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Rust the book 要約 4章:所有権を理解する

Last updated at Posted at 2023-09-05

目次

4.0 概要

  • 所有権とは
  • 参照
  • 借用
  • スライス
  • コンパイラはデータをメモリにどう配置するか

4.1 所有権とは

所有権は「ヒープ領域にメモリ領域を確保したり、それを解放する機能を言語側で管理するための概念」

所有権により以下が可能になる

  • どの部分のコードがどのヒープ上のデータを使用するかの把握
  • ヒープ上のデータの重複の最小化
  • メモリ不足の防止

コラム: 「スタックとヒープ」

スタック

  • コンパイル時に必要メモリサイズが分かっているデータを保持
  • データは固定長
  • 得た順にデータを並べ、逆順で取り除く

ヒープ

  • コンパイル時には必要メモリサイズが不明なデータを保持
  • OS が管理
  • OS に、ある大きさのメモリ領域をヒープ領域に確保するよう依頼すると、OS はメモリ領域を確保したのちに、そのメモリ領域のベースアドレスを返す
  • そのポインタを指定してオブジェクトの破棄をOSに依頼すると、メモリ領域が解放され、貸出可能状態に戻る

所有権の規則

  • Rust の各値は、所有者と呼ばれる変数と対応している。
  • いかなる時も所有者は一つである。
  • 所有者がスコープから外れたら、値は破棄される。

例1: str 型

{
  // *1
  let s = "hello"; // *2
  // *3
} // *4
  • 上記のコード内で変数s にはプログラムにハードコードされた"hello"という文字列への参照が束縛される
  • この文字列への参照は、s が宣言された行 (*2 の時点) から s がスコープから抜けるまで (*3 まで) はメモリ上に存在するが、それ以外の領域では存在しない

例2:ヒープに値を保持する場合(String型)

{
  // *1
  let s = String::from("hello"); // *2
  // *3
} // *4

上記のコードでは

  • 変数 s の宣言時に OS に(ヒープ領域内での)メモリ領域の確保が依頼され
  • 確保された領域のベースアドレスなどの情報( pointer, size, capacity )が s に束縛される
  • s に束縛された値は *2 ~ *3 の範囲ではメモリ上に存在するが、それ以外の領域では存在しない
  • また、ヒープ領域に確保されたメモリ領域は s がスコープを抜けると同時に解放される
    • より厳密には、以下のような仕組みになっている:
      • Rust では、閉じ括弧 } が自動的に(該当スコープで有効なすべての(Dropトレイトが有効な)変数の) drop 関数を呼び出す
      • drop はその変数と結びついたヒープ領域内のメモリ領域を解放するよう定義されている

二重解放エラーを防ぐ仕組み(ムーブセマンティクス)

  • Rust では2つ以上の異なる変数に、同じヒープ領域へのポインタが束縛されることはない
    • ヒープ領域と結びついたある変数 a をほかの変数 b に代入 let b = a すると、a はそれ以降無効化される

例:String型の変数のムーブの挙動

let s1 = String::from("hello");

によって

  • ヒープ領域内に b'h', b'e', b'l', b'l', b'o' の一連のデータが保持され
  • このメモリ領域へのポインタがスタック領域に保持されたとする
  • この時、このポインタは変数s1に束縛される

ここでさらに

let s2 = s1;

とすると

  • 変数 s2 にヒープ領域へのポインタが束縛され
  • 変数 s1 は無効化される
  • 無効化された変数を利用しようとするとコンパイルエラーが発生する
  • たとえば以下のコードコンパイルエラーを起こす
    let s1 = String::from("hello");
    let s2 = s1; // この時点で s1 は無効化される
    println!("s1: {}, s2: {}", s1, s2);
    

ヒープ領域内のデータを複製する方法(クローン)

  • スタック上のデータだけではなくヒープ領域内のデータの deep copy が必要なら clone メソッドを用いる
  • たとえば以下のコードは問題なく動く
    let s1 = String::from("hello");
    let s2 = s1.clone(); // clone メソッドを使うことでヒープ領域上のデータごと複製されるため、s1 は破棄されない
    println!("s1: {}, s2: {}", s1, s2);
    

スタックのみのデータの複製(コピー)

