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理物Advent Calendar 2022

Day 15

光学M@STER NONLINEAR OPTICS

Last updated at Posted at 2022-12-14

はじめに

 こんにちは。物理学科3年のgalaxです。突如生えた物理学科Advent Calenderですが、みなさんちゃんと楽しんでいただけているでしょうか。楽しい記事や物理学(もしくは数学?)の勉強に役立つ記事がたくさんあるので覗いていただけると幸いです。
突然ですが、みなさんはTHE IDOLM@STER SHINY COLORSというゲームをご存じでしょうか。

 人気アイドルゲーム「アイドルマスター」シリーズのブランドの一つであり、一般にプリズムの分光の色の数とされる7色になぞらえた7つのユニットに所属するアイドルたちが、プレイヤー(プロデューサー)とともに自らの個性に向き合い、さまざまな仕事や試練を経て互いに切磋琢磨しあい成長していくお話を描くゲームです。よろしければみなさんもプレイしていただければと思います。
 さて、このゲームですが、タイトルに「shiny」という単語が入っていることがわかります。英単語「shine」の形容詞形であり、「光り輝く」といったニュアンスのある単語です。光と言われれば、物理学を勉強しているみなさんはもちろんピンとくる分野があると思います(?)。
 もちろん、それは光学です。

光学、特に非線形光学とは

具体的に光学とはどのような分野なのか、言われてみればぴんと来ない人がいるかもしれません。Wikipediaによると、「光の振舞いと性質および光と物質の相互作用について研究する、物理学のひとつの部門。」とあります。大まかには、幾何光学、波動光学、量子光学などに大別されます。
 まず、幾何光学について。これがいちばん親しみやすいかもしれません。光線の挙動を幾何学的な関係のなかで捉え諸現象を記述しようという試みです。高校物理で取り扱う光の屈折・反射などはこれにあたります。
 次に、波動光学について。これは光を波として捉え、その波どうしの干渉をみたり、特に電場と磁場の波として捉えることで光の電磁気学的な性質を見ていく分野です。高校物理における光の干渉や、大学の電磁気学の教科書に出てくる光は主にこれにあたります。
 最後に、量子光学について。これは光の量子としての性質を用いてさまざまな性質を見ていく分野です。今回はこの量子光学のなかでも、非線形光学(Nonlinear Optics)という分野の話をしていきたいと思います。

 とりあえずは、非線形光学って言うけど具体的になにが非線形なんだよクソボケ!という方のために、非線形光学の概要を説明していきたいと思います。Robert W. Boydの「Nonlinear Optics」には次のように書かれています:
 "Nonlinear Optics is the study of phenomena that occur as a consequence of the modification of the optical properties of a material system by the presenc of light."
 ざっくり言うと、光の存在によって物質の光学的応答が変化し、それにより発生する現象を研究する分野です。あまりにもざっくりしすぎなので、電場に対する分極の関係を例にとって考えてみましょう。通常の電磁気学の範囲では、分極は電場に対して線形に応答すると考えることがよくあります:

P=\epsilon_0\chi E       

Pは分極、Eは電場、$\epsilon_0$は真空の誘電率、$\chi$は電気感受率です。しかし、入射する電場の強度が大きいと、Eに対するPの応答はもはや線形ではなく、電場の二次、三次に比例する項が出てくることになります:

P=\epsilon_0(\chi^{(1)}E+\chi^{(2)}E^2+\chi^{(3)}E^3+…)    —(*)

このような非線形な分極は強い電場に対してしか発生せず、レーザー光技術の開発とともに分極の非線形応答も日の目を見ることとなりました。技術の革新とともに新しい分野が開拓されていったというのは個人的にはかなり激アツな話だと思います。

電場の非線形応答に由来する現象

それでは、この非線形性によって具体的にどのような現象が起こるのでしょうか。例を見ていきましょう。

(第二次)高調波発生

電場が以下の形で表せる場合を考えます:

E(t)=E_0e^{-i\omega t}+c.c.

$E_0$は一般に位置に依存する複素数で、$c.c.$は複素共役を表します。これを(*)式に代入すると、電場の二次、三次、…に比例する分極の項が現れてきます(非線形応答!)。特に二次に比例する項を$P_{2}(t)$とすると、

P_{2}(t)=\epsilon_0\chi^{(2)}(2E_0E_0^*+E_0^2e^{-2i\omega t}+c.c.)

