ベアリングの振動解析
ベアリングは損傷すると異音が発生する。機械から発生する音というのは多様で、開けてみなければ原因がわからない。分解してみても、どこが発生原因かわからないということが往々にある。そこで、発生している音に対して周波数解析を行い、原因追求を行う方法がある。特にベアリングの場合、異音の周波数は特定の回転数に依存した特定の周波数の音が強く現れる。実際に、計測した結果を次に示す。
(TETSUGEN 「FFT解析で軸受の不良個所を特定!どんなメリットがあるの?」より)
特定の周波数(180Hz,350Hz)にピークが現れていることがわかる。
発生原因
発生振動には次の4つがあげられる
- 外輪に傷があり、転動体と触れて振動:BPFO周波数
- 内輪に傷があり、転動体と触れて振動:BPFI周波数
- 転動体に傷があり、内輪・外輪と触れて振動:BSF周波数
- ベアリングの軸心の剛性の構造的変動による振動
(matlab「転動体ベアリングの故障診断」とNSKの「資料」より)
一番下の「ベアリングの軸心の剛性の構造的変動による振動」とは
上の図で(A)の状態では下側に力を変えたときの剛性は(B)よりも高いと考えられる。なぜなら、下にそのまま転動体があるのとないのでは差があるからだ。よって、力による微小変位の量も変動する。コレが振動することになる。
各原因の周波数を求めていこう
内輪が回転し、外輪が固定されている場合
外輪・内輪どちらが固定されているかで以降の議論は変わってくるので、場合分けして説明しよう。
回転角度の関係:各文字の定義
転動体の公転角度
最初はAの場所にあった転動体が回転によって、Bまで移動したとする。
このとき、「転動体の公転回転角度」を$\theta$と定義する。
転動体の自転角度
外輪との接触点を基準としてどれほど回ったかを「転動体の自転角度」、$\varphi$と定義する。
(注意)一般的な意味の自転を考える際、本当は基準は動かないとして考える。つまり、
図の$\varphi$の角度を自転角度とするのが一般的である。ただ、この後の議論上、前述の定義をしたほうがわかりやすいため、異なった角度を自転角度として定義している。転動体が1回公転すると基準点は360回転するので、先程の定義した$\varphi$は(一般的な自転角度)+360度となる。なので、変換は容易である。
内輪の回転角度
これを$\rho$と定義する。
半径の定義
転動体のピッチ半径を$R$とする。
転動体の半径を$r$とする。
接触角がある場合はその分$r$が減少すると考えて問題ない(後述)。
転動体:公転と自転の関係式
滑りなしだと考えると赤の曲線の長さとオレンジの曲線の長さは一致する。よって
(R+r)\theta = r\varphi\\
\therefore \varphi = (1+ \frac{R}{r})\theta
となる。
内輪と転動体の関係式
ここから少しややこしいが、内輪は転動体の(公転角度)+(転動体の回転分の角度)回転する。上図のピンクの曲線とオレンジの曲線の長さは一致するはずである。ピンクの線分の長さは$r \varphi$である。よって
\begin{align}
\rho &=& \theta + \frac{r \varphi}{R-r}\\
&=&\theta + \frac{r}{R-r}(1+ \frac{R}{r})\theta\\
&=& \{ 1 + \frac{R+r}{R-r} \}\theta\\
&=&\frac{2R}{R-r}\theta\\
\end{align}
と考えられる。
速度との関係をつなげていく
内輪の回転速度を$S[rpm]$とする。つまり
\frac{d \rho}{dt} = 2 \pi \frac{S}{60} [rad/s]
と言える。先程の関係式を使うと
\begin{align}
\rho &=& \frac{2R}{R-r}\theta\\
\therefore \frac{d \theta}{dt} &=& \frac{R-r}{2R}2 \pi \frac{S}{60} [rad/s]\\
\varphi &=& (1+ \frac{R}{r})\theta\\
