非専用筐体型VRコンテンツで酔いを軽減するための考察
大前提
VR酔いを無くすことはできない(理由は後述)
その為どれだけ酔いを軽減できるかがコンテンツを作る上で重要になってくる。
そもそもVR酔いとは?
非常にわかりやすい説明がバンナムさんの発表にあります。
要点をまとめます。
- VR酔いとはゲームとリアル間での身体感覚の不一致によって蓄積するストレスが原因である。
- ストレスの許容量には個人差がある。
- ゲームに近い環境を筐体で再現してゲームリアル間を近づけられるので筐体強い。
ココで注目してほしいのが
身体感覚の不一致によって蓄積するストレスが原因
という点です。
既述の酔いを無くすことができない理由にもなりますが、酔いを無くすにはゲーム内の体とリアルな体が完全同期している必要があります。(完全に同期させるには神経接続型のVRが必要でしょう。今後出てくる筋電位やインプラントでは難しそうです)
この対策としてVRHMDで得ることのできないリアルな身体刺激を、専用筐体によって補完するのはとても効果的です。
しかし、PCVRやモバイルVR(1)などはおいそれと専用筐体に頼れません。
そこで今回はソフト側で酔いを軽減させる方法を考察します。
ストレスの原因は?
バンナムさんの発表だと
身体感覚の不一致
となっています。
そこを少し深掘り下げて私なりのストレスを定義してみました。
継続負荷 = 脳のフレームレート - コンテンツフレームレート(3)
感覚差異 = リアル感覚 - VR感覚
ストレス(フレームあたり) = 継続負荷+(集中度*感覚差異)
これが蓄積することによってVR酔いを発生させます。
項目ごとに説明していきます。
継続負荷
コンテンツを体験する上で毎フレーム受ける負荷です。
これは脳のフレームレートとコンテンツフレームレートによって生まれます。
90(60/70)fpsを切ると酔うとう言うのもこいつが原因です。
90を厳守とされている現行(2)のVRコンテンツですが、脳のフレームレートはいくつなのでしょう?
グーグル先生に投げると こんな回答を得られました。
しかし、PSVR(120Hz)やゲーミングモニタ(144Hz)などフレームレートを超えるリフレッシュレートのモニタが有ります。
このことからリアルな脳のフレームレートはもっと高いでしょう。
しかし残念ながらCV1やVIVEのリフレッシュレートは90Hzです。
ハードの問題なのでソフト的には90fps準拠くらいしかないでしょう。
集中度
集中している時にはあまり負荷を感じにくいのかもしれません。(4)
体感から来るものなので非常に説明しづらいのですが、
- Robo Recallのホーム(武器選択や試射ができる)で準備して体験するのと、専用筐体コンテンツのようにいきなりに近い体験だと後者のほうがストレスを感じる。(5)
- プレゼンスが剥がれた瞬間、一気にストレスを感じる。
等、集中している・する時間の有無で受ける負荷が変わった用に感じます。
VR空間に慣らしたり、集中力の波を意識することでこのストレスを軽減できそうです。
感覚差異
バンナムさんの言う
身体感覚の不一致
で最も大きなストレスを与えている要因です。
この身体感覚と言うのは厄介で、個人の記憶や予測に依存します。
そのため同じコンテンツや表現でストレスの度合いが異なります。
基本方針は普段行わないような動きを多用しないがベターだと思います。
その上で気に止めておきたい事が3点程あります。
1つ目は
VR上での感覚(VRio)とリアル感覚(Rio)のシンクロ率です。
VR上のプレイヤーアバター(VRアバター)とリアルな体が受ける情報に差異がないか?という話です。
例としてRobo Recallを分析してみます。
影響 | VRio | Rio |
---|---|---|
視覚 | 1 | 1 |
体性感覚 (触覚) | 0.1 | 1 |
聴覚 | 0.9 | 1 |
味覚 | 0 | 0 |
嗅覚 | 0 | 1 |
重力 | 1 | 1 |