という形になります。第二項に注目すると、なんと入射した電場の周波数$\omega$に対して周波数が$2\omega$になる成分が得られることになります!これは線形の範囲では得られなかった画期的な結果です。これを第二次高調波発生と呼びます。これをより高次で考えていけば、第三次、第四次…の高調波発生も考えられることになりますが、現実的に非線形感受率が影響を及ぼすのは三次程度まで($\chi^{(3)}$まで)であることが知られています。

和周波・差周波発生

上記の計算を、今度は異なる二つの周波数成分について行います:

E(t)=E_1e^{-i\omega_1 t}+E_2e^{-i\omega_2 t}+c.c.

これを先ほどのように(*)式に代入し、電場の二次に比例する項についてのみ考えると

P_{2}(t)=\epsilon_0\chi^{(2)}(E_1e^{-2i\omega_1 t}+E_2e^{-2i\omega_2 t}+2E_1E_2e^{-i(\omega_1+\omega_2) t}+2E_1E_2^*e^{-i(\omega_1-\omega_2) t}+c.c.)+2\epsilon_0\chi^{(2)}(E_1E_1^*+E_2E_2^*)

よって、周波数$\omega_1+\omega_2$の項(和周波発生)や$\omega_1-\omega_2$の項(差周波発生)が出てくることになります。第二次高調波発生は$\omega_1=\omega_2$だった場合の特殊な例とみることも出来ます。

和周波・差周波発生の応用例

上記の非線形応答を生み出す二次の非線形感受率$\chi^{(2)}$は、一般に等方的な媒質においては0になります(導出はかなり長くなるので省略します)。しかし、媒質表面で対称性が破れている場合には0とならず、和周波発生が起こることになります。これを生かして、物質表面の情報だけを選択的に、非破壊的に調べることができます。これを和周波発生分光法と呼びます。
 また、特に生体試料を調べたいときに上記の波長変換を用いれば、生体に対して本来有害になる紫外領域の波長を近赤外領域の光から生み出すことができ、レンズを用いてこれが発生する領域を最小限にとどめることで、生体試料に与えるダメージを少なくすることができます。これを非線形光学顕微鏡と呼びます。

まとめ

以上、非線形光学の概要について説明しました。ここでは(時間の都合上)簡単な概要のみを述べましたが、そもそも$\chi^{(2)}$の大きさの評価など光と物質の相互作用を厳密に考えるには、光や電磁場を量子化して考える必要があり、場の量子論などの知識も必要になってきます。このように、非線形光学というのは電磁気学だけでなく量子力学の発展とも絡んだ非常に近代的な分野であり、かなり奥が深いといえます。みなさんも光学を勉強してみませんか?勉強しよう!光の行き先をみんなで追いかけよう!

光の行き先?
   
  
   
   
  
  
  
  
   
  

ヒカリのdestination!?!????!?!?!?!!!!???!?!??!??!?!?!?!?!!??!?!?!?!?!??!!?

ヒカリのdestinationとは

先述のIDOLM@STER SHINY COLORSにおける一番最初のユニット、イルミネーションスターズの最初の楽曲であり、まだ見ぬ未来と無限の可能性に向かっていく三人の前向きな気持ちがみんな大好き中村彼方先生の作詞によって豊かに表現された楽曲であり、明るい中にも少し泣ける要素のある楽曲です。この楽曲は残念ながらまだまだ各種楽曲配信サービスでは配信されてはいませんが、シャニマスの関連楽曲には他にも魅力的な楽曲が多数あり、配信されているものもあります。配信先リンクは以下を参照していただけると幸いです。

以上、蛇足パートでした。ありがとうございました。

出典

[1]Robert W. Boyd(2020).「Nonlinear Optics Fourth Edition」
[2]野口 秀典,魚崎 浩平(2011).「和周波発生分光法・赤外分光法
-表面振動分光法による生体界面の構造・機能評価-」『オレオサイエンス』,11(6),197-203.
https://doi.org/10.5650/oleoscience.11.19
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/11/6/11_197/_pdf/-char/ja で閲覧:2022年12月14日)
[3]藤田 克昌,中村 収(2003).「リアルタイム非線形光学顕微鏡の開発と生物細胞の動的観察」『レーザー研究』,31(6),370-374.
https://doi.org/10.2184/lsj.31.370
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/lsj/31/6/31_6_370/_pdf/-char/ja で閲覧:2022年12月14日)

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