はじめに
夕べからのプログラム開発で興味深い経験をしました。特定のコードの改善を指示したところ、なんとCursor-AIは私が意図したコードの修正ではなく、全く別のアプローチのコード(enhancer.py)を新たに生成してきたのです。当初は「なぜ指示通りにしないんだ」と戸惑いましたが、この「予想外の回答」から得られた気づきを共有したいと思います。
TL;DR
- AI開発において「コードの修正」を指示すると「新規コード生成」で解決することがある
- ルールベースと生成AIの境界線が曖昧になりつつある
- AIが生成するコードを効果的に活用するには「何をしたいか」を明確に伝えることが重要
- AIは新たな視点を提供するパートナーとして活用すべき
事例:enhancer.pyの生成
私は動画編集支援ツールの開発中、JSON出力形式に不満があり、出力結果を整形するコードの改善を指示しました。しかしAIは私の意図とは異なり、データを変換するための全く新しいモジュール(enhancer.py)を生成してきました。
class VideoSummaryEnhancer:
"""ビデオ分析データを理想の形式に変換するクラス"""
def __init__(self, input_path: str):
"""初期化
Args:
input_path: 入力JSONファイルのパス
"""
self.input_path = os.path.abspath(input_path)
self.output_path = None
self.data = self._load_json(self.input_path)
このクラスは既存のJSONデータを読み込み、「理想的な形式」に変換するためのものでした。私が求めていた既存コードの修正とは異なるアプローチでしたが、問題解決という観点では有効な解決策だったのです。
ルールベースと生成AIの境界
enhancer.pyを詳細に見ていくと、「ごり押し感」のあるルールベースのコードであることに気づきます。
def _is_related_transcript(self, transcript1: str, transcript2: str) -> bool:
"""2つのトランスクリプトが関連しているかを判断"""
# 短すぎる場合は関連があると見なす
if len(transcript1) < 10 or len(transcript2) < 10:
return True
# 共通のキーワードがあるか確認
words1 = set(re.findall(r'\w+', transcript1.lower()))
words2 = set(re.findall(r'\w+', transcript2.lower()))
# 共通語の割合を計算
common_words = words1.intersection(words2)
if not words1 or not words2:
return False
similarity = len(common_words) / min(len(words1), len(words2))
return similarity > 0.3 # 30%以上の単語が共通していれば関連があると見なす
ここで注目すべきは、「30%以上の共通単語」という閾値です。この値は完全に人間(あるいはAIが模倣した人間)の判断によるもので、機械学習モデルが大量のデータから学習したパターンではなく、単純な閾値として設定されています。
生成AIの時代において、このようなルールベースのコードが生成されることに興味深さを感じました。本来ならば「関連性」のような抽象的な概念は、もっと複雑なコンテキストや意味的な繋がりで判断されるべきかもしれません。
コードの自己進化と外部からの影響
もう一つ興味深かったのは、enhancer.pyが「データの自己洗浄」という現象を実装していること。このコードは既存データを「理想的な形式」に変換しようとしています。
def _improve_title(self, original_title: str) -> str:
"""タイトルを改善"""
if "大山" in original_title and "登山" in original_title:
if "準備" in original_title or "計画" in original_title:
return "冬の大山登山準備"
elif "冬" in original_title:
return "冬の大山登山"
else:
return "冬の大山登山準備"
return original_title
これはまさに「外部からの影響による変化」の典型です。人間(あるいはAI)が「こうあるべき」と定義した形に向けてデータを変換しています。
これに対して、もっと「生物的」なアプローチも考えられます。例えば、データ自身が経験から学び、自己組織化していくような仕組みです。人間の睡眠中の記憶整理のようなプロセスをプログラミングに応用できないでしょうか。
技術的負債とコード品質
enhancer.pyを見ていて感じた不安は「技術的負債」の問題です。一時的にはこのコードでデータ変換ができるかもしれませんが、将来的なメンテナンスコストはどうでしょうか?
# 文字化け検出と修正関数
def fix_encoding(text):
if not text:
return text
# 文字化けしている可能性がある文字列を検出して修正
if any(ord(c) > 127 for c in text) and '縺' in text:
try:
# 一度バイト列に変換して再度デコードを試みる
# このパターンは特定の文字化けに対応
encoded = text.encode('utf-8', 'ignore')
return encoded.decode('cp932', 'ignore')
except:
return text
return text
このような「その場しのぎ」的な対応が、将来的にはバグの温床になる可能性があります。AIが生成したコードだからこそ、より慎重なコードレビューと改善が必要かもしれません。
プログラミングにおける進化的アプローチ
この経験から思い至ったのは、プログラミングにおける「進化的アプローチ」の可能性です。生物の進化のように、コードが少しずつ変異し、より良い形に適応していくようなモデルが考えられます。
実際のプロジェクトで応用するなら:
- 多様性の導入: AIに複数の実装案を生成してもらう
- 選択圧: パフォーマンス、可読性、保守性などの観点で評価
- 適応: 優れた実装の特徴を取り入れる
- 世代交代: より優れた実装に徐々に移行する
この方法であれば、AIが生成する「予想外の解決策」も積極的に取り入れることができます。
AIとの効果的なコラボレーション
今回の経験から得られた最大の教訓は、AIとのコミュニケーション方法についてです。
何をさせたいか(既存コードの改良)ではなく、何をしたいか(機能実現)を中心に考えるとAIはより柔軟に働いてくれます。この考え方は人間同士のコミュニケーションでも有効です。
例えば:
- ❌ 「このコードのここを直して」
- ✅ 「このような出力形式にしたい」
AIは単なるコード生成ツールではなく、異なる視点や解決策を提案してくれるパートナーとして活用すべきです。時には私たちの意図を超えた提案をしてくれることが、新たな気づきをもたらします。
コード進化への展望
最後に、AIとのコラボレーションによるコード進化の可能性について考えてみます。
- オートノマス・リファクタリング: コード自体が自己診断し、最適化する
- コンテキスト適応型コード: 実行環境や入力データに応じて自動的に適応する
- メタプログラミングの進化: コードがコードを生成・改善するサイクルの確立
これらはまだSF的かもしれませんが、AIが「enhancer.py」のようなコードを自律的に生成できる現状を考えると、そう遠くない未来かもしれません。
まとめ
AIとのコラボレーションにおいて、「予想外の解決策」は単なる誤解ではなく、新たな可能性の芽かもしれません。AIが提案するアプローチを柔軟に受け入れ、人間の知見と組み合わせることで、より良いソリューションを生み出せる可能性があります。
コードもまた生き物のように進化し、適応していく—そんな新しいプログラミングの形が見えてきたような気がします。
今後のAI開発においては、AIを「指示通りに動くツール」としてではなく、「共に問題を解決するパートナー」として捉えることで、より創造的なソリューションが生まれるでしょう。
この記事があなたのAI開発の参考になれば幸いです。
参考資料
進化的アルゴリズム関連
-
進化的アルゴリズムの基礎
進化的計算入門 - IEEE論文
遺伝的プログラミング実践ガイド(GitHubリポジトリ) -
応用事例
AutoMLと進化的最適化の融合 - Towards Data Science
量子コンピューティングにおける遺伝的アルゴリズム - arXiv論文
データドリブン開発
AIコーディングツール比較
-
最新ツール評価
AIコードアシスタントベンチマーク2024 - Stanford HAI
OSSコラボレーションツール比較表 - GitHub Gist -
開発者向け分析
Copilot vs Codeium 深堀り比較 - Dev Community
AIペアプログラミングのUX研究 - ACM Digital Library