はじめに
2020年第3回のG検定に合格して思い返してみると、今回の検定では、予想以上多く、法律問題が出題されました。おそらく、今後も、著作権法、不正競争防止法、特許法、個人情報保護法などの機械学習に関連しそうな法律を全く勉強しないわけにはいかないと思います。
そこで、私自身が業務上関わり合いのある著作権法の中でG検定に必要と思われる重要事項を、可能な限り平易に紹介したいと思って下記20のポイントを書かせてもらいました。20のポイントは、すみませんが、私の独断と偏見で選ばせてもらいました。すみません。
時間の無い方は、各ポイントの最初のタイトル(太黒字の部分)だけでも広い読み、覚えていただければ良いと思います。時間のある方は、各タイトルの直下にある補足や解説まで読んでいただければ良いと思います。
1.著作権は、「著作財産権」、「著作者人格権」、「著作隣接権」及び「実演家人格権」に大別される。
<補足>
(1)著作者財産権とは、著作物の利用を許諾したり、禁止する権利である。
(2)著作者人格権とは、著作者の人格的利益を保護する権利である。
(3)著作隣接権とは、著作者ではないが、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者に与えられる権利である。著作隣接権は、実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者に認められる。
(4)実演家人格権とは、実演家(例えば、歌手、俳優、演奏家、舞踏家)がその実演に対して有する人格的利益の保護を目的とする権利である。
2.人格権(著作者人格権及び実演家人格権)は、著作者や実演家の一身に専属する権利であり他の者に移転(相続、譲渡など)できない。
<補足>
著作権法は、「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」(著作権法第59条)、及び「実演家人格権は、実演家の一身に専属し、譲渡することができない。」(著作権法第101条の2)を規定している。いずれの人格権も、著作者や実演家が精神的に傷つけられないようにするための権利であり、創作者や実演家としての感情を守るためのものであるためである。
3.著作財産権及び著作隣接権は、人格権と異なり、一種の財産権であるため、他の者に移転(相続、譲渡など)できる。
<補足>
著作権法は、「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。」(著作権法第61条第1項)と規定している。また、著作隣接権も譲渡可能である(著作権法第103条によって同法第61条第1項を準用)。いずれの権利も財産的性格を有しているからである。
4.著作権は、原則、著作物の創作により発生する。登録は、著作権発生の要件ではない。
<補足>
著作権法は、「著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。」(著作権法第51条第1項)と規定している。
5.著作権は、著作物の創作時以外にも、例外的に発生する。
<補足>
(1)例外1: 著作隣接権は、実演、レコードの固定、放送又は有線放送を行った時点で発生する(著作権法第101条第1項)。
(2)例外2: 実演家人格権は、実演を行った時点で発生する。
6.著作権の保護期間は、権利発生に始まり、原則、著作者の死後70年(改正前:50年)をもって終了する。
<解説>
TPP11協定に基づく改正著作権法(2018年12月30日施行)により、著作権の保護期間の終点を著作者の死後等から50年としていたものを、著作者の死後等から70年に延長(著作権法第51条第2項)。
主な例外は以下の通り。
(1)例外1・・・実名ではなく、無名又は変名(=ペンネーム)で著作物を公表した場合
保護期間の終点: 著作物の公表後70年(著作権法第52条)。
しかし、さらに例外があり、**周知の**ペンネーム(例えば、手塚治虫、藤子・F・不二雄)により著作物が公表された場合には、原則通り、著作者の死後70年まで保護される。
(2)例外2・・・著作権が団体名義の場合
保護期間の終点: 著作物の公表後70年(著作権法第53条)。
(3)例外3・・・著作物が映画、実演又はレコード(CDも含む)の場合
保護期間の終点: 映画の公表後又は実演の公表後又はレコードの発行後70年(著作権法第54条、第101条第2項第1号及び第2号)
(4)例外4・・・ 著作隣接権の内、放送事業者及び有線放送事業者に認められる権利
保護期間の終点: 放送又は有線放送が行われたときから50年(←70年ではないことに留意、著作権法第101条第2項第3号及び第4号)。
(5)例外5・・・外国人の著作権で、日本よりも短い保護期間を定める外国の場合には、相互主義により70年未満の保護を認める。
(6)例外6・・・著作者人格権および実演家人格権は、それぞれ著作者および実演家の死亡により消滅する(著作権法第59条、第101条の2)。著作者人格権が法人に帰属する場合には、著作者人格権は法人の解散により消滅する。なお、実演家人格権は、実演家個人に属するものであり、法人には帰属しない。
7.著作権の移転登録は第三者対抗要件である。
<解説>
