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【チュートリアル】mruby/cをSTM32マイコンで動かす Chapter03: ハードウェアタイマーの使用

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しまねソフト研究開発センター(略称 ITOC)にいます、東です。

mruby/cをSTマイクロエレクトロニクス社製の32bitマイコンSTM32で動かす記事
今回はその第3回、ハードウェアタイマーを使うよう設定を追加します。

目標

ハードウェアタイマーを使って sleep の時間を正確にするとともに、sleep 中は CPUを止めて消費電力の削減をはかる。

ビルドシステムの調整

まず、前回 mruby/c のプログラムを書き換えるたびに、コマンドプロンプト画面で mrbc.exe を動かす必要があった作業を自動化します。以下の2種類の方法がありますが、どちらでもかまいません。

方法1 バッチファイルを使う

ITOCのサイトからダウンロードした mruby コンパイル済パッケージには、本家にはないバッチファイル mrbc.bat も一緒に入っています。これを、プロジェクトフォルダの、Core/mrubyc フォルダへコピーします。
STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 15.03.24.png

メニューから、Project > Properties を選び、ダイアログを開きます。

ダイアログ左ペインの C/C++ Build > Settings をクリックし、右ペインの Build Steps タブをクリックします。

Pre-build steps の Command: 欄へ、以下の通り入力します。

cd ..\\Core\\mrubyc; mrbc.bat

STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 15.09.27.png

[Apply and Close] をクリックしてダイアログを閉じます。

この操作により、ビルド前に自動的に mrbc.exe を起動してコンパイルが行われます。

方法2 Makefile を使う

先の方法は、STM32CubeIDE 以外でも、Pre-build 設定さえあれば汎用的に使えますが、.rb ファイルを編集していない時でも必ず .c ファイルが更新されるという動作をします。
速度的には十分早いので問題ないですが、ちょっと不細工かと思う面もあります。
CubeIDE 内部では、gnu make が動いているので、これを利用すると .rb ファイルが更新された時だけ .c ファイルも更新するという動作をさせることもできます。

手順
左ペイン Project Explorer 上、mrubyc の上で右クリックし、New > File を選びます。

Create New File ダイアログで、File name 欄へ、makefile と入力し、[Finish] をクリックし、ファイルを作ります。

STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 15.41.31.png

以下の内容を入力します。
最終行の前空白(インデント)は、スペースではなく TABですので気をつけて入力します。

Core/mrubyc/makefile
MRBC = cmd /C mrbc.exe
RBSRCS = $(wildcard *.rb)
CSRCS = $(RBSRCS:.rb=.c)

.PHONY : all
all: $(CSRCS)

%.c : %.rb
	$(MRBC) -B$(@:.c=) $^

メニューから、Project > Properties を選び、ダイアログを開きます。

ダイアログ左ペインの C/C++ Build > Settings をクリックし、右ペインの Build Steps タブをクリックします。

Pre-build steps の Command: 欄へ、以下の通り入力します。

cd ..\\Core\\mrubyc; make

STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 15.46.56.png

これでビルド時に、.rb が更新されているときだけ、.c ファイルも更新するようになりました。

ハードウェアタイマーを使う

前回は、sleep の時間が指定時間よりもだいぶ長い時間 sleep するようでした。これは、スケジューラが正確に計時する方法が無いからです。これをハードウェアタイマを使って解決します。

以下の手順で行います。

  1. 前回行った タイマー未使用の宣言を取り下げる
  2. SysTick タイマーで、mrbc_tick() をコールする
  3. hal.h へ割り込み許可/禁止を定義

今回ターゲットにしているマイコン STM32F401 は、ARM Cortex-M4 CPUコアを搭載しており、CPUコア自体にSysTickという簡単なハードウェアタイマーを内蔵しています。
ST製 HAL ライブラリの仕様を調査すると、SysTickタイマーを使って 1ms サイクルで割り込みをかける用途に使っており、割り込みハンドラはユーザにも開放されています。別途ペリファラルのタイマーを使用する方法もありますが、有限のリソースをスケジューラが使用してしまうのはもったいないので、ここでは HALライブラリの SysTick タイマーに同居する方法を採用しました。

