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鬼滅の刃は なぜ大人気になった?データほぼゼロからデータ分析!大ヒット作品の作り方も解説

Last updated at Posted at 2020-08-06

はじめに

当記事はマスク・ド・アナライズ様のデータサイエンティストが「鬼滅の刃」を読むべき理由から、データ分析もしちゃおう、大ヒット作品の作り方も研究してみようという趣旨で始めました。(鬼滅の刃についての他にもマスク・ド・アナライズ様の今回の記事ではDSブームの問題を器用に指摘しているのでデータサイエンティストは必読です)

当記事は「データ分析から見える鬼滅の刃大ヒットの理由」とそれらから見える「大ヒット作品の作り方」の二つの章から成ります。

「鬼滅の刃はなぜ大ヒットした?」の章ではデータが殆どないという条件で物事を創意工夫して分析することに趣旨を置いています。よって面白い分析の仕方が多く見られるかもしれません。(主にGoogleトレンドを上手く使います。)

ガチガチのデータ分析をするまえにサッと正確にデータ分析をしたい場合や、一見データがないところから有用な分析をすることは使えるスキルなので読む価値はあるのではないかと思います。

また当記事は簡単に出来る手法しか書いていないのでデータ分析初学者の方も参考にはなるかと思います。(データ分析をしたことがない方もしっかりと話を追えます)

さらに今回のデータ分析は一年前にDS界隈で流行った「アルキメデスの大戦」という映画の主人公(櫂君)のデータ収集への執念や分析への工夫を見習いながら書きます(アルキメデスの大戦にあったデータ分析の心構えの復習が出来ます)。(また分析自体は同じみなのでアルキメデスの大戦をご覧になっていない方も楽しめる記事になってます。)

参考:
u++様の【ネタバレ有】『アルキメデスの大戦』とデータ分析の仕事
マスク・ド・アナライズ様のデータサイエンティストが今すぐ「アルキメデスの大戦」を見るべき理由

ネタバレなしでストーリーを話すと、数学の天才である主人公(櫂)がデータほぼ0から戦艦の見積もりを出す物語です。まだご覧になっていない方は動画配信サイトで無料で見られるのでお勧めします。

鬼滅の刃の分析はアルキメデスの大戦の櫂君が陥った状況と大変似ており、分析する際に殆どデータがない、又はデータがあったとしても情報の信頼性が危うい(調査方法やサンプル数が明記されていない)+データによっては購入に数万円払う必要もあります。少年ジャンプにデータ請求なんて出来ませんので、まさにアルキメデスの大戦の櫂君が陥った軍事機密にアクセス出来ない状況と言えるでしょう。よって櫂君が教えてくれたデータ収集への執念、分析の仕方を再確認するのに もってこいな記事だと思います。

「大ヒット作品の作り方」では殆どデータ分析をしていない+エンタメ素人の考察なので面白い読み物感覚で読んで頂けたら嬉しいです

記事が長いのでQiitaの右側の目次機能を活用していただくと興味のあるところを直ぐ読めると思います。

まとめへ飛べるリンクも貼って置きます
「鬼滅の刃は なぜ大ヒットしたのか」(中間まとめ)
「鬼滅の刃は なぜ大ヒットしたのか」(総括まとめ)
「大ヒット作品の作り方」(まとめ)

また当記事では間違いや様々な意見を募集していますので、何かございましたら下のコメント欄かTwitterアカウントのDMで教えて頂けると助かります。

データ分析の前にデータの信頼性をチェック

当記事ではデータを用いる際に以下の項目を使ってデータの信頼性を測ります。
(アルキメデスの大戦でも データの正しさに拘っていましたね。(靴底で測るシーン))

1. 調査組織のバイアス有無

例:青汁販売企業が青汁利用者のアンケート実施 → バイアスありの可能性大

2. スポンサー(後援団体)のバイアス有無

例:お菓子メーカー出資のチョコレートが脳に与える影響の調査 → バイアスありの可能性大

3. 調査方法のバイアス有無

例:アンケート → ランダムサンプルでない → バイアスありの可能性大

4. データの取得日の適切性

例:1990年のデータ→2020年のサンプルとしては使えないかもしれない

それでは実際のデータ分析に移ります

データ分析

1. 視聴者の性別

ジャンプの読者層

まずアニメの視聴者層を調べる前にジャンプの読者層を調べます。
すると79.8%が男性。20.2%が女性ということが分かりました。

jump_age_sex.png

出典:雑誌広告ドットコム、少年ジャンプの読者層

データの信頼性をチェックします
1. 調査組織のバイアス有無
調査組織は広告会社のためバイアスは少ないと考えられる。
2. スポンサー(後援団体)のバイアス有無
後援団体は特に見られず独自のものと考えられる。
3. 調査方法のバイアス有無
調査方法はわからないが各雑誌への繋がりが強そうなのでバイアスはないと思われる。
4. データの適切性
調査時期は2019年12月で「鬼滅の刃」連載中なので適当と言える。

よってこのデータは信頼が出来ると言えそうです

アニメ後の層

使うことを考慮したデータ
1. アニメイトタイムズによるアンケート
なぜかアニメイトタイムズのアンケートは男女比が1:5などで女性がとにかく多い印象でした。よって3番目に書いてある調査方法にバイアスがあるため この集計は断念。

実際に使ったデータ
鬼滅の刃公式のフォロワーの性別を一から調べました。(時間がかかると思いましたが40分ぐらいで済みました)

Twitterの分析ツールを使おうともしましたが有料であったり信頼性が薄かったりでやめました。そもそもTwitter上では性別を判断するのも難しく機械学習を使うのは信頼性が薄いと感じました。例えば女性の画像を使う男性(逆もまたしかり)を 見分けるのは人間でなければ難しいでしょう。

よって一から自分の目で見分けることとしました。(アルキメデスの大戦でいうと戦艦部品を一から測定するみたいな感覚でした)

注:ツイート内容を見ても性別が曖昧なフォロワーは集計から外しました。

参考:鬼滅の刃 official フォロワー
https://twitter.com/kimetsu_off/followers

勿論 >女性が比較的フォローしやすいかも?(わざわざファンになるのは女性が多い?)というバイアスも考慮しました。しかし他の男性寄りアニメ(例:リゼロ)のフォロワーを分析したとき 男性フォロワーが多かったので、その可能性は低いと判断しました。

