これは木更津高専 Advent Carender 2024参加記事です。
https://qiita.com/advent-calendar/2024/nit_kisarazu
こんにちは。筆者のぽてとです。高専ロボコン2024に木更津高専Aチーム(全国チーム)のR1設計者兼チームリーダーとして出場しました。
今回はR1発射機構へ搭載したパワーウィンドウモーターにした細工について書かせていただきます。
出力軸の先っちょの多様性について
なぜわざわざ出力軸を丸軸にする必要があるのかというと、出力軸が個性的すぎるためです。弊ロボ研にあったパワーウィンドウモーターの出力軸は「四角型」か「ギヤ型」の2種類となっており非常に使いづらいユニーク(笑)です。もっというと取付方向で左右が存在するので(もともと、車のドアの左右にそれぞれつけやすくするためでしょうか...?)実質4種類のバリエーションが存在します。
さらにさらに、センサがついているモデルとついていないものがあるという始末(下図では右に見えるやつの端子がよくわからんやつになっています。これがセンサ付き端子らしいです)。とはいえセンサ付きに関しては、普通に赤と青の線のみに直流を流してやればセンサ無し(いつものやつ)と同じように使えます。
多様なパワーウインドモーター(左:ギヤ型右用センサなし 右:四角型左用センサ付き)
今回の設計時にはこの出力軸は丸軸かつ長いものである必要がありましたので、ないものは作れということで仕方なく改造していくことにしました。
step1 パワーウインドウモーターの分解
軸を交換するため、まずはモーター本体を分解していきましょう。
はじめに、側面についている6Pチーズみたいな金属のふたをペンチで無理やりこじ開けて外します。本体とふたの引っかかっているふちをこじるようにするのがポイントです。
無事に外せたら、軸を止めているCリングをリングプライヤーなどで外します。このときのCリングは基本的に使いまわさないので雑にとってしまってOKです。
これで分解は完了です。(腕力があれば)簡単でしょ?
step2 対応する丸軸を削り出そう
つづいて、交換するための軸を削り出す工程に入ります。ここからが大変かつ重要な部分です。
モーターとかみ合うようにしよう
分解したらわかるように、モーターと軸の接続部分は本体側のプラス型の切込みに軸側の十字型がかみ合うようになっています。このような十字に軸先を切ってあげなければなりません。
筆者がノギスを用いて手作業で採寸した結果、十字の寸法がわかったので、これをもとに下記に示す軸をモデリングしました。(見づらくてすみません。そしてあまり正しい描き方ができてないかもしれません)。これが今回の肝である丸軸の図面です。
※「6推奨」などというところがありますが、これはフライスでの切削に使用するエンドミルの径により切削する距離が変化するためです。ここではφ6のエンドミル使用時に最適な寸法を表示しています。
あと、40mmのところに開いているφ3.3の穴については今回特に関係ないので開けなくてOKです。
ここからは旋盤とフライス盤を用いて軸を十字に削り出していきます。
素材として使うのはφ11の鉄(S45C)軸がベストですが、弊ロボ研にはφ12しかなかったので筆者はφ12から作りました。たいていの場合、かなり強い力がかかる(かつ長い軸にする場合モーメントがかかる)ため、アルミではなく鉄で作るのが無難かと思います。
旋盤の出番、バーン!!