2019年7月1日施行の改正著作権法の下では、改正前にも認められていた特別承継(例えば、譲渡)に加え、一般承継(相続や会社合併などによる承継)の場合にも、著作権の登録が第三者対抗要件となった(著作権法第77条第1項)。
(1)著作権は、文化庁等に登録しなくても権利として発生する。
(2)著作権の移転は、登録しなくても効力を生じる。
(3)しかし、移転登録は、第三者対抗要件(注)となる。
(注) 第三者対抗要件とは、正当な第三者が文句を言ってきた場合でも、その第三者に対抗できることういう。例えば、著作権の移転登録は、次の例のような場合に有効である。
著作権を有する親が亡くなった場合、著作権を複数人の子供の共有にするなら問題は起きない。しかし、遺言によって、著作権を一人の子供に譲るとなると、その子供の名義で著作権を登録しないと、著作権をもらえなかった他の子どもや他の子供にお金を貸した債権者が法定相続分を申し立てたときに、その著作権が法定相続分を超える価値を持つ場合、対抗できなくなる。対抗するには、著作権を親から相続した子供の名義にて著作権の登録をしておく必要がある。
8.利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
<補足>
2020年10月1日施行の改正著作権法の下では、著作権に対して著作権者から利用の許諾を受けた者は、その著作権者から別の著作権者に変わったときでも、元の著作権者とのライセンス契約に基づき、著作物の利用を継続できる(著作権法第63条の2)。この場合、利用権の登録の有無は問わない。
9.著作権等侵害罪の一部が非親告罪となった。
<補足>
2018年12月29日までは、著作権等の侵害罪は、著作権者からの告訴を条件としていた。しかし、2018年12月30日施行の改正著作権法の下では、所定要件が満たされる場合には、著作権者からの告訴がなくとも公訴可能となった(著作権法第123条第2項、第3項)。
10.著作物は、個人(自然人)が創作すれば、原則、著作権は個人に属する。一方、個人の創作であっても所定の要件を満たせば、職務著作として、法人等の団体に属することもある。
<補足>
職務著作の要件(著作権法第15条第1項)は、以下の通り。
(要件1)法人その他使用者(法人等)の発意に基づき創作されたこと
(要件2)法人等の業務に従事する者が創作したこと
(要件3)法人等の職務上の創作であること
(要件4)法人等の著作名義で公表されたこと→プログラム著作物の場合には不要
(要件5)法人等の契約・就業規則等に、職務著作を否定する別段の規定がないこと
11.プログラム著作物(学習用プログラム、学習済みモデルも含まれる)は、プログラム著作物以外の著作物に比べて、少ない要件で職務著作として認められる。
<補足>
一般の職務著作の5つの要件の内、要件4:「法人等の著作名義で公表されたこと」は、プログラム著作物には不要である。このため、要件4を除く4つの要件によって、プログラム著作物は、職務著作として認められ得る(著作権法第15条第1項)。
12.学習済みモデルは、著作物成立要件を満たせば、著作物である。
<補足>
学習済みモデル=プログラムの部分+パラメータ
パラメータ自体は著作物にあたらないとの見解が多勢(ただし、反対の見解もある)。
しかし、プログラムは、条件によっては著作物である。
条件とは、①「思想・感情」を②「表現したもの」であることと、③「オリジナリティ」を有すること、である。なお、簡単な誰でも同じものを作れるようなレベルのプログラムは著作物ではない。
よって、学習済みモデルは、プログラムの部分が上記条件①②③を満たせば著作物になりえる。
13.学習用プログラムは、著作物成立要件を満たせば、著作物である。
<補足>
学習済みモデルと同様、①「思想・感情」を②「表現したもの」であることと、③「オリジナリティ」を有するなら、学習用プログラムは、著作物になりえる。
14.プログラム言語およびプロトコールは著作物ではない。
<補足>
プログラム言語は、プログラムを作成する上での単なる手段なので、著作物ではない。アルファベットやひらがな自体が著作物にあたらないのと同様。
プロトコールは、プログラム上の約束事に過ぎないので、著作物ではない。
15.AI生成物は、人間がAIを手段として使って創作行為を行った場合には著作物である。しかし、AIが自動的に創作物を生み出した場合には、著作物とは言えない。
<補足>
学習済みモデルの利用者に「創作的意図」および「創作的寄与」がある場合、創作物には著作物性が認められる。
一方、学習済みモデルの利用者に、上記の意図や寄与が認められず、簡単な指示が認められるにすぎない場合には、非人間である学習済みモデルが著作権者とはなりえないことから、創作物に著作物性は認められない。
16.他人の著作物(画像データ等)を、インターネットを介して多数集めた会社Aが、それら著作物のデータを会社Bに提供して、学習済みモデルの生成を依頼した場合、原則、会社Aも会社Bも、営利・非営利を問わず、上記著作物に係る著作権者の承諾を要しない。
<解説>
上の図を説明する。A社は、多くの画像データをインターネット経由でダウンロードして、機械学習用のデータセットを作製した。A社は、このデータセットをB社に提供して学習済みモデルの生成を依頼した。B社は、学習済みモデルを完成し、A社に納品し、A社からその対価をいただいた。