\therefore \frac{d \varphi}{dt} &=& (1+ \frac{R}{r}) \frac{R-r}{2R}2 \pi \frac{S}{60} [rad/s]\\
&=& \frac{R^2-r^2}{2Rr}2 \pi \frac{S}{60} [rad/s]\\
\end{align}
といえる。
外輪に傷がある
外輪に傷がある場合、外輪に転動体が触れて振動する。つまり、このときの振動数BPFO[Hz]は、転動体の数を$Z$とすると
\begin{align}
BPFO &=&Z \frac{d \theta}{dt} \frac{1}{2 \pi} \\
&=& Z \frac{R-r}{2R} \frac{S}{60} \\
&=& \frac{Z}{2}(1-\frac{r}{R}) \frac{S}{60}
\end{align}
となる。
内輪に傷がある
内輪に傷がある場合、内輪に転動体が触れて振動する。このとき、転動体も内輪も回転している状態なので考えづらいが、ベアリングより内輪のほうが回転速度が早いことを考えて、相対速度を考えるとわかりやすい。内輪はベアリングに対して、
\frac{d \rho}{dt} - \frac{d \theta}{dt}
だけ早く回っている。上記、角速度で$2 \pi$回ったときに転動体個数分振動が発生する。よって発生周波数BPFIは
\begin{align}
BPFI &=&Z(\frac{d \rho}{dt} - \frac{d \theta}{dt}) \frac{1}{2\pi}\\
&=& Z\frac{S}{60}(1 - \frac{R-r}{2R})\\
&=& \frac{Z}{2}\frac{S}{60} (1+\frac{r}{R})
\end{align}
となる。
転動体に傷がある
転動体に傷がある場合は、内輪・外輪両方に触れる。つまり、$\varphi = 2\pi$回転すると2回振動するということである。よって、発生する周波数BSF[Hz]は
\begin{align}
BSF &=& 2 \frac{d \varphi}{dt} \frac{1}{2 \pi} \\
&=&2 \frac{R^2-r^2}{2Rr}\frac{S}{60} \\
&=& \frac{R}{r} (1 - \frac{r^2}{R^2})\frac{S}{60}
\end{align}
となる。
以上の結果は、前述のmatlab「転動体ベアリングの故障診断」の結果と一致している。
接触角がある場合
接触角$\alpha$がある場合は
$r$を$r \cos \alpha$に置き換えれば同じ議論ができる。
転動体の回転の軸はシャフトの軸から$\alpha$傾くことになる。回転ベクトルをシャフトと平行な方向と垂直なラジアル方向に分解して、ん~わからなくなってきた。今後の課題にする。
ピークがずれて複数現れる現象:転動体振動BSFピークが複数発生する
「Pythonで学ぶ信号処理!振幅変調のサイドバンドを観察してみる」より
「NSK資料」より
転動体の傷による振動の大きさは振幅変調がかかったような形状を取る。なぜなら、転動体の位置によって、負荷力が異なるからだ。例えば、シャフトが下に押されているとき、真下にある玉に一番負荷がかかる。シャフトの上にある玉が発生させる振動と、シャフトの下にある玉が発生させる振動の大きさにはズレが発生するということである。この振幅の周期は転動体の公転周期と一致する。つまり、
\begin{align}
FS &=& \frac{d \theta}{dt} \frac{1}{2 \pi} \\
&=& (1-\frac{r}{R}) \frac{S}{60}
\end{align}
がうねりの周波数である。2つの信号の積$fg$のFFT結果は周波数シフトなので、(BSF-FS),BSF,(BSF+FS)[Hz]の3つ周波数ピークが発生することになる。
転動体同士の間隔のズレ:内輪振動BSFIのピークが複数発生する理由
転動体の位置は均一になっていない。つまり、内輪の振動の間隔は微妙にずれて振動することになる。転動体の数が3個なら
こんな感じに不均一だと、発生する振動は