まずは軸の外形を調整します。モーターに埋まる部分はだいたい20~25mm程度なので、その分をφ11にします(φ11の軸を使う場合はこの工程は要りません)。
ほかの部品をつけるスペースとして残りの部分をφ10にしておくと大体の部品がはまりやすいので必要に応じて加工しましょう。
次に旋盤のバイトを変えて、Cリングをはめる部分の溝加工を行います。溝の深さは1mmでOKです。
旋盤加工終了時のイメージ(写真を撮り忘れたのでCADです...すみません)
これで旋盤での加工は終了です。あとはフライス盤の出番です。
”フライス盤は軸を十字に切るための道具”
筆者は電気電子工学科所属かつ2年生の若造なので、授業での工場実習はまだ受けていません。そのため、旋盤・フライス盤について新たに覚えることばかりで苦戦しました。そもそもこの軸は加工が得意な同期に任せていたのですが、さすがに自分でもできるようになろうということで、この軸に関する加工法だけをまず覚えました。
その結果、筆者はフライス盤は軸を十字に切る機械と思い込んでいます(近日中に別の使い方も覚えたい)。
とはいったものの、フライス盤だけでは十字に軸を削ることはできません。そこで、取り付けた軸の回転角度を決められるアタッチメントをつけましょう。
アタッチメントを置いたフライス盤のイメージ(実際はボルトでがっちり固定する)
スコヤなどの直角が出せる治具とかを有効活用してうまいことズレがないようにボルトやフライス用クランプで取り付けたら、先ほど旋盤で加工した軸をレバーチャックにセットします。
あとは普通にφ6のエンドミルをフライス盤にチャックして、0点出しを行ってから切削を開始しましょう。
先ほど示した図面の通り、0点から高さ方向3.9mm、奥行3.9mm、横方向6mmで90度ごとに削っていきます。エンドミルの送り速度はゆっくりで、切削油を適度につけていきながら慎重に作業を進めていけば比較的安全なはずです。1か所完了するごとにいったん止めてロータリーテーブルを90°回します(そのため初期位置も90°刻みの位置から始めるのがおススメです)。止めたときに、ノギスで正しい寸法に加工できているか確認すると安心です。
4か所すべての加工を終えたら、やすりで軽くバリをとって、大阪魂(パーツクリーナ―)できれいにしたら、ついに完成です!!
長い道のりでしたね!!お疲れさまでした!!
step3「パワーウィンドウモーター!!新しい軸よ!!!」
遂に完成した丸軸を早速モーターに組み込んでいきます。
先ほど軸を引き抜いたところから新しい軸を差し込みます。
外径が大きすぎるとここで当然ながら入らないのでその場合は絶望しながら旋盤のもとへ戻ることになります...そのため旋盤での外径加工時にはそばに分解したパワーウィンドウモーターを置いておくとgoodです。
軸の差し込みに成功したら、今度はCリングをつけます。φ10に対応したCリングがはまるはずです。プライヤー(と腕力)をうまくつかって付け直しましょう。
これでパワーウィンドウモーターの軸を丸軸に変更できました!!!
おまけ:ふたを自作しよう
それでは最後にふたをつけて完成...といいたいところですが、
最初に分解したときの工程で「ペンチで無理やり曲げて外す」という野蛮極まりない方法をつかったため、このまま付け直すのは少し厳しいです。ちなみにふたをつけなくてもモーターとして使用する分には困らないのですが、内部の金属部分が錆びてきてしまうなどの不都合が生じます。
↑図の赤丸部のような感じで錆が広がってきてしまう...
メンテナンス性からしても、簡単につけ外しできるようなふたがあるととっても便利です。というわけで、弊ロボ研の1年生にCADでモデリングしてもらい、3Dプリンターで良い感じのふたを作ってもらいました!
パワーウィンドウモーター本体を取り付ける際のねじを利用してふたをボルト止めすることで、容易に脱着が可能です。さらに色もただの灰色だったのが「きさぺん越冬隊」のコンセプトカラーの水色と青で鮮やかになりました。
せっかくパワーウィンドウモーターの改造をする際は、ぜひオリジナルでスタイリッシュなふたを作るのもおすすめです!!
終わりに
先日「全国ロボコン交流会」に参加した際、筆者の持っていった発射機構のパワーウィンドウモーターの軸についていろいろな方から「どうやって作るんですか?」と質問いただいていたところを、今回は詳しく解説しようと思い、この記事を書きました。他高専のみなさんもいろいろな面白い工夫でパワーウィンドウモーターと向き合っていて大変興味深かったです。
パワーウィンドウモーターはその特性から、簡単に大きなトルクを得られるため、筆者のようにあまり複雑な設計のできないという場合でも、目的の機構を単純な構造でパワフルに作動させることができます。いままでパワーウィンドウモーターがちょっと扱いづらいと思っていた方、よく部室に転がってるけどよくわからないと感じていた方は、ぜひ一度パワーウィンドウモーターを取り入れた設計をしてみてください。その良さがわかると思います!!
そして、パワーウィンドウモーターを使った設計をしたいけど、軸の問題などでうまくいかなかった方などがもしいましたら、この記事がその設計開発の助けになることを願っています。
とても長くなりましたが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
では、ロボコニストのみなさま、次の大会でお会いしましょう!