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ベクトルの基底と座標のイメージ

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 はじめまして、りょーつといいます。高専出身の大学院1年生です。修士課程卒業後は博士課程に進もうと考えています。普段はロボットの機構に関する研究をしており、趣味ではロボットの制御やお絵描きをしています。

目次

1.はじめに
2.不親切な宝の地図
3.ベクトルの基底と座標
4.数式による表現
5.正規直行基底
6.おわりに

1. はじめに

 この記事は線形代数を学び始めたばかりの高専4年生や工学系の大学1年生に向けたものです。特に「ベクトル空間の話が出てきてから急に線形代数の授業が分からなくなった」という方におすすめです。
 この記事では授業で扱うベクトル空間の範囲の中で、基底と座標を使ったベクトルのひょうきについて解説します。厳密さはさておき、フワッと分かりやすい説明をすることに注意しました。

2. 不親切な宝の地図

 ベクトルの基底と座標は、宝の地図と対応づけて考えると分かりやすいです。例えば以下のような地図に沿ってお宝を探してみましょう。

「東20 北10」

ゲームとかによく出てくる地図ですね。おそらく上記の地図は「東へ20歩、北へ10歩移動した場所に宝が眠っていることを意味していると思われます。あとはひたすら歩くだけですが、実際にお宝にありつけるのでしょうか..?

 残念ながらこの地図は、現実世界でほとんど意味を成しません。なぜでしょう?それはこの地図に歩幅が記載されていないからです。

 現実世界では、ゲームの世界と違ってさまざまな歩幅を持った人がいます。そのため、どうしても宝の地図を歩幅で表現したいのであれば、基準となる「歩幅の情報」も一緒に記載しておく必要があります。

 ここで重要なのが「宝の在処を表記するためには、①方角、②歩幅、③歩数の情報が必要」ということです。後述しますが、ベクトルの基底に相当するものが①方角と②歩幅、ベクトルの座標に相当するのが③歩数です。

3. ベクトルの基底と座標

 ここではイメージしやすい「位置ベクトル」を使って説明を行います。位置ベクトルは図1のように、物体の位置情報をベクトルとして表現したものです。

image.png
図1 お宝の位置ベクトル

 図1のイメージから、宝の地図は「宝の位置ベクトルが指し示す場所に辿り着く方法」を記したものである、と考えることができます。当たり前のことですが、ベクトル(宝の位置)が分かっていれば地図を書けるし、正しい地図があればベクトルを復元できる(宝の位置が分かる)、と解釈できますね。

 ベクトルの基底と座標というのは、宝の地図と同様にベクトルを復元するために必要な要素を意味しています。ベクトルの「基準」(宝の地図でいう①方角や②歩幅)を定めるのが「基底」、ベクトルの「数値」(宝の地図でいう③歩数)を定めるのが「座標」です。

 ここで注意しないといけないのが、基底はベクトル座標はスカラー ということです。
 座標は、宝の地図でいう③歩数を意味するので大きさの情報しか持っていないのでスカラーです。一方で基底は、宝の地図でいう①方角と②歩幅を意味するので、向き(方角)と大きさ(歩幅)の情報をもつベクトルとなります。

4. 数式による表現

 ベクトルを基底と座標を用いて数式で表現してみようと思います。宝の地図のイメージを数式に落とし込むことから始めてみましょう。良心的な宝の地図を以下のように設定します。

「東20 北10 ※東西方向の歩幅は0.5 m、南北方向の歩幅は1 mとする」

 上記の地図には南北方向と東西方向の2つの情報が記載されているので、2組の基底と座標が必要となります。まず、2つの基底をそれぞれ$\boldsymbol{u_1}$、$\boldsymbol{u_2}$と置くと、それらのイメージは図2のようになりますね。


図2 基底$\boldsymbol{u_1}$と$\boldsymbol{u_2}$のイメージ

あとは図3に示すように$\boldsymbol{u_1}$を20倍、$\boldsymbol{u_2}$を10倍した分だけ進めばお宝にありつけますね。つまり、お宝の位置ベクトル$\boldsymbol{p}$は以下の数式で表現できます。