0.3T,0.3T,0.4T,0.3T,0.3T,0.4T,\cdots
みたいに振動の間隔も不均一になる。よって、FFTをすると、周波数が微妙にずれたピークが発生すると考えられる。
最後に
以上で振動解析の説明を終わる。
説明していないが、他にもベアリング自体の変形モード振動数、保持器由来の振動も起こり得る。
ここまで、理論の頭で考える内容であった。実際に実験して確認してみたい。他にもやりたいことがあるからできない気もするが。
ということであくまで自分の推論ということを了承してほしい。間違っている可能性もある。その場合は教えて欲しい。
ベアリングの寿命について
NSKの資料によれば、ベアリングの寿命は
L=(\frac{C}{P})^3\\
L:定格疲れ寿命[10^6 rev]\\
P:動等価荷重[N]\\
C:動定格荷重[N]\\
と計算される。
この理由を説明する。
ベアリングの損傷と寿命について
ベアリングの損傷原因は
- 剥離・フレーキング
- 焼付き
- スミアリング(微小焼付き:潤滑不足と転動体の滑りによって起こる)
- 予圧過大
- 荷重過大
- 圧痕
- 打痕(衝撃が加わったことによる)
- 異物の噛み込み
- フレッチング(軸が回転しない状態で振動することによる)
- 腐食
- サビ
- 電食(モーターから発生する電磁ノイズによってベアリング内で放電が発生し、放電加工と同じことが起きる)
- かじり(油切れ)
が挙げられる。
ベアリングの寿命
この中でベアリングの寿命で壊れたと言えるのは、剥離・フレーキングによる損傷のみである。
その他の原因は油切れや適正荷重以上・衝撃荷重・腐食などの継続的な使用に由来した損傷ではない。
寿命計算について
なぜ、剥離・フレーキングが起こるかというと、ベアリングは玉が荷重を受けながら回転する都合上、玉にとっては繰り返し荷重がかかるのと同じ状況になる。繰り返し荷重によって表面が疲労限度に達すると亀裂が発生し、表面の剥離が発生する。これがフーレキング・剥離である。疲労限度は繰返し回数と応力振幅によって決まり
(wikipedia「疲労限度」より)
応力振幅$P$の対数$\log(P)$は繰返し回数$N$の対数を取った$\log(N)$に対して、線形で減少している.
log(P) =
\left\{
\begin{array}{ll}
-a \log(N) + b &(N<疲労限度)\\
\log(P_{min} ) &(N>疲労限度)\\
\end{array}
\right.
と言うかたちをしている。
線形であることを利用して、
\log(P_1) - \log(P_2) = -a \{ log(N_1) - log(N_2) \}\\
といえる。
よって、
\log{\frac{P_1}{P_2} }=-a \log{ \frac{N_1}{N_2} }\\
\therefore \frac{P_1}{P_2} = ( \frac{N_1}{N_2}) ^{-\frac{1}{a}}\\
\therefore \frac{N_1}{N_2} = (\frac{P_2}{P_1} )^a
といえる。
NSKの資料によれば、ベアリングの寿命は
L=(\frac{C}{P})^3\\
L:定格疲れ寿命[10^6 rev]\\
P:動等価荷重[N]\\
C:動定格荷重[N]\\
と計算される。$L$の単位revはrevolutions(回転)の略。繰返し荷重の繰り返し回数と回転数は比例関係にあるので$N_1 \propto L$である。動定格荷重とは$10^6 rev$に90%のベアリングが耐えるときの静ラジアル荷重のこと。よって$P_1 \propto P$であると考えられる。同様に、$P_2 \propto C$といえる。
\frac{N_1}{N_2} = (\frac{P_2}{P_1} )^a
応力振幅$P$の対数$\log(P)$と繰返し回数$N$の対数を取った$\log(N)$の傾き$-a$が$-3$であれば、ベアリングの寿命計算と合致するといえる。
最後に
ベアリングについて、だいぶ詳しくなれた気がする。
予圧・剛性・変位などNSKの資料を見るとまだまだ知りたいことがあるので、またまとめようと思う。