  • スタック上で完結するデータ型には Copy トレイトが実装されていることが期待される
  • Copy トレイトが実装された型の値はムーブされずにコピーされる
  • Drop トレイトを実装した型、もしくは Drop トレイトを実装した型を一部に含む型には Copy トレイトの実装ができない(コンパイルエラーを起こす)
  • 以下は自動的に Copy
    • スカラー型
    • Copy の型だけを含むタプル

所有権と関数

  • 関数に変数を渡すと、その変数のもつ所有権が関数内に移動する
    • 変数を別の変数に代入した場合と同様に、あるヒープ領域と結びついた変数 a を関数 f に渡す( つまりf(a)のようにする) と、a はそれ以降無効化される

例:所有権と関数

fn main() {
  let s = String::from("hello");          // sがスコープに入る
  takes_ownership(s);                     // sの値が関数にムーブされ...

                                          // ...ここではもう有効ではない
                                          // ここで s を呼び出そうとすると、コンパイラは、コンパイルエラーを投げる

  let x = 5;                              // xがスコープに入る
  makes_copy(x);                          // xも関数にムーブされるが、
                                          // i32はCopyなので、この後にxを使っても大丈夫

}                                         // ここでxがスコープを抜け、sもスコープを抜ける。
                                          // ただし、sの値はムーブされているので、何も特別なことは起こらない。

fn takes_ownership(some_string: String) { // some_stringがスコープに入る。
  println!("{}", some_string);
}                                         // ここでsome_stringがスコープを抜け、`drop`が呼ばれる。後ろ盾してたメモリが解放される。


fn makes_copy(some_integer: i32) {        // some_integerがスコープに入る
  println!("{}", some_integer);
}                                         // ここでsome_integerがスコープを抜ける。何も特別なことはない。

戻り値とスコープ

  • 関数が値を返すことでも、所有権は移動する

例:戻り値とスコープ

fn main() {
  let s1 = gives_ownership();                         // gives_ownership は、戻り値をs1にムーブする
  
  let s2 = String::from("hello");                     // s2がスコープに入る
  let s3 = takes_and_gives_back(s2);                  // s2は takes_and_gives_back にムーブされ
                                                      // 戻り値もs3にムーブされる

}                                                     // ここで、s3はスコープを抜け、ドロップされる。
                                                      // s2もスコープを抜けるが、ムーブされているので、
                                                      // 何も起きない。s1もスコープを抜け、ドロップされる。
  
fn gives_ownership() -> String {                      // gives_ownership は、戻り値を呼び出した関数にムーブする
  let some_string = String::from("hello");            // some_string がスコープに入る
  some_string                                         // some_string が返され、呼び出し元関数にムーブされる
}

// takes_and_gives_back は、Stringを一つ受け取り、返す。
fn takes_and_gives_back(a_string: String) -> String { // a_stringがスコープに入る。
  a_string                                            // a_stringが返され、呼び出し元関数にムーブされる
}

4.2 参照と借用

参照

  • 変数 hoge の参照は &hoge で取得できる

  • Hoge の変数の参照の型は &Hoge となる

  • &hoge には hoge へのポインタ(=「hoge に束縛された(ヒープデータへの)ポインタ」へのポインタ)が束縛される

  • &hoge がスコープを抜けても hoge に結びついたヒープデータはドロップされない

  • &hoge がスコープを抜けても hoge に束縛された(ヒープデータへの)ポインタはドロップされない

  • &hoge がスコープを抜けると &hoge 束縛された hoge へのポインタが消去される

  • 参照外し演算子 * で参照を外せる

  • 例:以下のコードに登場する s とその参照 s = &s1 の関係は下図の通り;

    fn main() {
      let s1 = String::from("hello");
      let len = calculate_length(&s1);
    
      println!("The length of '{}' is {}.", s1, len);
    }
    
    fn calculate_length(s: &String) -> usize {
      s.len()
    }
    

参照と関数

  • 関数の引数に参照を取ることを借用と呼ぶ

可変参照

  • 参照はデフォルトではimmutable(不変)
  • 可変変数 hoge の可変参照は &mut hoge で取得できる
  • 例:
    fn main() {
      let mut s = String::from("hello");
    
      change(&mut s);
    }
    
    fn change(some_string: &mut String) {
      some_string.push_str(", world");
    }
    