参考: Re:Zero official フォロワー
https://twitter.com/Rezero_official/followers

サンプルサイズ = 100 (男性:35、女性 : 65)

male_female_kimetsu.jpg

女性の方が多そうという結果になりました。

さらに詳しいことを調べるために比率の検定をしてみます。サンプルサイズが足りているか不安なので1標本t検定を使いました。(あまり見かけませんが比率の検定にも1標本t検定は使えます)

帰無仮説: mu = 0.5 対立仮説: mu > 0.5

# 男性を0、女性を1とする
x <- rep(0:1, c(35, 65))

t.test(val, mu = 0.5, alternative = "greater")

# 結果
t = 3.1291, df = 99, p-value = 0.001152

女性が半分以上という結果になりました。ただmu > 0.6にするとp値が0.1にだったので視聴者は女性の方が多いが60%以下である可能性が高いと言えます。

考えられる大局的な流れ:

少年ジャンプの作品ということもあってアニメ前は読者は男性が多かったがアニメ後は比較的 女性の読者が増えた可能性が高いと言えそうです。メディアが「圧倒的に女性人気!」と言っていたのもアニメ後に取材していたからかもしれません。

「19話がきっかっけ」は本当か?

Googleトレンドを使って調べました。

kimetsu_trend.jpg

(注:数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したもの。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50の場合は人気度が半分であることを示す)

上記のグラフから19話から勢いが少しつき、最終話、劇場版発表までに一気に検索数が増加したことがわかります。19話の盛り上がりがショボく見えますが実際どうでしょうか。

地域を日本からアメリカに変えてみます

kimetsu_trend_ar.jpg

すると19話で検索数が一気に増加したことがわかります。日本の場合、アニメ後の伸びが大きかったため19話直後の増加は小さく見えました。しかし実際は19話はその後の伸びの大きなきっかけだったと言えます。

19話後に他のアニメファンが視聴し始めたか否か

そこで19話がきっかけで口コミが多少広まり、鬼滅の刃を見ていなかったアニメファンに広まったかを調べてみます。そのためには例えば動画配信サービスの利用者データを見る必要がありますが、それは企業秘密(最高軍事機密)なのでアクセスは出来ません。鬼滅の刃のツイート数などを調べるような方法もありますが時間がかかります(間違いなく2週間以内には終わらない)。また数が増えたからといって必ずしも視聴者が増えたとは言えないでしょう。 

そこでGoogleトレンドを使って「demon slayer」と「kimetsu」を比べてみます。漫画から読んでいた日本語に馴染んでいるファンや元々鬼滅の刃に興味を持っていた人は「kimetsu」と検索しやすく、そのほかのアニメファンは英語タイトルの「demon slayer」と検索しやすいという道理です。(kimetsuとkimetsu no yaibaでは検索数が全て同一だったためkimetsuを使っている)

kimetsu_trend_ar_diff.jpg

すると、19話あとの「kimetsu」の検索数が激減していることがわかります(ノイズだと思うかもしれませんがサンプル数が膨大なのでその可能性は低いです)。他の国でも調べましたが、同じような傾向にありました。

よって19話がきっかけで他のアニメファンも見始めた可能性は高いように感じます。

またフランスではさらに面白い現象が見られました。

kimetsu_trend_france.png

(注:フランスタイトルもdemon slayer)

アニメが始まったころは「kimetsu」と検索する人が「demon slayer」よりも多いことがわかります。しかし19話後にその数が逆転しました。これは19話後から他のアニメファンが鬼滅を見始め、最終話あたりで元々の鬼滅ファンと逆転をした可能性を示唆しています。

一般人や子供に知れ渡ったのはいつから?

日本で一般人や子供たちが多く知り始めたのはいつ頃でしょうか。「demon slayer]と「kimetsu」を比べたのと同じように「鬼滅の刃」と「きめつのやいば」を比べてみます。友達から教えてもらった人、ニュースで何回か見聞きしただけの人や漢字が分からない10代は ひらがなで検索しやすいと考えられます。

kimetsu_children.jpg

結果、池袋広告や紅白の日付あたり(2019年末)から「きめつのやいば」(赤い線)の検索数が激増していることがわかります。これは この付近に出した広告の効果が高かった可能性を示しています

「アジアで盛り上がるが欧米では盛り上がらない」という不審な点

先程、米国、フランス、日本の検索数を見て何か不思議に感じた人もいるのではないでしょうか。

欧米では最終話と劇場版発表を頂点に検索数が低下しているのに対し、日本では最終話と劇場版発表のあと、はるかに上回るほどの検索数がありました。実はアジア全体で日本と似た傾向が見えます。

world_trend_1.jpg

(注:数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したもの。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50の場合は人気度が半分であることを示す)

その他インド、マレーシア、シンガポールなど他の国でもアジアと同じような右図のような傾向が殆どで、その他の欧米諸国では左の傾向が強い結果となりました。

各国のタイトル名

この「アジアで盛り上がっているが欧米では盛り上がっていない」という違いが なぜ生じたのかを知ることで鬼滅の刃が日本で大ヒットした鍵を見つけることが出来るでしょう。

可能性1: アジア人に受け入れられやすい

アジア諸国で殆ど同じ傾向にあるので、可能性としては高いでしょう。パッと思いつく理由としては、主人公たちの性格が欧米人女性への受けが悪かった可能性です。よって欧米では女性視聴者が増えなかったため、このような傾向になったのかもしれません。

まずはデータに触れてみよう!ということで外国人女性が鬼滅の刃に反応している動画を色々と見て周りました。結果、アメリカンな女性ほど善逸の言動に終始イライラしているようでした。

そこで米国版「鬼滅の刃」の公式ツイッターのフォロワーの男女比を調べてみます。

するとサンプル数が100で(女性:40、男性:60)でした。

日本のオフィシャルでは(男性:35、女性 : 65)だったのでアメリカのオフィシャルでは男性が多いことがわかります。

帰無仮説: mu = 0.5 対立仮説: mu > 0.5

# 男性を0、女性を1とする
x <- rep(0:1, c(60, 40))

t.test(val, mu = 0.5, alternative = "greater")