慣性 | 0.1 | 0 |
(6) |
CV1・VIVEで再現不可能な味覚・嗅覚に関してはスルーします(7)。
VR上の視覚や聴覚はHMDやオーディ機器により再現されるのでリアル感覚との差はほぼありません。
体性感覚 (触覚)は、コントローラとそののバイブのみで再現しています。
VR上の痛覚や温覚や冷覚などの皮膚感覚がリアル感覚に反映されないため、リアル感覚との差が生まれます。
重力はVR内・リアルにかかわらず働いているので差はありません。
移動の際テレポートを使用するのでVR上とリアルで受ける慣性に差はありません。(武器を振り回すと少しだけ差を感じます)
以上から約75%となりました。
これが低ければストレスとなってしまいます。
筐体のようにリアルな体に情報を与えてVRアバターとの差を埋めることが難しいので、HMDで再現できる表現に置き換えましょう。
2つ目は
体の解像度です。
Robo Recallもそうですが、銃を撃った際,
映像とコントローラのバイブだけで撃った感じになります(実際に発泡したことがある人はならないかもしれません)。
これは視覚情報のほうが鮮明だったので触覚情報が記憶(想像)内の情報に補完された結果で、
視覚情報と触覚情報の解像度の違いによって起こるものだと考えています。
これを使った例として、
筐体型の系コンテンツで実際に送るのは微風で映像とともに体感すると風が吹いている用に感じるという物があります。
ここで重要なのはあくまで補完しているという点です。
Robo Recallの発砲時バイブを切った場合、補完されることはありません。(実際に発泡したことがある人は補完されるかもしれません)
3つ目は
脳の予測です。
人はある程度予測を元に動いています。
”車の運転手が酔わないのに同乗者は酔う”や”酔いやすのでバスの前方に乗る”といった話はまさにその典型でしょう。
記憶や想像を元に無意識で予測した動きと、異なる動きをしてしまうとストレスが発生します。
例えば、カーレースのVRコンテンツで右に曲がればベクションが発生し体を左に傾けるでしょう。
しかし、車に乗ったことがなければ体を傾けないと思います。
そして残念なことに、体験者の脳がどういう予測をするかを事前に把握するのは不可能です。
一般的によく使われて脳が予想しやすい動きに置き換えたり、HMDに映る映像の情報量を減らしたりすることで感覚の差異を減らす方法がよく取られます。
コンテンツのストレス管理
上の方で、
ストレス(フレームあたり) = 継続負荷+(集中度*感覚差異)
と書きました。
これを参考に超頑張ってストレスを0にしたとしましょう。
残念ながらそのコンテンツはとっても淡白なものになるでしょう(それVRでやる意味ある?と言われるかもしれません)。
現行デバイスでVRらしさを求めると、ストレスを許容しなければいけません。
しかし、ストレスが蓄積すればVR酔いに繋がってしまうので許容しすぎてもいけません。
私のオススメは低ストレス部と高ストレス部に分けてコンテンツを作ることです。
Robo Recallで言うと事のホームとミッションですね。
高ストレス部は集中度を高く保つようにする工夫も効果的だと思います。
最後に
ストレスの許容量はプレイごとに増えていくのである程度は割り切っていいのかもしれません。
ただ、誰の初体験になるか分からないのでそこら辺の配慮は必要だと思います。
この記事は私の体験と考察に基づいたもので、何の検証も行っていませんのでご注意を
注釈
- (1) 現行(2017/7)のスマホVRではなくSanta Cruz等のスタンドアローン型のHMDです。
- (2) 2017/7現在
- (3) GPU等によって補完されたフレームを含みません。
- (4) 感覚の話なので確証がありません。わかる方いらっしゃいましたらご教授頂けると有難いです。
- (5) 専用筐体や体調という点を考慮した上です。
- (6) 値は感覚値です
- (7) VAQSOも専用筐体として扱います。