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現在、働き方改革が叫ばれる中で、不夜城などと呼ばれてガムシャラに働くことで日本企業の強みを考える暇も無く突っ走ってきた日本ICT企業・技術者は、日本企業の強みを改めて考える必要があるのではないでしょうか?
高齢化が進む日本において、外国籍の方・身体障害者・女性が活躍できる社会を作ることが必要で、不当な過重労働を強いられていた仕事現場の改善も必要と思います。
しかし、日本のICT企業、特にソフトウェア企業にとっては、色々と考えるべき事があると思っています。
技術革新スピード
自動車などのモノを扱う世界では、アイデアがあっても材料の調達、流通方法の確保などビジネス展開は容易ではありませんが、ソフトウェアの世界では原資は開発者の工数のみであり、一度作ってしまえば後は展開するだけです。インターネットが発達した現代では流通方法の確保も容易で、開発費が回収できればその後は利益になります(修正の作成など保守費用は必要ですが)。
また、自動車などの機械の故障は、人身事故・火災など目に見える重大問題につながるリスクが高く、故障に対する備え(スペアの用意など)も限界があります。
一方でソフトウェアの故障は、活用範囲が広がりつつある現代では自動車の自動運転など人身事故などの重大問題につながるリスクも高まりつつありますが、リスクは低く目にも見え難いと言えます。ソフトウェアはコピーが容易なので、コピーを複数用意して冗長化して異常に備えることも容易です。
このため、品質の善し悪しも見え難く、これが技術発展の加速を後押ししていると言えます。
海外ICT企業との違い
ICT産業において日本と米国では、ICT技術者の所属に大きな違いがあると言われます。
日本はICTベンダが抱える技術者が多く、米国はユーザ企業が抱える技術者が多いと言われます。例えば、銀行システムを想定すると、日本ではICTベンダにSIを依頼してシステムを構築します。米国では銀行側が雇用する技術者がシステムの構築を行うということです。
この違いが働き方改革にどのような影響があるでしょうか?
ソフト業界が抱える課題
ソフト業界では、日々変わる技術の習得に追われています。技術習得が次のシステム構築に向けた事前技術リサーチとも言えるし、今後の業務に備えた自己啓発とも言えます。
働き方改革が始まる前は、自己啓発と業務の境目を考えることはなく、技術の習得は業務に必要なこととして残業時間に実施すれば良く、その努力は残業手当として報われたのです。
しかし、働き方改革で残業規制が始まると、この技術習得は業務に必須なのか自己啓発なのか厳密に考える必要があります。緊急の顧客対応でなければスケジュールを調整し残業時間を削減するように指導されるため、残業時間に技術習得に時間をかけるのが難しいのです。
また、日本企業は給料の差が大きくなく、技術力を高めてもそれが給料の差に表れ難く、残業手当という形に表れなくなると、技術力を上げるモチベーションの維持が難しい状況にあります。
更に海外ではユーザ企業に技術者がいるため、ユーザ企業がプロジェクトの必要に応じて技術者を集め、プロジェクトが終われば技術者は別企業に活躍の場を求めるようです。
このような状況では、技術者は自分の価値を高めるためには、どの企業でも通用する標準技術で、新技術を習得していることが求められます。このため、新たな技術習得に対するモチベーションが元々高い世界ということになります。
一方でICTベンダの技術者が多い日本では、終身雇用が基本で、新たな技術習得よりも、ICT企業の慣習を学ぶことの方が重要視される傾向にあります。
このため、日本ICT企業ではもともと新技術習得の優先度が下がる傾向があるのです。
日本人独特の特徴も影響すると思います。
日本の良さは周囲への気遣いやチーム力、最近では悪い意味で言われる忖度や空気を読むことも、そういった日本独特の美徳の裏返しであり、必ずしも悪いことではないと思います。
周囲が頑張っているから自分も頑張ろう、あの人が忙しいから代わりにこの作業をやってあげよう、特に指示されたわけではないけどこの作業をやっておこうなど、明確に言葉や文章に示されていないことでも周囲の状況を察して作業を実施します。周囲に頑張っている人がいれば、自分を犠牲にして頑張っている人をサポートすることがチーム力につながっていると思っています。
しかし、働き方により、残業時間が削減され、仕事仲間と一緒に活動する時間が少なくなるとどうなるでしょうか?
このように考えた場合、日本ICT企業における働き方改革は、教育現場の失敗として語れるゆとり教育に通じる部分があると考えてしまいます。
義務教育での詰め込み教育を改善し、教育時間を削減したり、総合という科目を用意し生徒の自主性を重視するような取り組みが行われました。
しかし、現在ではその教育は見直され、ゆとり教育を受けた世代はゆとり世代と呼ばれたりしています。現在の働き方改革を日本ICT業界にこのまま推し進めれば、日本のICT現場の技術力は低下し、ゆとり教育の二の舞にならないでしょうか。
それでは、日本ICT企業における働き方改革はどう進めれば良いでしょうか?
上述のように高齢化が進む日本において働き方改革は必要だと思います。
高齢化が進まなくても多様な人が活躍できる環境作りは必要です。
残業を苦にしない人にとっては、残業したい人は残業すれば良く、早く帰りたい人は早く帰れば良いと思ってしまいます。しかし、上述の日本人の特徴から、残業している人がいれば空気を読んで早く帰れる人も帰らなくなってしまうのです。このため、残業規制は必要だと思います。(ただ、ジタハラという言葉もあるので、上司は注意が必要です。)
ただ、それに合わせて、以下のような技術力を高めた人・技術力を活用したい人を企業が認めてあげる取り組みが必要と思われます。
*複業の許可
ちなみに従来の本業に対する副業ではなく、本業を複数持つ複業という言葉が注目されているのはご存じでしょうか?空いた時間を有効活用して小遣い稼ぎをするイメージが大きい副業に対し、本業と同様に自分の能力を生かしてプロ意識が必要となる仕事を複数持つのです。残業時間に仕事をしたければ、別の仕事で活用すれば良いという考えです。書籍の執筆活動やYouTubeでの技術の動画配信などもそれに該当するでしょうか。
その別の仕事で得た知見が、別の本業にもプロジェクトに新たな視点のアイデアを与えて役に立つことも多々あるでしょう。
*教育機会の提供とサポート
教育を受ける機会を与え、その教育を受けることを積極的にサポートします。
*各種認定を受けた技術者の推奨
教育を受けて認定を受けた技術者を奨励金などによりサポートすることも有効だと思います。
また、ICTベンダの技術者が多いということは、ICTベンダに技術が集中しているとも言えます。ただ、縦割り組織で企業内のチーム間・部署間の交流が少ないと宝の持ち腐れです。企業内での技術交流を活性化する取り組みも合わせて実施が必要だと思われます。
#最後に
ICT技術の現場もスポーツで例えるならば日本は個々のフィジカルの差を、チーム力で賄うことが重要だと思っています。そのためには残業規制で個々の生活を尊重するだけでなく、個々の能力を積極的に認めて、その能力を発揮する機会を与えることが必要だと思います。