ORACLE MASTER 再受験のススメ - 今では管理職になっているご同輩諸君へ -
1.歴史 (主にORACLE7あたりまで)
Oracle Database の認定試験制度である ORACLE MASTER は、日本オラクル社が発祥であり、1997年9月から開始された。
この記事の執筆時点で20年目という事になる。変化の激しいIT業界においては、実に息の長い制度であると言える。
日本オラクル社が発祥という事に驚かれる人もいるかもしれないが、内容的にはきわめて日本人好みのものである。実務経験はなかなか試験では測れないが、知識ベースなら測ることができる。そして受験勉強のように"勉強した成果が評価されるという文化"を好むのは、いかにも日本的である。
もっとも、どんな分野であれ、最初は知識を増やす事から始めるという方向性は、別に間違ってはいない。それだけが正解ではないというだけだ。
特にデータベース関連の知識というものは、他のIT系の知識体系よりも、遥かに**"長持ち"する。これは"ビジネスロジック等は時代とともに激しく変遷する"が、"取り扱うデータそのものは不変性が高い"という性質**も関係している。
この認定試験制度が生まれた当時(1997年)の Oracle Database バージョンは ORACLE7 である(同年に ORACLE8 が登場したが)。例えば、現在では当たり前になっているデータベーストリガー機能が初めて実装されたバージョンが ORACLE7 である。1992年-1997年という比較的長い期間、最新であったこのバージョンが、当時のRDBの世界に与えた影響は大きい。
日本では、1990年代に大企業を中心に、企業の情報システムが、メインフレーム中心のクローズ系システムから、UNIX系サーバーを中心としたオープン系システムに移行(ダウンサイジング)された。その時期とも重なり、ORACLE7 はかなり導入されたはずである。(ちなみにこの時代にはクライアントには積極的にWindows95系が採用された。Web系モデル以前の、いわゆるクライアント・サーバーモデルが主流であった)
2.歴史 (ORACLE8 / 8i / 9i / 10g / 11g / 12c 現在)
そのような中で ORACLE MASTER は人気を博した。
ITベンダーでは、現にデータベースの知識を持つものが不足し、各社でオラクルマスターを受験する事が推奨された。筆者も1999年にORACLE7の試験を受けた身である。
ORACLE8 から ORACLE9i までは比較的バージョンアップが速く、ORACLE MASTER 制度自体も大きな変化があった。
(Oracleの呼び名も、ORACLE8、ORACLE8i、ORACLE9iと変遷する)
ORACLE9i の途中までの ORACLE MASTER は以下のような2段構成だった。
- ORACLE MASTER Silver : 「SQL入門」、「ORACLE入門」の2科目からなる Oracle Database の入門的な位置づけ
- ORACLE MASTER Gold : Oracle DBA として充分な知識を有する専門的な位置づけ
それが、ORACLE9i の途中から、上位に Platinum 下位に Silver Fellow (Bronze) が追加され、基本4段構成になった。(実際には他にももっと上の専門分野試験も増えた)
- ORACLE MASTER Bronze : 「SQL基礎」、「DBA基礎」の2科目からなる Oracle Database の基本知識の認定
- ORACLE MASTER Silver : Oracle DBA として業務を一通り実施できるアソシエイトの認定
- ORACLE MASTER Gold : Oracle DBA として業務をリードできるプロフェッショナルの認定
- ORACLE MASTER Platinum : Oracle DBA としてトップレベルのエキスパートの認定(実技試験有り)
上述に「下位に」と書いたが、それは内容を知らない者から見たイメージである。
内容的には旧制度の「Silver」が、新制度の「Bronze」に該当するので、全体的な難易度がUPした事になる。
しかも、OracleのバージョンがUPするに従って新機能が増えて、必要な知識量も増加する傾向があるため、同一ランクであっても、バージョンがUPするごとに基本的な難易度も上がっている。