# 結果
t = 3.1291, df = 99, p-value = 0.001152

mu=0.6だとp値が0.1だったのでアメリカでは男性の鬼滅ファンが50%より多く60%より少ないと言えそうです。

日本と男女比が正反対なことがわかります

可能性2: 広告や広報にどれくらい力を入れているか

各アニメがどれくらい広告や広報に力を入れているのを把握するためにアニメの公式アカウントのツイート数を見てみます。ツイートの殆どが商品のコラボや広報なので どれくらい力を入れているかはある程度把握できるはずです。(アルキメデスの大戦でいう あの方程式に近いモノを目指したい)

勿論、鬼滅の刃がコラボした商品や広告を一から数える方法はあります。しかしそれだと膨大な時間がかかりますし、どれくらい効果があったのかを知るデータもほぼありません(戦艦部品に対しての価格表がありません)。

鬼滅の刃公式Twitter

以下が結果です。

tubuyaki.jpg

(注:出来る限り鬼滅の刃と同じ時期に2クールで放映されたアニメと比べる。またその他の人気アニメは2クールごとのツイート数になるように補正(総ツイート数/総クール数*2クール)。またTwitter戦略に重きを置いていない可能性のある昔から続いているアニメ(例:SAOや進撃の巨人)は多少補正した。(例:ツイート数に1.2をかける))

すると鬼滅の刃が最も総ツイート数が多いことがわかります。なお調べてみるとアニメ後の広告広報量の方が多いことがわかりました。(月平均50ぐらい)しかしそれを考慮しても他のアニメと比べてツイート数は多いと言えます。

コラボや広告を入れたから人気が出たのか、人気が出たからコラボや広告が出たのか。(鶏が先か卵が先か問題)は一度置いておくとして、広告の量と鬼滅の刃の検索数には相関関係があった可能性は高いことがわかります。

ちなみに米国の鬼滅の刃公式アカウントの総ツイート数は194と日本と比べると非常に低いことがわかりました。 (2020/07/30時点)

次に台湾を調べると400以上の記事が見つかりました。(2020/07/30時点)。
(台湾ではTwitterユーザーが少なくFacebookユーザーが多いため鬼滅の刃の公式Facebookグループを調べました。)

なぜ台湾では広報や広告活動が高かったのでしょうか。「まずはデータに触れていこう」(アルキメデスの大戦)ということで一から調べてみました。すると台湾のグループでは日本の商品をそのまま紹介したり紅白などのテレビ番組も紹介されていました。台湾は親日で物理距離も近いので 日本に近い広報広告効果があったのかもしれません

結論 - なぜアジアで盛り上がり欧米で盛り上がらないのか

筆者の意見はアジアだけで人気になった理由としては「欧米人女性への受けが悪かった」の理由が大部分を占めていると考えてます(欧米は女性ファンが少ない+あまりに多くのアジア諸国に似た傾向があるため)。そしてアジア諸国のなかで盛り上がりの違いを生む要因になったのが「広告や広報効果」だと考えてます。 理由を話します。

world_trend_1.jpg

もう一度グラフを見てみると、19話後の全体の盛り上がりは日本が最も大きかったことがわかります。このことから広告や広報の効果は、ある程度の盛り上がりの差を生んだと言えるでしょう。(当たり前だが日本が最も広告広報が多い)(ノイズだと思う方もいるかもしれませんが、Googleでの検索数は圧倒的に多くサンプル数が巨大なため その可能性は低いです)

ただ一つ気になる点として19話後の検索数増加を支点とすると日本の盛り上がりが他国のそれとは異常なほど高いことがわかります

この違いはどこから生まれたのでしょうか。

私は最大の要因に「ニュース爆発」があると考えてます。ニュース爆発とは他の作品より圧倒的にニュースの量が多いことです。(筆者が勝手にそう呼んでいます)

日本でのニュース本数(2020/08/02時点)を他アニメと比べてみましょう。

kimetsu_news.jpg

kimetsu_yahoo_news.jpg

(注1:ソードアートオンラインと書くと長いのでグラフ上ではSAOと表記)
(注1:検索では""クオテーションを付け、文章中に作品名が一字一句入っている記事のみ表示。これをしないと「刃」しか入ってない記事も出てきてしまう)
(注2:一定期間経つとニュースサイトが記事を削除する可能性が高く上記の数値は必ずしも正確ではない。現に「君の名は」の記事は思ったよりも少なかったためグラフに入れていない。)

すると鬼滅の刃のニュース記事が圧倒的に多いことがわかります。タイトルとページ内のいずれかに「鬼滅の刃」という単語がある記事は、他のアニメの記事が0に見えるほど多いです。

なぜこのようなことが起きたのでしょうか。理由の一つにスマホとインターネットの普及によるメディアの大量生産があると考えます。

news_sites.jpg

出典: https://digitalpr.jp/r/30895
(データの信頼性4要素を満たしている。)

2008年と比べるとニュースサイトの量が2.7倍にまで膨れ上がっていることが分かります。

よって一度主要サイト(例:Yahooニューストップ)などで取り上げられれば、他の大量のニュースサイトもそれに追随し、そのアニメが一気に広まる可能性があるのです。

それでは台湾も見てみましょう(中国語検索なので若干他の国も混ざってそうです)。

taiwan_news.jpg

上記からわかるように鬼滅の刃のニュース数は日本と比べて極めて少ないことがわかります。台湾ではニュース爆発が起きなかったため日本と比べると伸びが劣っていたのではないでしょうか

またマーケティング視点だとイノベーター理論が関係していると言えるでしょう。

inovator.png

アーリーアダプターとは名前の通り「早めに適応する人」
アーリーマジョリティとは「早めに適応する大多数」です

イノベーター理論とは、「新しい商品・サービス、ライフスタイルや考え方」などが世の中に浸透する過程を5つのグループに分類したマーケティング理論です

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には深い溝(キャズム)があり、これを乗り越えられればサービスが一気に広まる可能性が高いとのことです(キャズム理論)。人間の心理で言う周りがやってるから自分もやろうという感覚と似てますね