\boldsymbol{p} = 20 \boldsymbol{u_1} + 10 \boldsymbol{u_2}
\tag{1}

(1)式は行列を使って以下のように表記することもできます。

\boldsymbol{p} = 
\begin{pmatrix}
 \boldsymbol{u_1} \ \ \ \boldsymbol{u_2}\\
\end{pmatrix} 
\begin{pmatrix}
 20 \\
 10 \\
\end{pmatrix}
\tag{2}

image.png
図3 基底と座標を用いたベクトルの表現

基底と座標を使った表現に慣れてきましたか?
 少し一般化して考えてみましょう。基底が$\boldsymbol{v_1}$と$\boldsymbol{v_2}$のときに座標が$c_1$、$c_2$となるベクトル$\boldsymbol{q}$を数式で表現するとどうなるでしょうか?答えは以下のとおりです。

\boldsymbol{p}
= 
c_1 \boldsymbol{v_1} + c_2 \boldsymbol{v_2}
= 
\begin{pmatrix}
 \boldsymbol{v_1} \ \ \ \boldsymbol{v_2}\\
\end{pmatrix} 
\begin{pmatrix}
 c_1 \\
 c_2 \\
\end{pmatrix}
\tag{3}

さらに高次元のベクトルを考えてみましょう。基底が$\boldsymbol{v_1},\boldsymbol{v_2},\cdots,\boldsymbol{v_n}$のときに、座標が$c_1,c_2,\cdots,c_n$を取るベクトルは以下のように表現されます。

\boldsymbol{p}
= 
c_1 \boldsymbol{v_1} + c_2 \boldsymbol{v_2} + \cdots + c_n \boldsymbol{v_n}
= 
\begin{pmatrix}
 \boldsymbol{v_1} \ \ \ \boldsymbol{v_2} \ \ \cdots \ \ \boldsymbol{v_n} \\
\end{pmatrix} 
\begin{pmatrix}
 \ c_1 \ \\
 \ c_2 \ \\
  \ \vdots  \ \\
  \ c_n \ \\
\end{pmatrix}
\tag{4}

5. 正規直行基底

 (4)式の右辺のように、ベクトルを行列を使って表記する上で少し違和感を感じた方がいるのではないでしょうか?おそらくこれまでの線形代数の授業に出てくるベクトルは以下のように表記されていたと思います。

\boldsymbol{r} = 
\begin{pmatrix}
 a_1 \\
 a_2 \\
 a_3 \\
\end{pmatrix}
\tag{5}

これまでは表記されてなかった「基底」が唐突に出てきたため違和感を感じたんだと思います。ではなぜこれまで基底は省略されていたのでしょう?

 それは、(5)式のようなベクトルは 正規直行基底 のもとで考えるという暗黙の了解みたいなのがあったためです。正規直行基底は$x$-$y$-$z$軸のように互いに直行しており、大きさが1という特徴があります。正規直行基底の「正規」は大きさが1であること、「直行」は2つの基底が直角に交わることを意味しています。正規直行基底の表記には$\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\cdots,\boldsymbol{e_n}$がよく用いられます。力学の授業では$\boldsymbol{e_1},\boldsymbol{e_2},\boldsymbol{e_3}$の代わりに$\boldsymbol{i},\boldsymbol{j},\boldsymbol{k}$を使ったりすることもあります。図5に正規直行基底のイメージ図を貼っておきました。

image.png
図5 正規直行基底のイメージ

(5)式を正規直行基底を用いて(4)式のように表現すると以下のようになります。

\boldsymbol{r}
= 
a_1 \boldsymbol{e_1} + a_2 \boldsymbol{e_2} + a_3 \boldsymbol{e_3}
= 
\begin{pmatrix}
 \boldsymbol{e_1} \ \ \ \boldsymbol{e_2} \ \ \ \boldsymbol{e_3}\\
\end{pmatrix} 
\begin{pmatrix}
 a_1 \\
 a_2 \\
 a_3 \\
\end{pmatrix}
\tag{6}

 しかし、書くのがめんどくさい上に大きな支障がないため、これまでの授業では(5)式に示すように基底が省略されてきたというわけです。ゲーム内の宝の地図で②歩幅の情報が抜けていたのも同じで、「歩幅は全キャラクター共通」という前提があったため、省略されていたのです。

 (5)式の表記は書きやすいので便利ですが、(4)式や(6)式の表記を知っておくと、物理や専門科目の授業を理解する上で幸せになれますよ(^^)
 もちろん直角で交わらない基底を考えることもできて、それらは非直行基底とか呼ばれてます(そのうちこれについても記事を書きます)。

6. おわりに

本記事ではベクトルの基底と座標について、宝の地図の例を用いてフワッと説明しました。ベクトル空間の範囲の話は抽象的で沼りやすいですが、理解すれば読める専門書の範囲がグッと広がります!ぜひ頑張ってください。
 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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