参照についてのルール

「参照は、一つの可変参照か複数の不変参照」

「ダングリング参照は許されない」

1. 一つのスコープ内では、一つのデータに対して、一つしか可変な参照を作れない

  • このルールにより、複数のポインタが同じデータに同時にアクセスすることで発生する問題などを防げる
  • 例1:以下のコードはコンパイルエラーを起こす
    let mut s = String::from("hello");
    
    let r1 = &mut s;
    let r2 = &mut s;
    println!("{}, {}", r1, r2);
    
  • 例2:以下のコードは問題なく動く
    let mut s = String::from("hello");
    {
      let r1 = &mut s;
    } // r1はここでスコープを抜けるので、問題なく新しい参照を作ることができる
    
    let r2 = &mut s;
    

2. 不変参照と可変参照は同一スコープ内で共存できない

3. 不変参照は複数共存可能

  • 以下のコードはコンパイルエラーを起こす
    let mut s = String::from("hello");
    
    let r1 = &s; // 問題なし
    let r2 = &s; // 問題なし
    let r3 = &mut s; // 問題あり!
    

4. ダングリング参照はコンパイラエラーで阻止される

  • 以下のコードはコンパイルエラーを起こす
    fn main() {
      let reference_to_nothing = dangle();
    }
    
    fn dangle() -> &String {
      let s = String::from("hello");
    
      &s
      // ここで s はドロップされる
      // --> ドロップ済みの値への参照をこの関数の外側にムーブしようとしていることになる
      // --> 無効な参照を作る不法な操作なのでコンパイラに怒られる
    }
    

4.3 スライス型

  • スライスにより、コレクション全体ではなく、その内の一連の要素を参照することができる

  • スライスは、&hoge[1..3] のような形で取得する

  • スライスは、元のコレクションオブジェクトの不変参照である

  • スライスは、通常の参照と異なり、スタック上のポインタへのポインタではなく、ヒープデータへのポインタを保持する

    • 内部的には先頭へのポインタと長さを保持する(下図は、s = String::from("hello world"), world = &s[6..] を示す)
  • このような成り立ちのために、スライスのスライスはスライスである(型は変わらない)

    • ただし、元のコレクションオブジェクトとは型が異なる
      • たとえば、String 型に対するスライスは &str, &str のスライスは &str
      • たとえば、[i32; 10] 型に対するスライスは &[i32], &[i32] のスライスは &[i32]
  • 一方、Hoge 型の変数への参照は &Hoge であり、その参照への参照は &&Hoge であるので注意

    // `String` のスライスは `&str`
    // `&str` のスライスは `&str`
    fn main() {
        let s: String = String::from("hello");
        let slice: &str = &s[1..4];     // ell
        let slice: &str = &slice[1..];  // ll
        let slice: &str = &slice[..1];  // l
    
        println!("slice: {}", slice);
    }
    
    // `[i32; 10]` のスライスは `&[i32]`
    // `&[i32]` のスライスは `&[i32]`
    fn main() {
        let a:[i32; 10] = [1, 2, 3, 4, 5, 1, 2, 3, 4, 5];
        let slice: &[i32] = &a[1..9];     // [2, 3, 4, 5, 1, 2, 3, 4]
        let slice: &[i32] = &slice[..7];  // [2, 3, 4, 5, 1, 2, 3]
        let slice: &[i32] = &slice[3..];  // [5, 1, 2, 3]
        println!("slice: {:?}", slice);
    }
    
    // `String` の参照は `&String`,
    // `&String` の参照は `&&String`
    fn main() {
        let s: String = String::from("hello");
        let s: &String = &s;
        let s: &&String = &s;
    }
    
  • また、&&..&Hoge のスライスを取るのと、Hoge のスライスを取るのは同等らしい(Rust 側で参照外しをやってくれるっぽい?)

    fn main() {
        let s: String = String::from("hello");
        let s: &String = &s;
        let s: &&String = &s;
        let s: &&&String = &s;
        let slice: &str = &s[1..4];     // ell
    
        println!("slice: {}", slice);
    }
    

参考文献

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