1. 前回行った タイマー未使用の宣言を取り下げる

メニューから、Project > Properties を選び、ダイアログを開きます。

ダイアログ左ペインの C/C++ General > Paths and Symbols をクリックし、右ペインの Symbols タブをクリックします。

Languages が GNU C になっていることを確認し、前回追加したシンボル MRBC_NO_TIMER をクリックして選択状態にしてから、[Delete] ボタンをクリックします。
STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 16.25.27.png

2. SysTick タイマーで、mrbc_tick() をコールする

左ペイン Project Explorer の画面から、Core > Src とたどり、stm32f4xx_it.c をダブルクリックして開きます。
STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-23 16.27.13.png

右ペインに表示された C言語ソースコードから、/* USER CODE BEGIN SysTick_IRQn 0 */ の箇所を探し、その下に以下のコードを追記します。

Core/Src/stm32f4xx_it.c
  /* USER CODE BEGIN SysTick_IRQn 0 */
  void mrbc_tick(void);
  mrbc_tick();
  /* USER CODE END SysTick_IRQn 0 */

ここは、SysTick_Handler関数の中で、1msごとに割り込み処理によってコールされます。mruby/c スケジューラがタイマー割り込みによって必要としている処理は、mrbc_tick() をコールすることだけです。

3. hal.h へ割り込み許可/禁止を定義

前回は、割り込みを使用しない前提でしたので、ほとんどのマクロを無効化していました。今回は必要な箇所をきちんと記述します。

左ペイン Project Explorer の画面から、Core > mrubyc_src とたどり、hal.h をダブルクリックして開きます。

ファイルの内容を、以下の通り書き換えます。

Core/mrubyc_src/hal.h
#ifndef MRBC_SRC_HAL_H_
#define MRBC_SRC_HAL_H_

#include "main.h"

#define MRBC_TICK_UNIT 1
#define MRBC_TIMESLICE_TICK_COUNT 10

#define hal_init()        ((void)0)
#define hal_enable_irq()  __enable_irq()
#define hal_disable_irq() __disable_irq()
#define hal_idle_cpu()    ((void)0)

int hal_write(int fd, const void *buf, int nbytes);
int hal_flush(int fd);
void hal_abort(const char *s);

#endif /* MRUBYC_SRC_HAL_H_ */

変更点は、hal_enable_irq と、hal_disable_irq の実体を記述した事と、それに伴って必要になるヘッダの include、および、NO_TIMER用に仮に設定していた hal_idle_cpu を無効化した点です。
割り込みの enable/disable は、TickTimer の割り込みだけを有効化/無効化でも良いですが、より汎用的に(簡易に)使う事ができる方法を選定しています。

一通り終わりましたら、ビルドしてターゲットへ書き込みます。

ほぼ正確な秒数で、sleep するようになります。
(以下のデモは、Rubyのプログラムは、1秒ごとの sleep に戻しています)

Core/mrubyc/sample1.rb
while true
  led_write( 1 )
  sleep 1
  led_write( 0 )
  sleep 1
end

STM32Tuto03-Demo1.gif


(注意)
まれに、書き込みが終わっても正しくユーザプログラムが開始しないことがありました。原因は不明ですが、ターゲットボード上の黒い RESET スイッチを押すと、正しく動き始めます。

プログラムの sleep 時には CPU も sleep させる

この Ruby プログラムでは、ほとんど sleep の待ち時間が占めており、その間 CPU は何もしていないことになります。このような場合、使用電力の削減を狙って、マイコンを低消費電力モードにするのが良案です。
Cortex-M4 にも低消費電力モードがあります。マニュアルによると、いくつかのモードが用意されていますが、