詳しくはこちら

もしかしたら現代ではニュース爆発のおかげでキャズムを乗り越えやすいのかもしれません

鬼滅の刃が大ヒットしない可能性もあった

先程のアジアと欧米諸国の線を見れば鬼滅の刃が女性ファンを考えた作品を作らない、または広告や広報を積極的に行わなかった場合、どういった線になったかが予測できます。勿論、日本人だから延びたという要素も排除できないため、あくまで簡易的な予測です。なおアジア線の予測にはインドやフィリピンなども含めたため実際にはもう少し高くなっていたかもしれません。

japan_preds_comp.jpg

(本当は平均値の線を用いたかったのですが実数値がわからなかったので、結局アジア諸国や欧米諸国の平均になるように予測で手書きをしました。)
(それぞれの線について。アジア線は女性人気を獲得できたが広告広報効果は期待できなかった線。欧米線は女性人気も広告広報効果も期待できなかった線です。)

キャラクターデザインを滅茶苦茶にして殆ど広告を入れなかったら日本も欧米線のようになっていたかもしれません

「鬼滅の刃」大ヒットの理由 まとめ(中間地点)

記事が長いので、ここまで書いた大ヒットの理由をまとめました

  1. 欧米ではアジアほど人気ではないことから登場人物の女性ウケが大切だった。
  2. 2019年年末に大勢の一般人や子供が見始めており、その付近の広告や広報の効果が大きかった。
  3. 鬼滅の刃の広告や広報は他のアニメと比べると一番多かった。
  4. ニュース記事の大量生産(ニュース爆発)があった。

まとめの総括は↓に書きました。
鬼滅の刃の大ヒットはなぜ起こったのかまとめ

バズった作品が持つ5つの性質 (重要度順)

ここでバズった作品を短期間で一般人に知られた作品と定義します。
(参考例:「逃げ恥」、「君の名は」など)

また以下の性質に加え単純に作品が「面白い」という大前提があるものとします。

1.一般性

大ヒットのレベルにもよりますが、大ヒット作品とは「ターゲットの広さが際立つ作品」と言えます。(つまり、より一般的である作品です)

例:「君の名は」
アニメファンにも好まれ、非アニメファンにも好まれる作品。

例:鬼滅の刃
男性にも好まれ、女性にも好まれる作品。

またこれらの作品はターゲットが広い(一般的)且つ、それらのターゲット全員が満足できる作品といえます

詳しくは「大ヒット作品の作り方」の」「ターゲット拡張の難しさをどう乗り越えるか」の項目で説明してます。

一般性があるとターゲットが広いため話題後はヒットを狙いやすいという利点の他にも作品自体が広まりやすいという大きなメリットがあります。皆さんは20代日本人のうちアニメ視聴層はどれくらいると考えていますか?筆者は20%くらいかなと思っていたのですが、アニメマーケティング白書 2017によると実は40%もいるらしいです。20代で会った人の約半分がアニメを見ているのです(男性だったらもっと多い)。肌感覚と実際の視聴者数が随分とズレていることがわかります。原因としては周りにアニメを見ていることを隠す人が多いからだと考えます。これは大きな問題です。なぜならいくらアニメが傑作でも口コミやSNSで広がりにくいからです。

また一般人から一般人への広まりやすさ以外にも有名人から一般人への広がりやすさにも注目する必要があります。例えば「鬼滅の刃」の場合、芸人の椿鬼奴さんが鬼滅の刃好きを公言していて話題になりました。有名人はイメージ商売なので、より一般的な作品を公言しやすいのです。

人に公言したがらないのはそれらのアニメが一般的でないと考えているからでしょう。

以上から話題になった後は一般性があると視聴者数を獲得しやすいだけでなく圧倒的に作品が広まりやすいことがわかります。

ただし作品が話題になる前は一般性の無さの方が重要かもしれません。一般性が無い作品は意外性を持ちやすいからです。よって話題前は一般性が無いから人を呼び込めるが、話題後は一般性が無いから広まらないということに注意する必要があるでしょう。

例えば「あの花」というアニメでは登場人物のあだ名をわざと下ネタにすることで話題になりました。しかし、そうすると親に勧めづらかったりなど広まりにくさも同時に持ってしまいます。よって一般性の無さで話題になる方法は「あの花」のようなターゲットを狭めに設定したアニメにのみ有効と言えるでしょう。

2.突発性

情報が溢れ出す現代では長期間に渡って流れてくる情報よりも短期間に突発的に出た情報の方が目立ちます。現にバズったアニメの多くはインパクトがあります。(例:思わず人に話したくなるようなワンシーン) 鬼滅の刃で言えば作画、音楽、ストーリーの最大値を当てた19話の一部シーン、「君の名は」でもストーリーと親和性の高い音楽を組み合わせて使ったシーン。天気の子では主人公たちが空から落ちてくるシーン。東京グールの一期最終話など。

実は東京グール一期の最終話(カネキvsジェイソン)は、鬼滅の刃の19話とほぼ同じくらいバズりました。

ghoul_kimetsu.jpg

突発性があれば同じ時期に皆がツイートや口コミをするため情報が目立ちやすいです。

現に東京グールは大人気のアニメとなりました。個人的には鬼滅の刃よりも東京グールの方が好きだったりします。

東京グールが鬼滅の刃ほど人気にならなかったのは他の性質を満たしていなかったからだと考えます(例:一般性(強め→拷問シーンや鬱展開シーン)、利便性(動画配信の時代ではなかった))

また突発性として音楽、ストーリー、作画の頂点を一部シーンに当てる方法は一番利に適っています。なぜなら口コミやツイートがしやすく広まりやすいからです。例えば、鬼滅の刃を友達に紹介するとき どういう風にするでしょうか?私含め殆どの人は語彙力がないので「鬼滅の刃、面白いよ!今ジャンプで一番熱いよ!」のようなことを言うでしょう。しかし、インパクトのあるシーンがあれば「19話のシーンめっちゃかっこいいよ!見てみて」とか「善逸ってキャラ、めっちゃかっこいいよ!」などと言って実際に画像や動画を見せたりできます。どちらの方が友達が実際に見るかは明白です。よって一部シーンにインパクトを与える方法は人に広まりやすい、ゆえに突発性として理に適っているのです