このケースの場合、画像データという著作物につき著作権者(複数名いると仮定し、C1,C2,C3,・・・とする)がいて、A社が著作権者C1,C2,C3等に無断で画像データをダウンロードしてデータセットを作製し、さらにはB社にこれを提供しても、原則、著作権侵害とならない。B社も、学習済みモデルを作製して対価を得ても、原則、著作権侵害とならない。
2019年1月1日施行の改正著作権法により、AI開発のための学習用データとして、著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為に、原則、著作権が及ばないように法整備が行われた。以上は、原則であり、例外はある。著作権者の利益を不当に害することになる場合には、著作権者の承諾を要する(著作権法第30条の4)。
侵害とならないキーワードは、「情報解析」、「著作物の本来的利用を目的としないこと」及び「方法を問わず利用できる」である。
情報解析は、改正前には、統計的な解析に限定されていたため、幾何的若しくは数学的な解析を行う機械学習まで含まれるかどうかは明確ではなかった。
しかし、改正後は、統計的な解析の他、幾何的若しくは数学的解析をも含めた情報解析全般を著作権フリーとするようになった。
学習済みモデルの生成の目的は、著作物の本来の目的、例えば音楽を聴く、絵画を鑑賞するなどの目的とは異なる。このため、学習済みモデルの生成を目的に他人の著作物を、インターネットを通じて集める行為は著作権侵害とならない。
改正前では、著作物の利用形態は「記録と翻案」に限定され、かつ「自らの行為」に限定されていた。
しかし、改正後、「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という条文に修正され、「記録と翻案」を含む広範な行為が許容され、また自らの利用以外の行為も許容された。
このため、著作物を集めた者自身ではなく、第三者に著作物を提供して学習済みモデルの生成を依頼する行為について著作権が及ばないことになった。
17.(1)有料で頒布されている学習用データセットを何らかの方法で対価を支払わずに入手し、情報解析に用いる場合や、
(2)学習用データセットと銘打ちながら実際には市販されている書籍の内容をそのままインターネット上で公開する場合には、著作権者の承諾を要する。
<補足>
閲覧者は書籍としてこれを読むことができ、著作権者に対価回収の機会がないまま著作物に表現された思想又は感情が享受され、著作権者の利益を不当に害することになるから(引用: 文化庁のホームページから抜粋及び一部編集)。
18.特定のキーワードを含む書籍を検索し、その書誌情報や所在に関する情報と併せて、書籍中の当該キーワードを含む文章の一部分を提供する行為(書籍検索サービス)や、大量の論文や書籍等をデジタル化して検索可能とした上で、検証したい論文について、他の論文等からの剽窃(ひょうせつ: 盗むこと)の有無や剽窃率といった情報の提供と併せて、剽窃箇所に対応するオリジナルの論文等の本文の一部分を表示する行為(論文剽窃検証サービス)等を権利者の許諾なく行える(引用: 文化庁のホームページから抜粋および一部編集)。
<補足>
従前、論文剽窃検証サービスそのものは問題なかったが、剽窃箇所に対応するオリジナルの論文等の一部を表示する場合、著作権者の承諾を要していた。2019年1月1日施行の改正著作権法改正によって、当該論文の一部を表示する行為が軽微であるならば、著作権者の承諾を要しないことになった(著作権法第47条の5)。
19.著作権法上、問題がない行為でも、個人情報保護法あるいは契約上、制約を受ける場合がある。
<補足>
個人を特定可能な氏名・生年月日・住所等の情報は、著作物ではない。しかし、これを多人数分集めて学習用のデータセットを構築し、インターネットを通じて販売すると、著作権法に反しなくとも、個人情報保護法に反する場合がある。
また、著作物の要件を満たさないインターネット上の文書を無断で転載した場合、無断転載禁止であることに同意して当該文書を見たのであれば、無断転用禁止に同意したものとみなされる。よって、無断転載行為は、著作権者との契約不履行となり得る。
20.2021年1月1日施行の改正著作権法では、著作権侵害となる違法ダウンロードの対象は、音楽や映像に限定されず、あらゆる著作物に拡大される。
<解説>
改正前では、たとえ私的利用であっても、音楽と映像については、違法にアップロードされたものをダウンロードする行為は著作権侵害となっていた。
2021年1月1日施行の改正著作権法の下では、音楽や映像に限定されず、漫画、書籍、論文、コンピュータプログラムなども含むあらゆる著作物を対象に、違法ダウンロードを著作権侵害として刑事罰が科される。海賊版対策強化の必要からである。
ただし、刑罰は、違法アップロードされたものであることを「知りながら」ダウンロードする行為を対象とする(著作権法第30条第1項第4号、同条第2項、第119条第3項第2号、同条第5項等)。また、些細なレベルのダウンロードや二次創作・パロディなどは規制対象外となる。