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Variational Quantum Eigensolver(VQE)で求める微分期待値

Last updated at Posted at 2024-04-18

序論:

Variational Quantum Eigensolver(VQE)法の概念ができて以来、それにおける微分期待値を精度良く計算することは今に至るまでメインテーマとして扱われてきました。

古くは2017年にAlan Asupuru-Guzik氏らのグループによるUCCSDにおける微分パラメーター計算法[1]、そして2019年に発表されたADAPT-VQE[2]、Multiscale-Contracted VQE法における微分期待値計算法[3]に、SSVQEにおける遷移行列と変数依存関係を考慮に入れた方法[4]がそうです。通常は、古典計算機における一次微分は微小量だけ変数を後ろにずらした値と前にずらした値の間の傾きとして処理されます。

しかし、量子計算機においてはその値も量子計算機特有の確率分布としてあらわされます。ゆえに、それを量子計算機で計算することは、実機における計算においては必要不可欠です。最近ではADAPT-VQEの研究が素の精度ゆえに世界中で盛んになり、時間発展を記述する発展形まで出ています。

この方法は、微分期待値を計算し、もっともその傾きが大きいクラスターとその変数を追加することで精度を上げています。つまり、量子計算機を用いてそれを計算することは精度向上の観点からも非常に重要であるということです。そこで、今回は論文[1]の方法における微分期待値の計算方法を説明し、実際に計算した結果を示したいと思います。

方法:

まず、ハミルトニアン、クラスター、基底を第二量子化したのち、Jordan-WignerあるいはBravyi-Kitaev変換して、量子計算機で扱える形にします。

それから、変数を付加する項すべてを鈴木・トロッター分解して、指数関数の積に直します。

このあたりのことは以前書いた記事に詳しく載せました。ご存じない方はそちらを参照してください。

量子計算機を用いた変分量子化学計算の動向・前編 | blueqat

そうして状態は、

image.png
 
と表されます。これをパラメーター変数 $ θ _ j $で微分すると、これを変数とする全項の係数$ c _ k ^ j $とパラメーター$ P _ k ^ j $が出てきます。
その和となるため、ハミルトニアン微分期待値は、

image.png

となります。Fig. 1に演算子の微分期待値を計算する量子回路を示します。ここでハミルトニアンは$ H=∑ _ i h _ i O _ i $とします。アンシラビットと通常状態、微分された状態との重ね合わせとの直積を作り、アンシラを先に観測してできる状態をそれぞれ観測します

そうして導出されたアンシラが0の状態における存在確率分布$ ∣c _ 0 ∣ ^ 2 $と1の状態における存在確率分布$ ∣c _ 1 ∣ ^ 2 $の差をとることで、eq.(2)における

image.png

の部分が導出できます。

IMG_20210119_194709.jpg

Fig. 1 演算子O_iの微分期待値を計算する量子回路。

結果と考察:

今回はeq.(2)の値を原子間距離0.7(Å)の水素分子において導出し、基底状態、三重項状態、一重項状態、二電子励起状態において各変数についてその値を示しました。なお、ハミルトニアンとクラスターの深さは両方2として、基底状態はクラスターを使わず、そのほかの状態のみにクラスターを使用しました。クラスターにはUCCSDを使用し、最適化手法にはPowell法を使用し、その計算反復回数は2000回としました。

Fig. 2にeq.(2)と古典的に差分を取った方法における各変数における微分期待値の絶対値の常用対数を示します。古典的に差分をとった結果より、eq.(2)で計算した結果の方が、極小値に到達していない変数における微分期待値が到達している変数に対してはっきり大きな値となっています。差分の方は、極小値に到達した変数でも10の-6乗程度の値になり、そうでない変数との違いが明確ではありません。

また、Table. 1のエネルギーとその対数エラーと比較すると、クラスター変数におけるハミルトニアン微分期待値の絶対値が0.1を超える場合に局所解にたどり着く傾向が認められます。

Figadapt1vv.png

Fig. 2 水素分子間距離0.7(Å)の場合における基底状態、三重項状態、一重項状態、二電子励起状態における各変数におけるeq.(2)で計算したハミルトニアン微分期待値の絶対値の常用対数。青い線がeq.(2)で計算した結果、オレンジの線が差分です。

Table. 1 水素分子間距離0.7(Å)の場合における基底状態、三重項状態、一重項状態、二電子励起状態におけるエネルギーとそのSTO-3GにおけるFull-CIで計算された厳密解との差の絶対値の常用対数(対数エラー)。

2021-01-20_18h37_34.png

この傾向は、付録に示しましたr=0.1,2.0における結果にも表れています。

従って、変分量子計算においては、差分より、量子力学的に微分期待値も計算するのが理想であることが明らかとなりました。

しかしながら、eq.(2)を計算するのにかかる時間は、水素分子でさえ差分計算の倍以上になります。再来年、量子計算リソースをより多く使えるようになるならば、複数ビットに並列処理させるなどして1次、2次の微分期待値が高速で計算できるようになるかもしれません。それまでは、限定的な中でうまくeq.(2)を少ない回数計算していい精度を出す方法を模索するのが無難でしょう。

付録:

[1] J. Romero, and et. al., arXiv:1701.2691v2quant-ph

[2] H. R. Grimsey, and et. al., Nat. Comm.10.3007(2019)

[3] R. M. Parrish, and et. al., arXiv:1906.08728v1quant-ph

[4] K. Mitarai, and et. al., arXiv:1905.04054v2quant-ph

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