さらに突発性を加える位置としては最初と最後が重要と言えます。
特に作品の設定や世界観が弱いなら作画で最初に盛り上げて視聴者を掴む必要があります。また物語のクライマックスで突発性を加えて作品の口コミのきっかけを作る必要があります。

3. 意外性

これは言葉の通りなので説明はいらないでしょう。

当たり前のことですが、かなり重要だと思ったので3番目としました。

例としては「君の名は」の男女が入れ替わるという設定や約束のネバーランドの人間が家畜になって逃亡計画を立てる設定があるでしょう。(ただ一般性がある意外性の方が良い)

また予告での意外性の作り方といえば、興味が湧きそうなシーンを予告にするものの、本編では わざと予告を裏切るような展開にする方法があるようです。作品自体には意外性は加えていませんが広報で無理やり意外性を作っています。

4.持続性

これは「バズ」をある程度持続させられる性質です。よくあるのがアニメの後に漫画を読ませることです。一回バズっても直ぐに注目を下げずに、ある程度の期間 視聴者の興味を持続させられます。

鬼滅の刃では 漫画に加えてクライマックスを最終話ではなく19話に持っていったことでバズを持続させることに成功したように思えます。またバズが終わりそうなところで紅白や池袋、渋谷広告、漫画最終回匂わせ でそのバズを支えたことも大きかったように思います。

また「君の名は」では何回も見たくなるような面白い+多少複雑なストーリーでリピート性を生んだり、興行収入を追うマスコミのおかげでバズを継続させることが出来ました。(複雑でつまらないストーリーは評価が下がる上にバズりさえしないので難しい)

このようにバズらせた後に それをしばらく持続させる力量が重要です。

寄り道:
バズの持続性とは異なりますが、売り上げの持続性という観点で話せば「夏になると見たくなるアニメ」だとか「○○の気持ちになると見たくなる映画」、「~を見たら思い出す映画」など、ある一定の季節や気持ち、場面になると思い出す映画というのは持続性を持たせる意味で強い気がします。

5.利便性(アクセシビリティ)

これはユーザーがどれくらい簡単に作品にアクセス出来るかの性質です。例えば動画の配信プラットフォーム数や映画のスクリーン数が挙げられます。バズってもアクセスできなければ伸びないためです。

またアニメで言えば2期放送前に1期にアクセスしやすくすることも考えられます。

この利便性は既に取り入れられていることが多いため最低重要度としました。現に鬼滅の刃以外にも多くのアニメで20から30以上の動画配信プラットフォームを使っています。

追記:鬼滅の刃は総巻数が低く大人買いしやすかったという利便性(アクセスのしやすさ)も兼ね備えてます。

大ヒット作品の作り方 (考察)

ここからはデータ分析がほぼないので、そちらに興味があった人にとってはつまらないかもしれません。またエンタメ素人の意見ですので面白い読み物感覚で読んで頂けると幸いです。

そもそもヒットとは?

大ヒット戦略を考える前に、まずヒットとは何なのかについて考える必要があります。

ヒットしたアニメとは他のアニメの認知度よりも そのアニメの認知度の方が圧倒的に高いときに使います。数学的に言えば中央値から逸脱した作品。統計的には外れ値であると言えるでしょう。

例えば他のアニメが、認知度=1だとして鬼滅の刃が認知度=10だとしたら鬼滅の刃は大ヒットです。しかし他のアニメも認知度=10でしたら鬼滅の刃は大ヒットしたと言えません。その認知度が普通だからです。

よってヒット作品とは他の作品よりも圧倒的に認知度が高くなることなのです。
(注:認知度が上がれば売り上げが増えるという前提で話している)

what_is_hit.jpg

よって問題はどうやって他の作品より認知度を高めるかです。これには2つ方法があると考えてます。

1つ目は絞ったターゲットの中で認知度を極限まで高める方法です。この方法は「鬼滅の刃」や「君の名は」ほどの大ヒットとは言えない大ヒット作品に多いように思います。

例:よくある男性向けの深夜アニメやギャグ系アニメ(外国人にとって理解が難しいネタが多いため)

歴史にヒビを入れるほどの大ヒットを狙わないなら、この方法で十分でしょう。

2つ目は他のアニメがターゲットにしていない大きいターゲットも掴むことです。例えば鬼滅の刃は男性ファンを獲得しつつ一般女性ファン(大きなターゲット)も獲得しました。また「君の名は」や「天気の子」は ある程度のアニメファンを獲得しつつ、アニメを見ていなかった若者(大きなターゲット)も獲得しました。

例:以下、作品名(意外な大きなターゲット)
ディズニー(一般若年層)、ドラゴンボール(海外男性)、君の名は(アニメに興味なかった若者)、鬼滅の刃(一般の女性ファン+子供)、ヒロアカ(米国のヒーローファン)。ヒロアカについては後述。

hit_way2.jpg

(分かりやすくするためにターゲットの数や数値は全て簡略化しました)

ターゲット拡張の難しさをどう乗り越えるか

先程「鬼滅の刃」レベルのヒットを狙う場合、ターゲットを拡張して作品を作る方が簡単だということを話しました。しかしターゲット拡張を行うと自然と作品がつまなくなりそうです。どうすれば作品の面白さを損なわずに作れるのでしょうか。

結論から言うと量でバランスを取らないで両立でバランスを取るです。

理由は量でバランスを取ると作品が どちらのターゲットにも好まれない作品になりやすく、両立でバランスを取れば 両者からも好まれる作品になるからです。

balance.jpg

それでは鬼滅の刃が如何に幅広いターゲットの好みを両立させたかを考えてみます。

その前に典型的なターゲットが狭めのアニメの例を見てみましょう。(それらの要素を持つアニメを侮辱しているわけではない)

biased_target_anime.jpg

上記のようにターゲットが狭い両立意図のないアニメは両者に好かれることが難しいことがわかります。

スポーツ系アニメと男性の欄に「苦手な人が多い」と書いたのは、元々アニメ好きな人たちは内向的な人が多くスポーツにあまり興味がない人だからです。逆にスポーツ系は女子に人気が高いと言われています。
参考:https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK31007_R31C12A0000000/

