EvolveChip プロジェクト進捗報告 - フェーズ1の成果
EvolveChipは、AIを活用してコードが自己進化する未来を目指すプロジェクトです。従来のソフトウェア開発では、コードの改善やリファクタリングが開発者の手作業に依存していましたが、EvolveChipはAIチップをコードに埋め込み、自動的な進化を実現します。この記事では、フェーズ1(コード進化の自動化基盤強化)の進捗を報告し、現在の成果と今後の展望を共有します。
プロジェクトのコンセプトとフェーズ1の位置づけ
EvolveChipのビジョンは、コードに「知性」を与え、まるで生物が進化するようにソフトウェアが自己改善することです。この壮大な目標に向け、プロジェクトは4つのフェーズに分かれています:
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フェーズ1: コード進化の自動化基盤強化(0-3ヶ月)
- シンプルな進化基盤の構築。
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フェーズ2: データ操作方法の最適化(3-6ヶ月)
- 複雑なロジックやデータ処理の進化。
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フェーズ3: 完全な自動化とエージェント駆動開発(6-12ヶ月)
- AIエージェントによる完全自動進化。
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フェーズ4: オープンソース化と拡張(12ヶ月以降)
- コミュニティ展開と多言語対応。
現在、私たちは フェーズ1の終盤(進捗率80-90%) にいます。このフェーズでは、AIチップの基本機能(コード解析と進化提案生成)を確立し、シンプルなコードを自動改善する基盤を構築しました。具体的には、Pythonのデコレータ@evolve
を使い、GoogleのGemini APIを統合してコード進化を実現しています。
フェーズ1の主要成果
フェーズ1の目標は「シンプルなコード進化の自動化基盤を整える」こと。これまでに以下の成果を達成しました。
1. AIチップの実装とGemini API統合
EvolveChipのコアであるAIチップは、@evolve
デコレータとして実装され、コードに知性を埋め込みます。以下は初期コードの例です:
# examples/hello_world/v1_initial.py
from evolve_chip.core.decorators import evolve, EvolutionGoal
@evolve(
goals=[EvolutionGoal.READABILITY],
constraints={'output': 'Hello World'},
instructions="ロギング機能を追加し、エラー処理を強化する"
)
def greet():
print("HW")
このコードをorchestrator.py
で処理すると、Gemini APIが呼び出され、進化提案が生成されます。オーケストレータの実装は以下です:
# evolve_chip/orchestrator.py(一部抜粋)
from evolve_chip.ai.factory import create_ai_client
class SimpleOrchestrator:
def __init__(self, file_path: str):
self.file_path = file_path
self.globals = {}
with open(file_path, 'r') as f:
exec(f.read(), self.globals)
self.ai_client = create_ai_client(provider="gemini", api_key=os.environ.get("GEMINI_API_KEY"))
def evolve_code(self):
funcs = self.extract_evolve_functions()
for name, func in funcs.items():
# 進化目標と指示を取得してプロンプトに含める
goals = getattr(func, "__evolve_goals__", [])
instructions = getattr(func, "__evolve_instructions__", "")
constraints = getattr(func, "__evolve_constraints__", {})
prompt = generate_prompt(func, goals, instructions, constraints)
response = self.ai_client.generate_content(prompt)
evolved_code = response.text.strip()
with open("examples/hello_world/v2_evolved.py", "w") as f:
f.write(evolved_code)
実行すると、v2_evolved.py
に以下のような進化したコードが生成されます:
# examples/hello_world/v2_evolved.py
import logging
# ロギング設定
logging.basicConfig(level=logging.INFO, format='%(asctime)s - %(name)s - %(levelname)s - %(message)s')
logger = logging.getLogger(__name__)
def greet():
"""
標準的な挨拶メッセージを表示します。
"""
try:
logger.info("挨拶メッセージを表示します")
print("Hello World")
logger.info("挨拶メッセージの表示が完了しました")
except Exception as e:
logger.error(f"エラーが発生しました: {e}")
raise
Gemini APIの統合により、コードは以下のように進化しました:
-
print("HW")
が「Hello World」に改善され、可読性が向上 - 指示に従って、ロギング機能が追加された
- エラー処理が実装された
- ドキュメント文字列が追加された
2. 自然言語指示の実装
フェーズ1で新たに実装した重要な機能として、自然言語による進化指示があります。開発者はinstructions
パラメータを使って、AIチップに具体的な改善指示を与えることができます:
@evolve(
goals=[EvolutionGoal.READABILITY],
instructions="ロギング機能を追加し、エラー処理を強化する"
)
この機能により、進化の方向性をより細かく制御できるようになりました。例えば:
- データベース保存機能の追加
