注 : この記事は2021年一月初めに書いたものを転記したものです。
明けましておめでとうございます。
去年は量子計算機を用いた変分量子計算アルゴリズムが大幅に発展し、量子化学計算分野でも多くの成果が発表されました。
なので新年一稿目の記事では、変分量子化学計算とその発展について解説します。
VQE法:
変分量子化学計算に扱われるアルゴリズムはすべてVariational Quantum Eigensolver(VQE)とその発展型です。VQEは、第二量子化されたハミルトニアンはパウリ演算子に変換できることを利用して、量子計算機で量子系のエネルギー固有値を解くアルゴリズムです。
まず、第二量子化されたハミルトニアンは局在電子系(Hubbard model)の場合、あるサイトに局在する電子の生成、消滅演算子を用いて、
と表されます。i,j,k,lにはスピンが含まれることもあるため注意が必要です。このハミルトニアンをJordan-WignerあるいはBravyi-Kitaev変換[1]することで、パウリ演算子で表される形に直します。
それのみならず、初期状態にもこの変換を掛けます。その変換行列も、それぞれの変換で異なります。
これだけではエネルギー固有値は求まらず、クラスターが必要です。この演算子は任意の固有状態を作るためのものです。これも様々なものがあり、計算時間と出せる最高精度には差があります。中でも、計算時間はかなりかかるのと引き換えに精度の高い方法がUCCSD[2]です。これは、一電子励起と二電子励起を起こすオペレーターとその共役演算子を付加するのです。
クラスターもパウリ演算子に変換します。和の形では量子状態に作用させることは出来ないため、鈴木・トロッター分解によって、係数は小さいと仮定して、
とします。ここで、$ P _ { jk } $は変換されたクラスターにおける演算子、$ t _ { jk } $ はその変数、$ θ _ k $は最適化変数です。最適化変数は、クラスターの反復回数(深さ)Nを増やせばなくてもいいのですが、現実には4程度までしか増やせないので、付加されています。
これによって初期状態は、
と変換されます。一般的には、このように初期状態とする波動関数にクラスターを付加して試行状態を作り、ハミルトニアンのそれぞれの項に対して期待値を求めます。しかし場合によっては、変数を付加し鈴木・トロッター分解したハミルトニアンも試行状態に作用させます。
こうして作られた試行状態の評価関数、
を古典最適化し、その極小値を求めます。また、励起状態を計算する場合は、そこにデフレーション項、
を加えます。後編ではそれぞれのプロセスにおける工夫と、それによる発展形を紹介します。
[1] Andrew Tranter, and et. al., Journal of Chemical Theory and Computation, 14(11), 5617-5630(2018)
[2] Panagiotis K.L. Barkoutsos, and et. al., Phys. Rev. A.98(2).022322(2018)