それでは鬼滅の刃と「君の名は」も見てみましょう。

kimetsu_name_eval.jpg

鬼滅の刃を見ると幅広いターゲットの好みを器用に両立させていることがわかります。一番凄いところはキャラクターでしょう。量でバランスを取る要素が全くないことがわかります。例えば 善一や伊之助は男性から見るとカッコよくて面白いキャラクターに見えますし、女性から見るとギャップ萌えのあるキャラクターに見えます。

「君の名は」はどうでしょうか。筆者が驚いたのは最も難しそうであるサービスシーンを両立させていたことです。「君の名は」のサービスシーンは、中高生が満足出来そうで且つ、女性が見ても あまり不快に感じないような作り方をされていたように感じます(体が入れ替わるという設定で乗り越えた?)。実は新海監督もサービスシーンには凄く拘っているようで、天気の子のドキュメンタリーでは 主人公が夏美の胸元を何秒間見るかをミリ単位で調整していました。これらは量でバランスを取る要素も入っていますが、両立要素が殆どであったと考えてます。

このように量でバランスを取ろうとせず、出来る限り両立でバランスを取ろうとすることで幅広いターゲットを獲得しつつ両者に面白いと思ってもらえるような作品を作ることが出来ます

寄り道:両立なしでも大ヒットする作品はある?
(注:大ヒットの定義を誰でも知っている作品と定義)
例えば「千と千尋の神隠し」という作品は子供には理解することが難しいと言われていました。制作陣も「別に子供には理解されなくてもいいじゃない」とドキュメンタリーで割り切っているのを見た覚えがあります。それでも千と千尋の神隠しは子供に大ヒットしました。これは恐らく1.子供はそこまでストーリー重視じゃない、2.千と千尋の神隠しの世界観が強烈なほど子供にウケたからだと考えてます。これは一方が強烈すぎて両立をさせなても大ヒットした例外だと考えられます。

それでもターゲット拡張が難しい理由

量でバランスを取らず両立でバランスを取れば、作品の面白さを壊さずターゲットの拡張が出来ると書きましたが、それでも実際には難しいでしょう。なぜなら作品の両立には両者の好みを完全に捉える必要があるからです。(一度好みと逸脱しているシーンがあると引っかかってしまう人が多いため)

以下が筆者が考える捉える2つの方法です。

1. ターゲットに詳しい人々を見る、聞く、分析する。(やり方)

例1:子供向けのアニメを作るなら直接子供を見て話を聞く。子供の流行りをデータ分析する。結果、例えば子供には作中に技名を出すとウケが良い等がわかる。(また彼らは学校でキャラの真似をするので作品が広まりやすい)。

例2:欧米人向けにキャラを考えたいなら海外ドラマや映画を見る。英語を習って感想の書かれた掲示板を見る。彼らに直接話を聞く。結果、例えば彼らにウケるには独特のユーモアセンスが必要だとわかる。(例えばハリウッド映画では日本の映画には見られない、観客に語りかけるようなジョークが時々あります。これは米国の映画館では友達とワイワイ映画を見る文化があるからだと考えられます。)

このやり方でターゲットの好みを捉える方法ですが、一番簡単で確実な情報収集方法はインターネットでしょう。データが豊富なため確実性が高く、また匿名なため本音が聞きやすいからです。(例:知恵袋、掲示板、口コミサイトなど)

2. ターゲットの気持ちを理解しようとする。(あり方)

これは自分の心を、その層の心に置き換え好みを把握する方法です。

例:分析結果から子供には作中に技名を出すとウケる(やり方)で好みを捉えるのではなく、子供の根本にある気持ち(あり方)を理解してゼロから子供の好みを考える。

1番目の方法(やり方)は簡単そうですが、大きな問題があります。それは欲求を根本にした発想がしにくいことです。鬼滅の刃で例えれば、男性作者が 女性が好きそうなキャラクターを描き、それを女性に確かめてもらえることは出来ても、魅力あるギャップ萌えキャラ(善逸や伊之助)のような欲求そのものから湧き出てくる斬新なキャラは思いつきづらいということです。またいちいち分析などをするので時間がかかるというデメリットもあります。

よって本当に真向から両立を狙うなら2番の方法「やり方」よりも「あり方」を重視する必要があるのです。どういうことかというと、ターゲットが好みそうな手法(やり方)を毎回分析して模索するよりも、自分自身がターゲットになって気持ちを理解する(あり方)を使って作品をターゲットに向けて両立させることです。

例えば、作品を作るたびに「このシーンは女性受けするか?」「このキャラは女性に評判がいいか?」「この演出はウザがられないか?」と「やり方」を模索するより、作者が女性であれば「あり方」がなっているので これらのような疑問は迅速にかつ正確に解決できます。

よって問題はどう「あり方」を作るかとなります。

あり方を作るのは難しい

まず前提として熱中するぐらいの「好きなこと」が「あり方」を作る流れがあります。よって熱中するぐらいの「好きなこと」をわざと作れば「あり方」も作れますが、それが難しいということです。

まず「好きなこと」が「あり方」を作るという前提について話します。例えば鬼滅の刃の女性作者は、男性が好きだったから(変な意味ではない)、「女子はこれが好きだ!」という「あり方」を作れました。また王道ジャンプが好きだったから 「ジャンプファンはこれが好きだ!」という「あり方」も作れました。

そして「好きなこと」を無理やり作れないことについては皆さんもご存じの通りでしょう。

よって好きなことを作ることは難しいため、「あり方」を作るのは難しいと言えるのです。鬼滅の刃で言えば男性が男性を好きにならなければなりません。

そのため現実的には前述したターゲットを見る、聞く、分析するという「やり方」と「あり方」を上手く組み合わせるのが良いと考えます。例えば新海監督は「若者の気持ちがわかる」という「あり方」と女性陣(女性の気持ちがわかる)の意見(やり方)を上手く組み入れて「君の名は」を制作したと聞きます。

