まえがき
Twitterで @MrBearing 氏にご指名頂きまして、FA技術についてのアドベントカレンダーを書きたいと思います。
(Twitterとはアカウントが違うので誰だお前状態だと思うのですが、せっかくご指名頂いた折、精一杯書いてみました)
と気勢を吐いたものの、サービスロボット出身の身の上FA技術について人様に語れるほど詳しくないので、得意分野である協働ロボットについて、「協働ロボットとは何ぞや」「将来どうなってゆくか」など、自分の理解を書かせていただければと思います。
あらかじめ断っておきますと、個人的な解釈も多く含まれますので「このように考えている人もいる」‥ぐらいの感じで読み流していただけますと幸いです。
協働ロボットと産業用ロボット
協働ロボットを話す際、対になって話されれるのは産業用ロボットであると思われます。 従来より特に国内の工場生産ラインで産業用ロボットが活用されてきました。そこに最近「協働ロボット」という新しいジャンルのロボットが広まりつつあります。
何が違うのでしょうか。
これは法令によって定まっています。
産業用ロボットの定義
少し遠回りになってしまいますが、産業用ロボットについての定義を明確にします。
この定義について厚生労働省より定められている「労働安全衛生規則」の第36条の31で以下の記載があります。
マニプレータ及び記憶装置を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械(研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く。以下「産業用ロボツト」という。)の可動範囲‥‥
(※ (以下の引用を含め)読みやすさを優先し適宜中略しています。全文はリンクより参照可能です。)
ここで「産業用ロボット」という単語が現れましたが、ここのみですと大半のロボットアームが該当しそうな定義ですが、厚生労働大臣が以下のような例外条件を設けています。
労働安全衛生規則第三十六条第三十一号の厚生労働大臣が定める機械は、次のとおりとする。
一 定格出力が八〇ワツト以下の駆動用原動機を有する機械
(後略)
この2つにより 80Wより大きい駆動用原動機を有するマニプレーター を 「産業用ロボット」 と呼ぶという解釈がされます。
(当然他にも要件がありますが、ここで重要ではないため割愛します)
世に言う 80W規制 の法令根拠が上記です。余談ではありますがカワダロボティクスのNEXTAGEは全ての駆動出力が80W以下なため産業用ロボットには該当しません。
産業用ロボットの遵守すべき規則
同じく「労働安全衛生規則」には産業用ロボットを設置する際、遵守すべき規則が定められています。この中の第150条の4が特に注目すべき規則です。
(運転中の危険の防止)
第百五十条の四 事業者は、産業用ロボツトを運転する場合さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。
この一文があるが故、工場に産業用ロボットを設置するには柵等、囲いが必須となりました。結果として大半の産業用ロボットは(移動させることのできない)生産ラインの一部品として工場の床に備え付けられ、柵で囲われるような運用がされています。
協働ロボットの定義
回り道になりましたが、ここで協働ロボットの定義です。
上記の 150条の4 について平成25年(2013年)に動きがありました。具体的には以下のような一部改正が通達されました。
(3) 「さく又は囲いを設ける等」の「等」には、次の措置が含まれること。
ISOによる産業用ロボットの規格(ISO 10218-1:2011及びISO10218-2:2011)により設計、製造及び設置された産業用ロボットを、その使用条件に基づき適切に使用すること。
つまり、ISO 10218-1/2 に則りロボットを設置する場合は、物理的な柵又は囲いがあるものと同等と見なしてよい。という解釈ができます。ここで当然 ISO 10218 の中身について知る必要がありますが、残念ながら ISO 10218 はネット上で示すことはできません。(見つけきれていません)
かろうじて ISO 10218 の解説文章などが参考になるかと思います。
ここで示されいることは ISO 10218-1 に則り設計・製造されたロボットとは、設計時より安全設計要求に基づき作られているロボットであるということです。具体的には機能安全性や各軸での動作リミット、負荷の連続監視、マニュアル時の最大速度の制限などの機能をロボットとして備えている等になるかと思われます。
(余談ですが)従来の産業ロボットではこの要件を満たすことが難しかったため、大半のロボットメーカーは ISO 10218-1 に則ったロボットを新規開発することとなりました。また、新たに協働ロボットを生産するメーカーなども現れています。協働ロボットの世界シェア6割を占めるUniversal Robots社などがその代表です。
異論もあるかもしれませんが、ロボットメーカーが ISO 10218-1 への適合を宣言したロボットを法的な意味での協働ロボットの定義として考えています。
ロボットユーザーは ISO 10218-1 へ適合した協働ロボットを購入すれば、 ISO 10218-2 に基づいた設置及びリスクアセスメントを行うことにより、従来の産業用ロボットでは許されていない物理的な柵なしでのロボットを運用することができます。
法的な定義のまとめ
- 原動機出力が80W以下である ⇒ 産業用ロボットでない。
- 原動機出力が80Wを超えている ⇒ 産業用ロボット。
- 原動機出力が80Wを超えているが、ISO 10218-1 に準拠している ⇒ (産業用ロボットカテゴリー内の)協働ロボット。
広義の協働ロボット
上記の様、法的な定義では、ISO への準拠という観点で協働ロボットが定義しました。
しかし一般の文言中では ISO 準拠に伴う性能や、開発された時期による特徴により協働ロボットが語られているケースが多いよう思われます。個人的な所感ですが以下のような点です。
(導入が用意)
- 家庭用電源(AC100V)で動作可能(工場以外の場所での動作可能性)
- 小型であり設置面積をとらない(最大可搬20kg弱)場合によっては持ち運べる
- ネジ式の設置(アンカーを打たなくても良い)
- 多くの関連製品を持ち、容易に組み合わせが可能である
(操作が用意)
- ダイレクトティーチング機能を持つ
- 大型タッチパネル式のティーチペンダントを持つ(プログラミングの容易性)
- 汎用ハンドが取り付け可能であり、プラグイン対応により容易にプログラミングできる
(安全である)
- 全軸衝突監視を行っており、過負荷を検出し安全停止する
一般的に思い描く協働ロボットは上記のような機能を備えたロボットでしょう。(例外もありますが)
協働ロボットの適用可能性
従来の何年間も稼働するような工場内の大型ラインにおいては、依然備え付けの産業用ロボットがコスト面で有利だと考えられます。逆に少量多品種が求められるような例えばセル生産ラインに対しては、備え付け式の産業ロボットでは取り回しが悪いため、プログラミングが容易であり付け外し、持ち運びが可能な協働ロボットの活躍する場が増えるかと思われます。
しかし協働ロボットと言えども「ロボット」であるので、通常は定められたパスでの作業の繰り返ししかすることができません。つまり持ち運び、設置時の位置ずれにより作業の正確性に大きな差が生まれる可能性があります。(作業平面の定義等プログラミング次第である程度吸収はできますが)
この問題への対応が今後協働ロボットの活躍の場を広げる鍵になるのではと個人的には考えています。現在各ロボットメーカーは、ロボットのツールフランジにトルクセンサーを設け、フォースフィードバックで吸収する方法、ロボットにカメラを設置し画像処理で吸収する方法等色々試行を行っているよう見受けられます。
この技術が確立され、ロボットを持ち運んできて簡単に作業を指示(ダウンロード)すればタスクを行ってくれるようなれば、あらゆる単純作業をロボットが代替する未来も来るのではと考えています。
色々ご意見コメント等ありますと、記入いただけますと幸いです。