例えば、ORACLE7の「Silver」対策用の参考書「ORACLE MASTER ハンドブック Silver編」(リックテレコム刊)は、2科目をカバーして382ページになっているのに対して、Oracle12cの「Bronze」"SQL基礎の1科目分のみ"の対策用の参考書「オラクルマスターステディガイド Bronze 12c SQL基礎」(SBクリエイティブ刊)は、それだけで554ページにもなっている。
ページ数だけで単純比較は無論できない訳だが、必要な知識量が増えている事は間違いない。
これはあくまでも私感ではあるが、旧制度で「Gold」まで合格した人でも、新制度の「Bronze」に合格するためにはかなりの学習が必要だろう。(Bronze という最下位のイメージだけで舐めてかかると、まず合格できないだろう。人事の者にはわかるまいが…)
3. 変わっているもの、変わっていないもの、…の見極めができるか
筆者は、いわゆる「就職氷河期」、「失われた20年」の初期に社会に出た世代であるが、多くの同年代はリーダー職やマネージャー職といった管理職に就いている。この世代は、ORACLE といえば ORACLE7 や ORACLE8 といった世代であり、ORACLE MASTER を受けた事があるといっても、ほとんどが旧制度の内容であると思われる。
「UNDO表領域」の事を「ロールバック・セグメント」と言ってしまう世代である。
古い用語が出てしまう等はまだまだかわいい方で、20年近くも前に学習したSQLや、RDBアーキテクチャーの知識が今でも通用すると思っていたり、下手をするとオラクルマスターの制度が変わった事を知らなかったり、今でも「ORACLE」の知識を持っていれば安泰だと思っていたりする。(矛盾するが…)
現実には、WebサーバーOSのシェアは Linux が圧倒的となり、そのバックエンドで利用されるRDBMSも MySQL 等のOSSが急激にシェアを拡大している。
すでに ORACLE だけの知識では通用しない時代になってきている。
しかしながら、ORACLE MASTER は今年で20年目を迎え、今後も当分は受験者は減らないだろう。SQLの基礎知識やRDBアーキテクチャーについて、広く通用し得る認定試験制度は、他にないからだ。
IBM が、オラクルマスターを追い越せとばかりに、IBM国際認定制度「DB2グローバルマスター」という制度を積極的に打ち出していた時期があり、筆者もそれを受けた身ではあるが、なかなか広まらなかった(…という認識をしている)。
LPI-JAPAN が、OSS-DB 認定試験制度(実際の内容はPostgreSQL)を展開中であり、今後に期待しているが、情報量では ORACLE にまだまだ勝てていないだろう。
それに、ここには記さないが、ORACLE のアーキテクチャーのかなりの部分は、過去のバージョンから受け継がれているものである。
基幹系システムの心臓部分では、まだまだ ORACLE が利用されている。
今では仕事以外の時間にはろくに学習もしないというリーダー職やマネージャー職の同世代諸君には、もう一度、学習をしていただき、何よりも**『何が変わって、何が変わらないのか』という点を見極める、『技術の目利き』**を養っていただきたいと思う。
4.今回の観点
Oracle の近年の動向や、Sun(Java)や、MySQLを買収したり、Oracle Database の料金制度が色々変化したりと、様々な観点、意見が世の中にはある。
今回は、あくまでも"同世代の人々にもう一度、学習を促したい"という主旨のみで記載した。決して Oracle の回し者ではないので、そこは理解していただきたい。
5.関係リンク
ORACLE MASTER Portal
ORACLE MASTER ガイド
5分で絶対に分かるORACLE MASTER
ORACLE MASTER 再受験のススメ - 今では管理職になっているご同輩諸君へ (Qiitaより再掲/一部修正) (はてなブログ版)
6.終わりに…
IT系の認定資格試験については、その価値について、賛否両論がある。
結局のところ、活かすも、活かさないも、本人の取組姿勢次第という事に尽きる。
ORACLE MASTER を例に挙げても、ただ単に合格すれば良いのであれば、ひたすら参考書や問題集を解くという方法で、Silverあたりまでは行けるだろう。
本質は、その過程で、体系的に学ぶという部分であると個人的には考える。
資格の部分は点の知識でしかない。その点を学習する過程で、いかに線や面の知識を得られるか、である。