また好きなことの優位性について、同業者(供給側)から見るとユニークであればあるほど、世間(需要側)からするとユニークではなければないほど有利と言えます。鬼滅の刃で言えば、ジャンプの漫画家や編集者は殆ど男性なので「男性が好き」ということは同業者の中ではユニークです。また男性が好きな人は人口の半分(女性)なので世間的にはユニークではありません。

またもう一つの注目点として「好きなこと」は複数持っているということがあります。よってこれらを取捨選択したり合わせて使うことで優位性を確保できます。

さらに「好きなこと」を持っていれば自然と「嫌いなこと」も浮かび上がります。例えば鬼滅の刃の作者は「女性はナヨナヨしてる男性が嫌い」と分かっていたので、寝たら覚醒するキャラを作れました。

arikata.jpg

寄り道:その他の「好きなこと」を持つメリットとしては「好きなこと」の本当の良さがわかる、作品を作っていて楽しい、自然と良いアイディアが浮かびやすいということがあります。よって「好きなこと」を題材にした作品を作るというのは大変有利なのです。

これまで大ヒット作品の作り方について話しました。まとめると、ターゲットを出来る限り広く大きく設定し、それらのターゲットが全員満足できるように作品を両立させることが重要だと書きました。また、そうするために自分の好きなことを研究、取捨選択することで、あり方を有効活用できる。ターゲットの気持ちを理解する(あり方)とターゲットを分析する(やり方)を組み合わせて使うことが有効だとも述べました。

未来の大ヒット領域

これは欧米諸国ではないでしょうか。理由としては、

1. この層は開拓されきれていない

今までの漫画やアニメは、まず日本人に受け入れられることが前提でした(日本人にまずウケないとアニメ化されない)。よって最初から欧米人向けの漫画やアニメは描かれておらず、欧米人に好まれる漫画やアニメが未だ出ていない可能性は十分にあると言えます。(アジア人は日本人と趣向が似ているため、アジア人が満足出来る作品は既に多く出ている可能性が高い。)

もちろん欧米諸国の一般人にはアニメは受け入れられないという意見もあるかと思います。しかし日本の「君の名は」で起きたように 欧米でも「アニメは一部のマニア向け」から徐々に「一般人向け」に替わる可能性はあります。

2. ターゲットが十分に大きい

単純にアメリカだけでも3億2700万人で日本の約2.6倍なので巨大市場です。また中国のような政府の干渉 が少ないのでビジネスをしやすいという利点もあります。(例:香港デモにどうぶつの森が使われたので中国政府が販売禁止にした)

3.動画配信サービスの普及

動画配信サービスのおかげで一般の外国人にもアニメが目に留まりやすくなってます。よって外人受けが良いアニメさえ作られれば、多くの外国人に受け入れられる可能性が高いのです。

実は この流れは既に始まっています。例えばネットフリックスなどの動画配信サービス会社がオリジナルアニメを配信し始めました。例:2020年夏アニメ GREAT PRETENDER

そしてGREAT PRETENDERなどの作画やストーリーを見れば一目瞭然ですが、かなり米国を意識した作品になっています。

収益面でも動画配信サービスの普及や出版社独自の漫画アプリのリリースで現実味を帯びつつあります 例:少年ジャンプ+

この流れが強くなれば日本で最初に人気になる必要がなくなり、日本と海外両者に受け入れられる漫画が広まることとなりそうです(漫画のグローバル化)。そして欧米市場は巨大なため、これらの作品が大ヒットする可能性は高いです。

次のNARUTOはヒロアカ?

先程、次のヒット領域は欧米と書きました。実はこのターゲット向けの漫画、アニメがあります。それが僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)です。Googleトレンドで調べてみました。

hero.png

実は筆者もヒロアカはマーベルのヒーローを意識していて米国で人気なんじゃないかと思っていましたが調べてみて かなり驚きました。米国では検索数でいうと現在は鬼滅の刃や進撃の巨人よりもヒロアカの方が人気になっていることがわかります。進撃の巨人の海外人気が絶大なのでヒロアカが如何に欧米人気になりつつあるかが分かると思います。(ただ鬼滅の刃はアニメ歴が短いので人気度で比べると不利)

日本の場合

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さらにヒロアカが受け入れられる可能性のある巨大なターゲットがあります。それが米国のマーベルヒーロー市場です。(スパイダーマン、アイアンマン...etc)

よって今後アニメのグローバル化の動きが強まり、さらに多くの欧米人がアニメを見始めれば 欧米のヒーロー文化と親和性が高いヒロアカは欧米諸国の一般人に大ヒットする可能性があるのです。

勿論これは可能性の話で、外国人にとって日本の作画が受け入れられなかったり、弱そうな主人公が受け入れられないという可能性もあります

筆者としては、じわじわと認知度が高まり気づいたらNARUTOのようにヒットしていたという可能性が高いと考えてます。

そもそも外国でアニメがヒットしていない理由の一つに広告や広報の少なさがあります。今後収益化がしっかりと進めば、海外での広報活動も活発になってくる可能性はあります。

鬼滅の刃の大ヒットはなぜ起こったのか?(まとめ)

鬼滅の刃は 男性、女性、子供の好みを作品内で器用に両立させることで幅広いターゲットに満足できる作品になれました(さらに大ヒットの性質を満たす)。アニメでは19話でインパクトを与えることで SNSの拡散や口コミが増し話題になりました。さらにそのバズをアニメ(19話~26話)と漫画で持続させました。さらには適切な時期に広告と広報をしっかりと打ち続けることで一般人にも次第に知れ渡りました。そしてニュース爆発が起き始め、知らない人はいないぐらいの大人気漫画、アニメとなりました。

大ヒット作品の作り方 (まとめ)

大ヒットを「一般人ならば誰でも聞いたことがある」と定義。

大ヒット作品を作るときに大切なのは、同業者(供給側)からしたらユニークだが世間(需要側)からしたらユニークではない「自分の好きなこと」= ターゲットの「あり方」を探すことです。そしてターゲットを出来るだけ広く大きく設定し、ターゲットの「あり方」を参考に、またはターゲットに詳しい人達に聞いたりして全てのターゲットが満足できるように作品を両立させます。(さらに大ヒットの性質を出来るだけ満たす必要がある)

