自作テーブル定義方法です。この中には、先ほど定義した「"sweetness"という列がbooleanである、、」といった情報が埋め込まれていることがわかります。
これを入力されたタイミングから、Kubernetes は「あ、フルーツというリソースがあるんだな」と理解し、これに対応する「レコード追加」や「削除」などのAPIを稼働させます。Swaggerドキュメントも自動生成し公開します。
これは、データベースにおいて "CREATE TABLE"をしたあとにそのテーブルの処理ができるようになるのと同じです。

さて、本当にデータベースと同じように振る舞うのか、試します。

レコードを追加してみる

Kubernetesにおけるレコードは、さきに説明したとおり CR でした。CRを追加するには、まずCRの定義ファイルを以下のように記載します。

apple.yaml
apiVersion: user.k8sasdb.org/v1
kind: Fruit
metadata:
  name: apple
spec:
  sweetness: false
  weight: 100
  comment: little bit rotten

この CR には、appleというフルーツがあり、甘さはそれほど甘くなく、重さが100グラムで、コメントとしては「ちょっと腐っている」ということが書いてあります。

どのテーブルに追加するレコードかということを、上のkind: Fruitで指定しています。これを見て、 Kubernetes は「あ、Fruitというテーブルに追加するレコードね」と理解します。

では実際に CR を追加してみます。

kubectl create -f apple.yaml

image.png

エラーが出ずに実行完了したことを表示しています。

このコマンドはまさにデータベースのクエリで言うところの以下と同じと言えます。

INSERT INTO fruits values('apple', ...);

レコードのリストを取得する

CR のリストを取得するには以下のコマンドが使えます。

kubectl get fruits

Kubernetes を使っている方なら、この馴染みのある kubectl getコマンドで自作のCRDの操作ができることが楽しいと感じられると思います。このコマンドにより、以下の結果を得られます。

image.png

この結果は、私が"apple""banana"という2つのレコードを追加した際の状態を示しています。

これは、データベースにおける以下のクエリと同じです。

SELECT * FROM fruits;

単一レコードを取得する

一つだけ CR を取得するには以下のコマンドが使えます。

kubectl get fruit apple

単に、前のコマンドの後ろにappleという名前をつけただけになっています。Kubernetes で Pod などを取得するときと同じです。このコマンドにより、以下の結果を得られます。

image.png

私がすでに "apple""banana"という2つのCRを追加したにもかかわらず、コマンドは単一のレコードのみを取得していることがわかります。

これは、データベースにおける以下のクエリと同じです。

SELECT * FROM fruits WHERE name = 'apple';

レコードを削除する

kubectl delete fruit apple

上記のコマンドで、レコードを削除できます。

image.png

この結果、Fruitの全レコードの中にはすでにappleというレコードは削除され、bananaしか残っていないこがわかります。

image.png

これは、データベースにおける以下のクエリと同じです。

DELETE FROM fruits WHERE name = 'banana';

なぜ CRD が必要なのか

なぜ CRD が必要とされるようになったのでしょうか。私は、この理由をこう考えています。

Kubernetes は近年さまざまなユーザが幅広い用途に使うようになりました。APIやコマンドも非常に使いやすく便利です。そうなると、ユーザはもっと自分が便利になるよう、いろんなデータをKubernetesに登録したくなります。そのデータに応じて Kubernetes の振る舞いを変えさせたい、とも考えるようになります。

ここから、ユーザごとに違うフォーマットのデータを登録したい、列名やデータ型が異なるデータを登録したい、というニーズが生まれます。しかし、Kubernetes にはそのようなユーザごとのデータを事前に登録しておくということはできません。ニーズを実現するには、Kubernetes 構築後の事後でもユーザごとのデータを登録できるように、柔軟なスキーマ定義をさせる必要があります。

このインターフェースが CRD という形で実現されたのだと考えます。

CRD を使う一例として、会社の部署ごとの予算、といった情報を CRD で Kubernetes に登録しておき、予算消化状況に合わせて起動できる Pod 数の上限をコントロールするといった使い方が考えられます。

まとめ

本記事では、 CRD がデータベースのテーブルと同じであることを説明しました。

  • CRD を作成することで、Kubernetes内にテーブルを作成できます。
  • CR を作成することで、テーブル内にレコードを追加できます。
  • テーブルの定義に必要な情報 (列名や型)はCRDの定義ファイルの中に書きます。
  • CRD や CR を Kubernetes に登録するには、kubectl コマンドを使用します。
  • kubectl apply -f <定義ファイル>でレコードを追加し、kubectl getにてレコードを表示し、kubectl deleteでレコードを削除できます。

最後に補足 (かんたんなYAMLからの CRD の自動生成)

今回 Fruit という CRD を作成した際に使用した自動生成ツールは以下のレポジトリに公開しています。

最初に定義した端的な YAML ファイル自体も Table という独自の CRD です。以下のように Table を登録することで CRD が生成されます。Table から正式な CRD を自動生成するために Operator という仕掛けを使います。この手法を適用するには、事前にこの Operator を Kubrnetes クラスタに導入しておく必要があります。導入方法などは先のレポジトリのREADMEをごらんいただき、フィードバックをいただければ幸いです。

image.png

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