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ソニーのLPWA ELTRESの長距離・安定通信のための技術 ~ELTRESと発端と要素技術編~

Last updated at Posted at 2020-09-15

ELTRESの特徴の一つである「長距離・安定通信」。たった20mWの電波出力で、東京スカイツリーを含めた数局で東京エリア全体をカバーできます。ELTRES開発チームブログの初回は、まずはこの技術の発端と要素技術を紹介します。

技術の発端

今から10年以上前のことです。沢山のセンサをネットワークに接続することで新しい時代を切り開く、「センサネットワーク」が未来の技術とされていました。当時の状況を象徴する講演を紹介すると

無線は信頼度が低くて使えない。 未来の姿は、全てのセンサが電線で接続される有線センサネットワークである。」

ボストンの学会で聞いた講演は、もっと現場の声を反映していて

「無線装置には、電波の強さを弱・中・強と調整できる機能がある。 このような装置を設置する現場作業員は、電波状況が良かろうが悪かろうが、電波強度を「強」に設定するのが常識になっている。 余裕を見て「強」で設置した場合であっても、通信が途切れてしまうことがあるのが無線通信である。」

このように、無線通信の課題は「通信の不安定性」なのです。センサからのデータが途切れてしまうことは、ユーザにとっては猛烈なストレスだと思います。

もう一つ、この通信安定性に密接に関連するのが「通信距離」です。 投資金額を抑えて無線通信サービスを実現するためには、長い通信距離の実現が求められます。しかし長い通信距離では信号レベルが低下し、通信はますます不安定になるのです。

では一体、無線通信の不安定性は何に起因して、どうすれば解決できるだろうか?ソニーの技術を結集することで、安定な長距離無線が実現できたら、未来を大きく切り開くコアコンピタンスになるのではないだろうか。ELTRESはこのような思いで開発されました。 次に、ELTRESの長距離・安定通信を実現する要素技術を説明したいと思います。

長距離通信の原理

通信距離が長くなると受信信号は小さくなり、やがて雑音に埋もれてしまいます。けれど信号が消えてしまったわけではありません。受信信号を沢山集めて加えていく(積算と言います)と、やがて雑音に埋もれていた信号が現れてくるのです。スペクトル拡散、Sigfox, LoRaと言った長距離通信技術は、この原理によって弱い信号を検出し、通信距離を伸ばしています。「積算」によって雑音を減らして通信距離を伸ばす技術は、ELTRESも同様に採用しています。

積算の難しさ=同期問題

実験室などの理想的な環境では、受信信号を集めて「積算」するのは簡単にできます。ところが現実には、例えば送信機を持った人が移動することがあります。移動により通信距離が半波長(16cm *)変化すると、通信時間が0.5ナノ秒だけ遅れて、受信信号の極性が反転してしまいます。(プラスの信号がマイナスの信号になってしまいます。) 

極性反転した信号を足し合わせて「積算」すると、波形が打ち消されて逆効果になってしまいます。このように「積算」が上手くいくためには、集めた受信信号を、誤差無くピタッと合わせるタイミング合わせが重要なのです。このタイミング合わせを専門用語で、「同期」と呼んでいます。冒頭で述べた無線通信の不安定性は、同期がちゃんと動作していないことが原因になっている場合があります。そこで同期に関して2つの斬新的な工夫を入れたELTRESが誕生しました。

*ELTRESで使用する周波数は920Mhz帯であり、波長は約32cmです。

同期の工夫1:GNSSによる補助

ELTRESは、GNSS衛星からの電波を受信し、送信機内部の時計を校正してから送信する仕掛けになっています。GNSS衛星にはセシウム原子時計が搭載されているので、GNSS信号で校正されたELTRESのシステムクロックは非常に正確です。このことを使って送受信でタイミング合わせ(同期)を実現するので、ELTRESは混信があっても同期が乱される可能性が格段に低いのです。
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同期の工夫2:基準信号埋め込み
ELTRESで送られる通信信号は、他の通信方式には無い特徴があります。それは、頻繁に基準信号が埋め込まれていることです。ELTRESでは、無線変調するデータ列において、3ビットごとに1ビットの基準信号が送られます。(下図における”Sync”のことで、Interleavingの際に定期的に基準信号を埋め込みます)。

image2.png

他のどの通信方式よりも頻繁に、そして定期的に挿入される基準信号は、「同期を正常に保つ」、という役割を担っています。 受信機でこの基準信号を抜き出し、高速フーリエ変換(FFT)を使うことで波形反転と乱れを補正することができます。この結果、他の通信方式では同期が乱されてしまうような場合でも、ELTRESでは同期が正しく作動して、「積算」が可能となり、遠方からの通信を可能としているのです。
image3.png
今後のELTRES開発チームブログでは、遠く離れた移動体(自動車や船)からの電波を安定に受信できた、という実験結果を報告したいと考えています。それらの多くは、上に述べた2つの同期信号の工夫が肝になっています。

ELTRES IoTネットワークサービス
https://eltres-iot.jp/

ELTRES開発チーム

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