そしてアニメや映画などで突発性(インパクト)を持ったシーン(思わず人に教えたくなるようなシーン)を描きます。SNSや口コミで拡散させ、上手く広告広報などでバズを持続させながらニュース爆発を起こさせます(このとき作品のターゲットが広いことが重要)。これが上手くいけば大ヒットです。ターゲット外の層も見始めれば、さらに伸びるでしょう。

例1:鬼滅の刃
「男性が好き」(変な意味ではない)(ジャンプの女性作者が少ないので同業者(供給側)からしたらユニークであり、さらに視聴者(需要側)からしたら偏っていない好きなこと) = 「女性の気持ちがわかる」(あり方)

ターゲットを日本人(男子多め)+アジア人女子(巨大ターゲット)に。

王道ジャンプが好きな男性と「女性の気持ち」(あり方)を参考に作品を男子好みと女子好みで両立させる。

アニメの19話で作画、ストーリー、音楽の最大値を当ててインパクトを作る。SNSや口コミでバズる。19話~26話と漫画、広告広報でバズを継続(ターゲットが広いので容易)。ニュース爆発を起こす。一般人やターゲット外の層も読む+見る。大ヒット!

例2:君の名は
「恋愛系の話が好き」(アニメを作る男性監督としてはユニーク)=「一般人若年層の恋愛が分かる」(あり方)

ターゲットをアニメファン +一般人若年層(女性もしっかり)(巨大ターゲット)に。

アニメファンと「一般人若年層」の気持ちが分かる(あり方)を参考に作品をアニメファン好みと一般人若年層好みで両立させる。さらにターゲットに詳しい人達(女性陣)と積極的に脚本などを協議することで両立に磨きをかける。

映画のラストシーンで作画、ストーリー、(親和性の高い)音楽の最大値を当ててインパクトを作る(天気の子でもあった)。SNSや口コミでバズる。映画(リピート)+広告広報でバズを継続(ターゲットが広いので容易)ニュース爆発を起こす。初めての大ヒット作品のため、ターゲット外の層も読む+見る。大ヒット!

例3:ヒロアカ
「アメコミが好き」(ユニークな好きなこと)=「アメリカのヒーロー好きの気持ちがわかる」(あり方)(アメリカ人の殆どがヒーローを見て育った又は大人でも見てるのでこれは強い)

ターゲットを 日本人(男子多め)+アメリカのヒーロー市場(巨大)に。

「アメリカ人のヒーロー好きの気持ち」を参考に作品を日本人好みと彼ら好みで両立させる。
例:キャラデザ、何だかかっこいい技名(プラスウルトラ、テキサススマッシュ)、ヒーローが勝ったときの盛り上がりの演出など

ただヒロアカはアメリカのヒーロー好きには未だ作品名が知られていないため今後に期待。

その他

なぜテンポの速い作品がウケやすいのか?

最近バズった作品を見るとテンポの速い作品が多いように思います。例:「君の名は」と「鬼滅の刃」

(私は「鬼滅の刃」は普通の速度だと感じていましたが、ワンピースなどの昔からのアニメファンからすると速いと感じるらしいです)

エンタメの多様化

理由の一つとしてエンタメの多様化により現代人が一つのエンタメ作品に飽きやすくなったからだと考えられます。

現代ではスマホの普及や高速通信網の構築により映画見放題、ゲームし放題(アプリ、デスクトップ含む)ができるようになりました。インスタやTikTokなどの娯楽SNSも登場し様々なことに時間を割くようになりました。これはデータで検証するまでもない事実です。

今後も5Gやクラウドゲームの普及により この動きは加速していくでしょう。

そうすると現代人の脳は常に興奮した状態になります。化学的に言えばドーパミンが脳内に溢れ、ドーパミン受容体が増えます。そうするとドーパミンの分泌が少ないイベント(難しい話や長ったらしい話)に飽きやすくなります

これが現代人にテンポが速い作品が受け入れられやすい理由です。話の展開が早ければドーパミンの分泌をキープしやすく、彼らが途中で作品に飽きないのです。

注:テンポの遅い作品が受け入れられないとは言っていません。テンポが遅くても面白さを十分キープ出来ればドーパミンの分泌を保てるからです。

大ヒットはしなくていい?

個人的には2番目のターゲットを拡張して大ヒットを狙う戦略は、どうしても量でバランスを取る必要も出てくるので作品によってはつまらなくなると思います。例えば東京グールから鬱展開や拷問シーンを取り除いては、全く作品としての良さは現れなかったでしょう。よって作品にもよりますが「鬼滅の刃」レベルの大ヒットを狙わない場合、そのまま方法1である狭いターゲットを最大限取るという方法が正攻法だと思います。

同じような作品で二度目のヒットはある?

これは二度目の作品の質が落ちてなければ、もう一度大ヒットはする可能性は高いでしょう。

二度目は飽きられるからヒットしないとも考えられます。確かにアイディアベースではそうでしょう。体が入れ替わる設定の映画をもう一度作ればヒットはしないと考えられます。しかし同じターゲットに向けて違うアイディアをぶつけた場合は違います。なぜなら大ヒットというのは前述したように新たな巨大ターゲットを獲得したことで起きるからです。つまり初めての大ヒット作品とは新しい地(需要)を発見した作品と言えます。よって そこに質を落とさず同じような作品を放てばもう一度ヒットはするはずです。

これが成り立たないと、例えば名探偵コナンのような映画は毎年作れないことになります。天気の子も「君の名は」より興行収入は劣りましたが大ヒットとなりました。元々「君の名は」の場合、ニュース爆発でターゲット外の人も見たり、ストーリーが面白くリピート性もあったので大ヒットしました。「天気の子」のようにストーリーは「君の名は」と比べ多少劣っても同じような作風ならば若年層の一般人やアニメファンは見るので大ヒットしたように思えます。

終わりに

今回は鬼滅の刃は なぜ大ヒットしたのかをデータ分析、また大ヒット作品の作り方を考察してみました。もし読んでいて面白いと感じて頂けたらLGTMやリツイートをしていただけると嬉しいです。また当記事では間違いや様々な意見を募集していますので、何かございましたら下のコメント欄かTwitterアカウントのDMで教えて頂けると助かります。

それでは。

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