- 国際化対応の導入
- パフォーマンス最適化
- セキュリティ強化
など、具体的な指示をAIに伝えることができます。
3. テスト機能の実装
進化後のコードが期待通りに動作するかを検証するため、テスト機能を実装しました。単体テストを通じて、進化前後の関数が同等の結果を返すことを確認します:
# evolve_chip/testing/validator.py(一部抜粋)
import unittest
from io import StringIO
import sys
def validate_evolution(original_func, evolved_func, test_cases=None):
"""進化前後の関数が同じ結果を返すことを検証"""
test_cases = test_cases or [()] # デフォルトは引数なし
results = []
for args in test_cases:
# 出力キャプチャ
original_output = capture_output(lambda: original_func(*args))
evolved_output = capture_output(lambda: evolved_func(*args))
# 返り値の比較
original_return = original_func(*args)
evolved_return = evolved_func(*args)
results.append({
'args': args,
'outputs_match': original_output.strip() == evolved_output.strip(),
'returns_match': original_return == evolved_return
})
return results
def capture_output(func):
"""関数の標準出力をキャプチャ"""
captured_output = StringIO()
sys.stdout = captured_output
func()
sys.stdout = sys.__stdout__
return captured_output.getvalue()
このテスト機能により、進化後のコードが元のコードと同等の機能を維持していることを確実に検証できます。また、constraints
に指定された出力条件も検証されます。
4. ドキュメントの整備
プロジェクトを利用しやすくするため、ドキュメントも拡充しました。基本的な使い方は以下の通りです:
チュートリアル
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リポジトリをクローン:
git clone https://github.com/chnmotoTmz/evolve-chip.git cd evolve-chip
-
依存関係をインストール:
pip install -r requirements.txt
-
Gemini APIキーを設定:
export GEMINI_API_KEY="your-key-here"
-
オーケストレータを実行:
python evolve_chip/orchestrator.py
進化デコレータの使い方
EvolveChipの核となる@evolve
デコレータの使い方は以下の通りです:
from evolve_chip.core.decorators import evolve, EvolutionGoal
@evolve(
goals=[EvolutionGoal.READABILITY, EvolutionGoal.PERFORMANCE], # 進化目標
constraints={'output': 'Hello World', 'memory': '< 10MB'}, # 制約条件
instructions="ロギング機能を追加し、エラー処理を強化する" # 自然言語指示
)
def my_function():
# 初期実装(改善の余地あり)
print("HW")
現在の進捗状況
2025年4月6日時点で、フェーズ1は完了し、フェーズ2に移行しています。以下の表に進捗をまとめます:
項目 | 状況 | 詳細 |
---|---|---|
AIチップ実装 | 完了 |
@evolve とGemini APIで提案生成が可能 |
自然言語指示 | 完了 |
instructions パラメータで詳細な指示が可能 |
テスト実装 | 完了 | 単体テストによる進化前後の動作確認を実施 |
ドキュメント | 完了 | APIリファレンスとチュートリアルを整備 |
本番モード切り替え | 完了 |
EVOLVE_MODE 環境変数での制御を実装 |
自動適用機能 | フェーズ2へ | 提案生成のみで、AST操作はフェーズ2で対応 |
フェーズ1の完了とフェーズ2への移行
EvolveChipプロジェクトは、ロードマップの 第2段階 に入りました:
[フェーズ1: 基盤強化] → [フェーズ2: データ最適化] → [フェーズ3: 完全自動化] → [フェーズ4: オープン展開]
(完了) ↑現在ここ
-
達成したこと (フェーズ1):
- 「導入」のコンセプト実証(コード進化の基本)。
- 「技術的な基盤」の基礎(AIチップ、解析、提案生成)。
- 自然言語による指示機能の実装。
- テストと本番モード切り替え機能の完成。
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現在進行中 (フェーズ2):
- 「YAMLによるオーケストレーション」の実装
- 「データ操作の最適化」の開発
- 例: 動画編集ロジックの進化や複数タスクの管理
コミュニティへの呼びかけ
EvolveChipは将来的にオープンソース化を目指しており、フェーズ4でGitHub公開を予定しています。フェーズ1の成果を試したい方、またはフェーズ2のYAMLオーケストレーションやデータ操作最適化にご興味がある方は、ぜひ上記の手順で動かしてみてください。フィードバックやアイデアも大歓迎です!
現在はフェーズ2に移行し、以下の開発に注力しています:
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YAMLベースのオーケストレーション
- 複数のコード進化タスクを一括管理
- 依存関係や実行順序の制御
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データ操作の最適化
- 動画編集ロジックの自動進化
- データ処理パイプラインの効率化
- ファイル入出力の最適化
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AST操作による自動適用
- 提案された変更の自動適用機能
- コードの構文解析と変換
これらの機能により、EvolveChipはより複雑なアプリケーションやデータ処理タスクにも対応できるようになります。ご期待ください!