  • SysTick タイマーでウェイクアップが必要
  • 周辺デバイスの動作維持
  • メモリ(RAM)内容の維持

といった条件を満たす必要があり、それを満たすモードに入るには、以下のようにすれば良いことが分かります。

HAL_PWR_EnterSLEEPMode(PWR_MAINREGULATOR_ON, PWR_SLEEPENTRY_WFI)

この関数を、hal.h の hal_idle_cpu() マクロに設定します。

Core/mrubyc_src/hal.h
#ifndef MRBC_SRC_HAL_H_
#define MRBC_SRC_HAL_H_

#include "main.h"

#define MRBC_TICK_UNIT 1
#define MRBC_TIMESLICE_TICK_COUNT 10

#define hal_init()        ((void)0)
#define hal_enable_irq()  __enable_irq()
#define hal_disable_irq() __disable_irq()
#define hal_idle_cpu()    HAL_PWR_EnterSLEEPMode(PWR_MAINREGULATOR_ON, PWR_SLEEPENTRY_WFI)

int hal_write(int fd, const void *buf, int nbytes);
int hal_flush(int fd);
void hal_abort(const char *s);

#endif /* MRUBYC_SRC_HAL_H_ */

これで、ビルドしてターゲットへ書き込みます。
書き込みが終わったタイミング(=実行が始まったタイミング)で、CubeIDE がターゲットに接続できないと文句を言いますが、これは CPUがきちんんとスリープモードに入っている証拠ですので問題ありません。

このボードは、CPUに流れる電流を、JP6に電流計を接続することによって測定することができますので、シャント抵抗とオシロスコープを使って観測してみます。

スリープモードにしない場合 スリープモードにする場合
scope_1.png scope_2.png
約15mA 約6mA

測定結果の値が高い部分はLEDの電流を含んでいるので、低い部分を比較すると、約15mAから6mAと、半分以下の電流に低減できていることがわかります。

おまけ - オシレータを内蔵から外部へ変更

ここからは蛇足ですので、設定してもしなくても良いです。

STM32CubeIDE で自動生成したコードは、デフォルトのクロックソースに内蔵RCオシレータを使うよう設定されます。メーカーによると内蔵RCオシレータは、工場出荷時に25℃の条件下にて±1%の誤差内に調整されています。しかしながら、AN5067 で述べられるとおり、実装条件や周囲温度によって影響をうけ、正確さはそれほど期待できません。

Nucleo-F401RE ボードの回路図を見ると、ST-Link プログラマ側にあるマイコンチップは、8MHz の水晶がクロックソースになっており、さらにその出力は、メイン側の STM32F401RE に接続されているようです。こういった使い方は、恐らく保証対象外だとは思いますが、メーカー製のボードですし、試しに使用する設定すると確かに動きます。

方法

CubeIDEの Clock Configration 画面を開きます。
クロックソースを HSI から HSE に変更し、以下の通り各プリスケーラやPLLの逓倍率を変更します。
たぶん、HCLK 欄へ84と入力すると、よしなに設定してくれると思います。
STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-24 17.59.35.png

ちなみに、初期値(内蔵RC使用時)は以下の通り。
STM32Tuto03-スクリーンショット 2024-05-24 18.08.55.png

効果

効果はてきめんです。

SysTick実測値(kHz) 誤差 (%)
内蔵 RC 1.0176 1.76
外部 クリスタル 1.0000 0.00

測定は、いま手元に周波数カウンタが無いので、オシロスコープ (キーサイト DSOX2002A)で簡易的に測定しました。ですが、時間(およびその逆数の周波数)は、身近な物理量のなかで最も有効桁数を確保しやすい物理量なので、信じても間違いないでしょう。

おわりに

今回は、ハードウェアタイマーを使うことを目標に、mruby/c の hal を整備しました。
次回は halの残り(コンソール関係)の整備をしていきます。

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